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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
10章:SFの世界

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故郷であって故郷でない場所(3)

 「なるほど……そういう経緯があってTD-66となったわけなのか」


 リエルの話を聞いてTD-66がリーナを守り抜こうとする気持ちが強い理由がわかった。

 赤ん坊の頃からずっと見守ってきたのだ。

 そして正真正銘、外敵からリーナを守り抜く事ができる体を手にいれた……そりゃ何が何でも守ろうとするだろう。


 しかし、その話を聞いてしまうと余計に記憶容量媒体をどうにかして復元してやりたい気持ちになる。

 それはリーナが生まれてからずっと見守ってきたTD-66にとって存在意義みたいなものだろう。

 それを失うなどあんまりではないか?


 とはいえ、プログラミングの能力を補助の能力で底上げしても自分ではどうにもできなかった。

 なおかつ、この世界のエンジニアが復元できないと言った以上は諦めるしかないのだろう。


 「まぁ、リーナちゃん……いや、その時はマリアなのか。何にせよあの子を守り切れなかったからこそより強固な体を求めたってのはわかるけど、でも結局は一家揃って事故死という形で命を落とすんだろ?なんで守れなかったんだ?」


 そう尋ねるとケティーがタブレット端末を見せてきた。

 そこに映し出されているのは60年前のその事故に見せかけた事件の資料だ。


 当時、ヴェルザー家は最も権力を持った大富豪の一角だった。

 国家の権力中枢に近く、複数の外国の有力企業ともパイプがあり、多国間企業における共同の植民地運営という事業を牽引する顧問まで務めていた。

 実質的に世界を動かすキーマンと見なされていたのだ。


 だからこそ、ヴェルザー家は常にまわりから恨み妬みを買ってきた。

 それゆえにマリアは幼い頃から誘拐や暗殺の危険にずっと晒されてきたのだ。


 そんな中でTD-66の存在はより過激なアクションを取らせる原因となってしまう。

 何せ当時、TDシリーズは重厚装甲史上主義のまっただ中にあって最も分厚い装甲を持つ強固な警護ドロイドとして有名だったからだ。


 尚且つ従来のTDシリーズより個人でのカスタム改修度の自由度が増した魔改造が売りのTD-66は生産数が少ない事もあって情報が少なく、ヴェルザー家に危害を加えようと考える連中からすれば脅威でしかなかった。

 何せヴェルザー家がどこまで魔改造したのかわからないのだ。

 そうでなくとも魔改造抜きでの通常の基本スペックですらレアすぎて詳細がわからない……


 だからこそ、巻き添えなどの周囲への被害を無視した全力での奇襲が計画された。

 ハッキングによる乗用車の暴走と追突。

 それが失敗した場合の第2、第3の襲撃……


 そして実行された奇襲計画は、しかし最初の暴走乗用車ですべての片がついた。

 強固だと思われていた警護ドロイドTD-66だったが、しかし装甲が重厚すぎるがゆえに体の動きが遅く、反応できても車の速度に追いつかなかったのだ。


 何とか伸ばした片手だけでは猛スピードで突っ込んできた車を止められる事はできず、ヴェルザー家は一家揃って暴走車に轢き殺されてしまう。

 TD-66は警護ドロイドでありながら、その任を全うできなかったのだ……


 結果的に見ればTD-66の存在がなければヴェルザー家に恨みを持つ連中もここまでの行動は起こさなかったかもしれない。

 ドック・ロールがTD-66へと機体を移し替えなければヴェルザー家は無事だった可能性はある。

 だが、それはあくまで結果論だ。


 それにTD-66に機体を移し替えずドッグ・ロールのままでも同じ行動をヴェルザー家に恨みを持つ連中は取ったかもしれない。

 結局のところ、どうすれば良かったのか?その答えなど誰にもわからないのだ……


 「……何とも報われない話だな」


 タブレット端末に映し出された事件の資料を見てそう述べると、リエルがため息をつきながら言う。


 「まぁ、実際メガイノベーション以前の警備ドロイドなんてそないなもんやで。戦争やろが抗争やろが防御力が大事!っちゅー事でゴリゴリに装甲分厚くしたら動き鈍くて使いモンにならんっちゅーの」

 「そうなのか?」

 「そうやで。せやから防御力高くして動けんもんより、身軽ですばしっこく動けて相手より先に攻撃できて相手の攻撃をかわしまくる軽装機動主義にトレンドが変わっていったんや」


 そう得意げにリエルが言うと、ケティーがタブレット端末をしまいながら話題を変えるように修理費用の話を持ち出す。


 「はいはい、まぁリーナちゃんとTD-66の60年前の事が大体わかったところで値段の交渉なんだけど……」


 ケティーとリエルは友人らしいが、しかし仕事でのお金の話となるとそういった雰囲気は一気になりを潜めた。

 まぁ、ここからは商人と職人の話し合いだ。自分が口を挟むべきではないだろう。


 そう思ってリーナとTD-66のほうに行こうとして。


 「ちょっと川畑くん、どこ行くの?」


 ケティーに止められた。


 「いや、費用の交渉とか俺にはさっぱりだし……」

 「だからって私に丸投げ?ギルドマスターとしてそれはないんじゃない?」


 ケティーがジト目で睨んでくるが、素人の自分にそういった交渉ごとははっきり言って不可能だろう。

 それに餅は餅屋って昔から言うじゃないか、何だかんだ言って基本は高校生である自分がしゃしゃり出る場面じゃないだろう。


 「いや、でもほんと交渉とか俺には……」


 そう言うとリエルが笑いながら背中をぽんぽん叩いてきた。


 「あははは!気にせんでええで君!まぁ値段はおいおい話し合ってけばええやん!」

 「いや、おいおいって……」


 リエルの言葉に、そこまで長々とこの交渉してる時間もないし、この異世界に留まる気もないのだが……と思っているとリエルがとんでもない事を言い出す。


 「何でや、うちもこれから君の旅の仲間になるんやし、旅しながらでも値段の交渉はできるやろ」

 「……は?今なんて?」

 「ん?せやからうちも一緒に旅するって言ったやん!いや~うち異世界旅行とか楽しみすぎるで!前々からケティーの話聞いてて興味があってんな!いや~楽しみやでほんま!」

 「…………はぁ!?」


 なんか突然、旅の仲間になってついてくる発言をしだした。

 何を言ってるんだろうこの子は?

 いやいやいやいや!さすがにそれはダメだろ!


 TD-66はロボットだ。まぁ言うなれば装備品みたいなものだ。

 だからTD-66を連れて行くのは問題ないだろう。

 しかし、本来なら立ち寄ることのない、立ち寄れないはずの異世界で仲間を拾ってくるのはさすがにまずいのではないか?

 別段カグを気にすることはないのだが、自称神が何を言うかわからんし、何より自分の旅の目的である次元の亀裂の修復に支障はないのだろうか?


 そう考えているとリエルがいたずらっぽい表情をして。


 「あら、ええんか?うちがいないとこの先TD-66に何かあっても修理できへんで?」


 そんな事を言ってきた。

 確かに、プログラミングの能力を使ってもTD-66の修理は厳しいだろう。

 構造を把握できても錬金術でなんとかするには、このSF世界の技術は先進的すぎる。


 なによりアビリティーユニットは地球より上位の異世界の技術は扱いが極めて困難に設定されている。

 自分の能力では厳しい以上、TD-66の状態を常に最適に維持するのは彼女の協力は欠かせないのだ。


 「確かにTD-66の整備は必須だが……」


 困っているとケティーがこんな提案をしてきた。


 「まぁまぁ川畑くん、どっちにしろTD-66の整備施設はギルド本部には場所がなくて作れないし、というかあの異世界に作ったらまずい施設だろうし、だったら次元の狭間の空間に設置しないといけないだろうからリエルには定期的に次元の狭間の空間に来てもらうって事でいいんじゃない?」

 「……そうか、次元の狭間の空間までなら問題ない……か」


 そんな自分とケティーの会話を聞いてリエルは不満を漏らす。


 「なんでや!そりゃ次元の狭間の空間ってのも楽しそうやけど、そこまでしか行けんなんてお預けくらうのは生殺しやで!うちもちゃんと異世界に連れてってや!」

 「いや、そう言われても……」


 そう言うとリエルが床に寝転がると子供のように駄々をこねてゴロゴロと両手両足をバタバタさせだした。


 「いやや、いやや!!うちも連れてってや!!」


 そんな大人げない姿を見て困ったな~と思っているとケティーがとんでもない事を言い出した。


 「まぁまぁリエル、今はこれで我慢しといてよ?どうせ次元の狭間の空間まで来ればみんなの目を盗んで異世界に行けるから!」

 「おい!それダメなやつだろ!」


 何を言ってるんですかこの人は!?

 しかし、その言葉でリエルは納得してくれたようで、急に冷静になって起き上がると何事もなかったようにすました顔になった。


 「まぁ、そないな事やったらここはそれで手を打とか」

 「いや、ほんと問題起こす気満々な妥協はやめてくれる?」


 そう言うが、しかしリエルの中ではすでにこの話は結論が出て過ぎ去った事のようで、別の話題を持ち出してきた。


 「あ、ところで修理のついでに色々改造して機能追加したって言ったやんか」

 「いや、それよりも……」

 「で、それやねんけど」

 「ダメだ聞く気ねーな……」

 「川畑くん、リエルにペース握られたら基本取り返すのは厳しいよ」

 「……だろうな」

 「ちょい、話聞いとる?」

 「はい、聞いてます聞いてます……で、何?」


 諦めてリエルの話を聞く事にする。

 この手のタイプは自分の言いたい事を先にすべて吐き出させた方がいいのだろう。

 まぁ、途中で話を折ろうにも聞く耳を持たないだろうが……


 リエルはそんなこちらの諦めの境地など気にせずに意気揚々としゃべり出す。


 「さっき、君らが戦った制圧用警備ドロイドが使っとったオプションパーツが廃棄物置き場に捨てられとってん。せやからこっそり拝借してそれも修理したんや。で、TD-66の内部構造をいじって扱えるようにしといたったで!やったな!TD-66パワーアップできるで!うちのおかげやな!はっはっは!まぁ、これでより一層、うちがいないと整備できへんから、うちは絶対ついていかなあかんな!」


 リエルがドヤ顔でそう言ってのけた。

 なるほど、TD-66がパワーアップか……魔改造が売りの機体だからこそできる荒技なのだろう。

 ところで、今のセリフの中に気になるワードが混じっていたような気がするが気のせいだろうか?

 こっそり拝借とか何とか……それって大丈夫なの?


 「なぁ、廃棄物置き場に捨てられてたものって勝手に持ってきて大丈夫なの?」


 とりあえず気になったので確認をする。

 うん、これは大事だよ。


 だって廃棄物置き場にあったとはいえ、まだ捨てられたとは限らないもんね。

 もし、修理までの間そこに仮置きしてただけだったら盗難になっちゃう。


 そうなったら大変だ!

 せっかく施設の損害の責任や弁償は中古販売店とその顧客に押しつけたのに、窃盗罪で結局こっちにも罪がついちゃうじゃないか!


 そして予想通り、リエルは許可など取ってなかった。


 「まぁ、本来ならあかんやろけど平気ちゃう?だって、廃棄置き場にあってんで?」

 「いやダメだろ!!どうすんのこれ!?バレたらどうするんの!?」

 「あーはっはっは!まーなんとかなるて!気にしたあかんで!」

 「気にするわ!!」


 思わず叫んでしまったが、ケティーが問題ないとたしなめてきた。

 なんでもギルド本部の建物の警備システムの商談をした女性がそれらのパーツを施設側と交渉して買ってくれるらしい。

 それはなんともありがたい話だが、その分これから先も彼女からは何かしら商品を買わないといけなくなりそうだ……


 「はぁ……TD-66の修理が完了したんだし、もうこれ以上問題が増えるのは勘弁願いたいからそろそろ次元の狭間の空間に帰るとするか……あまり長い時間フミコ1人で留守番させるのもよくないしな。フミコが怒る前に戻ろう」


 そう言うとケティーが不機嫌そうな顔になった。


 「川畑くんのバカ!私と一緒の間はフミコの名前は出さないでほしかったのにな」

 「ケティー……そう言われてもな」


 そんな自分たちの会話を聞いてリーナとTD-66もこちらへとやってくる。


 「マスター、帰るんですか?」

 「あぁ、もう目的は達成したしな」


 そう言ってTD-66を見る。

 警護ドロイドをリーナの護身用グッズと呼んでいいのかどうかはわからないが、これ以上のものはないだろう。

 TD-66の記憶容量媒体を復元してあげられないのは残念だが、こればかりはここに残っていても解決する話ではない。


 それにリーナとTD-66は過去の記憶ではなく、これからの記憶を作っていくと誓い合ったのだ。

 なら、この世界に執着することはないだろう。

 そう思っていたのだが……


 「それじゃ帰ろうか」

 「あ、せやせや忘れるとこやった!」


 リエルが帰還の号令を遮るように自分達の目の前にある資料を投影させる。


 「見てほしいもんがあって、これなんやけど」

 「何だこの資料?」


 それは何かの地図が掲載された資料であった。

 その意味するところはわからなかったが、ケティーがそれを見て目を見開く。


 「リエル、これって!」

 「ふふん、うちかて技術士やさかい、記憶容量媒体を復元できんかったんが悔しいんや。せやから代わりにこれを調べてもらってたんや」


 そう言うリエルはどこか満足気に頷くとサムズアップしてみせた。


 「えっと……これは一体何の資料なんだ?」


 聞くとケティーがリーナとTD-66の方を向いて答える。


 「ヴェルザー家が埋葬されてる墓地の場所だよ」

 「え?」


 その言葉を聞いて思わず自分もリーナの方を向く。

 当のリーナは驚き、目を見開いて数秒間押し黙った。


 そして沈黙の後、口を開く。


 「それは……前世のわたしの……60年前に死んだわたしとわたしの家族のお墓がある場所って事ですか?」


 そのリーナの問いにケティーは無言で頷く。

 そんなケティーとは対照的にリエルは今まで通りのノリで尋ねてきた。


 「せやで!ヴェルザー家が埋葬されとる霊園。これは霊園の中でどこの区画にヴェルザー家が埋葬されとるかって資料や!これがあれば迷わずお参りできんで!どないする?」


 リエルに聞かれたリーナは自分に視線を向けてくる。

 どうやらさっさと帰ろうと言った自分を気にしているようだ。


 (まったく……子供なんだから遠慮しなくてもいいのに)


 ケティーの方を向くとケティーは無言で頷いた。

 当然だ。どうして拒否できよう?


 これはきっと何かの縁だ……だったら最後まで付き合わねばなるまい。


 「いいんじゃないか?リーナちゃん……行きたいんだろ?」


 そう言うとリーナは目を輝かせて明るい表情となった。


 「はい!マスター、ありがとう!」


 そんなリーナを見るとこちらも自然と頬が緩んでしまう。


 「それじゃ行こうか……墓参りに」

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