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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
10章:SFの世界

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SFの世界(8)

 TD-66と制圧用警備ドロイドの戦いが続く中、カイトともう1体の制圧用警備ドロイドとの戦いは佳境を迎えていた。


 「はぁぁぁぁぁ!!」


 レーザーブレードを持っていない左手を前へ突き出して大きく展開した魔術障壁を相手へと叩きつけて押し込んでいく。

 それはまるで巨大な蓋を収納スペースに入りきらないにも関わらず、無理矢理押し込んでしまえ!と言わんばかりの行為にそっくりであった。


 (魔術障壁の防御を重視した本来の用途から大幅にズレた使い方なんだろうが……押さえ込むにはこれが一番だ)


 魔術障壁は任意の場所に魔術の紋章を浮かび上がらせて相手の攻撃を防ぐ防御に特化した能力だが、だからと言って防御以外に使い道がないというわけではない。


 この能力の持ち主であった転生者、楯原京介はこの魔術障壁を空中に複数出現させる事でその上を渡って空中を移動する手段としていた。

 また巨大な魔術障壁を展開し、それを複数重ねる事で重量を増して鉄壁の防御とするのではなく相手へと押しつけて殴りつけたり、道を塞いだり、壁へと挟み込んだりもしていた。


 さらには極端に細長い、本来の用途である防御を完全に捨て去った棒のような魔術障壁を生み出して相手を串刺しにするといった応用技までこなしていた。


 一見すると身を守ることにしか使えないように思える能力も工夫次第では強力な攻撃手段となる。

 それがわかれば魔術障壁という能力ほど便利なものはない。


 (楯原京介は魔術障壁の事を最弱だった自分をチート冒険者にしてくれた代物って言ってたが、本当にその通りだと思うぜ……相手からの攻撃を検知して自動で発動するオートシールドモードもそうだが、いくらでも発展させられる要素が魔術障壁という能力にはある)


 思って、この能力を転生者、楯原京介は使いこなせていたのだろうか?と思う。

 もし、彼が完全に使いこなせていて戦術のレパートリーもたくさん持っていたのなら自分は楯原京介に勝つことは出来なかったはずだ。


 ただし、それを言ったら自分もアビリティーユニットGX-A03をちゃんと使いこなせているのか自信はないわけだが……


 「何にせよ、ここで一気に決めさせてもらうぜ!!」


 叫んでより一層、魔術障壁を押し込む力を増していく。

 制圧用警備ドロイドは当初床から供給されていたバリアを貼って魔術障壁を受け止めていたが、バリアが魔術障壁との力比べに負けて消滅すると、手にしていた武器を捨てて両手で魔術障壁を受け止め出す。


 しばらくは制圧用警備ドロイドは耐えていたのだが、徐々に押し込められて片膝をつくまで押し込まれていく。

 もはや制圧用警備ドロイドは持ちこたえるので精一杯な状態であった。


 「ここまできたら慌てて攻撃してうっかり止めを刺す事もないな……ケティーは動力源が無事なら問題ないって言ってたし遠慮なく無力化させてもらうぜ!!」


 左手をかざして魔術障壁を押しつけながら、右手に持つレーザーの刃の出力を聖剣の能力で最大限にまで引きあげると頭上へと掲げる。


 出力を増し聖剣に纏わり付く光でさらに刃渡りが長く伸びたレーザーの刃はしかしすぐにしなって刃ではなく光のムチとなる。


 「おらぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 その光のムチを振るって制圧用警備ドロイドの脚部を攻撃する。

 片膝をついて両手で魔術障壁を受け止めている制圧用警備ドロイドはこの光のムチの攻撃に対処できなかった。

 為す術のない制圧用警備ドロイドの脚部を光のムチで切断する。


 支えを失った制圧用警備ドロイドはそのまま呆気なく魔術障壁に押し込まれて床に倒れ込み、床と魔術障壁に挟まれて身動きが取れなくなった。


 「ふぅ……なんとか壊さずにすんだな。床から際限なく武器が供給されるみたいだから油断はできないが、このまま魔術障壁で押さえ込んどけばケティーの裏工作が終わるまで時間は稼げるだろう」


 そう思ってリーナとTD-66のほうに視線を向ける。

 もし苦戦してるようなら援護射撃くらいはしないとと思ったわけだが、しかし直後警報ランプが点滅しフロア全体にサイレンが響き渡る。


 『エマージェンシー!エマージェンシー!』

 「な、なんだ!?」

 『制圧用警備ドロイド1体の損失を確認!脅威度、深刻度ともにステージ4と認定!繰り返す。脅威度、深刻度ともにステージ4と認定!これより敵性排除行動をフェーズ4に移行します!当フロアならびに上下階フロアにいる従業員、お客様は速やかな退避をお願いします!館内全職員は非常事態における対処行動第10条に従って行動してください!』


 流れたアナウンスに思わず耳を疑ってしまう。

 今なんて言った?

 制圧用警備ドロイド1体の損失を確認だと?


 「は?嘘だろ!?こいつは壊れていないはず……」


 言って魔術障壁で床へと押さえ込んでいる制圧用警備ドロイドを見るが、頭部のランプは光っており壊れているわけではなく、まだ稼働しているだずだ。

 なら一体どうして?


 そう思い、はっとしてリーナとTD-66の方を見ようとしたその時。

 立っていられないほどの振動がフロア全体を襲った。


 「な、なんだ!?」


 咄嗟に姿勢を低くし、片手を地面につけて周囲を警戒する。


 「地震……じゃないよな?まさかこの建物ごと壊して俺たちを始末するつもりか?」


 冷や汗が頬をつたった。

 さすがにそんな事されたら脱出の手段を思いつかない……

 リーナに裏工作を行ってくれてるであろうケティーを回収して出口を見つけ出し外へと退避する。

 それだけの時間があるだろうか?


 そう考えて、しかし焦らず冷静に思考を巡らそうとしたところで、リーナやTD-66のほうから何かがこちらへと飛んでくる。


 「何だ!?」


 それは真っ二つになった制圧用警備ドロイドの残骸であった。

 恐らくはTD-66が破壊したものだろう。


 「そうか、あっちのやつが破壊されたから警戒されてこの地震みたいなのが発生したのか!」


 だとしたら最初にあのロボットに相手を破壊するなって言っとくべきったなと思うが今更それを後悔したところで仕方がない。

 今はこの後何が起るのか?という事に注意しなければならない。


 そう思った直後、今度は今まで魔術障壁で床に押さえ込んでいたこちらの制圧用警備ドロイドが先程までとは比べものにならない力で魔術障壁を押し返すと、その体を浮かばせて一気に天井付近まで上昇する。


 「なんだと!?」


 魔術障壁を押し返された事に驚いてしまうが、ここで逃がすわけにはいかない。

 素早くレーザーの刃をしまい、アビリティーユニットにアビリティーチェッカーを装着してライフルモードのアサルトライフル、ステアーAUGを展開し、上昇した制圧用警備ドロイド目がけて連射する。


 しかし、その射撃をくらって制圧用警備ドロイドは装甲の一部をヘコませるも気にせずどこかへと飛んでいく。


 「くそ!!撃ち落とせないか!」


 叫んで、しかし諦めず射撃を続けるが、当たっていようと相手は気にしない。

 制圧用警備ドロイドは悠々と天井付近を飛び回ると、TD-66が破壊した真っ二つになった制圧用警備ドロイドと合流、そしてこちらやTD-66にリーナに向けて高らかに言い放った。


 『見るがいい!これがが敵性排除行動フェーズ4……デス・ディストラクションだ!!……最終認証をクリア!超制圧合体、開始ぃぃぃぃぃ!!』


 制圧用警備ドロイドの言葉を合図とし、よりフロア内の警報ランプが激しく点滅する。

 直後、浮遊する2体の制圧用警備ドロイドが変形し、それぞれ右半分、左半分の体になるとそのまま2体が合体する。


 それが終わるのを待っていたかのように、大きく揺れる床から今までより大きな蓋が開き、出現した穴から多くの巨大な銃器が射出される。

 それらは天井付近まで飛び上がるとすばやく合体した制圧用警備ドロイドへとドッキングしていく。


 右手にはダイヤモンドホイールのような刃をつけた電動油圧カッターのようなものがドッキングし、さらにチェンソーのようなものまでさらに追加でドッキングする。


 左手にはパイルバンカーがドッキングし、掘削機(ドリル)も追加でドッキングする。

 さらに肘にバケットクラッシャーがドッキングする。


 背中には砲身2基を装備する無尾翼デルタ翼の戦闘機のような外観をした何かがドッキングし、砲身2基を肩の前へと下ろす。

 さらに腹部にバックルキャノンを取り付け、追加でバックルキャノンの威力を補強するオプションパーツである反射板もバックルキャノンの周囲に取り付けられる。


 そして背中はそれだけに留まらない。

 さらにまるでステルス爆撃機B-2を連想させる三角形の形のものが翼の端にミサイルを数基ぶら下げた状態で背部にドッキングする。


 脚部には右足に8連装のミサイルランチャーがドッキングし、左足に6連装のロケットランチャーがドッキングする。


 両肩には8砲身ガトリング式回転式キャノン砲がドッキングし、頭部を覆う兜にはまるで目からビームが出せるかのようにレーザー光線出力装置が装着する。


 さらにドッキングはしないが、制圧用警備ドロイドの周囲にレールガンが6基、火力補助のオプションウェポンとして浮遊して追随する。


 まさに見る物を圧倒するゴテゴテな見た目の制圧用警備ドロイドが爆誕したのであった。


 「な……なんだあのデザインなんてクソくらえ!な武装てんこ盛り、昭和もビックリ、クソダサ合体ロボットは!?」


 思わず口に出てしまったが、本当の事なので仕方がない。

 しかし、当のロボットはまったくそんな事は気にしていない。


 『ははは!見ろ!!これが敵性排除行動フェーズ4超制圧合体!デス・ディストラクション!!お前達を屠る姿だ!!』


 むしろノリノリだった。

 うむ……まさかあのてんこ盛りがこのSF世界のAIの間での流行なのか?

 人類には到底理解できない領域だ……

 まぁ一部のマニアにはロマンだと言って受けるのかもしれないが……


 『さぁ!!まとめて消し飛ばしてくれるわ!!』


 呆気にとられているうちに超制圧合体デス・ディストラクションと名乗るクソダサ合体ロボットが行動に移る。


 『全武装、安全装置解除!!エネルギー充填開始!!』


 超制圧合体デス・ディストラクションの言葉と同時に周囲から紫電が迸り、エネルギーが超制圧合体デス・ディストラクションの武装へと供給されていく。


 「これは少し……いや、かなりまずい気がする!」


 しかし、床の揺れは収まったが今度は超制圧合体デス・ディストラクションへのエネルギーの供給によって暴風が吹き荒れ近づくことができない。


 なので一旦リーナとTD-66と合流する事にする。



 「リーナ!!無事か!?それにロボのほうも!」


 暴風吹き荒れる中、何とかリーナたちの元に辿り着く。

 リーナはTD-66の脚にしがみついていたが、そのTD-66は戦闘のダメージからか見るからにボロボロで超制圧合体デス・ディストラクションから攻撃が放たれたら、もう完全に破壊されそうな雰囲気であった。


 しかし、それでもTD-66は誇り高く最後までリーナを守ろうとする。


 『問題アリマセン……オ嬢サマハ……絶対ニ……守リ抜キマス……』


 その言葉に頼もしさを感じ、アビリティーユニットを構える。


 「そうか……なら、あれを何とか食い止めるぞ!」

 『当然デス……オ嬢サマヲ……オ守リスル為ニ』


 TD-66の言葉を聞いて魔術障壁を何重にも重ねて展開する。

 それでこれから放たれる攻撃を受け止められるかは不明だが、そうするしか今はない。


 こちらも攻撃をぶつけるにしても向こうの攻撃を相殺できるだけの威力がどれだけ必要かわからないのだ、ケティーの裏工作が成功するのを期待して今はこれでなんとか持ちこたえる。


 「さて……どうなるかな?」


 冷や汗をかきながら相手を見据える。



 超制圧合体デス・ディストラクションに供給されていたエネルギーの流れが止まる。

 そしてその体中から紫電が迸る。

 直後、超制圧合体デス・ディストラクションの目の前の空間が歪み、恐ろしいまでのエネルギーが凝縮された球状の何かが産み落とされた。


 『ははは!!エネルギー充填完了!!全武装ターゲットロックオン!!さぁ!この世界から消し去ってくれる!!ハイパーデス・グレネード!!……ファイヤー!!!!』


 超制圧合体デス・ディストラクションの叫びと同時に恐ろしいまでのエネルギーが凝縮された球状の何かが一気に膨張し、弾けて超制圧合体デス・ディストラクションの全武装の放った火力を吸収し、恐ろしいまでの威力をまき散らすビームとなってカイトたちの元へと放たれた。

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