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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
2章:最初の異世界

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最初の異世界(3)

 ラーゼについて行くとどんどん街の繁華街の中でも特に冒険者がごった返してる地域に入っていく。酒場が多く建ち並ぶストリートだ。

 冒険者や傭兵がゴロツキだと見下す商人が聞き込みをしている中で多かった印象だがこの通りに来ると言わんとすることが理解できる。

 このラーゼって少女はよくもまぁ、こんな危なそうな通りを堂々と歩けるものだ、関心する。

 こんな治安の悪そうな通りを年頃の女の子が堂々と歩いているなんて親が知ったら卒倒しそうなものだ。それともこの世界ではそういった認識はないのだろうか? よくわからん。


 「というか、こんなところに勇者がいるのか?」

 「意外ですか?」

 「まぁ、そりゃね。魔王討伐軍の編成待ちって話だけど仮にも魔王討伐の要だろ? 普通編成が終わるまでは軍の施設なり王侯貴族の館なりにいそうなもんだけど……」


 警備上の観点から言っても普通はそうだろう。VIPをわざわざ治安の悪い歓楽街に放置して何かあったら外交問題だし責任問題が国に降り注ぐ。

 リスク回避の意味でも絶対に安全な軍施設なりに監禁しそうなものだが、この国や街の役人、軍人は何をしているのだろうか?


 「確かにそんな話はありましたね。魔王軍側の奇襲があった場合に素早く対処できるよう参謀本部が置かれてる領主の館にいるよう国王陛下からは要請がありました」


 一様この国の国王は常識が少なからずあったようだ。となると、それを無視して歓楽街を出歩いてる勇者が常識がないアホなのか。


 「ただ、そんな要請私がビシっとはね除けましたけどね!」

 「ん?」


 ラーゼが鼻息荒くドヤ顔を決めた。

 あ、勇者じゃなくて仲間のこの女がアホだったか……


 「大体あの要請にはおかしな部分が沢山あったんですよね。館で待機するのは勇者さまだけで仲間は領主の館どころか貴族街にも立ち入れないし館にはなぜかいやらしい目でいつも勇者さまを観てる淫乱姫も一緒にいるし! あのビッチ絶対勇者さまにいかがわしいことにするに決まってる! ほんと油断も隙もあったもんじゃない! 勇者さまも勇者さまよ! あんな歩く卑猥の塊みたいなのをどうしてかばうのかしら? 大体………」


 ここからラーゼによる勇者の女性関係のだらしなさに対する不平不満が怒濤の勢いで火を噴き、淫乱姫とこき下ろすこの国の王女に対する負の感情、怨嗟を延々と垂れ流し続けた。

 この子相当溜まってるな……下手に話題振らない方が良さそうだ。というか、案内を頼む相手を間違えたかもしれん。

 そう思っていたらラーゼがこちらを見て


 「どう思います?」


 とこっちに意見を求めてきた。おいおいマジかよ? 俺に意見を求めるのかよ?


 「まぁ、なんというか……何とも言えんな」

 「は? ひょっとして勇者さまの肩持つ気ですか?」


 ラーゼがものすごい形相で睨んできた。いや、知らんがな……俺その現場にいてないから何とも言えんし、人物相関図わからんし、勇者の人物像も他の人の人物像もわからんし……

 ただ言えることは。


 「勇者の肩を持つとかラーゼの意見に同意するとかはラーゼの主張しか聞いてないから判断できないだけなんだけど、まぁ聞いてて思ったことは要するにラーゼは勇者の事が好きなんだろ? だから自分を気にかけず他の子と仲良くするのが気にくわないわけだ。そこまで独占欲強いならいっその告白すれば良いのでは?」


 一人うんうんと頷いて言うとラーゼが顔を真っ赤にした。


 「な、なななななな!!!! 何言うとるんじゃぁぁぁぁぁぁぁいいい!!!!!!」


 そして、そのままボディーブローをくらった。


 「ぐほぉぉ!!」

 「はっ!! す、すみません! ついうっかり、ごめんなさい!」


 腹を押さえてその場にうずくまるとラーゼが謝ってきたが、ついうっかりでボディーブローをかます辺り勇者とやらは相当この女にサンドバックにされてるはずだ。


 「いや……こちらこそすまん。会って間もない人に言うアドバイスじゃなかったな」


 腹を押さえながら起き上がってペコペコと何度も頭を下げて謝ってくるラーゼに愛想笑いで平気だと伝えた。

 本当に何を自分はアドバイスしてるのだろうか? まだ勇者が転生者か転移者と確定したわけじゃないが自分がこれから行うのは告白すればいいと言った相手を殺すことじゃないか……

 自称神のカグが地球で言っていた異世界側に感情移入して異世界側についてしまうと言っていた意味がなんとなくわかった気がする。


 そうやって色々な話をしている内に目的の酒場に着いたようだ。


 「ここです!」


 そう言ってラーゼが入っていった店は外観は特段豪華な店でもなく店内もお世辞にも綺麗とは言えない酒場であった。

 とはいえ所狭しと並べられたテーブルと座席は満席で多くの冒険者達で賑わっていた。ラーゼはそんな店内を色々な冒険者から声をかけられながらも笑顔でスルーして目的のテーブルへ歩いて行く。


 「あ、いたいた! カイトさんあそこです。あそこのテーブルにいるのが私の仲間達と勇者さまです」


 そう言ってラーゼは喧騒の中にあってしかし酒場で一番物静かな店内の隅っこのテーブルを指さす。

 そこには男女4人が食事を取っていた。


 「おーい!!」


 ラーゼが店内の喧騒に負けない大声をだし手を振って呼びかけると1人がラーゼに気づく。


 「お、ラーゼ嬢が戻ってきたぜ!」


 そう言って大柄な体躯の男が屈託のない笑みを浮かべて隣で気にせず食べ物にかぶりついていた男の背中を叩く。


 「痛っ!! 何すんだよマイク」

 「ラーゼ嬢が戻ってきたのに気にせず食事続けてるからだろ?」

 「そうよススム、あんたちょっとは周りに気を配りなさいよ!! この唐変木!! ラーちゃん可哀想でしょ!」

 「ススムに多くを望むのが間違ってる……」

 「ちょっとマイルまで! 酷くない?」


 1人の男を他の3人が冗談交じりに避難する様を眺めながらテーブルへと近づいていく。


 「あはは……チカさん別にいつものことだから私気にしてませんよ?」

 「ラーちゃん……1回くらいバシっとこのバカ勇者に言ってやらないと! 甘やかしたらダメだよ!!」

 「そうは言っても直りませんしねー」


 困った顔で笑いながらラーゼはテーブルで食事を取る4人の輪の中に入っていく。

 

 「それじゃダメよ! この唐変木には相当きつく接しないとダメだって!」

 「ススムには3度の飯より暴力で当たるべし」

 「ちょっと!? マイルさんさっきから俺に対して酷くない?」

 「酷くない、至極全うな意見」

 「いやいやいや! 俺の身を案じて? お願いだから」


 男の懇願に全員がいつものことと笑う。このやり取りもずっと続いてきたことなのだろう。なんだか少し羨ましくなった。

 自分があとどれだけの異世界を巡るのかはわからないが、恐らくは彼らのような仲間を作っての旅は望めないだろう。それだけに信頼しあって冗談を言い合える空間があることが少し妬ましく思ってしまう。


 「はい! 注目!!」


 ラーゼがパンパンと手を叩いて皆の注目を集める。


 「えー実は帰ってくる途中に客人を拾いまして……」

 「お、逆ナンか? ついにラーゼ嬢、ススムに愛想尽かせて他の男に鞍替えしたってわけだ」

 「違うやい!」

 「ラーちゃんいい判断よ! このバカに見切りつけるのが遅すぎたけどこれから新しい恋に生きなさい! この唐変木はあたしが責任を持って面倒見るから」

 「やらないよ!!」

 「二股?」

 「違うやい!」

 「おいおいみんなラーゼに言いたい放題しすぎだって! ちゃんと話聞こうぜ」

 「ススム! 私のことちゃんとわかってくれるのはやっぱりススムだけだよ! あとなんで涙目でこっち見てるの?」

 「だって鞍替えって言うから……」

 「違うやい!!」


 なんともかしましい雰囲気の中ようやく紹介してもらえる運びとなった。

 こんなのが世界を救うことを義務づけされた勇者パーティーとはねぇ……放課後に部活が始まる前に教室で喋ってる学生とあまり変わらないじゃないか、自分は部活に入ってないからどんな雰囲気か知らないけど。

 まぁ、これくらいの陽気さがないと重圧で精神が持たないのかもしれないが……


 「おほん、では改めて……彼が勇者さまに会いたいと言うので連れてきました! なんでも勇者さまの知り合いということなので!」


 ラーゼがそう言うとテーブルにいた勇者一行の面々が興味深そうにこちらを見つめてきた。


 「へぇーススムの知り合い? あのナンとかって聞いたことない島の同郷なんだ?」

 「昔ススムが着てた服に似たの着てる」

 「なーんだススム、同郷のやつは多分ここには来ないって言ってたくせに! いるんじゃねーか!」


 テーブルの3人は賑やかに反応するが皆からススムと呼ばれている男は驚いた顔でこちらを見ていた。


 「まさか……君は日本人か?」


 恐る恐るといった感じで聞いてきたススムという男の反応に周りの仲間は訝しむ。


 「なんだススム、同郷の知り合いじゃないのか?」


 マイクというらしい大柄な体躯のいい男の言葉にススムは我に返ったようだ。慌てて否定する。


 「いや、同郷のものに変わりはないだろうが彼のことを俺は知らない」


 それはそうだろう。俺だって向こうの事は何一つ知らない。

 本当ならこの瞬間にでも能力を奪うための行動に出るべきなんだろうがそれは少し気が引けた。なので。


 「ラーゼごめん、皆さんも……自分は彼と知り合いではありません。同郷ではありますが……自分の住んでた土地から勇者が誕生するとは夢にも思いませんからね、一度訪ねて見たかったんですよ」


 そう言った後でどう見られてるかはわからないが営業スマイルをしておいた。そんなものが自分に似合ってるとは思わないが一様は友好的に見せとかないと。


 「なるほど、そういうことか……俺も君に関して詳しい話を聞きたいな。俺は今元 晋(いまもと すすむ)。君は?」

 「川畑界斗だ。よろしく」


 そう言ってこの世界の勇者である今元晋と握手を交した。

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