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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
9章:ギルドの街

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決着

 リーナとケティーの放った弾丸をくらったザフラは激突した廃墟となった家屋の壁から地面へとずるずると滑り落ちていくが、そんなザフラが地面に倒れるとその後ろにはもう1人のザフラが肩で息をしながら立っていた。


 「はぁ……やべーさすがに今のはビビったぞ。追加でパラレルワールドから1人呼び出して身代わりにして正解だったぜ」


 言ってザフラは地面に落ちているクファンジャルを拾って舌打ちする。


 「ちっ、さすがに『スラッシュ』の効果は切れてるか……クソが! 他のスキルと違って『スラッシュ』『ブラスト』『チャージ』は1度使ったらそこで効果が切れてしまうのが欠点だな」


 そう言ってクファンジャルを構えてフミコの元へと歩き出す。

 さきほどの攻撃は遠くにいるフミコの仲間からの援護射撃だろうが、また攻撃されても身代わりを呼び出せばいい。

 ザフラはそれよりもまず憎き相手であるフミコを殺すことを優先する。


 フミコにはまだ『ハルシネイション』の効力が効いており、焦点の定まらない目をして隙だらけの棒立ちの状態だ。

 『スラッシュ』の効果が消え呪力の刃が消えようとも、クファンジャルで十分に切り刻んでじっくり殺すことができる。


 とはいえ、さきほど攻撃してきたフミコの仲間が再びフミコを守るために攻撃してくる可能性は高い。

 身代わりを呼び出してもじっくりと殺す時間はないだろう……

 しかし、だからと言って目の前にいる無防備な憎き相手を見過ごすなどありえない話だ。


 「くっくっく……ようやく簒奪者をたっぷりいたぶって殺せるんだ。止められるかよ!」


 そう言ってザフラはフミコへと近づいていくが、そこで思わぬ邪魔が入った。


 「待て、ザフラ」

 「あ?」


 ザフラに声をかけたのは死霊術士のような格好をした何者かだ。

 その事にザフラはブルカで表情が窺えないながら、あからさまに不機嫌そうに振り返る。


 「なんだハーフダルム、今いいところなんだから邪魔すんなよ!」

 「あぁ、邪魔する気はなかったんだがな……残念だが潮時だ、引くぞ」

 「……はぁ? 何言ってんだてめー」


 死霊術士のような格好をした何者かの言葉にザフラはブチ切れてクファンジャルの剣先を死霊術士のような格好をした何者かに向ける。


 「どういうつもりだハーフダルム! すぐにでも簒奪者を殺せるのに引くだと? 正気か?」

 「あぁ、正気だとも。撤退だ、何度も言わすな」


 ザフラと死霊術士のような格好をした何者かはしばしの間睨みあう。

 そうした後、観念したようにザフラはクファンジャルを下した。

 下して怒鳴りつけた。


 「ふざけんな!! 簒奪者を殺せるこの局面で撤退だと!? てめーバカにしてるのか!?」

 「なら聞くけどよ、殺せるのか?」

 「あぁ!?」


 死霊術士のような格好をした何者かが小馬鹿にしたように言ったのでザフラはブチキレてしまった。


 「ハーフダルム、てめー! まずはてめーから殺してやろうか!? あぁ!?」

 「はん、そういきがるなザフラ。お前じゃ俺に勝てないし、そもそもあの簒奪者を殺しに行ってる時にまた敵の援護射撃をくらったらどうする?」

 「なめてるのかハーフダルム? 援護射撃がくる前に殺せばいいだけだろ?」


 ザフラのその言葉を聞いて死霊術士のような格好をした何者かが大声で笑う。

 それを見てザフラはさらに怒り狂う。


 「何がおかしい!!」

 「ザフラ、お前にそれは無理だ。さっと行ってさっと殺してくるなど、お前の妬み恨みが邪魔してできないな? それができればとっくに殺してるはずだ。確信するがお前は必ず、絶対にじっくり時間をかけて苦しませて殺そうとして、簒奪者を殺す前に敵の援護射撃で殺される。つまりこの状況下でお前はもう負けたも同然なんだ」

 「な……!?」


 死霊術士のような格好をした何者かの指摘にザフラは怒りに震える。


 「……ふざけんなよ! あのクソアマの簒奪者を殺せる局面で、おめおめと撤退しろだと? いつでも殺してくださいって状態に追い込んだってのに?」


 興奮して怒鳴り散らすザフラとは対照的に死霊術士のような格好をした何者かは極めて冷静に告げる。


 「そんな状態に追い詰めたんだ、この戦いはお前の勝ちだろ。今回はそれでいいじゃないか」

 「……ふざけるな!! 勝ち負けの話をしてるんじゃねー! そんな事はどうでもいい! あのアマを殺さないという選択肢がありえないって言ってんだよ!!」

 「まぁ、お前の気が収まらないというのは理解できるがな……だが今あの簒奪者を殺したところでお前の望む未来も、お前が望む居場所も手に入るわけじゃないぞ?」


 そう言って死霊術士のような格好をした何者かはあざ笑う。


 「むしろ自分の知らないところで相棒を殺されたと知れば、今度はお前がGX-A03の適合者(まるさん)から恨みつらみを向けられる存在となるぞ? そうなれば本来いるべきだった居場所を取り戻すなんて夢のまた夢だな?」

 「黙れ!! そんなもの覚悟の上だ!! その上でわたしは簒奪者を殺すと言ってるんだ!!」


 死霊術士のような格好をした何者かはザフラの言葉を聞いてやれやれと首を振ると。


 「まぁ、どっちにしろ時間切れだ。()()()()()()()。もうこれ以上は必要ないだろ」

 「……な!?」


 そう諭すがザフラは納得がいっていない様子だった。


 「てめー! もう少しくらい粘れよ!!」

 「おいおい、お遊びをさっさと切り上げろと言ってたのはお前じゃなかったか? 引き際を見誤るなよ」

 「……ち!」


 言われてザフラは渋々といった様子でクファンジャルを懐にしまう。


 「わかったよ! 簒奪者を殺すのは次の機会にとっておく」


 そう言ってザフラは懐からクファンジャルとは違う普通の果物ナイフを取り出すと、フミコのほうを向いて悔しまぎれに投げつける。


 「気が済んだか?」

 「答える気はねーな」

 「そうかい」


 死霊術士のような格好をした何者かは左腕のブレスレッドにはめ込んでいた懐中時計を外し別の懐中時計をはめ込む。


 『ナイト』


 懐中時計から音声がして死霊術士のような格好をした何者かが元の中世西洋甲冑のフルプレートアーマーに身を包んだ姿に戻った。

 そして装飾が豪華な金色の懐中時計を手にして蓋を開ける。


 直後、フルプレートアーマーの姿となった何者かとザフラの背後にまるでいくつもの歯車が動き重なり合うような懐中時計内部の精巧なムーブメントが投影される。


 それは2人を飲み込み、そのまま2人の姿は広場から消えてしまった。




 ギルド<ジャパニーズ・トラベラーズ>の本部である建物の屋根の上でカイトとジョセフの死体との戦いは続いていた。

 しかし、その戦いは目に見える形でカイト優勢に変わっていく。


 「はぁぁぁぁぁ!!!」


 レーザーブレードを振るい、ジョセフへと斬りかかる。

 一撃一撃をジョセフは防いではいるが、完全に最初の時のような勢いはなくなっていた。


 (精神力(オド)が底を尽きかかってるのか? 死体だから大量に精神力(オド)を使えば回復はできず消耗する一方ってことか!)


 思ってレーザーブレードを振るってジョセフのウィンドブレードを弾く。

 その隙をついてアビリティーチェッカーを素早くセットし素早くエンブレムをタッチする。


 そのタッチしたエンブレムは杖のマークに+2の表示がついていた。

 それは魔法の能力。


 その魔法の能力を発動して追撃をかける。

 周囲に無数の炎の玉と氷の礫が浮かび上がる。


 「くらいやがれ!!」


 それらをジョセフへと飛ばす。

 無数の火の玉と氷の礫をくらってジョセフはバランスを崩す。

 しかし、死体ゆえに体のダメージなどお構いなしにジョセフは風の魔法で体を支えようとするが、そこで生前にストックしていた精神力(オド)が底を尽きたようだ。


 風が発現せず、そのまま酔っ払いのようにフラフラとした足取りとなる。

 そして義手変わりになっていた腕に巻き付いた風も消え、杖からウィンドブレードも消滅する。


 その隙を見逃さずにレーザーブレードを真横に構える。

 するとレーザーの刃がさらに眩しく光り輝く。


 「いくぜ!! シャイニングアタック!!」


 叫んで真横に構えたレーザーブレードを力いっぱい振りかぶる。

 するとレーザーの刃から眩しいほどの光が巨大な刃となって放たれ、ジョセフの体を真っ二つに切り裂いた。


 「はぁぁぁぁぁ!!!!」


 そのままでは終わらずに振りかぶったレーザーの刃を勢いそのままに振り上げて一気に振り下ろす。

 すると巨大な刃はさらに巨大な光の壁となって屋根へと落ちてくる。


 ジョセフの死体はその光の壁にのまれ、光の中に消え去った。


 「はぁ……はぁ……はぁ……さ、さすがに秘奥義ほどじゃないが……この技は結構疲れるな」


 言って額の汗を拭う。

 一息つくと、再びレーザーブレードを構えなおす。

 まだ勝ったとは言い切れないからだ。


 (死体は今の一撃で消し去ったが、まだ何が起こるかわからない……油断はできないな)


 しかし、数秒経っても反撃が来そうな気配はなかった。

 なので警戒は怠らないにしても一旦は構えを解く。


 レーザーの刃をしまい、アビリティーチェッカーをセットして発動していたすべての能力を解除する。


 「ふぅ……さて、この惨状どうすっかな?」


 言って頭をボリボリと掻きながら屋根の上の散々な状態を見る。

 掃除して綺麗にしたばっかだが、補修を大工さんに依頼しないといけないかもしれない。

 屋根の上でこれだけ暴れたんだ、建物自体の耐震性も調べないといけないだろう。


 「まったく……まだギルドとして仕事を始めてもないのにもう出費が出るとはな」


 ため息をつきたくなったが今はそれは後回しだ。

 まずは死体を操っていた相手をフミコが倒したかどうかケティーとリーナに聞かなければならない。

 状況次第では援護に駆け付けないといけないだろう。


 (そうだ、まだ戦いは終わってない)


 だから屋根の端にいるケティーとリーナの元に向かおうとした時だった。


 「フミコお姉ちゃん!? ねぇ!! フミコお姉ちゃん!! 返事してよ!!」

 「ちょっとフミコ!! どうしたの!? 返事くらいしろっての!!」


 リーナの泣きそうな声とケティーの焦った声が聞こえてきた。

 その緊迫した声を聞いてただ事ではないと2人の元へと駆け寄る。


 「ケティー! リーナちゃん! 一体どうしたんだ!?」


 するとリーナが泣きそうな顔でこちらを見上げてきた。


 「マスター! フミコお姉ちゃんが! フミコお姉ちゃんがぁ!!」


 そう言うとリーナは泣き出してしまい、そのままお腹に抱き着いてきた。

 何が起こっているのか状況が飲み込めないが、何か悪い状況なのはわかった。

 なので泣きじゃくるリーナの頭を優しく撫でて落ち着かせる。


 「リーナちゃん、落ち着いて! とにかく冷静に何があったか教えてくれ!」


 しかしリーナは取り乱し泣き止む様子はない。

 困っていると、ケティーが焦った様子で説明してくれた。


 「川畑くん、実は……」




 「な……!? フミコが!?」


 ケティーの説明を聞いて、信じられないといった思いになった。

 現状、敵の反応は消えたがフミコの反応も消えかかっており、リーナ曰く、探知でこの反応がある時は瀕死の状態かそれに近い状態だという。


 それはつまり、敵は退けたがフミコもかなりのダメージを負ったということ。

 下手をすれば殺されかかっていたが、何らかの理由で敵がとどめを刺さずに撤退したという事だ。


 「フミコがそこまで追い詰められた? そんな……まさか!」


 しかし、考えなかったわけではない。

 フミコ1人を向かわせて、もしフミコが勝てなかったら?

 殺されてしまったら?

 捕えられてしまったら?


 最悪の可能性を想定してなかったわけではない。

 それでもフミコを信じた。

 フミコの強さをずっと見てきたからだ。

 だから送り出せた。

 任せることができた。


 でも、それが仇となった……


 「俺のせいだ……俺がフミコに対処を任せたばっかりに!」


 そう思わず漏れた言葉をケティーが即座に否定する。


 「それは違う! ちゃんとフミコの援護ができなかった私の責任よ」


 そう言ったケティーは両手でパンと自身の頬を叩くと気合を入れる。


 「川畑くん、今は一刻も早くフミコの元に向かうべきだよ!」


 ケティーのその言葉でようやく思考が正常になる。

 今は自身の判断を攻めて後悔している時ではない。

 何をすべきかははっきりしている。


 「リーナちゃん! フミコのいる場所を教えてくれ!!」



 「フミコーーーー!!」


 叫んで走る。

 瀕死の相棒の元へと……


 ケティーとリーナも後ろからついてくるが、今は走る速度を合わせてやる余裕はない。

 一刻も早くフミコの元に辿りつかなければ!


 「見えた! あの広場か!」


 リーナの探知ではすでに敵は広場にいないらしいが、かと言って油断はできない。

 敵がまだ潜んでいるかもしれないし、トラップを仕掛けて撤退しているかもしれない。

 だから最大限に警戒して広場に突入すべきなのだろう……


 だが、そんな理屈は無視して、一心不乱にフミコの元へと駆けていた。


 「フミコーーーー!!」


 それはなくしてしまうという恐怖心だろう。

 想像できないのだ。自分の隣にフミコがいない旅を……

 フミコが共にいない日々を……

 そう思うまでにフミコは自分にとってかけがえのない存在なのだ。


 だから、その姿が見えた時、胸が苦しくなった。

 地面に倒れ、腹に果物ナイフが突き刺さって血を流しているその姿を見た時、言葉に表せないほどの恐怖が沸いた。


 「フミコ!!!!」


 駆け付けてその体を起こす。


 「おい! フミコ!! しっかりしろ!! フミコ!! フミコ!!」


 その呼びかけにフミコは反応を示さなかった。

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