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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
11章:依頼をこなそう!

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ドルクジルヴァニア地下大迷宮(2)~会敵

 「くそ!! キリがないぞこれ!!」


 叫ぶがそうしたところで状況が好転するわけではない。

 なのでひたすらに超高圧洗浄スプレーガンで大量に湧き出てくるGどもへとスプレー噴射をお見舞いする。

 しかし、いくら噴射しても次々と新たな群れが湧いて出てくるため終わりが見えなかった。


 現在背中に背負っている殺虫剤入りのボンベは6本目であり、地面には使い切ったボンベ数本が転がっていた。

 フミコにリーナも似たような状況で、いくら殺しても終わりが見えなかった。


 「ねぇ、かい君そろそろ予備のボンベの残数がまずいかも!」

 「フミコもうそんなに使い切ったのか!?」

 「マスターごめんなさい、わたしの噴射があまり当たってないから……」


 これだけうじゃうじゃ湧いてくる中で命中されせられないのもどうかと思うが、リーナはスプレー噴射がどうにも苦手らしい。

 そんなわけでリーナのボンベ消費が早いのだ。


 さて、どうしたものか?

 そう思っていると何もない虚空から声が届く。


 『ようやく準備が整いましたお嬢様! ここはわたくしにお任せください!』


 声の主はもちろん光学迷彩で姿が見えなくなっているTD-66だ。

 しかし、次の瞬間空間に歪みが生じ、一瞬光学迷彩が解けその姿が浮かび上がる。


 TD-66は背中に巨大な殺虫剤入りタンクを2本背負い、そのタンクから伸びた巨大な放水砲を両肩に担いでいる。

 その放水砲を蠢き迫るGの群れへと向けた。


 『いきます! 病原菌の媒介もとの害虫どもめ! お嬢様に近づこうなど身の程を知るがいい!!』


 そして放水砲から12気圧を越える殺虫剤の高圧放水が放たれGの群れをなぎ払っていく。

 その圧倒的威力で、そして殺虫剤の効果でこの一帯のGはすべて駆逐された。

 それを見てリーナが飛び上がって喜んだ。


 「やった!! すごいよ君!!」

 「確かにこりゃすごいな……殺虫剤入りタンクの消費量が洒落にならんけど」


 TD-66が使用した放水砲の威力はあまりにすさまじく、後々聞けばいわゆる暴徒鎮圧用のものだったらしい。

 そりゃ殺虫剤以上に放水の威力のほうがすごいわけだ……

 何にせよ放水後には水浸し(殺虫剤)になった地面に壁、そして無残に転がるGの大量の死骸が残された。


 この死骸の山をそのまま放置して先に進んでもいいのだが、Gというものはエサがなければ共食いをする。

 仲間や親兄弟の死骸であってもエサとして食う。

 それがGというものだ……


 人は同じ人というか同種同族を食ったとなれば「禁忌」だ「悪魔に取り憑かれた」だと言うが、そんなもの昆虫界というか自然界ではごく当たり前の風景だ。


 食物連鎖とはそういうものである。

 人は脳が発達して理性というものを獲得したがゆえにそれを毛嫌うが、野生動物の世界では他に食べる物がなければ同族であっても食うのは当たり前である。

 何せそうしなければ生きていけないのだから……


 そんなわけで、この大量の死骸を放置して進むのはよろしくないだろう。

 よくCMで見かけるような食べたGが死に、その死骸を食ったGも死ぬという一度に二度効くタイプの殺虫剤は使用していない。

 せっかくこれだけ多くのGを駆逐したのだ、それだけの量のエサを別の場所に潜んでいるGどもにくれてやる道理はないだろう。


 なので大量の死骸を処分する装置を取り出した。

 まずは本来なら家の中をお掃除するお掃除ロボット「ル○バ」を改造したGの死骸をかき集めるロボット「ル○バ改」を取り出し、大量の死骸を一箇所に集めさせる。


 そしてその死骸を一気に焼却処分するための火炎放射器搭載ル○バ改を取り出し、ル○バ改が死骸を集め終わった後で焼却処分するよう指示を出しておく。


 ル○バ改たちに指示を出し終えると再び奥へと進んでいく。

 死骸の処分が終わるのを最後まで確認している暇はない。

 こんな依頼はさっさと短時間で片付けるべきだ。


 奥に進むにつれて大量のGの群れとの会敵の機会が増えた。

 そのたびに自分やフミコ、リーナは殺虫スプレーを大量に消費し、TD-66も殺虫タンクを次々と消費していった。

 おかげで殺虫剤のストックが底を突きそうになった時、目の前に巨大な扉が姿を現した。


 この地下大迷宮は古代の遺跡だ。

 つまりはこの巨大な扉は遺跡の中の何かの施設の入り口なのだろう。

 そこで考える。


 「う~ん……この扉を開けてこの先を進むべきか? いや、やめとくべきだな」

 「え? かい君、この先に行かないの?」


 フミコがどうして?といった反応をしたので思わずため息が出た。


 「フミコ、あのな……俺たちの仕事はジャイアントラットにギガローチの駆逐というか数減らしだ。遺跡を探索する事が目的じゃない」

 「それはそうだね」

 「つまりはこの扉を開けて中のかつての遺跡の施設とやらを見る必要はないんだ。普通に迂回して先を進んだほうが仕事ははやく終わる」


 そう言うとフミコが「それもそうか」とどこか残念そうに言った。

 まさかフミコのやつ、この遺跡の中を探検したかったのか?

 さすがにそれは勘弁願いたい。


 こんな衛生上よろしくない、ダンジョンと呼んでもいいかわからない不潔なところは仕事を最速で済ませてさっさと脱出すべきだろう。

 どんな伝染病に感染症、流行病に未知の病原菌が潜んでいるかわかったもんじゃない。

 何せガスマスクに防護服を着ていても本当に安全か保証がない状態なのだから……


 そんなわけで巨大な扉を迂回する形で細く狭い通路を進んだ。

 しかし、すぐに天井の崩落によって道が塞がれており進めなくなってしまった。


 おかげで巨大な扉の前まで戻ってくるはめになった。

 一様は他の道も探したが、同様に天井の崩落で塞がっているか、どこからか流れ込んできた土砂によって道が埋まっていて進めない状況で結局巨大な扉を開けて進む以外の選択肢が見つけられなかった。


 「はぁ……結局これを開けて進まないといけないわけか」

 「かい君、ここはもう腹を決めて進むしかないよ!!」

 「フミコ、楽しそうだな?」

 「だって、こんな大きな扉だよ! きっと何かすごい空間がこの先にあるんだよ!!」

 「すごい空間ね……」


 フミコが何でそこまでワクワクしているのかはわからないが、こんな下水施設の遺跡の扉など開けてワクワクする光景など広がっていないだろう。

 下手したら扉を開けた途端に大量のGやその他の害虫が飛び出す地獄が待ってるかもしれん。


 とはいえ、先に進むにはもう扉を開ける以外の道がない。

 大量のGどもは駆除したが、依頼内容のギガローチにはまだ出くわしていない。

 同様にジャイアントラットにもだ。


 なので今はまだ引き返すわけにはいかない、覚悟を決めて扉を押す。

 しかし……


 「ぐぬぬ……マジかよ、この扉ビクともしないぞ?」


 巨大な扉はまったく開く気配がなかった。


 「かい君、手伝おうか?」

 「マスター、わたしも手伝います!」


 フミコとリーナが声をかけてくるが、それを制する。


 「いや、いい。TD-66に手伝ってもらうよ。2人は扉が開いた直後、中から何か飛び出してこないか警戒しててくれ」

 「わかったよ」

 「はい、そういう事でしたら」


 フミコとリーナには戦闘態勢を維持してもらい、TD-66と一緒に巨大な扉を押す。

 そのおかげで巨大な扉はギギギギギと鈍い音を立てながらゆっくりと開いていった。


 「よーし! この調子だ!!」

 『はい、一気にいきましょう』


 そして巨大な扉をなんとか開く。

 扉が開いたことで中からコウモリが数羽飛び出してきたが、こちらに危害を加えることなく飛び去っていった。


 「ふぅ……なんとか開いたな」

 「かい君、おつかれ!!」

 「マスターお疲れ様です。君もありがとう!」

 『当然のことをしたまでですお嬢様、それより……』


 言ってTD-66は周囲を警戒する。

 背負っていた殺虫剤入りタンクを外し、両肩の放水砲も取り外す。

 代わりに新たに業務用スピーカーかと思うようなアンプを両肩に担ぐ。

 それはいわゆる超音波発生器、ネズミが嫌がる周波数を発する装置である。


 なぜTD-66がそんなものを装備したのか?

 答えは明白だ。


 扉を開けた先、広がっていたのは野球やサッカーができそうなほどの巨大な空間であった。

 地下の巨大な空洞をベースに作られたのだろうが、壁や天井、床は石のブロックで埋め尽くされており、天井には至るところに無数の穴が開いていた。

 そして、その穴からは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 その落ちた先には細い水路があったが、その水路を流れる水は酷く汚れていた。

 というより、それは汚水というか汚物というか……

 まぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は容易に想像がつく。


 そして、そんな広い空間に蠢く無数の生物がいた。

 細い尻尾に毛むくじゃらな体。

 鋭く尖った歯でむしゃむしゃと何かを食い漁っているその姿はまさに自分がよく知っているドブネズミそのものだ。


 その大きさがあまりにも規格外という事を除けば……


 「お、おいおい……いくらジャイアントラットって名前だからっていっても限度があるだろ!?ネズミと言い張るには大きすぎはしないか!?」


 思わず愚痴が漏れる。

 そういえば第2次世界大戦時、ナチスドイツは開発した戦車に動物の名前をつけていたが、世界最大級の大きさと装甲厚の巨大戦車を開発した時、欺瞞のためにあえて「マウス」と命名したという。

 なぜだがそのエピソードが今ふと脳裏をよぎった。


 そう、どう見ても2メートル近いTD-66とガチンコファイトしても違和感なさそうな大きさのネズミが3匹、目の前にいたのだ。


 「くそ! 扉を開ける前にくん煙忌避剤でもたいて数を減らしておくべきだったか?」


 思わず舌打ちしてしまうが、扉の先にジャイアントラットが3匹もいると事前にわかっていなければそれはまず持って不可能だ。

 諦めて素直に3匹同時に相手するしかない。


 「フミコ! いけるな!?」

 「もちろんだよかい君!!」

 「リーナちゃんは安全な場所に隠れてろ!!機械の騎士さんよ、リーナちゃんを守りながら戦闘はできるな!?」

 『当然です! お嬢様には指一本触れさせません!!』

 「え? ちょっとマスター!? わたしだって役に立てます!!」

 『お嬢様! 今すぐ安全な所に避難を!!』


 TD-66がなんとか戦闘に参加しようとするリーナへ下がるよう促し超音波発生器を起動させる。

 ネズミが嫌がる周波数が空間全体に放たれ、食事中だったジャイアントラットが即座に反応する。


 不快に感じたのか、地球では聞いた事もないおぞましい鳴き声をあげてジャイアントラット3匹がこちらへと敵意を向けてくる。

 そして3匹のうちの1匹が恐ろしいまでの跳躍力でもって襲いかかってきた。


 それを見てアビリティーユニットを手に取りレーザーの刃を出す。


 「来いよクソデカドブネズミ! 斬り刻んでやる!!」


 レーザーブレードを振るってその巨体に斬りかかる。

 かくしてジャイアントラットとの戦いが幕を開けた。

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