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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
2章:最初の異世界
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最初の異世界(1)

 意識がまだはっきりとしない中、何者かが呼びかけてくる声が聞こえる。その呼びかけの声は徐々に大きくなっていき、やがてはっきりと自分に起きろと告げているとわかる。

 それと同時に意識は徐々に覚醒していき夢の中から現実へと浮上していく。どんな夢を見ていたのか、もはや思い出せない。

 そうして異世界渡航者、川畑界斗は目を覚ました。


 「おはよう、気分はどうだい?」

 「最悪だ」


 目覚めて開口一番悪態をついた、無理もない。

 神を自称する老人に安眠を妨げられたのだ、気持ちの良い目覚めになどなるはずがなかった。

 とはいえ、今目の前にいるのは神を自称する白髪に白い顎髭を生やした老人ではなかった。厳密には同一人物であるらしいのだが姿が老人ではなくカラスであった。

 曰くカラスは日本神話に登場する3本足の八咫烏を始め世界各国の神話に登場する神聖な鳥であり親和性が高いのだとか何とか。

 まぁ、そんな聞いたところですぐに理解できそうにない理屈は置いといて、とにかく目の前にいるのは偉そうに言葉を発するカラスである。そして名前はカグというらしい。


 「で? いつもは食堂で退屈そうにしてる自称神のカグさんはどうして今日に限って俺の寝室にいるんだよ?」

 「やれやれ、いよいよその時が来たから顔でも拝んどいてやろうと思ったのに歓迎されとらんの」

 「あんたを寝起きに見て歓迎するやつがこの世にいるかよ……」


 頭をボリボリと掻きながらベッドから起き上がるとさきほどの言葉にようやく違和感を覚える。


 「ん? 今いよいよその時が来たって言ったか?」

 「言ったの」

 「なんだよその時って?」

 「貴様……自分の使命を忘れたか?」


 カラスだから感情をくみ取ることはできないがどこか呆れたような仕草を見せるカラスを見てようやく頭が冴え渡ってくる。脳がようやく稼働を開始したような感じだ。


 「まさか、到着したのか?」

 「さきほどから頭痛がしとらんかの?」

 「起きて目の前にあんたがいた時点で頭痛どころか目眩もしたわ」

 「なら問題ないの、異世界に近づくにつれて頭痛がひどくなるはずじゃ、それが合図よのう」

 「最悪な仕様だな……改善を要求する」

 「諦めろ」


 言ってカグはそのまま羽ばたいて消えてしまった。

 カグが消えた後ようやく痛覚が正常になりその痛みに頭を押さえる。


 「なるほどな、確かにわかりやすい兆候だがこの頭痛は完全に異世界に到着したら治るのか? 何せよ頭痛薬がいるなこれは……」


 頭を押さえながら、とりあえずは朝食をとりに食堂へ向かう。

 とはいえカグは自称神だから摂取する必要がないのか食事は行わない。そしてこの次元の狭間の空間には自分しか人間はいない。そして自分は調理ができない。ゆえに食事は備え付けの棚に入っているレーションでいつも済ませている。

 食堂で食事を済ませると広場へと出る。


 準備と言ってもこれと言って持って行くものはアビリティーユニット以外特にない。というよりまだ何も荷物がないのが現状である。

 服も地球にジムクベルトが出現してから逃げて避難所にたどり着いて、そしてこの次元の狭間の空間という順序な分、学生服のままであった。自宅の自室を模倣した寝室にある服はなぜか取り出せなかったためだ。別段気にはしないがどこかで服は確保しといたほうがいいのだろうか?


 とにかく広場へと出ると桟橋方面へと向かう。すると桟橋の先の空間が歪んでいた。今まではこんなことはなかったが、これが異世界へとたどり着き繋がったということなのだろう。


 「準備は良いかの?」

 「いいも何も、ダメだったら待っててくれるのか?」


 まるで相棒だと言わんばかりに厚かましく肩に乗ってきた自称神のカラスを睨むが相手はどこ吹く風だ。

肩の上からどこうともしない。


 「別に構わんよ。どうせこの空間は貴様がミッションをクリアするまでこの世界から動かん」

 「……つまり異世界で転生者や転移者、召喚者を見つけて力を奪って殺すまで他の異世界には向かえないってことか」

 「そういうことじゃ、だから1日が終わればここに戻ってきてホテル変わりにしてくれて構わん」

 「ホテル変わりって……そんな何日もかかるのか?」

 「場合によってはの。何せ転生者ないし転移者、召喚者を発見できなければミッションはクリアできないぞ?」

 「そこは着いた先が連中のいるところじゃないのかよ?」

 「限りなく近い場所ではある。しかし彼らに縁のある場所の近くにつくがそこに彼らがいるという保証はない、また誰が転生者、転移者、召喚者なのかはわからん」

 「おい、神を自称するならそこはわかれよ」

 「見つけ出すのは貴様じゃ、だから長期戦になる可能性もあるということは頭に入れておけ、あと現地の街の宿屋を使っても構わんし現地で野宿しても構わんが本来の目的を考えるなら泊まるよりはこちらに戻って寝たほうが無難じゃの」

 「転生者、転移者、召喚者……異世界にとってのイレギュラーが次元の亀裂を生み出してる原因ならまぁ極力現地に関わらないのが正解だよな」


 転生や転移、召喚で得た「特典」がないとはいえ、少なからず自分も異世界にとってイレギュラーな存在な分影響を与えてしまうだろう。

 そうなればミイラ取りがミイラだ。その事態を避けるためには極力ここに戻ってきて寝泊まりするなり対策を立てるのがよいのだろう。


 「とはいえ、我々にもタイムリミットがあることは忘れるなよ? この世界と地球との時間の流れは同じではないがそれでも時間はあまりかけられないのだからの」

 「わかってら」


 そのタイムリミットがいつなのか明言されない以上急ぐことも慎重になることもできないわけだが、それでも悠長に構えてられないのはわかっている。

 次元の狭間の空間での時間は地球時間にカウントされないとはいえ、こうして異世界に到着した以上はタイムスケジュールは頭に入れておくべきだろう。


 「それじゃあ行くか」


 大きく息を吸い込んで桟橋を渡り空間の歪みの中へと入っていく。

 そして思考を巡らせる間もなくあっさりと異世界へと足を踏み入れた。


 「ここが……異世界?」


 空間の歪みの先に広がっていたのは落ち葉が地面に敷き詰められた山道のようなところだった。次元の狭間の空間にはない風の流れがあり、久方ぶりに肌寒さを体感する。


 振り返ると空間にわずかな歪みがあった。ここが次元の狭間の空間への入り口であり、仮に数日かかる場合はここを通れば次元の狭間の空間に戻れるようだ。


 「しかし、こんな山の中に放り出されて異世界ですと言われても感慨も何もないな……というか本当に異世界かよ? 日本アルプスのどこかの山の中とかじゃないだろうな?」

 「そんなわけなかろう」

 「痛っ!」


 肩に乗っていた自称神のカラスがつついてきた。その攻撃は冗談抜きで地味に痛いからやめろ! というかこのカラスは一体いつまで肩に居座るつもりだろうか?

 相棒になったつもりでいるのか、それとも監視のためか、どちらにせよ邪魔だから肩に乗らないでほしい。


 「とにかく先に進まんかい」

 「進むったってどっちに行けばいいんだよ? 闇雲に進んだって遭難するだけだぞ?」

 「まったく貴様は……仕方ないヒントをやろう。ありがた~い神のご神託じゃ」

 「苛つくからその言い方やめろ」


 人を小馬鹿にしたような声で言ってきたのでとりあえず体を揺らして肩からカラスを追い払った。

 しかしカラスはバサバサと翼を羽ばたかせてその場に滞空する。


 「なんじゃ、つまらんの」

 「先に進ませたいのか留まらせたいのかどっちだよ?」

 「ふぅ……まぁ先に進ませたいからとりあえず言うよ」

 「その投げやりやめろ……」

 「風が吹いてくる方角はどっちじゃ?」

 「あっちだな」

 「ふむ、そしてその風、潮の香りがしないかの?」

 「言われてみれば」


 確かに潮の香りが微かにする。海が近いのだろうか?

 そしてここから自称神のカラスの説明は雑になった。


 「その潮の香りを辿って海を目指すのじゃ」

 「えらく投げやりだな、このまま道なりに潮の香りがするほうに進んでいっていいのかよ?」

 「さての? 後は貴様が自力でどうにかすることだからの」


 言って自称神のカラスはどこかへと飛び去ってしまった。

 まったく本当にサポートする気があるのか早急に事の解決にあたりたいのかわからん奴だ。


 だが、離れてくれたのはありがたい。こちらも奴を完全に信用しておらず、奴の真意を探ろうとしてる身だ。四六時中近くで監視されてるのも動きづらいしやりづらいしストレスが溜まる。

 まぁ奴は遠くでこちらを監視してるだろうが……


 「ふぅ……まぁ動かないことには始まらないか」


 とりあえず潮の香りがするほうに向かって山道を進んでみる。異世界に来たというよりは山にハイキングに来た気分だ。


 どれだけの時間が経ったのか、ひたすらに山道を進むだけなので感覚が麻痺してくる。似たような景色をずっと歩いていると進んでいるという指標がなく頭がおかしくなってくる。

 景色が変わることの重要性を認識しだした時、道の先の景色に変化が生まれた。眼下に海と街が見下ろせる開けた場所に出たのだ。


 「絶景だな……」


 思わず見とれてしまった。ひたすらに山道を歩いてきた分、頬に当たる潮風が気持ちいい。


 その丘からは広大な海原に中世欧州を思わせる港町が見えた。ここから見る限り随分と船の出入りが激しいようだ。しかも巨大な木造の帆船ばかり。恐らくは軍艦。戦列艦というやつだろう。もしくはガレオン船か? 何にせよ物々しい雰囲気なのは間違いない。


 「何か戦争でも始まる……のか? 何にせよあそこに行って情報収集しないとな」


 一様持ってきていたスマホでこの風景を撮影する。土地勘もなく地図がない以上、上空からの画像は役に立つかもしれないからだ。

 ひとしきり撮影し終えると絶景を後にして再び下山のための山道を進む。


 この異世界の事情に首を突っ込む気はない、というか突っ込むことはできない。それはジムクベルト出現の原因となった次元の亀裂の拡大を助長する行為だからだ。

 とはいえ、まずはこの異世界で今何が起きているのかを知らなければ行動指針が組めないのも事実だ。

 この異世界で何が起きているのかを知り、その出来事からこの異世界でのイレギュラー因子が転生者なのか転移者なのか召喚者なのかを割り出さなければ目的の相手にたどり着けない。


 「さて、一体どれくらいの時間がかかるかな?」


 軽い調子で独り言をつぶやいてみたが、根気のいる作業が待っていることは間違いなく気が重い。

 やれやれ、これからこういう気分を何回味わうことになるのだろうか? 先が思いやられる

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