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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
11章:依頼をこなそう!

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療養の地にて(4)

 浜辺を見渡せる丘の上は見晴らしも良く吹き付ける風も気持ちよかったため、しばらくはここでくつろぐ事にした。


 とはいえフミコが自分がいないところで何がやましい事があったのではないか?としつこく疑いの目を向けてくるのでSF世界で何があったのかの顛末を聞かせる事にした。


 SF世界がリーナの前世の世界であった事、定期的に墓参りにSF世界に行く事になった事やギルドの街に戻ったらあの異世界でのリーナの母親の墓参りにも行く事になった事など、フミコ不在の間に起こった出来事をすべて話した。


 それを聞いてフミコは複雑な表情を見せる。


 「墓参りか……」

 「どうかしたのか?」

 「え?いや……リーナちゃん、自分のお墓も見たって事なんだよね?」

 「まぁ、前世の家族は一緒に埋葬されてたからそうなるな。それがどうしたんだ?」

 「リーナちゃん、どんな気持ちだったんだろうね?自分のお墓を見て」

 「さぁな……こればかりは本人が言い出さないことには、こちらから聞くわけにもいかないだろうし」

 「だよね……」


 言ってフミコはしばらく下を向いて考え込んでいたが、意を決したように顔をあげると。


 「ねぇかい君……あたしの場合はどうなるのかな?」


 そう聞いてきた。

 あたしの場合とはどういう事だろうか?

 意味がわからず回答に困っていると。


 「すべてが解決して、かい君が地球に帰るとして……あたしはどうなるのかな?」


 そう続けざまに聞いてきた。


 「それは……」


 思わず言葉に詰まる。

 どう答えていいかわからない。

 そもそも、自分にだってわからない。


 何せ、フミコは弥生時代……倭国大乱の世を生きた人間である。

 没した年代が西暦で換算していつかは不明だが、魏志倭人伝なんかの資料を元に考えると西暦200年代である事は確かだ。


 つまりはおおよそ1800年ほど自分とは時代のずれがある。

 本来なら出会い、交流できるはずがない存在だ。


 そして、その出会いも次元の狭間に発生した疑似世界での事であり、これがまたより一層フミコの存在定義を複雑にしている。


 フミコは転生したわけではなく、転移したわけでもない。

 召喚とも当然違うわけでその存在は曖昧なのだ。


 次元の狭間に漂っていた遺跡の中で意識が目覚め、自分が助け出した。

 ゆえにフミコは今もこうして存命なのだが、次元の狭間にあの遺跡が漂っていたのはおおよそ1800年間、歴史や人の目から忘れ去れたからであって、あの遺跡の存在が発見はなくとも、人々の中で認識された時点で次元の狭間からあの遺跡は消滅するはずだ。


 そうなればフミコはどうなるのか?

 そもそも、すべてが解決して日本に帰った時にフミコも一緒についてきた場合、1800年前に死んだはずの人間が日本にいる事になる。


 しかも、フミコがいたあの遺跡の場所はわからないが(実際はフミコは1800年のカイトの一族の記憶を見て場所はわかっているが、この事をカイトは知らない)フミコが現代の日本に来た場合、フミコは自身が埋葬されている土地の上を知らず知らずのうちに歩いたりする事になる。

 それは果たして大丈夫なのだろうか?


 考えてもわからない……

 というより、そこまで先の事を考えた事がなかったのだ。


 この数多の異世界を巡る旅路は明確なゴールがはっきりと示されていない。

 どれだけの異世界を巡り、転生者、転移者、召喚者から能力を奪い殺せば次元の亀裂が修復されるのかがわからない以上本当に旅の終着点があるのかすら疑問だ。


 それ以前にカグが言っている事が本当に正しいのかすら怪しい……

 だからこそカグを欺き、真相を確かめないといけないのだが、今のところカグの真意を見極める術は持ち合わせていない。


 次元の狭間の空間に初めて足を踏み入れた時に施した仕掛けもバレずにうまくいっているのか確認のしようがない。

 今は何かしら次の手が打てる能力なりを手に入れるまで我慢するしかない状況だ。


 (まぁ、それ以前にカグの言ってる事がすべて事実だとして……次元の亀裂を修復してジムクベルトを地球から追い出せたとしても、その後の世界がどうなってるかはわからないんだよな……)


 仮に現時点で次元の亀裂が修復しジムクベルトが地球から追い出された場合、地球の現状はどうだろうか?

 自分が地球を離れた直後からの地続きだと復興以前にジムクベルトを殺すために世界中の核保有国が軒並み核攻撃を実施したのだ。

 都市機能の麻痺以前に放射能に汚染された土地が至る所に点在している事だろう。

 まともに人が住める場所がどれだけ残っているだろうか?


 そのわずかな住める土地を巡って人間同士で殺し合いが始まるだろう。

 そうなればわずかでも文明レベルを維持し、組織だった軍隊なりを辛うじて温存できていた国が覇権を握る事になる。

 そして、そういった国々によって世界中で土地の奪い合いに殺し合いが始まるであろう事は目に見えているのだ。


 そんな世界が果たして救われた世界と言えるだろうか?

 こればかりはぞれぞれの主観に委ねられるだろう……


 人智を越えた存在に尊厳を踏みにじられ、為す術無く死んでいくか。

 文明とよべるものはなくなり規律などなく、道徳などなくなった野蛮な世界で暴力だけを頼りに生きていくか。


 (……まぁ、カリスマ性を持った良心の塊のような人類をまとめ上げる指導者が現れる可能性もあるにはあるが、そんな都合良い話はあるわけないし。仮にそんな奴が出てきたとしたら一番に色々と疑うべきだろうな……独裁者に変貌しかねない信用したらいけない相手だろう)


 なんだか考えれば考えるほど、この先旅を続けて意味があるのか?と思えてくる。

 次元の亀裂を修復してジムクベルトを地球から追い出したところで、ハッピーエンドが地球人類に訪れる未来が見えない。

 むしろ、更なる地獄を生み出すだけではないか?


 そう思うと自然とため息が出た。


 「わからない……フミコの状態が現代の地球ではどういった定義に当てはまるのか……現代の地球に足を踏み入れたとして矛盾は発生しないのか、異世界転移していたという解釈になるのか、別の解釈が発生するのか……だから、すべてが解決したとしてフミコを現代の地球に連れ帰っていいのかわからない」

 「そっか……わからないか」


 そんな自分の言葉を聞いてフミコはしばらく考え込んでいたが。


 「かい君、あたしがもしこれ以上旅をするのはやめようって言ったらどうする?」

 「……は?」


 思いもよらない事を聞いてきた。


 「フミコ、何言って……」

 「だって、このまま旅を続けて次元の亀裂を修復させたとして……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 「それは……まだそうと決まったわけじゃ」

 「でもかい君の時代の地球にあたしがついていってどうなるかはわからない」

 「……」


 フミコの言葉に対して何か言おうとしたが言葉が出てこなかった。

 そんな自分をフミコはどう思ったのかわからないが、そのまま話を続ける。


 「次元の狭間の空間だって旅が終わればもう行けなくなるかもしれない……というか、すべてが解決したのに次元の狭間の空間を利用する意味はないもんね。きっと使えなくなるはず……そうなればあたしがかい君の時代の地球に行かなかったり、行けなかったとしたらもう二度とかい君に会えない……そんなのは絶対に嫌だよ!あたしはこれからもずっと、かい君と一緒にいたい!一緒に年を重ねたい!一緒に笑い合いたい!!」


 そう言うとフミコは自分の目をまっすぐ見つめて提案してきた。


 「だから……ここで旅はお終いにしない?こんなにも素敵な景色に澄んだ空気、何かと戦わないといけないような危険もなくて、遊び尽くしても足りないような場所は他にないよ?」

 「フミコ……何言って」

 「ここで旅を終えるんだよ。この地をあたしたちの終着点にすれば地球を救うために次の異世界へと進む必要は無い……それで地球が滅んだとしても、誰もかい君を責めたりしないよ?どうしてかい君だけそんな重荷を背負う必要があるの?いいじゃない、ほっとけば!逃げたっていいんだよ!それを咎める権利は誰も持ってないはずだよ?」


 フミコは真剣な表情でそう訴えてきた。

 しかし、その提案を受け入れる事はできない……


 もしその提案に乗ってしまったら……

 フミコの言う通りここですべてを投げ出して地球を救う旅を放棄してしまったら……

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 地球を救うという大義名分があったからこそ、彼らを殺すという行為に嫌悪感を抱きながらも受け入れることができた。

 実行する事ができた。

 しかし、旅から逃げ出すという事は、彼らを殺してきた行為の正当性も失うことになる。

 そうなれば自分はただの殺人鬼に成り下がってしまう……


 当然ながら自分は人を殺して平然としていられるタイプの人間ではない、それがこの数多の異世界を巡る旅路でよく分かった。

 それでもそれぞれの異世界での転生者、転移者、召喚者や彼らへと至る過程でのトラブルで仕方なく交戦し、結果手にかけた者たちも多数いる中で平静を保っていられたのは地球を救うという大義名分があったからに他ならない。

 それがなくなってしまったら……自分はどうなるだろうか?


 それを考えると一抹の不安にかられる。


 「フミコ……俺に地球を見捨てろって言うのか?」

 「かい君だけが必死になって精神をすり減らす必要はないって事……だってかい君、いっつも訪れた異世界から次元の狭間の空間に帰ってきた夜つらそうにしてたじゃない……」


 フミコはそう言って心配そうな表情をする。

 異世界で転生者、転移者、召喚者を殺して戻ってきた夜はいつも食事もままならない。

 そんな自分の姿をフミコはずっと見てきているのだ。

 だからこその提案なのだろう。


 「それにかい君カグがいる時は口にしないけど、いつも言ってるじゃない……カグは信用できない。本当にこのやり方で地球が救われるのか?そもそも転生者なりを殺して回る事に意味はあるのか?って……いずれ真意を暴いてやるって……でも、欺く術を出し抜く術を見つけられないでいる……だったらいっそ、すべて投げ出して逃げるのもありんなんじゃない?」


 フミコはそう言って展望台から見渡せる壮大な海原へと視線を向ける。


 「ここならきっと……地球の事も何もかもすべてを忘れてのんびり暮らせるよ」


 そう言うフミコの横顔を見て考えさせられる。

 フミコは自分がフミコを選ばなかった可能性の世界の光景を見せつけられて、自分がフミコの傍にいない環境に恐怖している。

 だから、何もかも放棄してここで一緒に居ようというわけだ。


 確かに、フミコの言う通り自分が必死になって地球を救うために精神をすり減らす必要はないのだろう。

 自分は地球を絶対に救いたい!人類のためにジムクベルトを追い出したい!という気概もないし、使命感も責任感も本来は持ち合わせていない。

 本来なら真面目に地球のために旅を続けるような人間ではないのだ。


 それは地球でアビリティーユニットをカグから渡された時も指摘され、そういうタイプだからこそ選んだとも言われた。

 カグの思惑通りになるのが嫌と言うならフミコの言う通り、ここで舞台から降りるのも1つの手なのかもしれない。


 しかし……


 「そうだな……それもいいかもしれないな」

 「かい君、それじゃあ!」

 「でも、その提案を受ける資格はきっと俺にはないよ……だって俺は、今ここに立っている事も含めて自分の手で何も掴み取ってないんだから」


 そう、自分の今あるすべては与えられたものでしかなく、それによって奪ったものでしかない。

 きっと、そんな自分には途中で放り出す権限はない……そう思うのだ。

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