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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
11章:依頼をこなそう!

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ハーフであっても(3)

 あまり期待はしていなかったが、やはりヨランダは命令を出すのを拒否した。

 だからと言って素直に引き下がるわけにもいかない、なので食い下がることにした。


 「なんでだ?なんで命令が出せない?」

 「……わからないか?本気でわからないと言っているのか?」

 「あぁ、わからないな?ただ一言リーナに危害を加えるなと街全体にそう言うだけの簡単な事だろ?なんでそれができない」

 「簡単な事、ね……よくもまぁ言えたものだ」


 ヨランダは鼻で笑うと再び葉巻を手に取る。

 そしてこちらの事など気にせず葉巻をふかしはじめる。


 煙を吐き出し、少しの時間を置いてヨランダはこちらを見据えた。


 「なぁ、お前はこの街に一体どれだけの数のギルドが存在すると思う?ギルドだけじゃない……各ギルドを各々の理由で追い出され、行き場をなくしたはみ出し者たちが寄り合って作った非合法の準ギルドや新規ギルドを立ち上げようにも申請不備や条件未達で正式に認可されていない承認待ちの組織であるアマチュアギルド……いわゆる”サークル”だな。そしてユニオンから登録を抹消されたにも関わらず今だ活動を続ける非認可の闇ギルド……それらをすべて掌握できていると思うか?」


 そう言ってヨランダは煙吐き出し窓の外を見る。


 「世界の穢れが集うと言われるこの悪徳の街をすべて掌握するなど不可能だ。仮にユニオンの総力を挙げて全体像を調査したところで次の日にはもうその調査結果はあてにならなくなっているだろう。ここはそういう街だ」


 言ってヨランダは椅子から立ち上がり窓の方へとゆっくり歩いて行く。


 「だからこそユニオンが重視するのは上級ランクのギルドのみ、待遇するのも同じくだ。街の細々な部分まで目を通してられないだろ?そんな事してみろ、人手がいくらあっても足りない……何よりそんなゴタゴタを見せていたら空賊連合やキャプテン・パイレーツ・コミッショナーそれにカルテルの連中に隙を見せる事になる……連中の斥候やスパイどもは確実に準ギルドやサークルに偽装して活動しているだろうからな」


 言ってヨランダは窓の前に立ち、自分たちに背を向けて窓の外の景色を眺めながら葉巻を吸う。

 そんなヨランダの背中に問いかける。


 「だからリーナに危害を加えるなとユニオン傘下のギルドや街全体にお達しを出せないと?立ち上げたばかりの実績のない最下級ランクのギルドの申請は聞けないと?」


 その問いかけにヨランダは葉巻を口から離し煙を吐き出してから頷く。


 「そうだ。ユニオンにもメンツってものがある」

 「最下級ランクのギルドの団員であっても、ちゃんと守るって姿勢をユニオンが見せる事がマイナスになるとは思えないがな?」

 「道徳の話をしてるんじゃない、権威の話をしてるんだ」

 「詭弁だな……言葉遊びをしてるんじゃないんだぞ!」


 そう言うとヨランダは鼻で笑って振り返る。


 「言葉遊びねぇ……なぁ、さっきも言ったがこの街にどれだけの数のギルドやそれに準じる組織があると思ってやがる?それらすべてがリーナのようなハーフを忌み嫌ってると思うか?」


 言ってヨランダは両手をわざとらしく広げて熱弁する。


 「そんな事はないね!わかってるだろ?この街の成り立ちを。純粋な地元住民というものはごく少数で大多数が流民だ。そしてそういった連中の多くがハーフだったり、お尋ね者だったり、わけあって故郷を追い出された者だ。そんな連中が多数派のこの街で、わざわざ少数派の外の世界の価値観を持ったハーフを忌み嫌う者を狙い撃ちにする命令を出す意味があるか?」


 ヨランダはニヤリと笑って広げた両手を下げる。


 「むしろそれはかえって逆効果だ。連中に肩身の狭い思いをさせて暴発する危険を加速させちまう……それだけじゃねぇ、大多数の気にしない連中にも不信感を抱かせちまう、意識させちまう……それは街全体としてあまりよろしくない」


 そう言うとヨランダは持っていた葉巻を灰皿に押しつけて火を消す。

 そしてゆっくりとこちらへと歩いてくるとそのまま顔を近づけてくる。


 「そうは思わないか?別世界から来た人間を探してるギルドマスターさんよ?」


 そう言ってヨランダは邪悪な笑みを浮かべる。

 吐息がかかるほどの至近距離であったため、さきほどまでヨランダが吸っていた葉巻の臭いがして不快であった。


 「リーナはあんたと同じ教会の出身だろ?心配じゃないのかよ?」


 葉巻の煙の臭いに思わず鼻を押えて後ろに顔を背けて言うとヨランダが典型的な悪人笑いをして答える。


 「なんだそれは?同じ教会出身だから家族みたいなものだとでも言いたいのか?」

 「……違うのかよ?」

 「まぁ、それは教会の規模やそこで過ごした時期にもよるだろ?お前は俺とリーナが同じ時期に教会で共に過ごしたと思うのか?」

 「……まぁ、それはないだろうな」


 ヨランダの年とリーナの年は離れすぎている。

 同じ教会の出でもお互いが教会にいた時の事を知っているわけがないだろう。

 それでも出身の教会が同じというだけで親近感がわかないものだろうか?


 そう思うがヨランダはそういう感情がわかないようだ。

 とはいえ、悪徳の街を束ねる者にそのような感情は必要ないのだろう。

 だからこそヨランダはこの街のトップになれたのかもしれない。


 しかし、こうなってはもうヨランダから街全体へのお達しは期待できない。

 そう思って諦めようとした時だった。

 ヨランダが自分から離れて再び椅子に深々と腰掛けると思いがけない事を言ってきた。


 「まぁ、こちらとしても何の相談もなくリーナを勝手に押しつけてトラブルに巻き込まれたことは申し訳なく思ってるんだ。だから……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。むしろ協力してやってもいい」

 「……は?どういう事だ?」


 言ってる意味がわからず戸惑っていると、ヨランダは隣に立っている眼鏡の男に何かを指示を出す。

 眼鏡の男は一礼すると隣の部屋へと出て行き、しばらくして戻ってくると羊皮紙を1枚、机の上に置く。

 ヨランダはその羊皮紙にサインするとこちらにその羊皮紙を差し出してきた。


 「ユニオンギルド総本部の玄関ホール使用許可書だ。総本部の広さは知っているだろ?かなりの人数を収容できる。そこに影響力のある有名どころのギルド幹部や市民を呼んで演説でもしろ。何か反響があるかもしれんぞ?」

 「……それって」

 「リーナの境遇を変えたいって言うなら自分達で訴えて何とかしろ。安易に権力に頼るな、せこい道を選ぶな!そのほうが人の心には響くぞ?」


 そう言うヨランダから羊皮紙を受け取ってため息をつく。


 「……それを悪徳の街の長が言うか?」

 「こんな街の長だからこそ言うのだ。素直に言う事を聞いとけ」


 そう言うとヨランダはもう用は済んだだろ?出て行け!と言わんばかりにしっしと手を振って退室を促す。

 これが最大限の譲歩という事なのだろう、だったらもうこれ以上は何も言うまい。


 なので一礼して皆で退室する。

 そしてそのままユニオンギルド総本部へと向かった。




 カイトたちが退室した後、ヨランダの横に立っていた眼鏡の男が尋ねる。


 「どうして協力を?」

 「お前には協力したように見えたか?」

 「えぇ、私にはそのように見えましたが」


 眼鏡の男の言葉を聞いてヨランダは小さく笑うと。


 「まぁ、ただの気まぐれだ」


 そう答えた。


 「そうですか……気まぐれですか」

 「あぁ、深い意味はない」


 眼鏡の男はそれ以上この事に対して何か言う事はなかった。

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