SFの世界(4)
レーザーブレードを構えて隣に立つ警護ドロイドTD-66とともに制圧用警備ドロイドと対峙する。
一方の制圧用警備ドロイド2体は新たに乱入してきた自分の登録データを確認しようとこちらにカメラを向けてくる。
『スキャニング開始、データベースと照合、所有権の確認を行う。照合検索終了。登録該当データは存在せず、こちらも暴走個体の所有者ではないと認定。ただし市民登録データも登記ネットから確認できず不法滞在者の可能性あり』
制圧用警備ドロイドの1体がそう言うとこちらに胴体中程から細い注射針がついたロボットアームを展開させる近づいてくる。
リーナの時と同様、血液サンプルを採取しようとしているのだろう。
だが、そんなのはお断りだ。
「生憎と、この異世界に生体データを提供する気はないんでな!遠慮させてもらうぜ!!」
言ってレーザーブレードを振るって注射針がついた細いロボットアームを斬り落とす。
近づいてきた制圧用警備ドロイドはロボットアームが斬り落とされたのをカメラで確認すると警告を発する。
『機体の一部を損傷、不法滞在者らしき者からの敵対行動を確認。これより自己防衛プログラムを発動。ロボットから人間への殺傷を禁止するプロテクトの限定解除を申請……認可されました。これより対象を暴走個体、特殊類似人類と同様、排除対象と認定します。警告!警告!現在フロアにいるお客様ならびに従業員は直ちに避難してください。これより排除行動を行います。大変危険ですので当フロアからの避難を開始してください。警告!警告!』
制圧用警備ドロイド2体の警告を受けて集まっていた野次馬たちが一斉に慌てて散り散りに逃げ出す。
その混乱に乗じて自分と一緒に乗り込んできたケティーはリーナが庇った中古販売店の店員と客の首根っこを捕まえて物陰へと引きずり込み、こちらに声をかけてくる。
「川畑くん、こっちはこれから何とか裏工作してくるから持ちこたえて!」
「あぁ、あの制圧用警備ドロイド?ってやつはできるだけ壊さない方がいいんだよな?」
「できれば壊さず持ちこたえて欲しいけど、多分そうもいかないだろうから最低1体が損傷した状態でも残ってるか、動力源が無事なら問題ないよ!」
ケティーはそう言うと裏工作を行うため物陰へと姿を消した。
そんなケティーが残していった言葉にため息がでそうになった。
「まったく……動力源が無事ならって言われても、素人の俺には地球とは圧倒的に技術力が違うSF世界のロボットの動力源がどこにあるかなんて検討もつかねーよ。踏み込んで攻撃しずらいな……」
言って隣に立つ警護ドロイドTD-66に尋ねようとして、首を振る。
(こいつに聞いてもダメだ……何せケティーの話じゃこいつは70年も前のロボットなんだから、最近のロボット事情は分からないだろう)
そう思ってとりあえず適当にレーザーブレードを振り回して、リーナから引き離しつつ時間を稼ぐしかないかと動こうとしたところで制圧用警備ドロイドの様子がおかしくなった。
2体の制圧用警備ドロイドはブルブルとその長い筒のような胴体を震わせると、胴体中程から出ていたプロペラがついた棒を切り離したのだ。
制圧用警備ドロイドはそのプロペラで宙を浮かんで飛んでいたはずだが、しかしプロペラを切り離しても制圧用警備ドロイドは宙に浮かんだままだった。
「いや、プロペラで飛んでたんじゃなかったんかい!!」
思わずツッコんでしまったが、プロペラなしで飛翔できるなら最初からそうしておけよ!と思うのは仕方がない事だ。
その直後、ガタ、ガタ、ガタ、と床から蓋が開くような音がして、フロアの至るところで床の穴を塞いでいた蓋が開いて深く狭い穴が姿を見せていた。
それらの穴の奥底から耳をつんざくような爆音を出して、何かが射出される。
「な、なんだ!?」
それらは勢いよく床の穴から飛び出すと天井近くまで一気に飛んでいき、空中で集結するとフロア天井近くを周遊して隊列を組むと何かを待つように空中で静止して待機する。
その隊列を組んで空中で静止したそれらは一体何なのか?
最初は速すぎてまったくわからなかったが静止した今、よく見ればそれらは腕のように見えなくもないものもあれば、脚のように見えなくもないものもある。
そして棘のような何か尖った細かいものも複数あり、SF映画に出てきそうなブラスター銃もあった。
そして、それらの配置はまるで、胴体が抜けた状態で腕は腕の位置に、脚は脚の位置に、ブラスター銃は腕の横と、この後何が起るのか容易に想像できるものになっていた。
「……こいつはひょっとしなくても、まさかいくらなんでも地球基準で見たら近未来SFバリバリ全開世界だからってそれはないよな?」
そう言った直後だった。
制圧用警備ドロイドがお決まりの言葉を発する。
『人間への殺傷を禁止するプロテクトの限定解除を受けての武力行使に対する最終の承認がなされました。これより対人殺傷モードへとアップデートします。制圧合体、開始!!』
制圧用警備ドロイドが発したその言葉を聞いて思わず渇いた笑いを浮かべてしまった。
「あー、やっぱり言っちゃったよ……てかSF全開な世界でも合体って言っちゃうのね……」
そんな事を言ってる間に制圧用警備ドロイドが長い筒の底から何かを噴出して勢いよく飛び立つと、そのまま上昇して隊列を組んで空中で静止している群れの中の空いた胴体部分に陣取る。
すると、制圧用警備ドロイドの長い筒のような胴体に何かがくっつきそうな穴が複数空いていく。
そして、その穴へと周囲に静止していた群れが一気に近づきくっついていく……否、合体していく。
長い筒のような胴体上部に腕がくっつき、胴体下部に紫電を纏わり付かせながら脚部が合体する。
そして装甲のようなパーツが胸部から腹部に装着し、背中に無数の棘のようなものがガシャガシャと音を立てながら装着していく。
肩のアーマーが取り付き、そこにも棘のような突起が装着する。
また顔のように見えるカメラは兜のようなものに覆われていき、最後に腕の可動を確認するように右手を前に突き出して手のひらを広げて力強く握り拳を作る。
そして左手でブラスター銃を掴むと合体が完了したのか、そのまま床へと勢いよく降りてきて着地した。
決めポーズでもすれば言うことなしのスー○ーロボット大戦にでてきそうな姿がそこにはあった。
『制圧合体完了、これより対象の排除を開始する』
制圧合体ver.となった制圧用警備ドロイド2体がブラスター銃をこちらに構えてくる。
それを見てアビリティーユニットにアビリティーチェッカーを装着、魔術障壁と魔法の能力をタッチする。
「くるぜ機械の騎士さんよ、準備はいいかい?」
『問題ナイ……オ嬢サマ……オ守リスル』
警護ドロイドTD-66の言葉を聞いて小さく笑うとレーザーブレードを真上にかざす。
そして一気に振り下ろした。
「それじゃあいくぜ!!」
叫んでレーザーブレードを振り下ろし、光の刃を放つ。
それを開戦の狼煙ととったか制圧用警備ドロイド2体も一気に動く。
目にも止まらぬ速さでブラスター銃を構えると素早く光線を撃ち込んでくる。
とはいえ、ブラスター銃が放った光線は魔術障壁で簡単に防ぐ事ができた。
しかし、それはこちらが放った攻撃も同じ事。
レーザーブレードを振り下ろして放った光の刃は制圧用警備ドロイドの周囲に発生したバリアのようなものに阻まれてしまう。
「ち!だったら色々試すまでだ!!」
レーザーブレードを再びかざし、今度はレーザーの刃に紫電を纏わり付かせる。
そして、その紫電はかざしたレーザーブレードを中心に、周囲の電気を吸収し、吸収しきれなくなったぶんを放電をしてエネルギーを増す。
「くらえ!!ライトニングクラッシュ!!」
十分に帯電したレーザーブレードを振り下ろして雷撃の一撃を放つ。
しかし、その一撃も制圧用警備ドロイドがどこからか取り出した避雷針によって無効化される。
「なるほどね……だったらこれはどうだ!!」
次なる一手を仕掛ける。
その頃、同じく警護ドロイドTD-66も制圧用警備ドロイドと戦闘をはじめていた。
制圧用警備ドロイドがブラスター銃で光線を放つが警護ドロイドTD-66はそれを拳を突き出して受け止める。
警護ドロイドTD-66に損傷は見られなかった。
『旧式とはいえ、装甲が頑丈。他の対策を検討』
制圧用警備ドロイドはそう言って新たな武器を床から排出して手に取る。
それは巨大なランスであった。
『装甲を削ぎ落としを検証』
制圧用警備ドロイドはそう言って警護ドロイドTD-66へとランスを突き出し突進してきた。
それを警護ドロイドTD-66は両手で受け止める。
『オ嬢サマ……オ守リスル……今度コソ』
警護ドロイドTD-66の戦っている背中を見てリーナは思い出す。
本来なら自分が持ってないはずの記憶を。
そして、思う。
(これは偶然だろうか?この世界に来た事も、暴走したあの子に出くわした事も……いや、違う。きっとこの日のためにわたしは……)
リーナは前を見据える。
自分を守って戦ってくれているあの子の勇姿を見逃さないために。




