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朝になった。 あれから色々な方法を試してみたけれど、 何一つうまくいかなかった。 最終手段として 夢で世界を渡れないかと思ったけ ぐっすり眠っただけだった。このベッドふっかふかやで。
しかし、寝て疲れがとれたおかげで少し余裕ができた。元の世界に戻れない可能性が高いなら、人に自分の持ち物を見られても問題ないだろう。そう、あの本もあの漫画も見られようと捨てられようともうぼぁあああああああああ!!!!!
コンコンと部屋の扉が小さくノックされる。
「おはようございます。 もう起きていますか?」
るりちゃんの兄の声だ。
「はい、おはようございます。」
とっくに目は覚めてしまっている。
「朝ごはんを作ったんですが、食べられそうですか?」
朝ごはんか。 別に食べなくてもいいけど、わざわざ作ってあるなら食べるべきかな。
「はい。 いただきます。」
そう言って借りている部屋からでると、 るりちゃんの兄がこちらを見てふわりと笑顔を浮かべた。
「少しは眠れましたか?」
「おかげさまで…..」
それは良かったと安堵を滲ませるかのように笑みを深める。
そのまま二人で並んで歩きながら アレルギーの有無や苦手な食べ物について話す。
るりちゃん兄は話上手のようでこちらが言葉少なに返してもこともなげに会話を続ける。へーしばらくお仕事で外国に行ってて最近帰ってきたんだ。日本の食べ物のほうが種類が多くて美味しいんだ。へぇ。...... コミュ強タイプなのかな。いつまで会話すればいいんだろう。あまり知らない人との会話の止め方がわからないコミュ障にはこの状況がきつい。なんで朝からこんなに喋れるんだ。
ダイニングに案内されると、そこにはるりちゃんがいた。
「おねえちゃん、おはよう!」
にこにこと朝から可愛いを体現させた天使ちゃんがぴとりと抱きついてくる。そして、どこか困った顔になったるりちゃん兄をちらりと見上げると、モジモジしながらおはよーございますと挨拶をする。喧嘩の後ってどこか気恥ずかしいような気分になることってあるよね。ちょっと微笑ましいなぁ。
そのまま3人で食卓につく。微妙な空気になるかと思えば、るりちゃん兄が話し続けるおかげかそこまででもなかった。 桃華さんは執筆作業に勤しんでいるらしい。どうやら私が持っていた本より良い話を創ると張り切っているらしい。最高じゃん。ファンです。
そんなことを呑気に考えていたらるりちゃん兄から驚くことを聞かされる。
「今日はお昼前に役所の方が来られて、いろいろと検査をすることになるみたいですよ。」
「えっ」
何の検査!?こわわ...。
さらに話を聞くと、別の世界から来た人間に対し病気への耐性や健康状態を調べるための検査らしい。私のせいじゃん!!ごめんなさいね騒がせます!!
私がこの世界の人達の耐性のない病気を持ってたら大変だもんね。物語の中でも旅人が病を運ぶとかって読んだことあるもんな。えっじゃあこの家の人達は??
「僕たちなら大丈夫です。昨日の時点でそのことも織り込み済みですから。」
私が大丈夫じゃないでつ......。罪悪感ハンパないでつ......。思わず落ち込みそうになった私の背をるりちゃんが撫でる。いい子だ。
しかしどうしよう。実はるりちゃん兄の名前をうっかり忘れたからもう一回聞きたかったんだけど完全にタイミングを逃したな。これもこれで申し訳ないな。誤魔化せるところまで全力で誤魔化そう。
そしてやってきた役所の方々は、テレビでしか見たことない防護服を着ていた。これ""ガチ""なやつじゃん!!