ドルクジルヴァニア地下大迷宮(12)~決戦Ⅱ
跳躍しながらライトニングストライクをスコペルセウスの頭に落とし、フミコの元へと降り立つ。
ヨハンと少し話し込みすぎたようだが、なんとか間一髪間に合ったようだ。
とはいえフミコはとても戦闘を継続できるようには思えなかった。
なので回復魔法をかけてみるが……
(やっぱ補助サポートの能力で底上げしても完全な治癒とはいかないのか……クソ!)
効果はあまり見られなかった。
仕方なく回復薬が入った瓶を取り出してフミコに渡す。
「とにかく今はそれ飲んで安静にしといてくれ」
「でもかい君1人じゃ」
「大丈夫、心配しなくてもそれなりに策はある」
そう言ってこちらへとやってきたTD-66にフミコを任せる。
「機械の騎士さん、フミコを頼む。リーナちゃんと一緒に安全なところに避難させてくれ」
『はい、わかりました。お嬢様の元まで退避させたら加勢したほうがよろしいですか?』
「あぁ、できればそうしてくれると助かる」
『かしこまりました』
TD-66はそう言うとフミコを両手で抱き上げてその場から離れていく。
それを横目で見送ってから前を見据える。
「さて、それじゃ害虫退治といくか」
頭部に雷撃をくらったスコペルセウスは怒り心頭といった様子であった。
威嚇なのか激昂なのかわからないが触覚がピンと立ち、顎肢に小顎をガシガシと突き合せた後大きく口を開き咆吼をあげた。
そして勢いよく顎肢を開くとこちらに向かって突進してきた。
「正面突破ってか!? いいぜ!! 受け止めてやる!!」
右手を突き出して魔術障壁を何重にも展開する。
しかし……
「ち! やっぱ効果ないか」
スコペルセウスはいとも簡単に魔術障壁を砕いてしまう。
「こんな簡単に突破されるんじゃ、これはオートシールドモードがあっても安心できないな!」
床を蹴って後退、再びライトニングストライクをスコペルセウスの頭部に放つ。
しかし、2度目の魔法の落雷攻撃はスコペルセウスの素早い動きでかわされてしまう。
「そりゃまぁ、さすがに同じ手は何度もくわないよな……奇襲じゃないなら尚のこと」
ライトニングストライクをかわしたスコペルセウスは一気にこちらへと迫ってくる。
それを見て左手を伸ばし叫んだ。
「ヨハン!! 今だ!!」
叫んだと同時に隠れていたヨハンが召喚で喚びだした武器を左手へと転送してくる。
その武器は魔槍クリヴァル、強力な毒を有した禍々しい魔力を秘めし槍だ。
それを握って地面に着地し構える。
そして迫るスコペルセウスへと一気に突き出した。
穂先がスコペルセウスの顎肢と激突し火花を散らす。
「おらぁぁ!! これでもくらえ!!」
そのまま力比べはせず、魔槍の魔力を解放して強力なビームをスコペルセウスへとゼロ距離で放った。
しかし……
「やっぱ効かないか」
スコペルセウスはゼロ距離でのビームの直撃をくらっても平然としていた。
ダメージをくらったという気配はない。
「ヨハンの予想通りってわけだな」
そう言って魔槍を構え直した自分にスコペルセウスは勝ち誇るように咆吼をあげると顎肢を大きく開いて一気に攻撃をしかけてくる。
それを見て、口元を歪ませた。
「かかったなムカデやろう」
ほんの少し前。
「でも足掻こうって言っても何か策はあるのかい? スコペルセウスは暴走していたとはいえ、僕が喚び出せたのが不思議なくらいの超上級の魔物だよ? 馬鹿正直に真正面からぶつかって勝てる相手じゃない」
そうヨハンは言う。
しかし、一方でそれだけ制御不能な魔物が召喚できたのなら同様にそれを殺せるだけの強力な武器も召喚できるはずだ。
「だったらヨハン、奴を殺せるだけの武器を召喚したらいいんじゃないか?」
その疑問をぶつけてみるとヨハンは首を横に振った。
「いいや、それは多分無理だ。というか通用しないと思う」
「なんでだ? やつを喚びだした時のような暴走状態じゃないからか?」
「それもあるけど、仮に同じ暴走状態でこちらが制御できないような強力な武器を召喚してもスコペルセウスには多分もう効かない……言ったでしょ、やつが存在の安定のために僕から生命エネルギーを吸い取ってたって。僕が喚びだした武器は僕の魔力で成り立っている、そしてやつは僕の魔力で存在を固定化させた。そんな奴に僕の魔力をぶつけても効果はきっとない」
「相手の属性と同じ属性の攻撃をしても意味がないってやつか……」
「それどころか、下手をしたらやつに栄養分を与える事になるかもしれない」
「殺すつもりがエサを与えてるって事になりかねないってわけね」
しかし、そうなるとヨハンは戦闘には参加させられなくなる。
何せヨハンの能力は「鑑定眼」と「召喚」だ。
戦闘能力という意味では「召喚」を使えない時点でないに等しい。
さて、どうしたものか……
「ん? 待てよ……なぁ、スコペルセウスってやっぱ普通のムカデみたいに裏返して起き上がれなくしたら死ぬかな?」
そう聞くとヨハンは一瞬考え込んで首を振る。
「どうだろう? わからないな……でもまぁ起き上がる力がなければ死ぬとは思うけど」
「魔法なりを使って元の姿勢に戻る事はない?」
「鑑定眼でステータスを見た限りでは魔法は持ってないからそれはないだろうね」
それを聞いて安心した。
つまりは奴は強敵だが魔法のような特殊な攻撃はしてこない。
単純にその速さと物理的な攻撃力と防御力、そして有する猛毒が脅威という事なのだろう。
ならばその防御力を削ぐことができれば勝機はあるはずだ。
「だったら奴をひっくり返して仰向けにできれば、腹はガラ空きってわけだよな?さすがに腹部は背板ほど硬くはないだろうし、そこを攻撃すれば……」
「確かにひっくり返して腹部攻撃できれば勝機はあるかもしれなけど、その前に体を丸めてしまうんじゃないかな?」
ヨハンの言う通り、それが縦長く多くの胴部と脚で構成された多足亜門・ムカデ綱の最大の特徴で厄介なところだ。
丸まって防御の姿勢を取られたら手出しができない。
ひっくり返っても丸まって位置をずらせばいくらでも起き上がることができる。
「だったらひっくり返した後、丸まろうとする前に地面に貼付けるか串刺しにすればいいんじゃないか?」
「そうだね、でも口で言うほど簡単じゃないよ」
ヨハンはそう言うが、そんな事は百も承知だ。
だが、手がないわけではない。
後はどうやってスコペルセウスをひっくり返えすかだけだ。
「わかってる。まぁそこは任せてくれ。それより問題はやつをひっくり返す手段なんだが……ヨハン、素速さをあげる武器を召喚できるか? 例えば装備すれば目にも止まらぬ攻撃を繰り出せるとか」
そう聞くとヨハンは考え込んだ後右手を突き出し叫ぶ。
「召喚……来い! 疾風剣カザマル!!」
すると宙に魔法陣が浮かび上がってそこから剣の柄が飛び出す。
ヨハンはそれを掴んで引き抜いた。
それは日本刀のような形状をした短剣であった。
その短剣を軽く振りながらヨハンが答える。
「この魔剣を装備した者は通常の10倍の速さで移動が可能だよ。でも、これでスピードを上げて攻撃を行っても……」
「言いたい事はわかってる。やつにはヨハンの魔力でできた魔剣なりの攻撃は効かないだろ? じゃあさ、それ以外ならどうだ? たとえば……」
そう言って爆薬CVZI-Eを出して見せる。
「高速でやつに近づいてこの爆薬を気付かれる前に足下なりに設置し高速で離脱、そしてやつが気付く前に爆破すれば横転させられるんじゃないか?」
そう言うとヨハンは、はっとした顔になった。
「そうか! こちらが魔剣で攻撃せずに爆薬で攻撃するならあるいは……でも、それをするには多分疾風剣カザマル1本だけじゃ素速さのステータス底上げにはならない。もう1本カザマルを召喚して二刀流にする必要があるけど、それでも足りるかどうか……」
そう言うヨハンを見て「ふん」と鼻で笑うと補助サポートの能力をかけてやる。
「へ? こ、これは!?」
「補助サポート能力でステータスを少しあげてやった。後は魔法でも確か似たようなバフ効果のあったな。それもかけとく」
そう言って魔法のバフ効果もヨハンにかけた。
「どうだ? 2本の魔剣に補助能力と魔法でのバフ効果によるステータス底上げ、これでヨハンのスピードは相当なものになったんじゃないか?」
自分にはヨハンが持っている鑑定眼なんていう能力はない。
だから実際どれだけ変化が生じたのかは見た目では判断がつかない。
しかし、ヨハンの反応を見ていたら相当なステータスの変化が生じた事はわかる。
「あぁ! これならいけそうだ!!」
そうヨハンは言ってニヤっとして見せた。
その表情を見て思う、これなら任せても安心だなと。
「そうか、だったら陽動は俺がやる。ヨハンは適当な武器を召喚して俺によこしてくれ、それで俺はやつを攻撃する。当然、ヨハンの考えが正しければその召喚した武器の攻撃はやつに効かない。それでやつは優位に立ったと思うはずだ。その時、油断が必ず生じる。その隙をヨハンはつくんだ!」
「あぁ、任せてくれ!」
ヨハンは力強く頷いた。
「頼むぜ相棒!」
そう言って拳を突き合せる。
そして、それぞれが役割を果たすべく動き出す。
「かかったなムカデやろう」
スコペルセウスは自分を顎肢で攻撃しようと一気に迫る。
この超巨大ヨロイオオムカデには今まさに自分しか注意が向いていない。
思わずニヤリとしてしまう。
「さぁ頼むぜヨハン!」
少し離れた場所でヨハンはカイトとスコペルセウスの戦いを見ていた。
そして合図にあわせて召喚で魔槍クリヴァルを喚びだしカイトへと転送する。
カイトはその魔槍でスコペルセウスを攻撃した。
そして予想通り攻撃はまったく効かなかった。
(もうすぐだ……)
スコペルセウスは嘲るように咆吼するとカイトに毒を刺して食い殺すべく顎肢を開いて一気にカイトへと迫る。
もはやスコペルセウスは周囲に気を配っていないはずだ。
「さぁ、勇気を振るい立たせるんだヨハン!! 僕ならやれる!! やれるぞ!!」
2本の疾風剣カザマルを両手に持ち、口に爆薬CVZI-Eを詰め込んだカプセルをくわえて一気に駆け出す。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
疾風剣2本分の効果、さらにカイトがかけたバフ効果によってヨハンは自身が今まで経験した事もないスピードであっという間にスコペルセウスの胴部に辿り着くと、くわえていた爆薬CVZI-Eを詰め込んだカプセルをスコペルセウスの脚に貼付ける。
脚に何かを取り付けられた事ではじめてスコペルセウスはヨハンの肉薄に気がついた。
スコペルセウスはすぐさま反応し、カイトに攻撃するのをやめてヨハンの方を向こうとする。
しかし、すでにヨハンはそこにはいなかった。
スコペルセウスの脚に爆薬CVZI-Eを貼付けて即座に高速移動して離脱していたのだ。
スコペルセウスの攻撃が当たらない安全圏まで離脱したヨハンは振り返ってスコペルセウスを見る。
「残念だったな、もうそこにはいないよ」
ヨハンの接近と何かされた事に気付いたスコペルセウスは自分から注意を逸らし、さきほどまでヨハンがいた方へと顔を向ける。
それを見て口元を歪ませた。
「よう、俺から注意を逸らしていいのか?」
スコペルセウスが自分から注意を逸らしたその隙に危険物発見装置VALを取り出す。
「くらいやがれムカデやろう!! 発破!!」
VALの右端のボタンを押し爆薬CVZI-Eを爆破させた。
爆発音と共に衝撃波が周囲を襲う。
スコペルセウスはその脚が吹き飛び悲鳴のような雄叫びを上げながら横へと倒れた。
しかし……
「くそ!! やっぱ一箇所だけの発破じゃ完全には仰向けにできないか!!」
長い胴部の中でも爆破した箇所しかひっくり返らなかったのだ。
このままではすぐに体勢を立直される。
そして、同じ手はもう二度と通じないはずだ。
「こうなったら一か八かだ!!」
懐からアビリティーユニットとアビリティーチェッカーを取り出し聖斧のエンブレムをタッチ。
アビリティーユニット・アックスモードを手にしてそのまま床を思いっきり叩く。
「ひっくり返りやがれ!!」
聖斧の能力によってスコペルセウスの足下の床が一気に盛り上がって突き上がる壁となりスコペルセウスを真下から殴打した。
スコペルセウスはそのまま悲鳴のような雄叫びをあげ、ひっくり返って仰向けとなり地面に倒れた。




