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私の周りで咲いた花  作者: 一了
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私にとっては怒涛の就活を再びなんて無理!と思ったけれど、お役所さんから紹介してもらってなんとか働き口を確保することができた。そもそもこちらの世界でも就職活動が同じようにされているのかもわかんないな。


そんなこんなで、ついに星宮家からアパートへ移る日になった。ちなみにアパートやらその他でも、桃華さんが保証人になってくれた。大変お世話になり過ぎました。働いて滞在中に私に掛かったお金プラスαは返すぞ!


決意を新たにしていると、しょんぼり顔の瑠璃ちゃんがペタリと腰に抱きついてくる。


「おねえちゃん、ほんとうにこのお家で住まないの?」

「うーん、流石にそれはちょっとね。」


あまりにも情けない気がするんだよな。それに、やっぱりアウェイ感があると申しますか。


ここ数日は私とずっと一緒にいたせいか、いなくなると思うと不安になっちゃったのかな。うーん、困った。気持ちが少しでも落ち着けばいいと思い、瑠璃ちゃんの頭を撫でる。


ひとりっ子の瑠璃ちゃんはどうやらおねえちゃんが欲しかったらしい。それもあって随分甘えん坊さんしてたからな。ここぞとばかりに甘やかしたのは私だけど。私には良いねえちゃんは向いてない。


「ほら、瑠璃。そんなに落ち込んでないで、ちゃんとましろさんの門出をお祝いしよう。」

「かどで?」


絶賛執筆活動中の桃華さんに代わりの瑠璃ちゃん兄の言葉に、瑠璃ちゃんが首を傾げる。そう、私はやり遂げたのだ。瑠璃ちゃん兄の名前を忘れたという事実を隠しきったのだ!何回か呼ばれてる場面に遭遇した気もするけど、結局覚えきることができなかった。まぁ、向こうは仕事もあったみたいで顔を見ない日とかもあったから仕方がないよね。セーフ、セーフ。


「そう。 新しい生活を始めることをお祝いする気持ちで送り出すんだよ。」

「おいわい」


ぽつりと呟いたと思ったら、グッと何かを堪えるように瑠璃ちゃんが顔をあげた。と思ったら、腰から離れ玄関に飾られていたスイートピーの花を一本ぶちりと千切る。おおっと、これはワイルド!


「おねえちゃん、おめでとう。でもまたお家にきてね。」


目に涙を浮かべながら、そっと花を手渡してくれる。まだ小さいのに、自分の気持ちを抑えてこんな素敵なお祝いをしてくれるなんて、まさに天使。そんな子を育てるこのお家も、住んでいる人たちもとても素敵だ。


「ありがとう。とっても嬉しいな。また来るね」


お金は必ず返しにくるよ!


甘い香りのスイートピーを一輪手にして、星宮家を後にした。






星宮家を出て、近くの駅から電車に乗る。そのままアパートから最寄りの駅を乗り過ごし、前の世界では何度か来たことのある駅と同じ駅名の場所に降りる。そうして駅から歩いてすぐのところに、兄の住んでいるアパートが――――――なかった。そこには、一軒家が建っていた。確かこの表札の名前は兄の住んでいるアパートの管理人さんと同名だ。しかし、アパートはない。兄の番号を携帯で鳴らしてみても、呼び出し音が途中でぶつりと切れる。


そうか、本当にここは私がいた世界とは違うんだな。


その場を離れ私がこれから住み、これから長い時間を過ごす予定のアパートへ行く。昨日の内に家具家電を設置してもらい、水道や電気も通してもらっておいて良かった。なんだかどっと疲れたから。この辺りも星宮家の人達にはお世話なったのだけれど、······優しい人達だったのだけれど、やっぱり私は一人で気ままに暮らすほうが向いてるな。あの暖かな家に私みたいな異物が紛れこんでいるのは納得できない。


うん。これが一番良い方法だ。


あ、ましろが渾名だってこと、伝えるの忘れてたな。まぁいっか。どうせすぐに私のことなんてどうでもよくなるでしょ。



これでいいのだ!······なんちゃって。

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