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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
9章:ギルドの街

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フミコ対ザフラ(5)

 ザフラは左手でお腹を軽くさすってフミコに斬られた箇所が防刃ベストで無事なのを確認すると忌々しく思って舌打ちする。


 そして最終確認のため、もう一度幻影を数体出してそれら幻影にフミコを攻撃させる。

 しかし、フミコはそれらに反応しなかった。

 本物と同様の存在感に殺気を放つ幻影だが、それらが迫ってももはや攻撃をしかける素振りすら見せない。

 ただ本物のザフラを見据えて構え、幻影は気にせず微動だにしなかった。


 「なるほどな、『インビジブル』に続いて『イリュージョン』も突破されたか……まったくムカツクぜ」


 言ってザフラはクファンジャルを再び左手の籠手に突き刺して無数に巻き付けてあるハムサのひとつを斬り落とす。


 『サモン、パラレルシフト』


 そして斬り落とされ地面へと落ちたハムサから音声が轟いた。

 直後、ザフラの姿が再び7体へと増える。


 それを見たフミコは鼻で笑うと自信満々に言い放つ。


 「何度やったって同じだよ! その技はもう通用しない!」


 そんなフミコの言葉にザフラは小馬鹿にしたように返した。


 「そいつはどうかな? だったら……試してみるがいい」


 言って7体に増えたザフラはそれぞれクファンジャルを構えると一斉に動き出し、素早い動きで多方向に別れるとフミコを取り囲むような配置につき、そこから7体が一斉にフミコへと斬りかかってくる。


 それを見てフミコは焦らずにインカムへと問いかける。

 しかし……


 「リーナちゃん、本物はどの方向から来る?」

 『あ……あのフミコお姉ちゃん、その、()()7()()()()()()()()!』

 「……え?」


 インカムから聞こえてきたその報告にフミコは一瞬固まってしまった。

 敵が7体に増えた? 一体どういう事だろうか?

 まさかリーナにも幻影を探知させているという事だろうか?


 困惑しているとすぐ後ろから2体が斬りかかってきた。


 「今は考えている余裕はないか!」


 フミコは銅剣を振るって2体の斬撃を受け止める。

 さきほどまでの幻影と違って衝撃が伝わってきた。

 

 「これやっぱりどっちも本物!?」


 直後別々の方向から2体が交差するように斬り込んでくる。


 「しまっ……ぐっ!!」


 2体の攻撃を受け止めているため、それらに対処できず肩を斬りつけられてしまう。


 (このままじゃまずい!)


 痛みに耐えながら攻撃を受け止めている銅剣を力一杯大きく横に振って2体を弾くとその場から後方へと下がって距離を取る。


 「リーナちゃん、敵の数は7体で間違いないんだね?」


 フミコは斬られて血が出ている肩を押えながら聞く。


 『はい、間違いないです……突然増えました。それよりフミコお姉ちゃん大丈夫ですか? 怪我してないですか?』


 リーナの心配そうな声がインカムから届くがフミコは小さく笑うと。


 「大丈夫、()()()()()()()()()()! 心配しないで!」


 そう言ってリーナを安心させる。

 とはいえ、傷口はそんなに浅くはなくギリギリやせ我慢できるレベルのものだ。


 (戦闘継続が困難な負傷じゃないけど、長くは続けてられないってところかな? さっさと決着をつけないと!)


 そう思ってフミコは銅剣を構えて警戒しながら服の袖を噛んでそのままビリビリと引きちぎる。


 (お気に入りの服ではあるけど……仕方がない)


 思って引きちぎった服の袖でさきほど斬られた肩の傷口を縛って結ぶ。

 そして再び袖を噛んで引きちぎり最初に斬られた左腕を、今度は反対の袖を引きちぎって斬られた右足の傷口を縛る。


 (応急処置にもならないだろうけど、しないよりましだ)


 傷口を縛り終えると深呼吸して気持ちを落ち着かせる。


 「7体すべてが本物って言うなら……すべて倒すまで!!」


 足に力を入れると傷口を縛ったといってもやはり痛むが我慢する。

 速効で終わらせればすぐに戻って治療できる。

 そう自分に言い聞かせて一気に駆ける。


 一番近くにいるザフラへと銅剣を振り下ろす。


 「はぁぁぁぁぁ!!!」


 幻影を見せられる前の透明だった時から、さきほどまでの戦闘でフミコはザフラの動きの癖をなんとなく理解していた。

 だから相手の癖をつけば長引かせず短期戦で終わらせられると踏んだのだ。

 しかし……


 「ざーんねん、そうは問屋が卸さないよ?」


 言ってザフラはフミコの攻撃を難なくかわし、まったく寄せ付けなかった。


 「くそ! なんで!?」


 焦って攻撃が大振りになりそうになるが、冷静さを失わずにフミコはさきほどまで掴んでいた相手の癖を突こうとするが……


 「だから無駄だって……()()()()()()()()()()()()()

 「は?」


 斬りかかったザフラが発した言葉の意味がわからなかったが、直後、別のザフラがフミコへと襲いかかってくる。

 その動きも襲撃のタイミングや呼吸の具合もこれまで見せたものとまったく違った。


 「ぐ!?」


 ゆえに慌てて斬りかかっていたザフラから離れて銅剣を振るい、新たに迫ってきたザフラの攻撃を受け止めるが、その受け止めた時の衝撃の重さも今までと違った。


 「もらったぁぁぁぁぁ!!! そのまま抑えとけ!!!」

 「わかってらぁ!!」


 フミコが斬りかかった方のザフラが叫ぶと襲いかかってきたほうのザフラが応じた。

 その事にフミコは焦る。


 「くそ!!」

 「逃がさねぇよ!!」


 フミコは銅剣を振るってザフラのクファンジャルを弾き、その場から離れようとするがザフラはより接近して押し込んできて鍔迫り合いを止めさせない。


 「この!!」

 「ははは!! 見誤ったな簒奪者!! 短期決戦に持ち込めば勝てるとでも思ったか!?」

 「鬱陶しいな! 離れろ!!」


 フミコは叫ぶが力押しで押しのけられず、引いても引いた分だけ押し込まれて相手を崩す事ができない。

 左腕に肩や足を斬られて思ったように力が入らないのも響いているだろう。

 そんなフミコへと最初に斬りかかった方のザフラが横腹を刺しに襲いかかって来る。


 「ははははは!!! 死ねーーー!!!!!」

 「っ!! くそ!!」


 フミコはその一瞬で判断する。

 銅剣を手放して武器を捨てる。

  その事で支えを失い、一気にこちらへと倒れるような格好となったザフラへと素早く手にした石の短剣を投げ放つ。


 「!?」


 これを倒れそうになったザフラは体勢を崩しながらもクファンジャルを振るって弾く。


 「おい、押さえとけと言っただろ!!」

 「は!? バカお前状況判断をし……」


 直後、そこへともう1人のザフラが突っ込んできて2人のザフラは衝突した。


 「あ痛ーーー!?」

 「ーーーっ!! てめーー!! 何やってる!?」

 「それはこっちのセリフだ!!」


 激突して悶絶し、互いを怒鳴りつけあうザフラたちへとフミコは丸木弓を持ち出して素早く矢を射る。

 これを別のザフラが飛び出してきてクファンジャルを振るって弾く。


 「てめーらいい加減にしろ!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 そう言った飛び出してきたザフラへと怒鳴り合っていた2人のザフラは舌打ちして。


 「わかってらぁ!!」

 「あぁ、言われるまでない!!」


 そう答えるとすぐにフミコへとクファンジャルの剣先を向けてくる。

 そんなザフラたちの動きを見てフミコは丸木弓を構えながら困惑する。


 (どういう事なの? それぞれが纏うオーラや雰囲気はどれも同じで同じ人物のよう、でもさきほどのように幻影を見せているのではない……じゃあどういう事なの? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?)


 それぞれの動きがさきほどまでの戦闘でのザフラの癖とまるで違う。

 フミコは冷や汗を流しながら思考していると、1人のザフラがそんなフミコの様子を見て笑い始めた。


 「くっくっく! あーっはっはっは!! どうした簒奪者! さっきの威勢はどこへいった!? えぇ!? 戦闘中にわたしの癖を見抜くのは大したもんだが、それが仇となったな? そんなもんを気にして頼りにしなければ、まだまともに動けたかもな?」

 「?」

 「そうだな……ネタばらししてやろう。どうせ教えたところでこれは突破できないだろうからな?」

 「大した自信だね?」

 「あぁ、そうとも……何せこれは正真正銘さきほどまでと違ってトリックのない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 ザフラはそう言うが、フミコにはイマイチ信用できなかった。


 「本当にそうなの? だったら何であんたの癖が増えた他の連中にはないわけ? それどころか別人のような癖がある」

 「あぁ、それな! くっくっく! わからないか簒奪者? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 「……っ!!」


 ザフラの放った予想だにしない言葉にフミコは驚いてしまう。


 「あんた! なんでそれを!?」

 「あー、わからないか? そうだろうな……わかろうともしないもんな、この簒奪者は!!」


 ザフラは怒りに満ちた声で怒鳴る。

 そして、少し冷静になる時間を取ったのか、ほんの少しの間ザフラは天を仰いだ。


 「()()()()()()()()()()()()()()……この意味がわかるか? 心当たりがないか考えないか? 簒奪者!!」


 ザフラはそう怒鳴った後、困惑した表情を浮かべるフミコを見て舌打ちする。


 「どこまでもムカツクやつだ……まぁいい、まずは『サモン、パラレルシフト』の種明かしだ」


 そう言ってザフラはクファンジャルの柄でポンポンと自らの肩を叩く。

 そして世間話でもするような軽い口調で語り出した。


 「パラレルワールドって聞いた事ないか? この世界と瓜二つで住んでる人も物も歴史もまるっきり一緒の平行世界、もしくは並列世界……ただ少し違うのはほんの少しの……そう、ほんの少しの差異が存在する事。そんなあったかもしれない可能性の世界だ」


 ザフラの言葉にフミコは頭を傾げる。

 そんなフミコの反応にザフラは鼻で笑うとこう告げた。


 「そんな()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが『サモン、パラレルシフト』だ、そりゃ癖が違って当然だろ?」

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