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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
11章:依頼をこなそう!

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ドルクジルヴァニア地下大迷宮(11)~決戦Ⅰ

 「このぉぉぉぉぉ!!!」


 フミコが銅剣を振るうがスコペルセウスはその巨大からは想像もできない速さで体をまとめて丸め、背板を盾として斬撃を受け止める。


 「ち!」


 背板は金属のように硬く、容易に貫けないどころかこちらの攻撃を弾き返す。

 フミコは続けての攻撃に固執せず素早くその場から離れると銅剣を構える。

 直後、スコペルセウスは体を丸めての防御を解いて、曳航肢の近くの脚を上下に揺らして粘液を分泌する。


 「またそれか! お願い!!」


 フミコは忌々しく思うも合図をTD-66に出す。


 『はい、お任せください!』


 TD-66は背中にそれぞれガソリンとガスが入った2本のシリンダーを背負っており、そこからパイプでつながれたホースのような銃を構える。

 それは火炎放射器だ。


 トリガーを引き、スコペルセウスの脚へと炎を噴射する。

 火炎放射を脚にくらってスコペルセウスは悲鳴のような鳴き声をあげて警戒しながら後退する。


 火炎放射によって脚に纏わり付いた粘液は消し去ったが脚はそのまま健在であった。

 できれば脚も消し炭にしたかったところだが、そうもいかない。

 さきほどからずっとこの繰り返しだった。


 スコペルセウスが分泌し脚に纏わり付かせた粘液は防御のためのもの。

 その粘液は脚や胴部を守ると同時に攻撃したものに絡みついて身動きを封じて捕獲する特性も持つ。

 ゆえに粘液が分泌されると、それを即座に火炎放射器で消し飛ばす必要があった。


 フミコは最初、それに気付かず分泌した粘液を纏った脚を攻撃してしまい、銅剣が粘液に捕まって抜けなくなってしまった。

 慌てて銅剣を翡翠に収納することで霧散させ、その場から退避したが、判断があと少し遅ければそのまま頭部の顎肢による攻撃によって毒を打ち込まれ捕食されていたかもしれない。


 まずは頭部や曳航肢以外の長い胴部の中程の脚から斬り落としていこうと考えていたが、これによって深追いはできない状態となっていた。


 (これジリ貧だよね、今は何とか深追いしない形で凌いでるけど……頭部も顎肢や小顎による攻撃が強力で正面突破は無理。尾節も曳航肢による攻撃がとても危険で近寄れない……どうする?)


 どうにもいいアイディアが浮かばないが、だからと言って立ち止まるわけにもいかなかった。

 枝剣を用いての大蛇の攻撃も硬くて通じず、銅鏡も光が少ないこんな地下空間では威力を発揮しない。

 一様は最後の奥の手としての新技もあるにはあるが、それを披露するにはこの地下の閉鎖空間では狭すぎる。


 「はぁ……こんな事なら既存の武器でできる神道の呪術の真似事を一夜漬けでももっと叩き込んどけばよかったかな? じっくり時間をかけてちゃんと習得しようとしたの間違いだったかも」


 ため息をついて手にしていた銅剣を霧散させる。

 そして新たに丸木弓をその手に出現させ、矢を構える。


 「さて、どこまで通じるかわからないけど……少しアプローチを変えてみるかな!」


 フミコは一息つくとスコペルセウスの目に照準を定め矢を射る。

 しかし、それに素早くスコペルセウスは反応、体を丸めて顔を隠し防御の姿勢を取る。

 堅固な背板に阻まれ、矢はあっけなく弾かれた。


 とはいえ、そんな結果は矢を射る前からわかりきっている。

 なのでフミコは矢を射てすぐに丸木弓を霧散させ、そのままスコペルセウスへと向かって走り出す。

 走りながらその手に新たな武器を出現させる。


 その武器を手にしてフミコは一気に跳躍、放たれた矢に反応して丸まって防御の姿勢を取るスコペルセウスの背板に飛び乗ると顔を防御しているあたりに手にした武器を向ける。


 その武器は弥生時代、倭国大乱の時代を生きたフミコがまずもって所持しているはずのない武器であった。

 それは38式散弾銃、大日本帝国陸軍の主力歩兵小銃であった38式歩兵銃、いわゆる「さんぱち」を散弾銃使用に改良したものである。


 なぜフミコがさんぱち銃を所持しているかと言うと、ケティーから譲り受けたからである。

 事の発端はリーナに必要最低限の武器を持たせようという話が持ち上がった時だった。



 「でも川畑くんやTD-66がリーナちゃんを基本守るんだから護身用と言ってもリーナちゃんをそこまでガチガチに武装させなくてもよくない?」


ケティーはそう言って机の上に置かれていた個人携帯の護身用品パンフレットから目を離す。


 「そうだよな。というかそもそも機械の騎士に守られてるリーナちゃんが武器で戦うって事態が想定できないけど、いらなくない? 武器とか」


 カイトがそう言うとケティーはうんうんと頷くが、しかし完全には取り下げようとはしなかった。

 要はめちゃくちゃ武装はさせないけど、最低限の武器は持たせたいという事らしい。


 「まぁ、そうなんだよね……だから小型で携帯しやすく持ち運びに便利な拳銃を一丁持たせたらいいかなって……そうなるとデリンジャーがいいんだろうけど、あれってシングルアクションで連射できないし装弾数も少ないからお薦めできないんだよね……使いこなすのにも相当な訓練が必要だし、だからS&W M442 レーザーマックスあたりがいいかなって。ただ小型のリボルバーだからリロードだったりと問題がちらほらあるんだけど……だからもう一丁、ベレッタ ナノを持たせといて……」


 ケティーがそこまで言うとカイトが慌てて会話を止める。


 「ちょっと待て! リーナちゃんに2丁も拳銃持たせるのってどうなの? というか子供に拳銃複数持たせて大丈夫なの?」


 カイトの心配は、しかしケティーには届かなかった。


 「川畑くん、日本人の感覚で物事を考えないほうがいいよ?」

 「いや、銃社会のアメリカでも結構問題なってるやつじゃね? 本物の銃にカラーコーディネートして玩具っぽくしてるけど、モノホンの銃だから誤って友達撃ち殺したり、誤って自分の胸を撃ち抜いて死亡したりって!」


 そう訴えるとケティーも同意して頷く。

 頷くがそれだけだった。


 「まぁ、確かにそういう側面もあるよね……うん、こればっかりは議論しても答えが出ない難しい問題だと思うよ?」

 「そういう曖昧な回答するあたり商人ってやっぱりこの問題には明確な答えを出したくないんだな」


 その言葉にケティーは笑うだけで明言を避けた。

 結局リーナにはベレッタ ナノを護身用として持たせる事になったのだが、ケティーはリーナに扱い方をレクチャーしている時、ふとこんな事を言い出した。


 「これで私とリーナちゃんと川畑くんの3人で楽しく射撃訓練場で過ごせるね!いやー、リーナちゃんの射撃の腕が向上していくのを川畑くんと一緒に見守りながらの2人きりのティータイムちょっと楽しみかも」


 そのケティーの言葉は聞き捨てならないものだった。


 「はぁ!? 何言ってるの!? かい君と2人きりになんかするわけないでしょ! というかリーナちゃんもいるのになんで2人きりになるわけ!?」


 そうケティーに言うとケティーに鼻で笑われた。


 「なんだよその態度! ムカツク!!」

 「まぁまぁフミコ、こればっかりは銃を扱う者の特権だよ? 残念ながらフミコは銃を持ってないからね? ライフル協会には入れないよ?」


 ケティーはそう言うと、しっしっと手を振ってきた。

 なんだか釈然としない……確かに銃という武器を持ってない身ではリーナちゃんの銃の訓練に口出す事はできないのだが。

 だからと言って、ここで引き下がってはかい君とケティーを2人きりにしてしまう。

 リーナちゃんの訓練を口実にケティーがかい君を独占してしまう、それだけは避けなければ!


 「だったら……あたしにも銃を頂戴」

 「……は?」

 「だから、あたしにも銃を頂戴って言ったの! そして銃のレクチャーはかい君から受ける! ケティーはリーナちゃんに銃のレクチャーをする、これなら問題ないよね!」

 「いや問題大ありだわ! なんでフミコと川畑くんがペアになるわけ!? おかしいでしょ!」

 「何言ってるの? かい君とあたしが離れるわけないでしょ?」

 「このストーカーが!!」


 こうしていつもの喧嘩が始まった。

 そしていつも通り決着がつかないままフミコとケティーが肩で息をしながらお互いを睨み。


 「はぁ……はぁ……そもそもあんた、銃とか必要ないでしょ」

 「はぁ……はぁ……そ、そんな事ない。戦略の幅は広げておいて損は……ない」


 その言葉を聞いてケティーは唸りながら頭をくしゃくしゃと掻きむしって。


 「わかったよ……ただし、金のないやつに高級な銃は提供しないからね」


 そう言ってきた。


 「え? お金取る気なの?」

 「フミコ、あんた商人にタダで商品渡せって言ってるの? その根性ビックリするんだけど」

 「いや、仲間でしょ?」

 「仲間の前に今は顧客と商人の関係でしょ」


 あくまでケティーはフミコに客として見て商品として銃を売る気なのだ。

 仮にも一緒に旅をしてきた仲だろうにと思った時だった。

 リーナが間に入ってきた。


 「ケティーお姉ちゃん、お金が必要だって言うならわたしがフミコお姉ちゃんの銃のお金出すよ?」


 そう言うリーナにケティーは笑顔で断りを入れる。


 「リーナちゃん、いくらお金があり余ってるとはいえ簡単に貧乏人に手を差し伸べたらダメだよ? そんな事すると貧乏人はつけあがって、じゃあ次も払ってもらおうって寄生するからね?」

 「え? でもフミコお姉ちゃんは仲間なんだから」


 そう言って困惑するリーナにケティーは世間の厳しさを伝えるべくリーナの両肩にガシっと手を置いて語りかける。


 「いいリーナちゃん? そういう優しさにつけ込むんだよ貧乏人は」

 「おい、さっきから人の事、何貧乏人呼ばわりしてんだよ! いい加減にしろ!」


 聞いていて苛々してきたので思わず怒鳴るとケティーはやれやれと首を振りながら倉庫の方へと向かう。

 そして戻ってくると1丁の銃を差し出してきた。


 「はい、これ」

 「へ?」

 「今回はリーナちゃんに免じてタダで譲ってあげる。このままじゃリーナちゃん、フミコのために本当に金を出しそうだしね」

 「なんか釈然としないけど、まぁそういう事なら」


 そう言ってケティーから銃を受け取った。


 「でもこれ、なんかかい君のライフル小銃とちょっと見た目が違わなくない?」

 「そりゃ時代が違うし……それはさんぱち銃、川畑くんの時代から見たら100年近く前の代物だね。タダで譲るんだから古い銃に決まってるでしょ?」


 そう言ってケティーはニヤーっと意地の悪い笑みを浮かべた。


 「ケティーあんたねぇ……」

 「まぁいいじゃない。弥生時代人のあんたからしたら、そもそも小銃自体文明の利器を越えた超兵器なんだしさ。本当ならマスケット銃……日本だと火縄銃か。まぁそれでもいいぐらいだけど、サービスでマッチロック式よりも高度なボルトアクション方式小銃を譲ってあげるんだから少しは感謝しなさいよ!」


 そう言ってケティーは鼻息荒くふんぞり返るが、そんな態度を見ていると感謝する気にはなれなかった。


 「はぁ……まぁ、譲ってくれたのは感謝するよ、ありがと」

 「心がこもってない気もするけど、まぁいいや。あとこの拳銃もサービスで渡しとくよ」


 ケティーはそう言ってリーナに渡した物とは違う拳銃を渡してきた。


 「それは94式拳銃、まぁさんぱち銃と同じく古い銃だね」

 「おい」

 「ちなみに当時の日本軍での事故記録はないけど、現代ではネタ扱い受けてる欠陥品」

 「そんな代物渡すな!!」


 この女はタダで譲るとはいえ、なんてもんを押しつけやがるんだ!

 欠陥品なんて怖くていざという時戦闘で使えないだろ!

 しかしケティーは白々しく笑顔で言葉を続ける。


 「まぁまぁ、別にマニュアルを守って使えば危険はないよ! 命中率は低いけど」


 危険はないと言った後の言葉が急にゴニョゴニョと小さくなって聞こえづらくなった。


 「ちょっと最後なんか声が小さくなって聞こえなかったんだけど? もう一回言って!!」

 「断る」

 「なんでよ!!」


 とにもかくにも38式歩兵銃と94式拳銃をケティーからもらったわけだが、94式拳銃に関してはマニュアルを読んでも理解が追いつかなかった。

 うん、これはたぶん必要に迫られない限り使う事はないだろう……




 フミコは銃口を体を丸めて背板の盾を展開するスコペルセウスの背板の継ぎ目に向ける。


 「どれだけ体が硬くても、この至近距離。しかもかい君に錬金術で作ってもらった散弾銃改良版のさんぱち銃だ! 効果はあるはず!!」


 そして引き金を引いて銃撃を放つ。

 至近距離でのショットガンだ、ダメージはそれなりにあるはずだが……しかし。


 「ダメか、やっぱり効果がない」


 スコペルセウスは無傷であった。

 ならばと38式散弾銃を霧散させて新たな武器を手にする。

 それはさきほどのさんぱち銃と見た目は変わらないが、銃身の長さなどが若干異なる銃であった。


 フミコが新たに手にした銃は99式小銃。

 旧日本陸軍において38式歩兵小銃の後継小銃であり、戦後はアリサカ銃の名で知られているボルトアクション式のライフル小銃だ。


 99式は日中戦争下に採用された小銃ゆえにすべての38式と取って代わる事はできなかったがそれでも旧日本陸軍の太平洋戦争時の主力ライフル小銃なのである。

 それゆえに戦後も警察予備隊や保安隊、そして初期の自衛隊でも使用されていた経緯を持つ。


 そんな99式小銃は38式と違って時代の移ろいを感じさせる機能が備わっている。

 さんぱち式が開発された当時にはなかった近代兵器、戦車に対抗する手段だ。


 99式には小銃擲弾を装着するアタッチメントがあり、100式擲弾器や2式擲弾器を装着して対戦車グレネードであるタ弾が発射可能であった。


 フミコは99式小銃を手する銃口部分に素早く100式擲弾器を取り付ける。

 そして擲弾器の筒の前端から安全栓を抜いた手榴弾を押し入れて装填、すばやく構え引き金を引いた。


 「これでどうだ!!」


 擲弾がスコペルセウスの背板に放たれ爆発を起こす。

 その余波は至近距離にいるフミコにも届くがカイトが仲間にかけた魔術障壁のオートシールドモードのおかげで無傷ですんだ。

 至近距離、いやほぼゼロ距離での擲弾射撃はオートシールドモードがなければ不可能であっただろう。


 そんな攻撃はしかし、スコペルセウスの背板を貫く事はできなかった。


 「ち! だったらこれならどう!?」


 フミコは銃口に取り付けていた100式擲弾器を取り外して2式擲弾器を取り付ける。

 2式擲弾器はタ弾としての性能はドイツからの技術導入で開発された事もあって100式擲弾器よりも良かったとされている。

 とはいえ、実戦での扱い方や戦果に関してはあまりいい話を聞かないのが実情ではあったのだが……


 太平洋戦争時での2式擲弾器の戦果はともあれ、この場に置いてはそれなりの効果を発揮したようだ。

 フミコの放った擲弾はさきほどと違ってスコペルセウスの背板を爆発と共に貫いた。

 スコペルセウスは悲痛な雄叫びをあげ、体を丸めるのをやめてのたうち回る。


 「やった!!」


 フミコはスコペルセウスの背板を蹴ってその場から離脱するが、しかしダメージを与え相手がのたうち回る様を見て油断してしまった。


 (このまま一気に畳みかければいける!)


 それゆえにスコペルセウスがのたうち回って暴れ回る際に体を伸ばして曳航肢を振りかざしてきた事に一瞬気がつかなかった。


 「っ!! しまった!」


 ゆえにそのまま空中で回避することもできず、鞭のように振るわれる曳航肢に叩きつけられて地面に激突してしまう。


 「がはぁ!?」


 そこで勢いは止まらず床を跳ねて転がり、壁に激突する。

 そしてフミコは吐血してそのまま床へと倒れてしまった。


 「フミコお姉ちゃん!!」


 隠れていたリーナは思わず飛び出してフミコの元へと駆け寄ろうとするがTD-66に静止される。


 『お嬢様危険です!! 飛び出さないでください!!』

 「でも! フミコお姉ちゃんが!!」

 『わたくしが何とかします! だからお嬢様はそこを動かないでください!!』


 TD-66はそう言ってフミコの元へと向かう。

 しかし、それよりも速く体勢を立て直したスコペルセウスが倒れているフミコへと迫る。


 体を貫かれ激昂しているスコペルセウスの速さは尋常ではなかった。

 それは当然だろう。

 そして、そんなスコペルセウスは容赦なく倒れているフミコを食い殺すはずだ。


 倒れているフミコはそんな鬼気迫る勢いのスコペルセウスを見て奥歯を噛みしめる。


 (く……力が入らない……これは骨何本か折れてるかな? はは……どうしよう、このままじゃあたし)


 せめて最後に一矢報いようかとカイトに錬金術で作ってもらった新たな切り札を取り出そうとするが、すぐに思いとどまる。


 (ダメだ……あれを使ったらこの場所自体を崩落させちゃう……そうなったらここにいる全員巻き添えをくらっちゃう、そうなったら絶対に助からない……)


 そうするともうフミコに取れる手段は残されていない。

 何か策を考えようにもそんな時間は残されていない、スコペルセウスはもう目の前に迫っており、今まさに顎肢が大きく開いた時だった。


 目の前が眩しく光り落雷がスコペルセウスの頭に落ちた。

 驚くフミコの目の前に誰かが降り立つ。


 「すまないフミコ、待たせたな……大丈夫か?」


 その声を聞いてフミコが安堵し、全身の力が抜けるのを感じた。


 「まったく、遅いよかい君」

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