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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
9章:ギルドの街

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次元の狭間の空間にて(3)

 オロオロとするリーナが見守る中でのフミコとケティーのいつもの喧嘩が終わったのを確認すると、一息ついて本題に戻る事にした。


 うむ、もはや2人の争いは日常茶飯事であり、ならば止めに入るだけ無駄だろう……

 リーナがこの達観の域に到達できるかはわからないが、そのうちに気付くはずだ「また始まった」と。


 「で……ケティーが費用を出してくれるという事だから、どういった感じの警備を施した改修をするかなんだけど……」

 「え?マスター、放置なの?2人の喧嘩は放置なの!?」

 「リーナちゃん、今はどういった具合にセキュリティーを強化するかを話し合っているんだ。いいかい?」

 「あ……ハイ、そうですね」


 いいのかそれで?といった表情をリーナはするが、まずは話を先に進める事が先決なのだ。

 それに下手に2人の喧嘩に介入すると。


 「「(かい君は)(川畑くんは)どっちの味方なの!?」」


 と問い詰められるのでできるだけ放置するに限るのだ。


 「それで建物の改修なんだけど……」

 「川畑くん、それなんだけどさ」


 そう言って改修資金提供者のケティーが手を挙げてニヤリと笑う。


 「何か案でもあるの?」

 「そう、あるよ案。というか改修の費用を出すのは私だし、私が納得するセキュリティーじゃないとね!」

 「……まぁ、それは一理あるよな」

 「そういうわけで私が安心できる場所に改修したいわけよ」

 「ほう、それで?」

 「なので、妥協せずここはセキュリティー厳重な超ハイスペックなシステムを導入したいってね!」

 「……ん?」


 なんだか嫌な予感がするのは気のせいだろうか?

 そんな自分の予想はどうやら当たったようで。


 「今回の異世界は規制が緩和されてるんでしょ?だったら遠慮なく超高度な文明の技術を!セキュリティーテクノロジーぶち込んでやろうぜ!!」


 とんでもない事をケティーが目を輝かせながら言い出した。

 テンションも高くガッツポーズまで取っている始末だ。

 費用を負担してくれる以上はそのやる気を損なわせるのはよくないのだが、さすがにそれはまずいんじゃないのか!?


 「お、おいケティー。いくらなんでもそれはやりすぎないか?」

 「川畑くん……セキュリティー厳重にすることにやりすぎもくそもないよ?それとも何かあった時に想定外の事態って言葉を使えば何でも許されると思ってるわけ?」

 「へ?いや……それはまぁ、最悪の事態は想定しとけよって思うけど」


 そう言うとケティーはさらに鼻息荒く力説する。


 「そう!最悪の事態の想定に上限なんてないんだよ!!だったら妥協せずにガンガンいこうぜ!!」

 「なんかケティー、キャラ変わってね?」

 「そんな事ないよ?それよりも、やるからには徹底的にセキュリティー厳重にするからね!!当然でしょ!!あの異世界の文明技術レベルに合わせたセキュリティー対策なんて安心してコーヒー一杯すら飲めないわよ!」

 「すげー言われようだな、あの異世界の技術レベル……まぁ、言いたいことはわからなくはないが」


 渇いた笑いを浮かべるとテンションの高くなったケティーはそのままリーナの手を取ると。


 「あと、ついでにリーナちゃんの護身用のグッズも買ってこよう!」


 そう言って笑顔を見せる。

 確かにいくらギルド本部の建物をセキュリティー厳重にしても外に出掛けてるときに襲われたら意味がない。

 リーナが最低限、自分で身を守れる程度の装備を調えるのは重要だろう。

 ただし、ケティーの今の勢いだと確実にあの異世界の技術レベルからはオーバーテクノロジーな装備になりそうだが……


 「そうだな……まぁリーナちゃんの護身グッズも含めて、ケティーが思う改修にしたらいいよ」


 そう言うとケティーは笑顔で「やりー!」と言うと懐からムーブデバイスGM-R79を取り出し。


 「じゃあさっそく買い出しに行こう!」


 ガラケーのような折りたたみ式のデバイスを開いて操作をしだす。


 「とりあえずリーナちゃん、私の手を離さないでね?」

 「うん、わかったよケティーお姉ちゃん」

 「あと川畑くんも肩に手を置くなり、袖を掴むなりしといて」


 ケティーのそんな言葉に思わず驚いてしまう。


 「え?それって俺も買い出しに行く別の異世界について行くのか?」

 「当然でしょ?川畑くんはギルドマスターなんだから、その本部の建物をどういう風にするか最終決定は川畑くんが下さないと」

 「……いや、それはこういうセキュリティーのにするって連絡くれたらよくない?」


 そもそも、次元の狭間の空間がどの異世界にも到着してない状態ならいざ知らず、異世界に滞在している状態で他の異世界に行って大丈夫なのだろうか?

 そんな心配をするが、しかしケティーはその点は気にしていないようだ。


 「私がお金を出すし、私が望むセキュリティーにするって言っても川畑くんが最終判断しないと意味ないからね?あと問題解決してない異世界から別の異世界に移動するのをためらってるんだろうけど問題ないんじゃないかな?私のデバイスで移動するわけだし、少しの間買い物に出掛ける程度でしょ?」


 ケティーはそう言うがそれを判断するのは俺じゃないんだよな……

 まぁ、もしダメならカグがなんか言ってくるだろ。

 そう思って同行する事にする。


 何にせよ、お金を出してくれるケティーのやる気を損ねてしまったらそもそもお金を出してくれなくなってしまう。

 ここはついて行くべきだろう。


 「わかったよ」

 「じゃあ川畑くんもはやく私に触れて!あ、さすがにリーナちゃんがいるからエッチなお触りは今はやめてね」


 おい、そんな事言ったらフミコがまた……


 「おい、ケティー?」


 案の定、フミコが物凄い形相をしている。

 あー、これはまずいなと思ったが、ケティーはさらっと流す。


 「あーはいはい、冗談くらいちゃんと冗談とわかろうね?」

 「おい!そんな事言って!!」

 「だからリーナちゃんも一緒なんだからやましいことはしないって!それよりフミコ、あんたは怪我人なんだから大人しく留守番しといてよ?」

 「は!?あたしはここに残れって?」


 そう言われたフミコはベットから立ち上がろうとして、すぐに痛みを感じたのか、服を着ているからわからないが、恐らくは包帯が巻かれているであろうあたりを押えて苦悶の表情を浮かべる。

 そんなフミコを見てケティーはため息をつく。


 「ほら言わんこっちゃない……当然でしょ?そもそもあんたの怪我が治らないことにはドルクジルヴァニアには戻れないんだから」


 ケティーの言葉にフミコがぐぬぬぬと言いたげな表情で感情を抑え込むと。


 「わかったよ!だったらさっさと行ってさっさと戻ってきてよ!」


 そう言ってケティーを睨んだ。

 一方のケティーは軽い調子で手をひらひらさせながら。


 「あーはいはい、それなりに善処するよ」


 そう言うとムーブデバイスを操作しだす。


 「じゃあ行くよ!川畑くん、はやくどこでもいいから私に触れて!」

 「お、おう……」


 ケティーに急かされたので慌ててケティーの肩に手をかけようとすると、物凄い形相でフミコに睨まれたので、肩に手をかけるのをやめて服の袖をつまむだけにする。


 「じゃあ、行ってくるよフミコ!」


 そう声をかけるとフミコは笑顔で「ケティーには気をつけてね!」と返してきた。

 うん、あの笑顔は笑顔だけど笑ってないな……戻ったら何か埋め合わせしないとまずいかもしれない。


 でも、建物の改修費用の埋め合わせでケティーから今後デートを迫られるかもしれないが、それにもフミコはきっと反発するだろうから、そこにも埋め合わせが必要なのだろう……


 (おかしいな……俺は別段モテ男でもなんでもないのに、何かとてつもなく修羅場ってるよな?一体何が起ってるんだ?)


 そんな事を考えているとケティーのムーブデバイスが作動し、次元の狭間の空間から別の異世界へと移動を開始した。




 「かい君大丈夫かな?……ケティーのやつ、本当にかい君に手出したら許さないんだから!」


 フミコは3人がムーブデバイスで異世界へと移動して病室から消えた後、そう呟くとため息をつく。

 今は怪我を治すことに集中しなくちゃいけない。

 しっかりと療養して完治を早めることがカイトのためになる。

 そう言い聞かせてベットの中に入る。


 「……1人きりか、なんだか寂しいな」


 そう言って天井を見上げながら包帯を巻いている箇所を軽くさする。

 そして思い出してしまう、あの光景を……

 自分ではなくザフラとかいうあの女がカイトの隣にいる光景を……


 (ダメだ……考えちゃダメだ!あんなのは現実にはありえない!かい君があたしとは違う……あのザフラとかいう奴と一緒にいてあたしに気付かないなんて絶対に!!)


 考えて、不安を払拭しようと心の中で何度も否定する。

 それでも本当にそうだろうか?という思いは消えない。

 拭えないのだ。


 ここにカイトがいない事、次元の狭間の空間に1人残された事で余計に考えてしまうのだ。

 自分は本当にカイトの隣にいていいのかと……

 その事をちゃんと求められているのかと……


 「はぁ……1人だと考えが悪い方向に行っちゃうな……気分転換しないと」


 そう言ってフミコは本を取り出した。


 それは古文書だ。

 信憑性は高くはないが、日本の古の呪術について記された本。

 言うなれば古神道の原書とでも言うべきか。


 (鬼道がどう進化して古神道に、そこから神道に昇華したかは文献がないから整合性はわからない……でもできる限り古い文献を漁ればその道筋は見えてくる。鬼道から古神道への進化がたとえ仮説でもわかれば呪術として取り入れて進化させられるはず!そうすればあたしの呪術も強化できる!)


 フミコは本を読み漁る。

 ザフラとの戦いで痛感したのだ。自分の呪術では及ばない部分が沢山あると……

 今のままでは再戦しても勝てない。

 だからこそ自身の呪術を進化させなければならない。


 (あたしとかい君の時代とでは1800年近い時間差がある……その時間差で生じた呪術の変化を学んで取り入れないと、これから先またかい君に迷惑をかけちゃう)


 フミコはひたすらに本を読み漁る。

 鬼道を……その呪術を昇華させるために。





 「ついたよ!」


 ケティーがそう言うと目をつむっていたリーナが恐る恐る目を開いて、辺りを見回す。

 そしてその光景にビックリして口を開けたまま固まってしまった。

 まさに開いた口が塞がらない状態である。


 しかし、それは無理もない。

 何せ自分もその光景に言葉が一瞬でなかったからだ。


 目を見張るほどの巨大な摩天楼が建ち並ぶ大通り、十字路には行き先案内なのだろうか?

 空中に浮かぶ投影された案内パネルが出現したり消えたりを繰り返している。


 いたるところに一目見ただけでは説明しようにも説明できない、とてもメカニックでどう操作したらいいかわからないようなものが設置されており、建物の入り口もアナログなものはまったく見当たらない。


 そして地上をタイヤで走る車は存在せず、車はすべて宙に浮いて高速で上空を飛び交っている。


 なら地上を行き交っているものは何か?

 ドラム型のロボットやボール型のロボットだ。

 一体何をしているのかはさっぱりわからないが、地上は彼らの仕事場であり、人を乗せた乗り物はすべて上空を浮遊しているらしい。


 どこを見てもアナログなものは存在しないように思える光景。

 まさに地球人類誰もが思い描く近未来の姿だ。


 そう、まさにそこはSFの世界、そのままであった。

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