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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
11章:依頼をこなそう!

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ドルクジルヴァニア地下大迷宮(7)~決行

 さて、ドローンからの映像を見て、これからの作戦を立てようというわけだが……

 ギガローチ以外の害虫の存在に謎の生死不明の人間と、イレギュラーな部分をどうすべきかが問題となった。


 そう、問題となったのだが……

 フミコが何やらリーナに質問していた。


 「あの倒れてる人は男か女か、リーナちゃんはどっちだと思う?」

 「えーっと……フミコお姉ちゃん、さすがにあの映像だけじゃ判断つかないよ」

 『そもそも性別は重要ですか?』

 「重要だよ! 何言ってるの!? もし女だった場合、かい君が助けたら絶対そいつは自分を助け出してくれたヒーローだってかい君に惚れるに決まってるじゃない! これ以上ライバルが増えちゃダメでしょ!!」


 フミコが怒鳴った。

 そういう問題なのか?

 しかしTD-66がとんでもない事を言い出した。


 『仮に男性であっても、同性愛者だった場合は同様に恋に落ちると思われますが?』


 おい、やめろ!妙なフラグ立てるんじゃない!


 うん、誤解しないでいただきたいが、俺は別に性的マイノリティだからって軽蔑したりはしない。

 LGBTだってもっと広く世間に認知されて受け入れられるべきだとは思う。


 受け入れられるべきだとは思うが……自分は異性が好きです、はい。

 同性からそのような行為を向けられてもお断りです、はい。

 そこだけは主張しておきます。


 「はいはい、無駄話してないで作戦立てるぞ!」


 そう言ってフミコたちの話を終わらせた。

 まずやるべき事はコロニー攻略作戦を立てる事だ。


 しかし、あまりにも情報が不足している。

 特にクイーンギガローチと超巨大ヨロイオオムカデ(仮)に関しては情報が少ない。

 クイーンギガローチは他のギガローチより大きいだけで性能値は同じなのか、違うのか?

 大きいから動けずトロいから衛兵ギガローチなる存在がいるのか?


 そこの情報があれば作戦も練りやすいが、わからない以上はどう対処すべきか困ってしまう。

 そして超巨大ヨロイオオムカデ(仮)、あれは無視していいのか一緒に駆除すべきなのか?

 それによって行動が変わってくる。


 超巨大ヨロイオオムカデ(仮)がたまたま居合わせただけで、すぐにどこかへ立ち去ってくれるなら無視で問題はないだろうが、そうでない場合は先に優先して倒すべきだろうか?


 普通のムカデならば、彼らにとってGは捕食対象のはずだ。

 おかげでG対策として害虫であるにも関わらずムカデをあえて放置する人までいるくらいなのだから。

 とはいえ、ヨロイオオムカデはヤスデばかりを捕食するヤスデ特化型ではあるのだが……


 しかしヤスデ特化型とはいえ、ヨロイオオムカデもそこはムカデであり、その毒はどの生物に対しても猛毒である。

 一度噛まれたりすれば人でも最悪死ぬ事も十分にありえるのだ。


 それがあの大きさとなれば、これはもう警戒しないという選択肢がない。

 だが、あの超巨大ヨロイオオムカデ(仮)は一体何故あのコロニーにいるのだろうか?


 普通に考えればギガローチを捕食しにきたと考えるべきだろうが、それにしては映像から見るコロニーの様子は超巨大ヨロイオオムカデ(仮)に警戒してる様子はなく、働きギガローチたちは平然と超巨大ヨロイオオムカデ(仮)の横を動き回っていた。

 まさかとは思うが共生関係なのか?


 Gとムカデが共生関係を築けるのか?

 それ以前にムカデとは超綺麗好きな生き物だ。

 あの無数にある足を毎朝舐めて綺麗にして身だしなみを整える節足動物界のジェントルマンだ。

 そんな綺麗好きのムカデが真逆の汚い環境で平然と暮らすGと仲良く暮らせるのか?


 考えてもわからん……うん、ここは異世界だ。

 地球の常識で物事を推し量るべきではないだろう。

 なので、ムカデも含めた作戦を立てることにしよう。


 とにかく最優先はギガローチどもだ。

 超巨大ヨロイオオムカデ(仮)は二の次、倒れている人の救助に関しては生死の確認後状況次第でという形になった。


 ならば本来の予定通り、コロニーに殺虫剤をブチまけるかどうかの選択肢になるが……


 『提言ですが、ここからコロニーに殺虫剤を投擲して逃げおおせてきた集団を一網打尽にする案はお薦めしません』


 TD-66がそう切り出した。


 「なんでだ? これが一番効率がいいと思うけど……」

 『ゴ○ブリの初速、最高速度は自然界最強です。ギガローチほどの大きさになってもそれは変わらないと事前にギルドユニオン総本部でもらった資料にもあります』

 「それはそうだが」

 『時速300km以上で一気に迫ってくる個体が数え切れないほどですよ? 事前にバリアを貼って待ち構えていても突破される危険の方が高いです』


 言われて、自分の目の前に無数の新幹線が一気に最高速度で突っ込んでくる光景を思い浮かべる。

 強固な魔術障壁を何重に展開したとしても受け止められる自信はない。


 そして、魔術障壁を突破されたら次々と高速で湧いて飛び出してくるギガローチたちに踏みつけられていくわけだ。

 考えただけで血の気が引いた。


 「うん、この通路で待ち伏せ一網打尽案は却下しよう」


 ではどうするべきか?

 ドローンによってコロニーの全体像は把握できる。

 ならばグループごとに魔術障壁で隔離して撃破していくべきだろう。


 支援サポートの能力で魔術障壁の能力をかさ上げする。

 これによって複数重ねて展開しなくても強固な魔術障壁が発動可能だ。


 まずはコロニーとなっている広場と通路の間に魔術障壁を展開してコロニーの中にギガローチたちを閉じ込める。

 次に、働きギガローチ、兵隊ギガローチ、その他の雑用ギガローチ、衛兵ギガローチとクイーンギガローチをグループごとに魔術障壁で四方を囲み閉じ込める。

 そして、魔術障壁で閉じ込めたその中に殺虫剤なり爆炎なりを放り込んで殺処分していく。


 これが現状では効率的で懸命な駆除方法だろう。


 ここで注意しなければならないのが、魔術障壁で閉じ込めた中から連中を絶対に逃がさないことだ。

 最悪、グループを囲んだ魔術障壁からは逃がしても、コロニーの外には出してはならない。


 殺虫剤を使った場合、そこで確実に殺さなければすぐに耐性をつけられてしまう。

 Gの最も恐るべき点はその進化のスピードだ。

 中途半端に殺虫スプレーをかけて逃がしてしまったら、もうそのスプレーは効かなくなってしまう。

 短期間で耐性を得るなんて世界中探しても連中くらいなものだろう。


 だからこそ、殺虫剤を使ったならば確実にそこで仕留めなければならない。

 逃げられたらお終いだ。


 爆炎での処分をする場合、確実に初手で灰にしないと大変な事になる。

 特に魔術障壁の外に逃げられたら目も当てられないだろう。


 日本の居酒屋や飲食店における家屋全焼の被害がでる火事において、たまにこんな事例がある。

 その居酒屋のキッチンでは、火事となる前Gが出没したようなのだ。


 そのGをキッチンにいたアルバイトたちはすぐに殺して処分せず、面白半分でチャッカマンでGの体に火をつけて遊んでいたのだが、火をつけられたGは燃えながら超高速で逃げ回り、アルバイトたちでは手が付けられなくなったのだ。


 その恐るべきスピードから消化器も当てる事ができず、超高速で動き回る火種となった燃えるGはいたるところに火を付けて回り、その店は全焼してしまったという。


 下手に燃やしただけだと、高速で動き回る火事の元となる。

 だからこそ、生きた状態のGに対する火攻めは危険なのだ。

 だから爆炎で殺すなら初手で灰にしなければならない。


 そういう意味では水攻めか落雷、岩で押しつぶすのが一番いいのかもしれないが、何にせよ閉じ込めたらそこから逃がさないことが先決だ。


 しかし、この作戦だと魔法を使えるのは自分だけになるから自分がしっかりしないといけないのだが……


 さて、この作戦でいこうと決めるとフミコが尋ねてきた。


 「かい君、あたしたちはどうすればいい?」

 「マスターが魔術障壁と閉じ込めた中に魔法で攻撃するならわたしたちは何もする事ないですけど」

 「うーん、それなんだが」


 言おうとしたところでTD-66が説明しだした。


 『コロニーから通路へと逃げ出す個体がいないか警戒する役目があります』

 「あ、そうか! もしかしたらすり抜けてくるのがいるかもだもんね」

 『はい、それに超巨大ヨロイオオムカデに対する警戒も必要です』

 「そうだよね……じゃあかい君がギガローチたちに対処するから、あたしはあのおっきなムカデを見張っておくよ」


 フミコがそう言うとリーナが頷いてTD-66の方を向く。


 「じゃあわたしと君でコロニーから逃げ出す個体がいないかの警戒だね!」

 『はい、お嬢様。ついでにわたくしは引き続きドローンを飛ばして全体の状況把握に努めます』

 「あぁ、頼むぜ」


 同時に複数の場所を警戒し、全体を把握するなんて行為は人よりも機械に任せる方がいいだろう。

 そんなわけで担当が決まったところで行動に移る。


 再度ドローンからの映像を確認し魔術障壁を発動する箇所を確認する。

 リーナとTD-66には殺虫剤入りタンクと超強力高圧ノズルを渡し、フミコは超巨大ヨロイオオムカデ(仮)を警戒すべく両手に銅剣を構える。


 「さて、それじゃあ作戦開始だ!!」

 「うん!!」

 「はい!!」

 『了解です』



 ギガローチたちのコロニーとなった広い空間、そこでは無数の巨大なGたちがカサカサと蠢いていた。

 そんな中にあって後ろ手で縛られて床に倒れている人間がいた。


 その人間は動くことはなく、何か言葉を発する事はない。

 しかし、だからといって死んでいるわけでもなかった。


 よく見れば微かに肩を動かして呼吸はしている。

 生気のない表情をしているが、目も開いている。

 ただし、その顔からは感情というものは窺えなかった。


 生きようという気配が見られない、そんな状態であった。

 その人間の名はヨハン、ちなみに男である。


 (あぁ……なんでまだ僕は生きてるんだ? なんで死んでないんだ?)


 ヨハンはそう思って、しかし体を動かそうとはしなかった。

 そうしようとしたところで動くわけがないからだ。


 スコペルセウスの毒に犯されているのだ、当然である。

 今のヨハンはただの生命力の供給源でしかない。

 スコペルセウスに生命力を供給するためだけに生かされている死に損ないだ。


 ヨハンが逃げないように彼の体の自由を奪うため、そして死なせないために最低限の栄養分を与えるため。

 その2つの目的を達成するためだけに1日1回、スコペルセウスは顎肢からヨハンの口元へと何かの液体を垂れ流す。


 そんな気持ち悪いもの、ヨハンは飲みたくもないが飲まない限り飢えて死んでしまう。

 何より、スコペルセウスの毒に犯された身では自然と体がその液体を求めてしまう。

 耐えがたい屈辱であった。


 しかし、ヨハンに何かできる術はない。

 気力もない、だから成されるがままだ。

 こうして数週間、彼は生かされていたのだった。


 とはいえ、日に日に思考能力は失われていく。

 記憶もすでに曖昧になっていた。


 (なんでこんな事になったんだっけ? そもそも僕はなんでここにいる? ……なんでだっけ)


 そう考えても、もう脳が思考しようとする事を拒絶する。

 思い出そうとしても何も浮かばない。


 (なんだっけ……確か僕はサークルに……)


 ヨハンがそう思った時だった。

 今まで何も変化が起きなかったこの空間に変化が起きた。


 突如、この空間からそれぞれの通路へと繋がる箇所に紋章が浮かび上がったのだ。

 それは見えない壁となり、この空間にいた無数のギガローチたちをこの空間、彼らのコロニーに閉じ込めたのだ。


 (なん……だ?)


 ヨハンは突然の事に驚き、周囲を確認しようとするが、当然体は動かない。

 自分の視界の範囲内でしか状況を知る事ができない。


 そんな中、ギガローチたちの気味の悪い泣き声が至るところで響き渡る。

 どうやら、いたる所で浮かび上がった紋章に閉じ込められて慌てふためいているようだ。


 (いったい……何が……起こって?)


 そして、いたる所で爆発だったり、何かが床へとぶつかる音だったり、雷が落ちたような音が聞こえた。


 (誰かが……ギガローチたちを……攻撃してる?)


 困惑していると、ヨハンの視界に誰かの足下が映った。


 「これでコロニーの中のクソGどもはほぼ殺したか? にしても何だよあれ、まじかよ……さすが機械の騎士曰く衛兵ギガローチってだけはあるな。クイーンギガローチを守るように重なり合って盾になって自分らを犠牲にしてクイーンを守りやがったぞ?」


 誰かはそう言うと舌打ちしながらしゃがみ込んで、ヨハンの顔を覗き込む。


 「生きてはいるな? おーい! 大丈夫か? 俺の声聞こえてるか?」


 そう言う誰かの顔は全身を覆う服と被っているマスクでわからなかったが、ヨハンには彼が敵ではなく自分を助けてにきてくれた者だとわかった。

 だから、なんとか力を振り絞って体を小さく動かす。


 そんなヨハンの仕草を見て助けに来た誰かはため息をつくと。


 「ほれ、回復薬だ。本当なら回復魔法で治してやりたいところだけど、この状況で効果が期待せきそうなレベルじゃないんでな」


 そう言って小瓶を取り出して蓋を外し、ヨハンの口元に注ぎ込む。

 ヨハンはそれをゴクゴクと飲みながら人間味が蘇ってくるのを実感した。


 怪物からではなく、人から飲み物を口に入れて貰えたのはいつぶりだろうか?

 そう考えてヨハンは涙を流した。


 「ぐ……がはぁ!! ……はぁ……はぁ」

 「おいおい、焦って飲むことねーぞ? 後泣くなよ、まだ完全に助かったわけでもないのに」

 「……あ……が……ゲホ、ゲホ……あ……ありが……と」

 「気にするなって」


 そう言う彼をヨハンはじっと見つめる。

 そして、ある事に気付いた。

 気付いてしまった。


 (え? ……僕はなんで、こんな事がわかるんだ? ……わかってしまうんだ?)


 困惑するヨハンはそこでようやく思考力が回復し、脳が活性化して思い出す。

 自分の能力を。


 (そうか……そうだった。こんなところでずっと補給源にされてたせいですっかり忘れてた。()()()()()()()()()()()……()()()()()()()()を)


 ヨハンはまだ完全に回復しきっていない体をなんとか起こして、自分を助けてくれたマスクをつけた者を見る。

 そして、彼にすべてを伝えようとした時だった。


 ドスンと床が揺れた。


 「なんだ!?」


 ヨハンを助けた誰かが警戒して周囲を窺う。

 直後、何かが彼目がけて突っ込んできた。


 「な!? こいつ!?」


 それはスコペルセウス、ヨハンを助けた彼とその仲間たちが超巨大ヨロイオオムカデ(仮)と呼ぶモンスターであった。


 「魔術障壁をぶち破ってきやがったのか!?」

 「かい君!! 危ない!!」


 ヨハンを助けた誰かとは別の誰かがスコペルセウスの顔を2本の剣で殴りつける。

 そのままスコペルセウスはその場から横へと吹き飛んでいくが、その長い胴部のおかげで踏ん張る事ができ、壁に激突するといった事はなかった。


 スコペルセウスは顔をこちらへと向けて威嚇するように触角をピンと立てる。

 そんなスコペルセウスに新たに助けに来た誰かが剣を向けて叫ぶ。


 「かい君ははやくその人を安全なところまで運んでクイーンのほうをお願い!! こいつはあたしが抑え込むから!!」

 「あぁ、頼むぜフミコ!!」


 そう言ってヨハンを助けた誰かはヨハンを起こすとヨハンを背中に背負い、その場から離れる。

 しかし、思考能力が回復し、すべてを思いだしたヨハンにはそれが意味のない事だとわかっていた。

 だからヨハンは声をかける。


 「待って!! それじゃあスコペルセウスは倒せないよ!!」

 「は? スコペなんだって!?」

 「あのモンスターだよ!」

 「あいつ、そんな名前なのか」

 「あぁ、そしてあいつを倒すには君の力が必要何だ!!」

 「は? どういう事だ?」


 ヨハンの言葉に、ヨハンを背負い走っていた彼が足を止める。

 そしてヨハンを下ろすとヨハンに問う。


 「一体どういう事だよ!? あいつの倒し方知ってるのか?」


 するとヨハンは真剣な表情でこう答えた。


 「あぁ、知ってるよ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

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