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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
11章:依頼をこなそう!

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療養の地にて(2)

 そこは南国の海に浮かぶ決して小さくはないが、かと言って大きくもない無人島であった。

 とはいえ、ただの無人島ではない。

 完全にリゾート地として開発された無人島であった。


 島内で最も広い浜辺はプライベートビーチとして整備され優雅に遊べるようになっていた。

 ビーチ入り口にはバーベキューセットなどが完備され、砂浜にはビーチバレーのコート、コテージのような物置には水上スキーにボムボートなどのマリンスポーツ用具。

 さらに釣り用具にスキューバダイビングのセット、フライボードのセットや桟橋には島の周囲を優雅に遊覧できるクルーザーなどなど。

 遊び尽くせるアイテムがそろいに揃っていた。


 さらに島の内陸部にもアスレチック施設やキャンプ場、整備された探検できる洞窟やレジャー施設などアウトドア好きにはたまらない内容となっている。


 そんな無人島の浜辺に自分達は今立っていた。

 うん、雲1つ無い空から降り注ぐ日差しが眩しいな……水平線の向こうの入道雲がまさに夏を感じさせる。


 穏やかな潮風が吹きつけ、暑さから汗が頬を伝う……その汗をタオルで拭いながら隣に視線を向ける。

 そこには水着姿の少女たちがいた。


 (目の前には海、そして隣には水着姿の女の子たち、そしてロボはいても男は俺1人……うむ、きっとジムクベルトが地球に出現する事無く、今もかつての日常のまま高校生活を過ごしていたらこんな状況は体験できなかっただろうな)


 社交性がなく、男女で海に遊びに行くようなグループと繋がりもなかった高校生活をしみじみと思い出して1人頷く。


 ケティーとリエルは露出度の高い水着を着ていた。

 リーナは幼い子らしく、可愛らしい柄のワンピースの水着を着ている。

 うむ、実に素晴らしい!


 特にリエルはこのメンバーの中で一番豊満なバストをお持ちであり、ツナギを脱いだ今はより一層、そのワガママボディーが眩しい。

 ケティーの水着姿も素晴らしいのだが、どうしてもリエルのほうばかり見てしまう。


 しかし、これは致し方ないのだ……

 男は貧乳が好きという性癖の持ち主を除けば、皆誰しもおっぱいの大きさには勝てないのだ。

 そう、おっぱいの前で煩悩の塊の男は皆無力なのである。

 だから、こればかりは仕方がないのだ。


 とはいえ、ケティーの水着姿も素晴らしいし、リーナの水着姿も可愛らしい。

 さすがにリーナの水着姿ばかり褒めたらロリコン疑惑が浮上するだろうが、ケティーもリーナもリエルとは違った魅力がある。

 その褒め言葉を伝えれば、リエルにばかり視線が向く事も許してもらえるだろう……たぶん。


 とはいえ、自分は日本にいた時は無趣味で世間にまったく興味をしめさない、流行に無関心だった高校生であった。

 ゆえに夏休みに友人たちと海水浴に行く事もなければ、プールに遊びに行った事も無い残念なティーンエイジャーだ。

 そんなわけで当然ながら女子の水着事情など知っているわけがない。


 悲しいかな、最新の流行の水着が何なのかさっぱりわからないし、そもそも水着の種類もわからない。

 自分で自分を客観的に見て思う、「こいつは本当に思春期真っ盛り、青春ド真ん中の学生生活を送っているのか?」と……


 水着の種類も流行もわからない身では水着姿を褒めるにしても月並みな言葉しか言えない。

 今になって思う……俺はなぜ日本でもっとそういったジャンルに興味のアンテナを広げなかったのか?と……


 まぁ、今更言っても仕方が無いのだが……

 そんな思考が頭の中をグルグル駆け巡り、本能のままに視線がリエルのほうばかりに向いていると、リエルと目が合ってしまった。


 そりゃ普通に考えて女子数名の中に1人しかいない男子の視線が自分にばかり向けられていたら気付かないわけがない……なのでリエルはニターっと笑うと。


 「う~ん、さっきから君の視線がやたらとうるさいんやけど、そんなにうちの水着姿に見惚れてしまったん?まぁ悪い気はせーへんけど、その欲情はうちやなくケティーに向けたってな!」


 そんな事を言ってきた。

 すぐさま違うと弁解しようとしたがケティーとフミコからものすごい形相で睨まれて肘打ちをくらわされた。


 「ぐほぉ!な、なぜ……」

 「当たり前だよ!かい君サイテー!」

 「そうだよ、前にも言ったけどそういう目はリエルじゃなくて私に向けてほしいな?」


 ここで2人には何か言うべきなのだろうが思いのほか肘打ちが強烈で痛みで言葉が出てこなかった。


 ちなみにフミコは水着姿ではない。

 ガウンタイプの患者衣を着ており車椅子に座っている。


 ここには療養中のフミコの気分転換のために来たわけで、フミコはまだ傷が完治していないので当然なのだが、当初フミコは自分以外が水着だという事に反発したが怪我人が海で遊べるわけないだろ!と諫められた。

 ならばキャミソールと言い張ったがこれも却下されて諫められた。


 フミコは自分だけ除け者にされてる!と反発したが、島にいる間はフミコと自分が常に一緒に行動する事。

 そして、フミコが遊びたい、泳ぎたいと言い出さないよう、ケティーたちが水着で遊んだり、泳いだりしている浜辺には近づかないという条件で納得したようだ。


 なのでこれから浜辺で遊ぶぞー!というケティー達から離れるべきなのだがなぜだが自分はフミコが座っている車椅子を押してケティー達と一緒に浜辺にいた。


 (うん……仕方ないよね。だって浜辺を歩こうにも散歩できる浜辺がここだけなんだもん)


 そう心の中だけで仕方がないと主張する。

 決してケティーにリエルの水着姿が見たかったからじゃないぞ?断じて……


 「と……とにかく少し浜辺を散歩しようかフミコ」


 聞いてみるとフミコは頷くだけで返事はなかった。

 やれやれ……これは少しの間はご機嫌取りが必要かな?

 そう思って車椅子を押し、ケティーたちに声をかけた。


 「それじゃ俺たちの事は気にせず羽を伸ばしてくれ」

 「言われなくてもそうするよん♪」

 「まぁ、うちらは勝手に遊んどくさかい、お二人さんもしっぽり気分転換しーや!」

 「マスター、フミコお姉ちゃん、お昼ご飯の時はお知らせしますね!」


 3人の返事に手を振って答え、そして車椅子を押して砂浜を歩く。

 普通の車椅子なら砂浜や砂利道などを進むことはできない。


 タイヤが砂に沈んで進まなくなるからだ。

 しかし、今フミコが座って自分が押しているのはいわゆる水陸両用のタイヤが大きく、水には入ればフロートの機能もこなして浮く事ができる車椅子だ。

 これなら砂浜だろうが砂利道だろうが砂丘だろうが問題なく進む事ができる。


 ただ欠点は電動の車椅子同様に重量が重く、押す側の負担が増すという側面があるわけだが……


 (まぁ、これくらいなら苦にはならないし、最悪トレーニングと思えばどうって事はないな)


 そう思うがフミコはこちらの負担を気にしているようで。


 「かい君ごめん、重いよね?疲れるよね?これって自分でも車輪を回して進めるって聞いたけどそうしようか?」


 申し訳なさそうに聞いてきた。

 そんなフミコを見てやれやれとため息をつきたくなった。


 「怪我人が何言ってんだ。それじゃ意味ないだろ?気にするなって」

 「でも……」

 「俺がそうしたいんだから、フミコは遠慮せずに甘えてくれたらいんだ。これは怪我人の特権なんだぜ?」


 そう言うとフミコは「わかった」と頷いて背もたれにゆったりともたれ掛かってリラックスする。


 「じゃあ今日は思う存分かい君に甘えるとするよ!あたしの気の済むまでたっぷりとね!」

 「おう!遠慮すんな!」


 そう言って笑いながら砂浜を進む。

 波の音に海鳥の鳴き声、吹き付ける潮風が心地よい。


 フミコは潮風でなびく髪をかき上げながら海に視線を向ける。


 「そう言えば、海を見るのはあの時以来だね」

 「あの時?あぁ……そうだな。いつぞやの異世界以来だな……」


 フミコが言っているのはかつて訪れた、世界中に存在する大陸のほとんどの土地が海面の急上昇により水没し、海の底へと飲み込まれ、人が住める大地と環境がほぼ失われた異世界の事だ。


 その異世界では人類に残された最後の希望であるわずかな土地をとある宗教が牛耳っていた。

 独裁的といえるその支配体制に対してレジスタンス組織はいたものの体制転覆とまでいかなかったのは、その宗教が「聖女」と呼ばれる存在によって人類最後のオアシスを守護していたからに他ならない。


 その「聖女」は「祈祷」によって大海へと沈みゆく大地の沈没を食い止めていたのだ。

 そして「聖女」は異世界転生者であり、彼女から支援サポート能力でもある「祈祷」を奪って彼女を殺した。

 その過程では色々あって、トラブルにも見舞われた。


 その時の事を思いだしてフミコはくすくすと笑い出す。


 「本当にあの異世界では大変だったよね」


 そう言ってフミコはあの異世界での話題を持ち出した。

 そんなフミコを見て理解する。


 そう、フミコはちゃんと確認したいのだ。

 自分の記憶がちゃんと俺にもある事を……

 自分だけが思い込んでるのではなく、ちゃんと俺と一緒に体験した出来事だと……


 そうでなくては不安でしょうがないのだろう……

 フミコはあったかもしれない可能性の世界の光景を見せられて敗れたのだ。

 だからこそ、不安を払拭したいのだ。


 (だったら、どこまでもとことん付き合うぜフミコ)


 そう思ってフミコの話に相づちを打つ。

 「そうだったよな」と思い出話に花を咲かせるために。

 フミコと自分はずっと一緒に歩んできたと自信を持たせるために。

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