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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
11章:依頼をこなそう!

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ドルクジルヴァニア地下大迷宮(9)~憤怒

 その日はいつもと変わらない朝であった。

 別段何か変わった出来事があったわけでなく、普段と変わらないルーティンで3人共いつもの場所に集合していた。


 「さて、今日はどうすんだ?」

 「うーん……そういえば駆除依頼きてなかったっけ? ほら確かメガマンティスの……」


 そう言うとミラが少し嫌そうな顔をする。


 「うん、きてたね。確か路地裏に出るんだっけ? ここらは街の入り口に近くて、尚且つ城壁の外の区画だから小型の魔物、特に昆虫系は普通に出没するよね……」

 「まぁ、ドルクジルヴァニア市内って言っても城壁の外に増築した区画は城壁で守られてないんだから普通に魔物は侵入し放題だしな」

 「はぁ……城壁の外に区画を増築するなら、なんで城壁も新たに建ててくれなかったかな? わたし昆虫系の魔物嫌いなんだよね」

 「まぁそう言うなってミラ。ギガマンティスじゃないだけまだマシだろ?」

 「そうなんだけど……やっぱ無理!! 他に依頼はないの?」

 「今から依頼を募集しない限りはないよな?てかわかってるだろ?」


 アヒムにそう言われてミラが大きくため息をついて「わかったわかった!」と承諾する。

 こうして3人は路地裏に最近出没するというメガマンティスの駆除へと向かった。


 メガマンティスは超大型のカマキリ型モンスターであるギガマンティスほど大きくはない、中型サイズのカマキリ型モンスターだ。

 本来は草原や牧草地などに出没するはずであるが、街中に現れるのは珍しい。


 彼らは俊敏で攻撃力も高く好戦的である、中型サイズとはいえ戦闘能力のない一般市民からすれば十分な脅威なのだ。

 放っておけばかなりの被害がでるだろう。


 しかし、この時点で気付くべきだった。

 確かに昆虫系の魔物はよく侵入してくるが、本当にメガマンティスほどの魔物が出没したのなら住民は身の安全を守る観点から、すぐにギルドユニオン総本部に駆除依頼を出したはずだ。

 もしくは有名な冒険者ギルドに直接頼み込みに行くか……


 いくらヨハンたち冒険者サークル<月夜の刃>が順調に依頼をこなし始めたとはいえ、住民からすればアマチュアであるサークルに自分たちの命を預けるなどありえない。

 それどころか、冒険者サークルがある事すら知らない住民がほとんどだろう。


 では、なぜ冒険者サークル<月夜の刃>に駆除依頼が舞い込んだのか?

 そんなもの、彼らをおびき寄せるための罠以外ありえない。


 では何故アマチュアギルドのサークルなどをおびき寄せるのか?

 答えは簡単だ……それはヨハンの能力だ。

 ヨハンの「召喚」は悪い意味で有名になりすぎたのだ。


 何もないところから魔物を呼び出したり武器を取り出したりする。

 その取り出した武器がどれも強力とあれば、尚更周囲から羨望や嫉妬の眼差しを受ける。


 ある者は何故あいつだけ高価な武器を次々と扱っているのか?と訝しむ。

 ある者は何故あいつだけ強力な魔剣や聖装に強力な武具を次々と手にしているのか?と妬む。

 ある者は何故あいつはいつも違った魔物を操っているのか?飼い慣らしてどこかに隠してるのか?と勘ぐる。


 結局のところ恨み妬みを買いすぎたのだ。

 そして買いすぎた恨み妬みはヨハンの知らぬ間に負の感情を詰め込んだ多くの依頼を生み出してしまう。


 連中の隠し持っている「高価」で「強力」な「価値」のある武器や武具を奪って欲しい。

 連中が隠している魔物達を討伐してほしい。

 連中から武器や魔物を取り上げて欲しい。

 連中がどこから高価な武器や魔物を仕入れているか突き止めて欲しい。

 などなど……


 そして、そうした依頼は当然ながらギルドユニオン総本部には届けられない。

 ではどこに依頼されるか?

 決まっている……闇ギルドだ。


 非合法な彼らなら、例えヨハンたちが闇ギルドを返り討ちにして失敗したところで、依頼者側は痛くもかゆくもない。

 それならば、闇ギルドにはどんどんと働いてもらおう!と冒険者サークル<月夜の刃>を攻撃してほしいという依頼はどんどんと増えていった。


 そんな依頼を受領したのが盗賊ギルド<毒夜の信奉者>、ここらでは有名な闇ギルドだ。

 ギルドユニオン総本部では邪神結社カルテルとの繋がりも指摘されており、討伐対象にもなっているこの闇ギルドは、それなりの構成員がいるにも関わらずアジトがどこにあるのかユニオンはまったく把握できていなかった。


 そんなわけで彼らに仕事を依頼したければ酒場で彼らとの連絡役や仲介役とコンタクトを取るか、街の郊外で特定の時間に特定の場所に出向くしかない……

 そうした場所で情報は交換され、物事は動いていく。



 ギルドの街ドルクジルヴァニアは治安のいい街ではない。

 世界の穢れが集うと言われる悪徳の街と言われるほどだ、むしろ闇ギルドと呼ばれる彼らこそが本来のドルクジルヴァニアのイメージそのものなのだろう。


 だから誰も闇ギルドが自分の身近にはいないなんて幻想は抱かない。

 気のいい隣人も本当は闇ギルドの構成員で裏の顔があるかもしれない。

 この街の住人は誰もが疑心暗鬼とまではいかないまでも、そういった小さな疑念を抱いて生活している。


 それはヨハンたちも同じであった。

 サークルメンバーは別として、他人を完全に信用してはいない。


 していないはずだったのだが……慢心していた。

 ヨハンが転生者として前世の記憶を取り戻し、鑑定眼と召喚を使えるようになってからすべてが順調すぎて油断していたのだ。


 自分達は信用されていると……

 だからくる依頼はどれも頼られてる証だと……


 それが罠だと疑わなかったのだ。

 なので……



 「静かだな……昆虫系の魔物が身を潜めてるのにしてはどうにも不自然だし、これは……」

 「ねぇヨハン、なんかおかしくない? ほんとにメガマンティスが出るの?」

 「つーかよ……さっきから何か変な臭いしねーか?」


 冒険者サークル<月夜の刃>の3人はいるはずもないメガマンティスを警戒して気化した眠り薬が散布された路地裏をゆっくり進み、まんまと罠に嵌ってしまった。


 「お? さすがに気付いたか。でもまぁ、十分吸い込んだだろ、頃合いだな」


 そう言って路地裏に配置された樽や物置などの物陰から屈強な男達が次々と飛び出して姿を見せる。

 彼らは皆口元をナフキンやマフラーなどで覆って空気を吸わないようにしていた。


 「まさか毒!?」

 「ピンポーン! 正解~! まぁ今更気付いたところでもう手遅れだがな?」

 「くそ! ミラ、アヒム引き返すぞ!! 撤退だ!!」


 ヨハンは慌てて腕で口元を覆って踵を返すが、すでに来た道にも何人もの男達が飛び出しており道を塞いでいた。


 「囲まれた!?」

 「こんちくしょう!! 依頼自体が罠だったか!」


 アヒムが悔しそうに叫ぶが、それを見た男達が口元を抑えながら肩を震わせて笑う。


 「ヒヒヒ! 裏も取らずになんでもかんでも依頼なんて受けるからこうなるんだぜ?」

 「マヌケにはお似合いの末路だな!」


 取り囲んだ彼らはヨハンたちを笑いながら、しかし確実に捕獲するためにジワジワと距離を詰めてくる。


 (くそ! なんて失態だ! 普通に考えて慎重にやっていればこんな事には)


 ヨハンはそう思いながら、徐々に思考力がなくなっていく事に危機感を覚える。

 眠気がどんどんと酷くなっていく、このままではまずい!


 「ヨ……ハン……わたし……もう……ダメ」

 「ミラ!!」


 隣でミラが倒れてしまった。

 アヒムも同様に倒れ、残ったのはヨハンだけとなった。


 「くそ……どうにか……しないと……」


 なんとか意識を保とうとするが、体が言う事をきかない。

 やがて目の前に1人の男がやってくる。


 「なかなか耐えるじゃねーか! やるなお前。あぁ、よーく頑張ったよ、仲間が落ちたのに偉いぞ? だからまぁ……もう休めや?」


 男はそういうとナイフを引き抜き、柄でヨハンの頭を殴りつけた。

 そのまま視界は暗転し、そこでヨハンの意識は途絶えた。



 次にヨハンが目を覚ました時には見知らぬ場所の床に寝かされていた。


 「ぐ……ここは……?」


 起き上がろうとしたが、うまくいかなかった。

 両手は後ろ手にされ縛られ、両足も縛られていたからだ。


 どうにか体を動かして外そうとするが、当然解けるわけがない。

 それにしても目覚めてから異臭が酷い、この臭さは一体何だろうか?

 そう思うが、しかし今はそれよりも仲間の安否を確認するほうが大事だ。


 「ミラ!! アヒム!! 無事か!?」


 ヨハンが叫ぶと周囲からいくつもの笑い声が聞こえてくる。

 見れば、何十人もの男達がニヤニヤしながらこちらを見下ろしていた。


 「お前ら一体何なんだ!? ミラとアヒムはどこだ!?」


 何とか起き上がろうともがきながら叫ぶと、一人の男がヨハンの目の前にやってくる。


 「騒ぐなよ? 心配しなくてもすぐそこにいるぜ?」


 男はそう言うと親指で自身の後ろを指す。

 そこにはヨハンと同じく両足と後ろ手で両手を縛られて倒れているアヒムと、服を脱がされ下着姿となって両手を縛られている涙目のミラがいた。


 「ミラ!! アヒム!!」

 「ヨハン!! 助けて!!」


 ミラが叫ぶとミラの近くにいた男が縛られたミラの手を持ち上げてその頬を舌でなめ回す。


 「ひひひ、よかったねお嬢ちゃん。彼が目覚めて」


 そう言って男はミラの手を持ち上げていない方の手でミラの胸を鷲掴む。


 「いやー!!」

 「ひひひ、そう喜ぶなよ?興奮しちまうじゃねーか」


 男のその行為を見て怒りが沸々とわき上がった。


 「てめー!! 殺すぞ!! 汚らわしい手でミラに触れるんじゃねー!!」


 ヨハンの怒声に男はニターっと笑ってヨハンを見ると、ミラの胸を鷲掴むのをやめ、しかしミラの下着を引き剥いだ。


 「きゃーーーー!!!」


 男達の前にミラの胸と乳房が晒される。

 その場にいた全員が楽しそうに歓声をあげた。


 「ひゃひゃひゃひゃ! いい体してんじゃん! これは楽しめそうだぜ! へへへ!」

 「おい! 次はオレだぞオレ!! あーもう勃起してきたぜ、うひひひ」

 「あは、輪姦すの久々すぎてもう我慢できねー!」


 男達の熱気が増す中、ヨハンは怒りで頭がどうかしてしまいそうだった。

 こいつらだけは絶対に許さない、絶対に許してやるものか!絶対に殺してやる!

 それだけしか考えられなくなった。


 「殺す!! ミラにそれ以上何かしたら殺す!! コロス!!」


 そう怒り狂って叫ぶヨハンを見て、ヨハンの前に立つ男はニヤリと笑うと。


 「まぁ、そうカッカするなや? まずは自己紹介といこう……俺たちは盗賊ギルド<毒夜の信奉者>、ここはそのアジトさ! あぁ、助けを呼んでも誰も来ないと思うぜ? 何せここはドルクジルヴァニア地下大迷宮の中だからな? 下水道までわざわざマヌケなアマチュアギルドの連中を誰かが助けに来ると思うか? 思わねーよな? だからまぁ、助けが来るとか夢は抱くな」


 そう言うと男はパチンと指を鳴らす。

 するとアヒムの近くにいた男がチョッパー包丁を手に取って大きく振り上げた。


 その行動を見てヨハンは背筋が凍る。


 「お、おい! 何をする気だ!? やめろ!! くそ!! やめてくれーーー!!!」


 ヨハンの懇願など聞かず、アヒムの近くにいた男はそのままチョッパー包丁をアヒムの首へと振り下ろし、その首を斬り落とした。


 「アヒムーーーーーー!!!!!」


 叫んでもどうにもならなかった。

 斬り落とされたアヒムの顔が床を転がる。

 それを見てミラが悲鳴をあげた。


 「い、いやーーーーーーー!!!!アヒムーーーー!!!」


 そんなミラを見て男達はゲラゲラと笑いミラの元へと集まってくる。


 「あひゃひゃひゃひゃ! お嬢ちゃん!! あんな風になりたくなかったら言う事聞いて俺たちと気持ちいい事いっぱいしような?」

 「死にたくないよな? 仲間みたいになりたくないよな? だったら頑張って俺たちに殺さないで!って懇願しながらたくさん腰振ろうな?」

 「いひひひひ! んじゃまぁ、お楽しみといきますか!」


 そう言って男の1人がミラのパンツを破り捨てて股を開かせようとする。


 「いやーーーー!!! やめてーーーー!!! ヨハン助けて!!! ヨハン!!」


 ミラの叫び声と男達の気持ち悪い笑い声が響き渡る。

 そんな光景を目の前にして、怒りで奥歯を噛みしめすぎて口から血が流れ出していた。


 「おいおい、大丈夫か? 口から血出てるけどよ? あんたにはやってもらわないといけない事がまだあんだから死ぬんじゃねーぞ?」


 そう言う男をヨハンは睨みつける。


 「殺す!! 絶対に殺す!!」

 「おー怖い、怖い。でもよぉ、あんたに今何ができる? 仲間を1人あっさりと殺され、もう1人は今にも強姦されそうになってるけど、あんたはこれを止める手立てがない……哀れだよな? 悲しいな? 目の前で知らない男共に自分の女が代わる代わる犯されてく様をただ眺めてるのはよ?」

 「殺す……!! 殺してやる!!」

 「おいおい、だからやれるものならやってみろよ? つーかできるんだろ? 本当はよ?」


 そう言って男はヨハンに顔をデコが当たるまで近づけて問いかける。


 「あんたさぁ、高値で売れるレアな武器や防具を自在に取り出せるんだろ? それに見世物や旅人の護衛に使えそうな魔物なんかもよぉ? ここ数日、あんたらを尾行して監視してたから知ってんだよ」

 「な……まさか、それが狙いで」


 ヨハンが驚いた顔をすると男は顔を離して高らかに笑い出す。


 「ひゃーっはっはっは!! あぁ、そうさ!! うちに届いた依頼はあんたらをぶっ潰してくれってやつだが、同時に高価な武器やレアな魔物も捕獲してくれって依頼もあったんだよ! でもさぁ!そんな事聞いちゃったら欲しくなっちゃうじゃん? だからレアものはうちが頂くことにしたのさ! あんたらのサークル潰せばとりあえずは依頼は達成になるしな? 文句は言われんだろ」


 男はそう言うと再びヨハンに顔を近づけてくる。


 「だからあんたには今後一生うちらのためにレアな武器やレアな魔物を提供し続けてもらうぞ? あぁ、安心しろ、あんたが武器や魔物を提供してる間はあの女は殺さないでおいてやる。まぁ俺含め、ここの男共に犯され続けるだろうが気にするな。命あっての人生だ、そうだろ? それに心配しなくてもあんたが協力的になればあんたにもやらせてやるよ、元はあんたの女だしな」


 男のその言葉は理性が怒りで吹き飛ぶのに十分だった。

 もう慈悲をかける必要はないだろう……こいつらは絶対に殺す!

 殺し尽くす!!

 もはやヨハンの頭の中に冷静という文字はなかった。


 「ミラは……僕の女じゃねー……大切な幼馴染みだ」


 ヨハンは小さくか細い声で言った。

 その言葉を聞いて男はより一層楽しそうに笑う。


 「おいおいおい、マジかよ? あんたら付き合ってもなかったのかよ? ぎゃーっはっはっは! こいつは傑作だ!! それは残念だったな? 先に俺らが抱いて壊しちまってよ!! まぁ、人生そんなもんだ!! あぁ、そうだ! なら今すぐ最初のレア武器を提供するならあいつら止めるから最初に犯すのはあんたでもいいぜ?」


 そんな事を言う男の顔をヨハンは睨む。


 「ふざけるな……殺すぞ」

 「あぁ!?」

 「いいぜ、望み通りくれてやるよ……とっておきのモンスターをな!!」


 ヨハンは怒りに支配されて、もはやまともな思考はできていなかった。

 だから、その結果がどうなるかを考えていなかった。

 考えていたのはここにいいる連中を皆殺しにする事だけだ。


 「召喚……何でもいい!! 来い!! そしてこいつらを食い殺せ!!」


 宙に魔法陣が浮かび上がるが、いつもと違い魔法陣が安定せず暴走している。

 暴走した魔法陣は紫電を迸らせ、グニャグニャとねじ曲がり、そして……


 「な、なんだこいつは!?」


 驚く男の首を踏みつけて潰し、超巨大なヨロイオオムカデの魔物、スコペルセウスがこの空間に顕現した。

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