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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
2章:最初の異世界

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最初の異世界(2)

 山道を抜け街へと続く街道に出たわけだが、そこでおぞましい光景を目にしてしまった。


 「なんじゃこの列は!?」


 街道を大量の馬車やリヤカーを押してる商人たちが占拠していたのだ。

 いや、占拠というよりか前が詰まって先に進めず立ち往生しているといった所か。イベントで大量の人が訪れ長蛇の待ち列が発生、待ち時間○○時間というニュースが思い出される。


 「これ、街にたどり着くのはいつになるんだ?」


 ゲンナリしていると前にいる商人の方が話しかけてきた。


 「キミ、見慣れない格好をしているがリバールの街には商売をしに来たのかい? その割には随分と身軽な様子だが盗賊にでも襲われて根こそぎ持っていかれたのかい?」


 不思議そうにこちらを見つめてくる商人の言葉にどう返答しようか迷う。

 何せこの世界の知識がまだ何もないのだ、下手なことは言えない。今から行く街がリバールという名前らしいのはわかったがさて、どうしたものか……


 「いやー、観光でこの辺りを旅してるんですけど困りましたねーなんだが商人のみなさん先に進まないみたいで……はははは、困った困った」


 愛想笑いを浮かべながらとりあえずそれっぽい事を無難に言ってみる。すると商人はなるほどと言った表情を見せた。どうやら納得したらしい。


 「観光か、こんな時期にこの辺りを旅するなんて命知らずだね? まぁ腕に自信がある冒険者なのだろうがあまりお薦めしないな……魔王討伐軍に入隊希望って訳でもないんだろ?」

 「え? え……えぇ、まぁ、観光ですからね……ははは」


 魔王討伐軍? この辺りは危険って、この辺り魔王出るのかよ?

 ということはそれを討伐する勇者的なのがいるってことだな……転生者か転移者か召喚者の候補だな

 もしくは魔王のほうか?


 「観光だとしたらこの先の南門は商人専用だから東門へ向かった方がいいよ」

 「へ?」

 「この街道では街に入るための商人の荷物の検閲順番待ちだからね」

 「なるほど」


 それでこんな状態になってるわけか、こぞって商人が押しかけてきて役人の仕事が追いつかないってわけだ。

 商人はこの街道から逸れて少し行ったところに別の街道があり、その街道なら東門にたどり着けると教えてくれた。

 その東門は街の住人や旅人、冒険者が街の内外へ行き来するための門であり商人専用の南門ほど混雑はしていないからすぐに街に入れるだろうとのことだった。ちなみに北門は軍や領主様専用の出入り口で一般人は近寄ることもできないらしい。

 まぁ、そっちは行く用事もないだろう。


 教えてくれた通りに行くと別の街道にたどり着けた。

 道中、何かモンスターだったり盗賊に襲われるのか? と警戒したが特に何かに遭遇することもなかった。

 商人がこの辺りは旅するには危険と言っていたが取り越し苦労だったようだ。


 街道を進み、ようやく街の東門に着いた。

 確かに人の行き交いはあるが地獄の商人待機列はない、スムーズに街に入ることができた。



 港町リバール、ここは貿易都市であるため交易品が市場にはたくさん並び活気に溢れているようだ。当然漁業も盛んで新鮮な魚介類が特産品であるらしい。

 また高級リゾート地としての一面もあり、王侯貴族たちの別荘がある地区と地元民、交易で訪れた人たちの地区は明確に区別されている。

 しかしリバール最大の特徴は交易、漁業、リゾードの海として有名ながら軍港としての機能を最も最優先させている点である。

 たとえ経済に支障が出ようと有事の際には他国の交易船すら接収して軍が徴用することもしばしばあり、王侯貴族のプライベートビーチだろうと軍が接収して臨時の分屯地にすることも日常茶飯事なのだとか。


 そんな街、王侯貴族や商人たちは嫌がりそうなものだが、それを差し引いても余りある魅力がこの街にはあるということなのだろう。


 街に入って色々と聞いて得た基本情報がこれだ。

 とは言っても詳しい郷土史の話になると理解できないワードや概念がちらほらと出てきて完全には把握することはできなかった。しかしこれは無理もないことである。


 そもそもなぜこの異世界の言葉を理解できるかと言えば神を自称するカラスのカグが次元の狭間の空間のアビリティーユニットをメンテナンスする施設に用意したラーニングマシーンのおかげだからだ。

 ラーニングマシーンは異世界の言語を短時間でマスターする装置でわかりやすく言えばド○えもんの翻訳○んにゃくみたいな物である。


 とはいえ、これはあくまで付け焼き刃であって大雑把に日本語と異世界語を翻訳するだけで完全な意味の理解はできない。

 これは当然で、言語とはその民族がその土地の文化、風習、経験、歴史、信仰を元に日々変化していくものであり、言葉の持つ意味は出来事(歴史)の積み重ねで出来ていくものであるからだ。


 同じ地球言語でも日本語にはあって外国語にはない表現があり、外国語にはあって日本語にはない表現、意味がある。それらを似たような意味で解釈することは可能だが、完全に同一の意味で翻訳することは至難の業だろう。

 同じ地球人でこれなのだ、辿った歴史も認識も信仰も価値観も共有する世界観も違う異世界では尚更完全な翻訳など不可能だろう。


 仮にこの異世界に転生なり転移なり召喚された者らなら、この齟齬を埋めるため図書館なり学者の史書室なりをあさり、書物を紐解き歴史を学び価値観の共有化を図るだろう。この先もここで生きていかなければならないのだから。

 知識がなければ恐らく会話が時に成り立たない時もある。この世界独自の言い回し、ことわざ、文法、ジョーク……それらが生まれた背景は地球とは違う歴史を辿った異世界のことを詳しく知らなければ理解できない。


 とはいえ、それはあくまで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 転生者でも転移者でも召喚者でもない、異世界渡航者の自分にとってはある程度の意味が理解できたらそれでいい。

 もとよりこの世界の事情に首を突っ込むつもりはないのだ。話の概要さえ理解できれば後の細かいところは気にしなくていい。

 要はこの世界にいる転生者なりを見つける材料さえ手に入ればよいのだから。


 「ふーむ……しかし、これは少し厄介だぞ」


 この街は有事の際にはたとえ王侯貴族の土地だろうと無慈悲に接収する軍事都市でもあり、まさに今がその状態らしい。

 南門に商人が大量に押しかけてたのもどうやらそれが原因らしく、この地に集った各国の軍人や傭兵、冒険者相手に商売ができると踏んだからのようだ。実際、武具の露天市やビアガーデンのような青空酒場が多く目に付く。

 そして、この状況はつまるところ魔王討伐軍の編成が発端らしい。


 この海の向こうには1年中霧に包まれた魔境と呼ばれる大陸があり、そこに魔王城があるとかなんとか……

 そして海から渡ってきた魔王軍との間で長らく戦争状態にあったが勇者の活躍でこれを押し返し、いよいよ勇者一行を筆頭に大規模な魔王討伐軍を編成し魔境へと乗り込む史上最大規模の海を渡っての上陸作戦を控えているとのことだった。


 「恐らくはその勇者が転生者か転移者かなんだろうな……」


 色々と話を聞いてみたところ、勇者を召喚したなどという話は聞かなかった。

 ある日突然、彼は現れたという噂話もちらほらと聞いた。つまりは転生者か転移者。


 「しかしどうやって接触する? この街の中で偶然に会える可能性は低いし、勇者がどこにいるかまでは知らないみたいだし……」


 冒険者とやらはビアガーデンで見かけたが魔王討伐軍の中心人物である勇者がそんなところで飲んではいないだろう。だとすれば軍の駐屯地か王侯貴族さまエリアだろうか? だとすればかなり厳しいぞ?

そこにどうやって入ればいいんだか……

 それにいよいよ魔王のいる大陸に上陸作戦しかけるて……それゲームやら漫画やらじゃ終盤の展開じゃないのか? 完全に次元の亀裂を開けまくった後じゃねーのか?


 「ほんと困ったな……もう少し聞き込みをして情報を仕入れるか?」


 そう思って途方に暮れていると突然後ろから声をかけられた。


 「あの、何かお困りですか?」


 振り返るとショートカットの金髪碧眼の可愛らしい少女がいた。

 年齢は自分と同じくらいだろうか? 身長は自分より低い。

 冒険者達が着ている服装をしておりベルトには短剣と背中にボウガンを背負っていることから、この少女は魔王討伐軍に参加する冒険者なんだろう。


 「いや、困ったというか何というか……今話題沸騰中の勇者さまに会えないかと考えていたところでしてね……」


 特に期待はしてなかったが、冒険者なら何か情報があるかもしれないととりあえず言ってみた。するととんでもない答えが返ってきた。


 「勇者さまに会いたいんですか? もしかしてお知り合いか何かですか?」

 「いや、まぁ……そんなところですかね?」

 「やっぱり!! その格好そうじゃないかって思ってました!!」

 「へ?」


 この学生服を見て勇者の知り合いじゃないかと思った? もしやこの子……勇者の仲間か?


 「勇者さまのお知り合いなら心強いです! ご案内しますよ!」


 満面の笑みで少女はそう言った。あれ? これは案外はやくたどり着いたんじゃないか?


 「そう、だったら案内してくれないかな?」

 「はい! 喜んで!! あ、私ラーゼっていいます!」

 「俺は川畑界斗。よろしく」


 そう言って握手を交すとラーゼは繁華街へと歩き出した。

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