序章:遙か遠い異世界の出来事
空高く浮遊する大小多数の浮島があった。
空中に浮かぶ大地からは川の水が流れ落ち、幻想的に虹が浮かび上がる。
そんな絶景をぶち壊すかのように巨大な爆発が起こった。
一人の少年がその爆発の中から飛び出し空中へと投げ出される。
浮遊する浮島はかなりの高度に浮かんでおり、落っこちれば地面に軽々着地なんてできるわけもなく間違いなく死亡確定だ。
しかし少年は右手を落下していく空中にかざすと、発光する奇妙な紋章を空中に出現させる。
そしてその紋章の上に着地した。
「ふぅ……危ない」
言って少年は再び右手を空中にかざす、すると少年の目の前に発光する紋章が浮かび上がる。
直後、どこからか飛んできた発光弾が紋章に直撃した。
「何度やっても同じだよ!! この魔術障壁はキミには破れない!! 才能なんて何もないボクがこの世界にきて唯一真価を発揮できた代物、最弱だったボクをチート冒険者にしてくれた代物なんだから!!」
無数の発光弾が飛来するが魔術障壁を破ることはできない。
発光弾が飛んでくるのが止んだことを確認すると少年は魔術障壁を複数、近くの浮島へと足場のように展開し浮島へと移動する。
地に足がついてるほうが対処はしやすい。そう思ったからだが、浮島上陸直後、再び無数の発光弾が少年へと襲いかかる。
「まったく懲りないね!!」
右手をかざし魔術障壁を展開する。
ちょうどその時、少年が移動した浮島よりも高い位置に浮遊する浮島周辺を飛行する人間がいた。
黒いブーツ、黒いローブに黒いトンガリ帽子、竹箒にまたがり空を飛ぶ絵に描いたような魔女のスタイルのその少女は右手を開いて5本の指の先に光点を浮かばせる。
「京介に手出しはさせない!!」
少女は叫んで右手を大きく振りかぶって振り下ろす。
5つの光点が発光弾となって少年のほうへと向かっていた発光弾を迎撃していく。
「っしゃぁあ!! 京介の魔術障壁とワタシの攻撃魔術のバディは最高なんだから!!」
喜ぶ少女だったが、直後すぐに竹箒の進路を変えて回避行動を取る。
さきほどまで少女が飛んでいた場所に巨大な銅矛が飛んできた。
「わっと! 危ない!!」
回避行動を取った少女の目の前にまるで三雲南小路王墓で発見された有柄銅剣のような銅剣を手にし、弥生時代の権力者の巫女姫、卑弥呼や台与を連想するような衣装を身に纏った少女が現れる。
「かい君の邪魔はさせない!!」
銅剣を振り下ろし、魔女っ子を近くの浮島へとたたき落とす。
「うわ!!!」
「あなたの相手はあたしなんだから!!」
銅剣を持った少女もそのまま浮島へと飛び込んでいく。
「アミュ!!」
魔術障壁の少年、楯原京介が魔女っ子の身を案じて叫ぶが直後、恐るべきスピードで遠くから何かが京介めがけて突っ込んでくる。
京介は右手をかざして魔術障壁を作るが突っ込んできた何かは恐ろしいスピードであったにも関わらず魔術障壁を軌道をそらして回避し京介の背後に着地した。
そして右手に銃身のない銃のグリップのようなものを持つと人差し指でボタンのようなものをカチっと押す。
直後ブーンという音と共にレーザーの剣が出現した。
まるでラ○トセーバーかビ○ムサーベルのような外観だ。
そして、一気に京介へと斬りかかった。
「く!」
京介は慌てて魔術障壁を作ってこれを受け止める。
「なめるなよ!! 魔術障壁は防御のためだけじゃない!! チート冒険者と呼ばれるようになった由来を見せてやる!!」
魔術障壁を巨大化して3重にすると一気に押し出した。
逃げ場のない巨大な壁にしてすべてをなぎ倒すつもりらしい。
だが、そんな攻撃がくることはとっくにわかっていた。
なのであっさりと回避されてしまうと京介は反応する間もなく背後を取られてしまう。
「しまっ……」
時すでに遅く背後を取った何者かはグリップからレーザーの剣をなくすと液晶画面のついたガジェットをグリップ脇にある窪みに装填する。
すると液晶画面の上にエンブレムが投影される。
『Take away ability』
ガジェットが音声を発し、何者かがグリップを京介へと突き出す。
直後、京介の体から光りの暴風があふれ出しグリップへと吸い込まれていく。
「うぐ!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
京介は為す術なくそのまま地面に倒れ込んでしまう、そしてすべての光をグリップが吸い込むとガジェットの液晶画面の上に魔術障壁を意味するエンブレムが浮かび上がる。
「ふぅ……今回は能力を奪うのにそこまで時間は掛からなかったな……」
何者かがガジェットをグリップから外しながら言った。
そしてゆっくりと京介へと近づく。
京介は冷や汗を流しながらもなんとか立ち上がり右手を何者かへとかざす。
しかし
「な……魔術障壁が……出せない!?」
驚愕の表情を浮かべる京介に何者かは呆れた表情で言い放つ。
「だから言っただろ? 能力を奪うって……異世界転生者や転移者、召喚者たちの能力を奪っていく、それが俺の役目だって最初に説明しただろ?」
「じゃあ、本当に………」
「この世界であんたが得た能力は奪った。あんたの状態はこの世界にはじめて来た時の状態にリセットされた。後はあんたを殺せばミッションコンプリートだ。その後の次元調整なんかのややこしい処理は自称神とやらの仕事で俺の知ったことじゃない」
「殺すのか? ………ボクを………キミは?」
「最初に言っただろ? そして最初に謝ってもいる。あんたに恨みはないが地球のためだ、死んでくれ」
「そう………か。」
楯原京介は観念してガックリと肩を落とした。
そんな彼を見て何者かがため息をつくとグリップのボタンを人差し指でカチっと押す。
そしてそのままレーザーの刃が楯原京介の体を貫いた。
「京介!!!! い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
京介がいた浮島よりも高い位置に浮遊している浮島で戦っていた魔女っ子のアミュが京介がやられたことに気づいて悲鳴をあげた。
その隙をついて弥生時代の巫女姫の衣装を着た少女が銅剣の柄でアミュの首元を突いて気絶させる。
そのままアミュを背負って下の浮島へと滑空する。
「怪我はないか? フミコ」
降りてきた巫女姫の衣装を着た少女に何者かが声をかける。
背負っていたアミュを地面に下ろすと巫女姫の衣装を着た少女は問題ないと頷く。
「かい君、この子大丈夫かな?」
「問題ないだろ、この浮島群には滅多に人が来ないと言うし賊の類いも根城にしてないみたいだし。ここに置いていっても命の危険はないと思うぜ」
「うん、そうだね」
「それに目を覚ましたときにはもう楯原京介っていう仲間だった転生者のことは忘れてる。」
「うん…………そうだね………」
巫女姫の衣装を着た少女フミコは哀しそうな表情で気を失い眠っているアミュを見る。
「この子、その転生者のこと好きだったんだよね」
「……あぁ、みたいだな」
「この子だけじゃなく、この浮島群まで運んでくれた子も」
「……だろうな」
「でも……忘れちゃうんだよね……思い出せないどころか、いなかったことになっちゃうんだよね?」
「……あぁ、今まで巡ってきた異世界と同じく、これまで通りのクソったれの結末だ。この異世界に生きる人たちの気持ちは関係ない、ただこちらの都合を押しつけるだけのクソったれの結末だ」
異世界転生者、楯原京介から能力を奪い殺害した少年、川畑界斗は唇を噛みしめて拳を強く握る。
「それでも俺たちはこの道を今は突き進まなくちゃいけない……まったく胸くそ悪いぜ」
川畑界斗とフミコのすぐ近くに空間の歪みが生じる。
それはこの異世界でやるべき事は終わり、次の異世界へと旅立つことを意味していた。
2人はこの異世界でやるべき事をやり終えたという高揚感など持つことなどなく空間の歪みの中へと消えていく。
これは地球壊滅の危機を救うため神の導きの元、数多の異世界へと転生あるいは転移した者や召喚された者達を狩る異世界渡航者の物語である。