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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
11章:依頼をこなそう!

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療養の地にて(3)

 車椅子を押しながらフミコとこれまで訪れた異世界での出来事を話し合った。

 時に立ち止まって海を眺めながら、時に砂浜に打上げられた貝殻などを拾いながらこれまでの旅路を振り返った。


 そうしているうちに浜辺を抜けて内陸部へと続く道へと入っていく。

 足下は砂から固い土へと変わり、木々が生い茂る山道に景色は変わっていた。


 脱水症状にならないようこまめに水を飲みながら車椅子を押して進む。

 たわいのない話をしながら緩やかな坂道を上り、浜辺を一望できる丘の上までやってきた。


 「いい景色だねかい君!」

 「あぁ、絶景だな」


 丘の上の展望台に立ち眼下に広がる景色を見下ろす。

 浜辺で遊んでいるケティーたちが米粒のように小さく見えた。

 それでもかすかにはしゃいでるケティーたちの声が聞こえてくるあたり、本当にこの島には他に誰もいないらしい……


 それもそのはずで、この無人島はリゾート地として開発されたが土地の所有者が自己破産し、リゾート地を開発し運営するはずだった企業も倒産してしまって買い取り手もなく国有地として接収されていたらしい。

 国有地になってからも本国から島が遠すぎるのと船の燃料代や島までの航行ルートの難解さから国の調査も進まず長らく手つかずだったのだ。


 ケティーはこの異世界へ来る度にこの無人島の話を聞いていて興味があったのだが、島へと渡航するための費用や、島についてからの施設の修繕費、さらには島を買い取るとなった場合の予算などでこれまで訪問を諦めていたらしい。


 しかしリーナが莫大な遺産金を手にした事によって、ケティーはそのお金があれば買えるんじゃないか?と考えたらしく、ギルドの保養地にしよう!とリーナに購入を薦めたのだ。


 「しかし……いくらなんでもリゾート開発された島まるごとひとつ買い上げるのはやりすぎだったんじゃないか?」


 言ってため息をつく。

 何せ、ここは放置された人の手が届かない無人島だ。

 継続的に整備員がメンテナンスをしていない以上は人工施設であれ島内のいたるところに立ち入るのが危険なエリアが点在しているだろう。


 自分達は島の内部にあるというレジャー施設の数々もまだどういった状態なのか確認していない。

 とりあえずプライベートビーチだけ自分の錬金術とTD-66の力仕事で整備しただけだ。


 この展望台までの道のりも事前に安全を確認できたからやってこれたわけで、ここから先の島の内陸部へと続く道はどんな危険が潜んでいるかわからないため少なくとも怪我が完治していないフミコを連れて踏み入るわけにはいかない。


 (まぁ、島を買い取った以上はこの先もちょくちょく訪れる事になるんだろうから調査はしないといけないんだろうけど……今やるべき事じゃないよな)


 そう思ってフミコのほうを向く。

 その表情は明るいものになっていた。

 思い出話をしているうちに調子も取り戻しただろう。そう思って本題に入る。


 「なぁ、フミコ……もう大丈夫か?」

 「大丈夫って何が?」

 「何ってそりゃ……色々だよ」

 「大雑把すぎてそれじゃ何を心配されてるかわからないよ」

 「……ですよねー」


 そう言って渇いた笑いを浮かべるとフミコはため息をついて自身のお腹をかるく摩る。


 「傷はまだ完治してないよ?少し痛む」

 「……本当なら魔法の能力でなんとかできたらよかったんだけどな」


 そう申し訳なさそうにいって懐からアビリティーチェッカーを取り出して起動させる。

 そして投影された複数のエンブレムの中から+2の表記がついた魔法の能力のエンブレムを軽く突く。


 奪った能力を発動させるにはエンブレムをタッチする必要があるが、それ以前にアビリティーユニット本体にアビリティーチェッカーを取り付けておかなければならない。

 つまりは今のようにアビリティーチェッカーだけの状態でエンブレムをタッチしても能力は発動しないのだ。


 だからこの行為に意味は無い。ただの手持ち無沙汰の解消だ。

 そんな自分を見てフミコが聞いてくる。


 「回復魔法……やっぱりまだ使えないの?」

 「使えなくはないが、効果が弱い。小さな傷の完治や疲労、倦怠感を緩和するくらいの事しかできないからな」


 言って、これは仕方が無いとも思う。

 基本的に、自分は異世界転生者、転移者、召喚者から奪った能力しか使えない。

 複数能力の組み合わせによる応用はできても、奪った能力における、新規の技の獲得はできないのだ。


 奪った能力が同じ種類のものであれば+2、+3といった表記がついて能力値が向上するが、新規の技のレパートリーが増えていくわけではない。

 同じ魔法の能力でも、以前奪った時にはなかった技を新たに奪った相手が持ってた場合はその技が追加されるが、どちらもまだ獲得していない技は獲得はできないのだ。


 あくまでも能力を奪った時点での技までしか奪えない。

 奪った相手がこれから先成長していたら獲得したかもしれない技の習得はできないのだ。


 だから魔法の能力は+2であっても、奪った3人とも揃いも揃って回復魔法は初級の簡素なものしか習得していなかったため回復魔法に関しては諦めるしかないのだ。


 一様は補助・支援サポート能力で回復魔法を底上げするという手や雑貨屋の能力で回復アイテムを増やしまくる。

 錬金術で回復薬を開発するという手もあるが、これらではフミコの怪我を直すには至らなかった。


 実際問題、戦闘中における回復手段の確保は自分にとって大きな課題であった。

 これを解消するためには新たに回復や治癒魔法の能力を奪わなければどうにもならない。

 とはいえ、標的の転生者なり転移者なり召喚者が強力な治癒能力を持ってない限りはそれは叶わないのだ……


 (ほんと、どうしたもんかな?)


 思って、この事は今は考えない事にした。

 それよりも今はフミコの精神面だ。


 「なぁ、もう落ち着いたか?」


 尋ねるとフミコは照れ隠しのように頬をボリボリと書きながら困ったように笑う。


 「ははは……心配かけたよね?病室じゃなんだか泣いちゃってて」

 「ほんとあの時はビックリしたよ。でも……俺も気が回らなかった。ごめんなフミコ……君を1人にすべきじゃなかったのに」

 「いいよもう謝らなくて……それに、そのお詫びのおかげでこうして今ここにいるんだから」


 そう言ってフミコは展望台から見える壮大なパノラマに視線を向ける。

 そしていたずらっぽく笑いながら言う。


 「でもあたしの療養って名目のはずだけど、わたしだけ水着で遊べないのは納得いかないかな?」

 「怪我が完治してないのに水着ではしゃげるわけないだろ?」

 「それはそうなんだけどさ……」

 「それに俺だって普段着だし遊んでないぞ?」

 「リエルって子の水着はガン見してたけどね」

 「ぐ……」


 言い返せないでいるとフミコが可笑しいといった具合に笑い出した。

 そしてひとしきり笑うと。


 「まぁ、かい君が今度あたしと2人きりでここで水着デートしてくれるなら許してあげます」


 そう言って笑顔を向けてくる。

 そのフミコの笑顔にはかつての明るさが戻っていた。


 もうフミコは心配ないだろう、敵から受けた精神攻撃の余波はもうないはずだ。

 確証し、安堵するとこちらも笑顔で答える。


 「あぁ、いいぜ!俺だって海で遊びたいし、フミコの傷が完治したらな!」

 「え!ほんとに!?やった!!約束だよ!!絶対だからね!2人きりでだからね!!ケティーもリーナちゃんもなしのあたしとかい君の二人きりでだからね!!」

 「あぁ、約束だ」

 「ん~~~~やっほぉぉぉぉーーーーい!!!」

 「おいフミコ!はしゅぎすぎだ!傷にさわるぞ?完治が遠のくぞ?いいのか?遊べなくなるぞ!?」


 大声を出してはしゃぐフミコを諫めようとするが、フミコは本当に嬉しそうに笑顔ではしゃぐものだから困った事にどうにも遠慮してしまった。


 (まぁ……少しの間ならいいか)


 そう思って展望台から見渡せる大海原に目を向ける。

 やはり次元の狭間の空間なんて陰気くさいところにいるよりも、大自然の中にいたほうが心は上向きになるのだ。

 ここに療養に来たのは正解だった。


 そして、だからこそ考えてしまう。

 こんないい環境の無人島を買って、まだまだ金銭に余裕のあるリーナが今後成長したらどうなってしまうのか?と……


 (フミコが完治してあの異世界に戻ったら……いや、戻る前から今後の事も考えて教育係をつけるべきかもな)


 思って、じゃあその教育係をどうするんだ?

 今のメンバーの中の誰かがするのか?

 それともどこかの異世界からスカウトするのか?で悩んでしまう。


 問題はまだまだ山積のようだ。

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