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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
11章:依頼をこなそう!

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ドルクジルヴァニア地下大迷宮(4)~願い

 自らを転生者であると語った菌糸生命体であるキエ・カガール。

 思いがけないところで転生者と出くわしたが、まだ当たりかどうかはわからない。


 さてどうするか?

 そう思っているとフミコが近づいてきて話しかけてくる。


 「かい君、あのうんこマン自分のこと転生者って……」

 「あぁ、だがまだリーナみたいに地球とは別の世界から転生してきた可能性もある」

 「そっか……でもどうやって確認するの?」


 フミコに問われて、思わず唸ってしまう。

 そう、あの菌糸生命体とやらが地球出身か、そうでないかを見極める手段が思いつかない。

 手っ取り早いのはあれを仲間に加えて素性を話してもらうのが一番なのだろうが、この考えをすぐに察したフミコが。


 「あたしは絶対に嫌だからね、一時的でもあんなうんこマンを仲間に加えるなんて!」


 と拒絶反応を示した。

 うん、そりゃそーだろ。

 俺だってあんなの仲間にしたくねーよ。当然リーナにTD-66も拒否するはずだ。


 そうすると、今ここでやつから地球出身かそうでないかの答えを聞き出さないといけないわけだが……

 素直に答えてくれるだろうか?

 わからん。

 わからんが、やるしかない……うんこマンと共に語らいながら歩む未来を回避するために。


 「素直に答えてくれるかわからんが、まずは色々質問してみるか」


 そう言うとフミコはなら質問は任せたと言わんばかりに、一歩下がった。

 うんこマンを極力見たり、声を聞いたりしたくないのだろう。


 うん、俺だってそうしたいよ……何が悲しくて下水道に溜まった他人の糞尿かき集めて作ったヒトの体を模したものと対話しないといけないんだか……

 でもやつが転生者である以上は確認しないといけない。


 「えーっと……キエ・カガールだっけ? 元は人間だったって話だが、それはこの世界で輪廻転生したって事か? それとも菌糸生命体とやらになる前の人間だった頃は別の世界に住んでいたのか?」


 そう尋ねるとキエ・カガールは糞で構成された(アバター)を器用に動かして答える。


 「あぁ、この世界で輪廻転生したわけじゃない。前世はまったく別の世界だ……と言っても転生してからこの方、菌糸生命体であるがゆえに、この糞まみれの地下世界から地上に這い出た事がないから確認しようがないがな」


 キエ・カガールはこの異世界での輪廻転生を否定した。

 とはいえ本人も述べたように外の世界、地上を見て回ったわけじゃない以上は本当にそうなのか確認しようがないはずだ。

 では何故この菌糸生命体はそう判断したのだろうか?


 「地上に出て確認しようがないのに何で前世とは違う世界だと思ったんだ? その根拠は?」

 「あぁ、それは簡単だ。菌糸生命体に転生してどれくらいの年月が過ぎたかはわからないが、ごく希にこの地下にも人が訪れる事はある。君たちみたいにね……彼らはここの魔物を狩るのに「スキル」ではなく「魔法」とかいう技術を使っていた。彼らを観測する限り、この世界では「スキル」はなく「魔法」とかいう技術がはびこっているらしい……スキルがない? 魔法って何だよ? そこで理解したのさ、ここは俺の元いた世界じゃない……異世界だってな」


 キエ・カガールはそう言ってやれやれと言いたそうなポーズをとった。

 本当に糞で構成された(アバター)を器用に動かすなと関心してしまう。

 まぁ、長時間直視するのは勘弁願いたい姿ではあるが……


 「なるほどな……あんたの転生前の世界には「魔法」は存在せず「スキル」が存在した。しかし、ここには「スキル」は存在しない……だから異世界と判断した、か」


 これで確信した。

 この菌糸生命体である転生者キエ・カガールは自分達が探している地球からの転生者ではない。

 何せ地球には「スキル」なんて魔法によく似た特殊能力は存在しないのだから。


 一様は最終確認としていくつか聞いている。


 「なぁ、知ってるか知らないかでいいんだが日本って国を知ってるか?」

 「ん? ニホン……? そんな国知らん」

 「ならアメリカは? ロシアもしくはソ連は? 中国は? イギリスは? フランスは? ドイツは? EUとかインドとかブラジルとかケニアとか」

 「さぁ? 聞いた事もないな? この世界に存在する国か?」

 「ローマ帝国は? スペインは? ポルトガルは? ハクスブルグは? インカは? アステカは? モンゴルは? クメールは? デンマークは? バビロニアは? イスラエルは? ムガールは? オスマンは? ウマイヤは? アッバースは? 夏、殷、周、漢、三国、晋、隋、唐、宋、元、明、清は? アフリカ大陸わかる? ヨーロッパは? アジアは? オーストラリアは? ユーラシアは? ラテンアメリカは? キリスト教はわかる? イスラム教は? 仏教は? ヒンドゥー教は? シク教は? ユダヤ教は? 儒教は? 道教は?」


 仮に日本以外の地域であったり現代よりも遙か過去からの転生者であった場合でも何かしらひっかかりそうな国や文明、大陸、宗教を羅列したがキエ・カガールは何を言っているのか理解していない様子だった。

 もう十分だろう、キエ・カガールは地球からの転生者ではない。

 地球の同胞のなれの果てがうんこまみれの菌糸生命体でなくてとりあえずほっとした。


 「ふぅ……よかった元地球人でなくて」


 安堵してそう言うとフミコが疑問を投げかけてくる。


 「え? かい君なんでよかったなの? あのうんこマンが地球からの転生者だったら、ここでこの異世界は終わってたのに」


 フミコの言葉はごもっともだ。

 うん、自分だってさっさとこの異世界を終わらせて次に進みたい。


 いくら今回に限りこの異世界の事情に多少絡んでいいと言われてるとは言っても、いつまでもギルド活動をやっているわけにはいかない。

 自分はそんな事をするために地球を旅だったわけではないのだ。


 一刻もはやく次元の亀裂を修復してジムクベルトを次元の狭間へと押し返し地球を救わなければならない。

 そのためにもはやくこの異世界にいる転生者なり転移者を見つけ出し、異能を奪って殺し、次に進まなければならない。


 それはわかっているのだが……


 「あのなフミコ……考えてみてくれ、もし仮にあの菌糸生命体が地球からの異世界転生者だった場合どうなると思う?」

 「へ? どうなるって……どうなるの?」


 フミコはどういう事だ?といった反応を示す。

 なので理解していないフミコへと力説する事にした。


 「世にも恐ろしいスピンオフ作品が爆誕する事になる……」

 「……はい?」


 そう、菌糸生命体が地球からの転生者であった場合、それは彼が主人公である物語が存在する事になる。

 そう、菌糸生命体が主人公の菌糸生命体の活躍を描くスピンオフ作品が……

 タイトルはきっとこうだ。


 転生したらうんこだったんですけど!?~他人の糞尿かき集めて世界最強!!~


 「あぁ、うん、これもう色々アウトだろ……どこに需要あんの? ス○トロ愛好家受け狙うの? アホなの? いや待てよ? 内容次第ではコ○コロやweb復刻したボ○ボンでワンチャンあるか? うん、そうだよな! 子供って何故かうんこ大好きだもんな! 子供のうんこに対する飽くなき情熱は並大抵の物じゃないもんな! あれ? これいけるんじゃね? 新ジャンル転生うんこ戦記いけるんじゃね?」

 「ねぇ、かい君さっきから何言ってるの? 普通にドン引きだよ? 誰がリアルうんこに転生してリアルうんこかき集める話に熱狂するの?」


 何故か途中から妙なテンションになったところでフミコに冷静に諭された。

 うん、ですよねー。


 「とにかく、あのうんこマンがあたし達が探してる転生者じゃないならもうこれ以上関わる必要ないんじゃない? かい君、さっさと先に進もうよ! 正直、あんな汚い意味不明なものこれ以上見たくもない」


 フミコが心底嫌そうに言った。

 そりゃそーだよな。俺だって嫌だよ、誰がしたかもわからないうんこをかき集めてできた体と対話するなんて……


 「そうだな……ここにいたジャイアントラットは全部駆除したし、先に進むか」

 「うん! はやく先に進もう! 今すぐ進もう! うんこが喋る前に進もう!!」


 あぁ、フミコもうこれ限界だな。

 うん、確かにこれ以上はここにいても無意味だし、先に進むか。


 そう思って、一様は礼儀として別れの挨拶ぐらいはしようとキエ・カガールに声をかける。


 「あぁ、キエ・カガールすまなかったな。どうやら俺らが探してる転生者じゃなかったみたいだ。時間をとってすまなかったな。お詫びに残りの2匹の死体もあんたにやるよ。じゃあ、そういうわけで達者でな! 下水道から出れない菌糸生命体であっても強く生きろよ!」


 ガスマスクに防護服だからわからないだろうが、愛想笑いを浮かべて別れの挨拶を告げる。

 そしてリーナとTD-66に先へ進もうと声をかけようとしたところで。


 「待てよ」


 うんこマンこと菌糸生命体キエ・カガールがこちらを制止する。


 「ど、どうした?」


 思わずキエ・カガールのほうを向くがフミコは自分の腕を掴んで引っ張ってくる。


 「ちょっとかい君、うんこマンなんかほっといて先に進もうよ!」

 「あ、あぁ……わかってる」


 そうフミコに言った直後だった。

 うんこマンキエ・カガールの周囲から再び無数の鎖が飛び出し、こちらの行く手を遮ったのだ。


 「な、何しやがる!?」

 「か、かい君!! ちょっとあれ!」

 「な!?」


 フミコに言われて、行く手を遮った鎖の先を見ると、この空間の出口。

 この先へと進む道がうんこまみれの無数の鎖で塞がれていく。


 「おい!! どういうつもりだ!?」


 キエ・カガールに叫ぶと、糞をかき集めて作ったその(アバター)をゆっくりと動かしてキエ・カガールがこちらへと迫ってくる。

 等身大のうんこが意思を持って迫ってくるなどホラー映画以上にホラーだが、キエ・カガールはこちらに近づいてきながらこう切り出した。


 「なぁ、俺だってこんななりでも元人間だ。わかるだろ? 外の世界に行きたいって思うのは普通だと思わないか?」

 「は? お前何言って……」

 「ここを通して欲しかったら俺を仲間に加えろ、そして俺も外へと連れて行け! この条件を受け入れるならここを通してやってもいい」

 「………お前、マジで何言ってんの?」


 誰に尋ねても、たとえ世界一清く優しい聖女様であっても拒否しそうな提案をしてきた。

 そんな提案、常識的に考えて受け入れられるわけないだろ!

 アホなのかこいつ?


 「んなもん拒否るわ」


 言った直後、うんこまみれの鎖が襲いかかってきた。


 「だったら、いたぶって言う事を聞かせるまでだ!!」


 うんこマンキエ・カガールが叫ぶ。

 こうして菌糸生命体との戦いがはじまったのだった。

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