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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
11章:依頼をこなそう!

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依頼をこなそう!(2)

 ユニオンギルド総本部での演説、その後のギルドとしての初仕事である酒場でのウエイターのお手伝いを終えた次の日の朝。


 次元の狭間の空間、その食堂にていつもと変わらぬ光景として皆で朝食を取っていた。

 そう、いつもと変わらぬ光景のはずだ……そのはずのだが。


 「えーっと……フミコ?」

 「ん?かい君どうしたの?」

 「なんで俺の腕に抱きついてるんだ?」

 「ん?だめ?」


 そう言ってフミコが上目使いでこっちを見てきた。

 うん、そういう男心くすぐる仕草は止めような?軽くドキドキして話が進まなくなる。


 「だめって言うか……これじゃ食べれないじゃん」


 そう言うとフミコは少し考える仕草をした後。


 「あたしは食べれるよ?」


 首を傾げてそう言った。

 うん、まぁそりゃそうでしょうね……


 「いや、俺が食べられないんだが?」

 「反対の手を使えば食べれるよ?」


 フミコは何でもない風に言うが、そうもいかない。

 なぜならば……


 「え?それって私に川畑くんから離れろって言いたいの?」


 フミコの言葉に噛みつくようにケティーが言った。

 自分を挟んでフミコの反対側から。

 そしてケティーもフミコ同様に自分の腕に抱きついていた。


 そう、今自分は両腕をフミコとケティーに抱きつかれて封じられているのだ。

 見る人によっては両手に花、モテモテハーレムの図と言うかもしれない。

 うん、自分だって男だ。悪い気はしない、むしろ喜ばしい。


 でも、朝食時にこれされると朝飯食えないんすけど……

 何より逃げられない修羅場感バリバリでどうしたらいいかわからないんすけど?


 「あ……あのさ?なんで2人とも朝から俺にそんなくっついてるの?」


 そうおそるおそる聞いてみると2人が悲しそうな表情になった。


 「かい君あたしが傍にいるの嫌なの?」

 「川畑くん、女の子にくっつかれるの気に入らないの?もしかしてオトコノコが好きになっちゃったの?」

 「いきなりのトンデモ発言やめて!!いや俺はちゃんと女の子好きだから誤解しないで!?うん、嬉しいよ?2人が傍にいて嬉しいけどマジで一体どうしたの?朝から」


 慌ててそう言うとケティーがおかしいと言わんばかりに吹きだした。

 あ、これケティーはからかってただけか……


 「いやー、やっぱ川畑くん最高だわ!だって昨日の依頼が終わった後トラウマがどうたら言ってたからつい」

 「おい……あの料理長のこと思い出させるなよ!」

 「ははは、ごめんって!でも私だって昨日の依頼で酔っ払いたちのいやらしい視線に晒され続けたたんだよ?結構なストレスなんだからね?だからこの心のケアは川畑くんに触れ合う事で解消させてもらいます!」


 ケティーはそんな事を言ってより一層体を寄せてきた。

 そうなると必然的にフミコも同じ行動を取ることになる。


 「あ!ちょっとケティーいい加減にしなよ!あたしだって酔っ払いからいやらしい目で見られたりからまれたりしたんだからね!かい君にもっと抱きしめてもらわないと傷ついた心は癒やされないんだよ!」


 そう言ってフミコもより一層体を密着させてくる。

 フミコとケティーが積極的に両サイドから抱きついてくる。

 あぁ、悪い気はしないな……むしろこの状況を喜ばないなんて男じゃないだろう。


 でもね……うん、朝から嬉しいけど、朝から修羅場MAXに違いはないんだよなーこれ。


 「なーにが酔っ払いからいやらしい目で見られたりからまれたりしたよ!知ってるんだからね!絡んできた酔っ払い全員ぶん殴ったりおしぼり投げつけたり叩きつけたりしてたんでしょ?十分ストレス解消してるじゃない、このドM製造機!!」

 「な!?なんでその名を!?」

 「ネタはちゃんとあがってるんだよこのドM製造機!!それだけ好き放題やって川畑くんに甘えようなんて虫が良すぎるっての!」

 「うるさい!!ケティーだって酔っ払いにわざと自分に気があると勘違いするようにふるまってたんでしょ?それでいやらしい視線に晒されたってそんなの通じないよ!」

 「なーによ!それが営業ってもんでしょ!」


 そう言って自分を挟んで超間近でフミコとケティーは言い合っている。

 うん、これは俺がどうにかして止めるべきなんだろうがどうやって止めればいいんだ?

 教えて修羅場慣れしたハーレム主人公のイケメンくーん!!



 その後、結局どうなって2人の言い合いが終わったかは覚えていない。

 止めるのを諦めた俺はもう女の子2人に両サイドから激しく密着されてるこの状況だけを楽しもうと男の煩悩にリソースを全振りして考えるのをやめたからだ。


 そうするとどうだろう、両サイドから柔らかい感触があるしいい匂いするし、うんここは天国かな?と思えたが、テーブルを挟んで向かいの席にいるリーナから何か冷めた視線を向けられてる気がした。


 「あはは!ほんま朝からおもろいもん見せつけてくれるやん!これは今日も楽しい一日になりそうやな!」


 リーナの横でリエルがそう言って笑いながら朝食を食べていた。

 そういえばこの子はいつまでこの次元の狭間の空間にいるのだろうか?


 ギルド本部の警備システムの設置は昨日のうちに終わったと報告は受けたし、TD-66も今は整備の必要はないという事だから彼女にはもうここでの仕事はないはずなのだ。

 とはいえケティーの協力がなければSF世界に帰すことはできないのだが……


 そう思っているとリエルが自分が何を考えてるか気付いたのか、こっちを向いてニヤーっとした表情になった。


 「なんや?いつになったら帰るんやって顔やな?」

 「そりゃまぁ、君がここでやる事もなくなったんだし、普通は思うよ?」

 「ん~、何やったらギルドのお仕事手伝ってやってもええんやで?異世界もっと堪能したしな!建物の中と敷地内だけやったらつまらんで」


 そう言うリエルはどこか楽しそうであったが、こういう異世界に興味津々な人は用がない限りはあまり異世界に関わらせるべきではないだろう。

 なので全力で拒否させてもらう。


 「悪いがお断りするよ。別段今はそこまで人手がいる段階じゃないからな」

 「はぁ、そりゃないで君……つまらんわ」


 そう言ってリエルは不満そうにブーブー言い出した。

 とはいえ、このまま彼女の機嫌を損ねておくのもまずい気がする。

 主にTD-66や警備システムの定期的なメンテナンスの面でだが……


 なので、具体的な時期は述べないようにしてリエルの要望には応えるフリをする事にした。


 「まぁこの先、人手がいるようになったら協力してもらう事も考えるよ」


 そう言うとリエルの表情が明るくなった。


 「ほんまに!?絶対やで!せやったらはよギルドのランクあげて人手がいるくらい忙しくなりや!」

 「あ、あぁ……まぁランクアップはできるだけはやくしたいからな……でないと転生者なり転移者なり召喚者なりがいるであろうギルドと接触する機会が得られないしな」


 そう言うといまだ自分の腕に抱きついているケティーがある話題を切り出した。


 「そうそう、その事なんだけど……ランクアップするためには効率よく依頼を受領してこなさいないといけないじゃない?そこで提案があるんだ!」

 「提案?」

 「うん、実は昨日の酒場で偶然、昔一緒に行動してお世話になった行商人と再会したんだけどさ、彼この街で商業ギルドをやってるらしいんだ。で、そのギルドB級ランクらしいんだけど他国での行商が多くて街での実績があまりないからA級に昇級できないんだって」

 「ほう」

 「そこで私たちと提携しない?って持ち掛けたんだ」

 「提携だって?」


 ギルド同士が提携とは一体どういう事だろうか?

 ケティーによればその商業ギルド<トルイヌ商会>は周辺国での行商に力を入れているため街での実績がないのだという。


 周辺国での行商が多いぶん、ユニオンから外交や通行関税の依頼はあるがそれだけでは肝心な街での実績が不足だという。

 そこで商業ギルド<トルイヌ商会>の行商を行う本隊が周辺国に行っている間、街での営業を自分達が委託という形で手伝うのだ。


 商業ギルド<トルイヌ商会>は周辺国から特産品などを仕入れ、それを街に持ち帰り、各店に卸したり、ギルド本部で直売したりしている。

 つまりは在庫がなくなったらまた街を出て周辺国に仕入れに行かないといけないが、その間街での仕事は当然在庫が何もないためできるわけがない。


 そこでその間の卸しの仕事を自分達が委託という形で補うのだ。


 「なるほどな……でも補うって言っても具体的にはどうするんだ?」

 「私たちが替わりの商品を用意するの」

 「どうやって?」

 「川畑くんが錬金術で作るんだよ!どういったものを仕入れて卸してるかはリストを貰うから、それを見て川畑くんが錬金術で用意する。それを定期的に商業ギルド<トルイヌ商会>の本部に届ければいいだけ。簡単でしょ?」


 確かに、話だけ聞けば簡単に思えるが実際はどうだろうか?

 周辺国の特産品を錬金術で複製してバレないものだろうか?

 それ以前に錬金術には素材が必要となる。

 作るために必要な素材はあるのだろうか?


 しかし、どうやらそれも含めた仕事の受注という提携のようで。


 基本的に商業ギルド<トルイヌ商会>からの依頼は特産品の納入、納入するために素材が必要なら商業ギルド<トルイヌ商会>がその素材を提供する。

 もし商業ギルド<トルイヌ商会>にその素材がなければ、その素材の調達、採取もこちらに依頼するというのだ。


 「つまりは特産品の納入のお仕事、特産品を作るための材料の調達のお仕事、どちらも私たちに依頼するって事。どう?安定的に仕事が得られるでしょ?これが提携の強みだよ」


 ケティーの説明を聞いて納得した。

 商業ギルドは周辺国家に行って街を留守にしている間、自分達から商品を仕入れてそれを各店に卸し不在の間も街での仕事の実績を得る。

 自分たちは商業ギルドから商品を納入する仕事に素材の調達や採取の仕事を受領し実績を得る。

 まさにウインウインの関係だ。


 「なるほど!これなら効率よく実績を稼げてランクアップしやすくなるかもしれないな!」

 「でしょ?まぁ、細かい部分は今日話し合ってくるけど、いちから仕事を選んでこなして信頼を得てってするより時間は短縮できるはず!」

 「あぁ、そうだな、頼むぜケティー!」


 そう言うとケティーは「任せて!」と笑顔で頷いた。

 そうなればケティーが提携のための話し合いに行く以上、受領している仕事の老朽化した建物の解体作業は自分とフミコ、リーナで行くべきだろう。


 こうしてギルド活動2日目が始まったのだった。

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