フミコ対ザフラ(7)
ザフラが巨大な呪力の刃を振るう。
それは違うことなく隙だらけのフミコを捕らえる。
(鬼道なんて言うが所詮はまだ呪力の扱いが定まっていない古代の呪術……日本の土着信仰にしてほぼ国教に近い神道の原型となった古神道、その原点。いわば大成してない未熟な呪い……そんなもん、屁の突っ張りにもならんわ!)
ザフラは勝利を確信した。
もはやフミコにザフラの斬撃を回避する術はない。
(勝った!!)
心の中でそう思ったザフラはしかし、次の瞬間……
「あ?」
撃たれていた。
「何……が!?」
目にも止まらぬ速さで光の弾丸が飛んできて右脇腹に直撃したのだ。
そのままザフラは直撃した弾丸によって肋骨を砕かれ、口から血をブルカで覆った内部に吐き出す。
砕けたのが肋骨だけで体の内側の臓器まで潰れなかったのは防刃ベストのおかげだったのかは不明だが、致命傷を負った事に違いはない。
そしてザフラはフミコへと呪力の刃を振り下ろすことなく、光の弾丸の威力に吹き飛ばされ、広場の端の廃墟となった家屋の壁に激突する。
「がはぁぁぁ!! い、一体何が!?」
ザフラはそのままクファンジャルを手放して地面に落とし、自身も激突した壁に沿う形でずるずると地面に滑り落ちていく。
果たしてザフラを吹き飛ばした光弾を放ったのは誰なのか?
時間は少し前に遡る……
「フミコお姉ちゃん!?」
リーナはインカムに呼びかけてもフミコがまったく反応しない事に慌てふためき出す。
「どうしよう、フミコお姉ちゃんから返事がない!!」
そんなリーナを見てケティーは慌てないように諭すが、内心では焦りを感じる。
(何やってるのよフミコのやつ!)
リーナによれば増えた敵の数はフミコの攻撃によって1体にまで減ったが、その1体が真っ直ぐフミコに向かっているという。
そしてフミコは何故かそれに反応していないのだ。
それどころか、こちらの呼びかけにも反応している様子もない。
(どうする!? 多分このままじゃフミコのやつ確実にやられる……)
ケティーはどうしようかと迷うが悠長に考えている時間などあるはずがなかった。
なので手にしている拳銃、スプリングフィールドXD-Sを構えると。
「リーナちゃん、一緒にこの拳銃を構えて!」
リーナに叫んだ。
錯乱状態のリーナはどうしたらいいのかわからないといった感じだったので、ケティーは強引にリーナを引き寄せてグリップを握らせる。
「銃の撃ち方はわかるね?」
「え? あ、はい……以前いたギルドで誰かが扱っているのを見た事があります!」
とはいえ、リーナの知っている銃とケティーが今構えてリーナにも一緒にグリップを握らせた拳銃とでは根本的に性能も何もかもが違う。
この異世界に存在する銃は地球で言うところのマスケット銃レベルのものしかない。
銃の黎明期であるマスケット銃、ゲベール銃や日本で言うところの火縄銃と現代の拳銃では持ち方や感覚に多少の誤差がある。
しかし、それを今はリーナに懇切丁寧に説明している暇はない。
なので一緒に拳銃を持って構える。
何せ千里眼の指輪による探知で正確な相手の場所がわかっているのはリーナだけなのだから……
とはいえ当然リーナの指示のもと、バカ正直にここから撃っても援護射撃にはならない。
何せ拳銃の射程は短いし、威力も弱い。
銃の射程は銃身の長さによって変わってくる。
護身用として手軽に持てる拳銃の有効射程範囲など身近な範囲のみだ。
また、弾丸のサイズも小さいため威力も限られる。
銃は射程が伸びれば伸びるほど威力は減衰する。
だからこそ、遠くにいる相手への殺傷能力を落とさないため、アウトレンジのための銃は銃身が長く弾丸のサイズも大きくなる。
そのどちらも小さい拳銃にアウトレンジの攻撃は無理なのだ。
しかし、今はそんな正論を振りかざしている暇はない。
なのでケティーは懐から切り札たるある物を取り出した。
「あぁ、もう!! 本当はこんな物使いたくはなかったし、一生使う気はなかったのに!!」
そう叫んだケティーが取り出したのは四角い板のような金属物であった。
それを拳銃の側面へと重ね合わせる。
すると拳銃の側面に四角い板のような金属物をはめ込むことができる窪みが生み出された。
その窪みに四角い板のような金属物がはまり込むと、そこから拳銃全体に電流が走る。
やがてそれは拳銃を握るケティーとリーナの体へと流れ込み、2人の体を目には見えない装甲で包んでいく。
そして、握っていた拳銃の外見も少し変化していた。
「ケティーお姉ちゃん……これって一体?」
「私の元いた世界……故郷にかつてあったアイテムってところかな?」
「元いた世界?」
「そう! これはマテリアル。私の育った国でかつて開発された究極の超合金。魔獣メディルに人類が対抗するために生み出した咎の証」
「魔獣メディル? 一体何なんですかそれ?」
リーナはわけがわからないといった表情をするが、今は昔話を聞かせている余裕はない。
なのでリーナの質問を無視して懐から1本の弾丸を取り出すと、素早くマガジンを外してその弾丸を押し込み最装填。
拳銃を構えるとケティーはリーナに叫ぶ。
「リーナちゃん、フミコの敵の場所を頭の中に思い浮かべて!」
「え? は、はい!」
「その場所を敵の動きを強く意識して!」
「はい!!」
リーナが集中したのを見て、ケティーは引き金に指をかける。
「使わせてもらうよ高木さん」
ケティーは小さい声で呟くと引き金を引いた。
直後、弾丸が銃口から放たれる。
それはただの弾丸ではなかった。
エネルギーを纏った光弾、しかもただの光弾ではない……
射程や軌道、遮蔽物など一切無視して、ロックオンした相手を半永久的に追尾する光弾なのだ。
リーナが位置を捕らえ、頭の中に思い浮かべたフミコへと迫る敵へとその光弾が一気に向かう。
恐るべき速さで飛翔し、急旋回し、フミコを回避する軌道を取ってザフラの脇腹へとヒットしたのだ。
「やりましたケティーお姉ちゃん!! 敵を吹き飛ばしました!!」
喜ぶリーナの報告を聞いてケティーは小さく笑う。
この1発だけの弾丸をくれた知り合いの事を思い出す。
「もしもの時のためにこれを渡しておく」
「……高木さん、これって?」
「放ったら最後、地獄まで追尾して絶対に外さない魔法の弾丸さ! とはいえ用意できるのは1発だけ、だから使いどころを間違うなよ?」
「ふぅーん……」
「あれ? 反応薄くない?」
「だって、私に必要ありますかね?」
「……あのな? これから突入するのは深淵の祭壇なんだぞ?何が起こるかわからないんだ。シンのやつは勿論のこと、俺やパットン、さやだって他人にまで気を配っている暇はきっとない、あの野郎だって……だからこれは身を守るために必要なものだ」
(今思えば浮遊岩の最深部に突入するのに護身用に渡されるのが弾丸1発って無茶ぶりもいいところだったけど、その1発をラスボスダンジョンで使わず温存して、異世界で恋敵を助けるために使うってこれ聞いたら高木さんどう思うだろうな?)
まったく因果なものだと思う。
あの決戦で時代を築こうと足掻いた最前線の彼らに追いつこうと、同じステージに立とうともし弾丸を消費していたら、今自分はフミコを助けられなかったかもしれない。
いや、他に援護する手段を模索して見つけ出していただろうが、結果がどうなったかはわからない。
(まったく……人生どう転ぶかわからないな)
ケティーは今自分がどんな顔をしているのかわからない。
だが、今は感傷に浸っている時ではない。
何せ、今の1発でマテリアルは何ともないが、拳銃の方はエネルギーに耐えきれずボロボロと崩れて粉々になってしまったのだ。
さきほどの攻撃は弾丸が1発しかないため、再度撃ち込むことはできないが、援護がまだ必要なら別の手段を考えないといけない。
「あらら……やっぱライジングマテリアルで強化、能力付与された弾丸には専用のマテリアルライザーでないと耐久値が追いつかないか……それで? リーナちゃん敵は倒せた?」
ケティーがリーナに聞くと、リーナは困った表情をした。
「それが……2人に増えてます」
「……は?」
リーナの言葉にケティーは思わず頭を抱えそうになる。
「どうなってるのよ? フミコが戦ってる敵は!?」




