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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
11章:依頼をこなそう!

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依頼をこなそう!(3)

 自分とフミコ、リーナの3人は受領している老朽化した雑貨屋の解体のため4番街にあるその建物の前までやってきたのだが、その建物はどう見ても荒れ果てており、老朽化を通り越してただの廃墟であった。

 なので、隣にいる依頼人である雑貨屋の店主に尋ねてみる。


 「あのー確か依頼内容って建物が老朽化してきたから雑貨屋を続けるには心許ないというか従業員の安全も客の安全も確保できないから新たに店を建て直したいので解体してほしいってはずですけど……」

 「えぇ、そうですよ」

 「……店が老朽化してきたから建て直すから解体してほしいって事ですよね?」

 「えぇ、そうですよ」


 雑貨屋の店主は何を今更といった表情をこちらに向けてくる。

 まぁ、依頼内容は解体で間違いないのだろう……そこだけ合ってれば問題ないのか?

 まぁ、問題ないだろう……


 それでも一様は聞いておかなければならない。

 うん、この解体してくれって建物を見れば誰もが思うだろう疑問だしな!


 「あのー本当にここで雑貨屋やってました?老朽化してきたというにはあまりにも荒廃しすぎてて年期入りまくりのバリバリな廃墟なんすけど?」


 そう聞くと雑貨屋の店主は大声でゲラゲラと笑い出した。

 そしてひとしきり笑い終えるとこちらの背中をバンバン叩いてくる。


 「あーお前さんたち新規ギルドの新人さんだったな? だったら知らなくて当然だな、実はこの依頼をユニオンに出したのはもう随分前……そうだな、かれこれ数年前か? まぁ、そんだけ誰にも見向きもされなかった依頼ってこった」

 「……は?」

 「まぁ、正直わしも今更この依頼を受けてくれるとこが現れるとは思ってなかったよ! ハーッハハ!」

 「マジかよ……」


 思わずため息が出そうになった。

 まぁランクアップの為の実績も報酬もちゃんと貰えるならこちらとしては何だっていいんだが、それにしたって別段もう必要がないのなら依頼取り下げろよ!と思ってしまう。


 しかし、そうもいかないのがドルクジルヴァニアという街らしい。

 この雑貨屋の店主、誰も依頼を受けてくれないのでどうしようかと途方に暮れているとき、たまたまいい物件を見つけたのでそこに雑貨屋を移転したようなのだが、店を移転した後でユニオンには依頼の取り下げと建物の売却を申し出たようなのだが断られたそうだ。


 土地に関しては建物の解体が終わってから市が買い取るという事になったが、解体の依頼は誰かが受領するまで掲示するようにとの事だった。

 そして依頼が完遂して初めてこの土地を売れるわけであって、この数年放置が続いていたらしい。


 なぜ建物の解体依頼の取り下げができないのか?

 それはこの依頼を取り下げた場合、この建物は解体されるのかどうか不透明になるからだ。


 基本的に市政は街の区画整理(新規ギルドに本部である建物の物件を振り分ける等)は行うが街の再開発 (大規模な街の景観の変更や新たな繁華街等の建設)は率先して行わない、口を出さない方針なのだ。

 しかし一方で再開発が進まないと老朽化して放置された建物が至るところに点在するようになる。


 そんな誰が管理しているのかわからない家屋が街中に多くあるのは市政としてもユニオンとしても好ましくないのだ。


 そういった放置された家屋や廃墟は必ずならず者の根城にされる。

 それが盗賊ギルドや殺人ギルド、密売組織などの非合法、非認可な闇ギルドなのか、はたまた空賊連合やキャプテン・パイレーツ・コミッショナーやカルテルといったユニオンと敵対する組織の斥候やスパイなのかはわからないが、治安という意味でも、街の体制が脅かされるかもしれないという意味でも廃墟が点在するのは好ましくない。


 だからこそ老朽化したり、その他様々な理由で建物を解体するという際、その依頼を取り下げるのは容易ではないのだ。


 しかし、それは一方で今回のように解体の依頼が見向きもされない場合、何年でも放置される事を意味している。

 つくづく矛盾を感じるシステムだが、それがこの街のルールである以上は従うしかないのだ。

 だからドルクジルヴァニアの中には解体の依頼受領待ちな廃墟が多数存在しているらしい。


 「まぁ、とにかく何日かかってもいいから、解体が終わったらわしに報告してくれ。そこで依頼は完了ってことで!」


 そう言うと雑貨屋の店主は「後はよろしく!」とこの場を去って行った。

 そんな雑貨屋の店主の後ろ姿を見て思わず目を細めてしまう。


 「かい君どうしたの?」

 「いや、依頼主なのに現場の様子を見守っとかなくていいのかよ?って思ってさ」

 「でもあの人、他の場所に自分の今のお店あるんでしょ?仕方ないんじゃない?」

 「まぁ、それはそうなんだが……」


 そんな丸投げでいいのかよ?と思ってしまう。

 とはいえ、ここはギルドの街だ。

 仕事を受けてくれるギルドの事は信頼しているという事なのだろう。


 「ま、下手に監視されながら仕事するより、のびのびできるからいいか」

 「うん! そうだよかい君、のんびりやろう!」


 フミコは笑顔で同意するが、だからと言って数日と時間をかけるつもりはない。

 できるだけ短期間に多くの依頼をこなしてギルドのランクを上げたい。

 そうしなければ、この街に何年も滞在するはめになりそうだ。


 「転生者なり転移者なりへと至る道筋はまだまだ遠いな……さて、何から手をつけるべきか」


 言って廃墟となった建物の周囲を確認する。

 隣には恐らくは今回の依頼と同じ理由で長年放置されているであろう倉庫のような建物に、半分崩れかかった馬小屋や廃墟とまではいかないまでも一目で老朽化してるとわかる建物が多く存在した。


 結局のところ、この区画はそういった寂れた場所なのだろう。

 だったら多少派手に解体作業を行っても周辺住民から苦情は来ないはずだ。

 むしろユニオンに戻ってこの区画で出ている他の解体依頼もついでに受けてこようかと思ったくらいだ。


 なら次に考えるべきは長年放置されたこの建物が闇ギルドの根城にされてないかという事だ。

 闇ギルドや準ギルド、サークルの連中やユニオンの敵対組織の斥候やスパイがアジトしてないか?

 地元の悪ガキどものたまり場になってないか?

 浮浪者などが雨風をしのげる寝床にしてないか?


 それを確認しないと、中に人がいるのにそのまま建物を解体して生き埋めにしてしまいました!って状況になりかねない。

 まぁ、地元の悪ガキどもを含め、行き場のない浮浪者以外は自業自得という形になるだろうがこちらの後味が悪いし更地にしたというのに事故物件になってしまう。


 まぁ、こんな悪徳の街といわれるところで事故物件を気にする者がいるのか不明だが……


 何にせよ、人がいないかどうかの確認は必要だろう。

 なので隣のリーナに声をかける。


 「リーナちゃん、この廃墟の中に誰か人がいないか確認してくれないかな?」

 「はい、マスター! 任せてください!」


 リーナは両手を握りしめて鼻息荒く答えると右手人差し指に千里眼の指輪をはめる。

 そして右手人差し指を掲げる。


 「探知開始」


 リーナは千里眼の指輪の力を使い、廃墟内に人がいないか探知を始める。

 今回は範囲が狭いため、すぐに探知が終了した。


 「マスター、この中に人の気配はありません。あと周囲の建物にも」

 「そっか、ありがとうリーナちゃん!」


 そう言ってリーナの頭を撫でてあげた。

 少し子供扱いしすぎかな?とも思ったが、リーナはすごく嬉しそうであった。

 そしてフミコが無言で嫉妬の眼差しをリーナに向けていた。


 「で、かい君どうするの?」


 フミコが少し低いトーンの声で聞いてきた。

 ついでにジト目で睨まれている。

 うん、これ自分何かフミコのご機嫌取らないといけないパターン?


 「そうだな……手っ取り早く爆薬で解体するか」


 言って懐からアビリティーユニットとアビリティーチェッカーを取り出す。

 アビリティーチェッカーを装着し、雑貨屋のエンブレムを選択する。

 そして引き出したアイテムは爆薬CVZI-E。


 とはいえ、この爆薬はストックがなくなれば消えてしまい、二度と入手できない貴重品だ。

 何よりそんな貴重品のためどれくらいの量でどれほどの爆発が発生するかといった実験ができていない。

 だからそんな代物で発破解体するのは危険極まりない。


 ではなぜそんな代物を出したのか?

 ここで適量がどれほどか実験できると思ったからだ。

 丁度周囲の建物との距離もあり、その周囲も老朽化した建物ばかりで寂れた区画だ。

 解体する建物だけでなく、この辺りにも人がいないとなれば遠慮はいらないだろう。


 「発破解体するための最低限の爆薬がどれだけか……まずは適切な場所に設置し発破してみるか」


 もちろん、そんな軽い感じで発破して大事故にならない保証はない。

 スマホを取り出しプログラミングの能力を使って発破解体シミュレータなアプリを作成。

 爆薬の設置位置と予想適量を算出する。


 まぁ、最初は実験だし!と心の中で唱えながら爆薬をフミコとリーナに手伝ってもらって廃墟内に設置し発破を行った。

 最初の発破では廃墟を爆破解体する事はできなかったが、そのデータをアプリに反映し再計算。

 算出された爆薬の設置位置と予想適量をより正確に近づいたものと信じ、再びフミコとリーナに手伝ってもらって各所に爆薬を設置する。


 そして二度目の発破。

 爆発が起り、今度はうまくいった。

 思わず拳を握りしめて「よっしゃあ!!」と叫んでしまった。


 発破解体の成功にフミコとリーナも喜んで抱きついてきた。


 「かい君やった!!」

 「マスターすごいです!!」

 「あぁ、成功だ!!これは解体の仕事、今後も受けまくっても問題ないんじゃないか!?」


 今回のデータはアプリに記録した。

 これで次回からは適量を算出できるだろう。

 爆薬の量も思ったほど使用しなかったし、これは解体の仕事は数件受領しても支障はなさそうだ。


 そう思った直後だった。

 爆破により周囲に飛散した建物の破片がこちらへと飛んできたのだ。


 一様はヘルメットを全員被っていたとはいえ、発破解体成功の余韻で警戒を怠ってしまい、飛んできた破片への反応が一瞬遅れてしまった。


 「しまっ……!?」


 発破する前に魔術障壁をオートシールドモードで展開しておかなかった事に後悔しながらも何とか魔術障壁を展開しようとした時だった。


 『お嬢様! 危ない!!』


 突然何もない空間から声がして、こちらに飛んできた破片が何かに殴り飛ばされたように明後日の方向へと吹き飛んでいった。

 そんな光景を見て、リーナの表情が明るくなる。


 「君! 助けてくれんだ!」

 『はいお嬢様、当然です。お嬢様をお守りするのがわたくしの役目ですから』


 何もない空間から聞こえるTD-66の声にリーナは喜ぶがフミコは少し複雑な表情を見せる。

 姿が見えないという事にザフラに負けた戦いの事を思いだしたのかもしれない。


 そんなフミコの様子を悟ったのかリーナが慌ててTD-66に光学迷彩を解くよう訴える。

 何にせよ、雑貨屋の解体は無事終わり、ギルド<ジャパニーズ・トラベラーズ>が受領した最初の依頼は完了したのだった。

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