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私の周りで咲いた花  作者: 一了
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星宮家のリビング広く、きれいに整頓されていた。あ、ルンバがある。一人寝そべってもまだ人が座れそうな長いソファーにるりちゃんを座らせ、怪我をした方の足をその前にしゃがんだ私の太ももにのせる。天使から直々に手当てをしてほしいと頼まれてしまっては仕方がない。洗面台を借りて手を洗って準備万端だ。ちなみに洗面台も広くてきれいだった。人が急に来ても水回りを見せられるってすごいな。見習わなければ。今は家もなければ、家に呼ぶような人もいないけれども。


「すぐにおわるからね。大丈夫だよー。」

「うん。るり、我慢できるよ。」


そう言うと、目をギュッと閉じクッションを抱きしめる。消毒はドキドキするよね。それでもきちんと大人しくしているなんて偉い。足もすべすべですごい。怪我の手当を終わらせソファーへ座る。ふっかふかや…。高そうで怖い。床に座ろうかな。


「おねえちゃん、手当してくれてありがとう。ぜんぜん痛くなかったよ!」

「どういたしまして。私もるりちゃんが我慢してくれたおかげで手当しやすかったよ、ありがとう。早く怪我が治りますように。」


少し誇らしげな顔が可愛らしい。るりちゃんの頭をなでつつ二人で顔を見合わせながらふふふと笑いあう。やっぱりもうちょっとソファーに座っとこう。ほのぼのと癒されているとるりちゃん兄が現れた。るりちゃんが頬を膨らませ私の腕で顔を隠そうとする。


「オレからも、手当をしてくれありがとう。ましろさん、ですよね。今飲み物を用意しているんだけど、何か飲みたいものはあります?コーヒーとか紅茶とか…お茶がいいかな?」

「そうですね…」


飲みたいものはとくにないのでいいです。コーヒーも紅茶もそのままでは飲めないし、お茶はペットボトルの物を持っている。でもここでは断るほうが失礼だろうか。面倒な。そのとき、るりちゃん兄の視線が動いた。


「るりはいつものホットチョコレートがいいかな?」

「うんっのむ!!」


一瞬で怒っていたことを忘れたのかすっかりきらきらとした笑顔になった。私にもそっちの選択肢をくれ。見た目が大人だからといって苦いものを飲みたがるとは限らないのに。ホットチョコレートなんて如何にもおいしそうな響きだ。そっちを飲みたいというのは図々しいだろうか。こういうのって人によって良し悪しがあるだろうし、わざわざ飲み物いれてくれるのに提示されなかった選択肢の飲み物を選ぶのは三次元においてアウトだろうかセーフだろうか。


「おねえちゃん、いっしょにホットチョコレートのもう!おにいちゃんのホットチョコレートすっごくおいしいんだよ!」

大天使るりエル降臨。

「いいの?私もちょうど飲みたいなって思ってたんだよ。——いいですか?」

最後はるりちゃん兄のほうへ問いかける。


「もちろんいいよ。でも結構甘いけど平気かな?」

「はい、甘いものはよく口にするほうですので。」


これで問題なく糖分摂取ができる!ありがとうるりエル。




「ホットチョコレートは熱いからね、ふーっふーってするんだよ。」

「そっかぁ、教えてくれてありがとう。」

言われた通りにしっかり冷ます。チョコレートのいい香りだ。まだ熱かった時のために慎重に一口飲んでみる。おお!これは

「とてもおいしいです。ありがとうございます。」

もったり濃厚なめらかでふわふわしている、ような気がする。とりあえずおいしいことは確かだ。


「どういたしまして。口にあったみたいで良かったよ。」


るりちゃん兄は紅茶が入ったカップをソーサーへ置き、こちらを真っ直ぐ見てくる。なんだろう怖い。つられて私もカップを置く。ちなみに目つきの鋭い黒い人は一人離れた位置で湯飲みに注がれたお茶を飲んでいる。女神はちょっと仕事がと言って私がリビングに案内された後から姿が見えない。


「改めて、瑠璃を家まで送って手当までしてくれてありがとう。オレは星宮レン。こっちの不愛想な人は竜胆」

「余計なことは言うな!」


黒い人こと竜胆さんが叫ぶ。声がでかいな。


「いえ、大したことはしていませんし、本当に気にしないでください。私はただるりちゃんの探し物をきちんと渡せるよう手伝いたいと思っただけですので。」

「え?」

「おねえちゃん!」


隣に座ってニコニコしながらホットチョコレートを飲んでいたるりちゃんがびっくりしたように目を丸くする。このぐらいしないと話が進まなそうだからという理由とせっかく頑張って探していたんだから早く渡せばいいと思ったんだけど、だめだっただろうか。


「るり、何か失くしたものでもあったの?言ってくれれば一緒に探したのに。」

「そうじゃなくて、あの、あのね…」


ちらりとるりちゃんがこっちのほうを困ったように見てきたので、思わせぶりに笑顔で頷いてみる。すると頷き返しソファーから立ち上がり、るりちゃん兄ことレンさんの方へ近づいていく。


そして手のひらにのせた四つ葉のクローバーを見せる。


「これ、おにいちゃんにあげたくて公園でさがしてたの。きのうね、足のこゆびいっぱいぶつけちゃえっていったけど、ホントはちがうの。おにいちゃんにしあわせなこといっぱいあってほしいって思ったの。ひどいこといってごめんなさい。」


そう言ってしゅんと俯く。時が止まってしまったかのように皆の動きが止まってしまった。足の小指のくだりで黒い人の方からゴフッという音がした後、肩が震えていること以外は。レンさんは目を大きく見開き固まっていたが、徐に息を深く吐く。そして笑顔でしゃがみ込む。


「そっか、オレのためにこれを探してくれたんだね。ありがとう、嬉しいよ。オレの方こそ口うるさかったり言いすぎちゃってごめんね。」


そしてそっと四つ葉のクローバーを受け取ると、るりちゃんを優しく抱きしめる。私は空気だ。


その時、パチパチパチパチッと音が聞こえてくる。女神が勢いよく拍手していた。私もスタンディングオベーションするべきだろうか。


「二人ともちゃんと謝れたのですね。これで仲直り!」

そう言って満足そうにうんうんと頷く。

「ましろさん、どうもありがとうございます。おかげさまで子どもたちが仲直りできました。もしかして、四つ葉のクローバー探しも手伝ってくださったんですか?

「そうだよ!おねえちゃんがいっしょにさがしてくれたから、すぐに見つかったんだよ。」


私が答える前にるりちゃんが答えてしまった。女神の笑みが深くなる。なんだか嫌な予感がする。


「それはしっかりお礼をしなくてはいけませんね。ごちそうを作ってパーティーでもしましょうか!」


ガチ勘弁。食事のお世話になるつもりはない。レンさんが小さく苦笑する。


「ごちそうを作るのはいいですが、仕事は大丈夫なんですか?」


そうだそうだ。仕事が忙しいのなら無理せず休んでほしい。


「問題ありません。この前体調を崩したときに締め切りがちょっと延びたんです。病み上がりなので缶詰めになるのは良くないです。」

休んでてくれ。


「あのねあのね、おねえちゃん。」

そう言いながらるりちゃんが近づいてくる。そしてとっておきの秘密を打ち明けるかのように耳元で内緒話にしては大きい声で話す。

「ママってご本書いてるんだよ!」


本?ということは小説家かなにかだろうか。女神を見るとニコニコしながら教えてくれた。


「私の自己紹介がまだでしたね。私は星宮桃華といいます。桃の華族と書いてとうかです。みやせももという名で執筆活動をしています。」


みやせ、もも…はっ!?ソファーから思わず立ち上がる。


「高校生で小説家デビューされたみやせももさんですか!?ファンタジーや青春ミステリの長編小説を書かれている?大ファンです!!子供のころから応援してます!」


それを聞いた周りの人達は目をパチクリさせている。もしや信じられてない…?それとも家に押し掛ける痛いファンだと?嫌だ!!私は純粋なファンだ!ちょっと行間を深読みして主人公とヒロインのイチャイチャを想像してしまうことはあるけれど。黒い人から回収しておいた荷物から小説をとりだす。


「最新刊も買いました!とっっってもおもしろかったです」

自分の語彙力が恨めしい。全然応援しているという気持ちが伝えられない。

「ありがとうございます、嬉しい…あら?」

言葉を途中で切り、創造主たる女神が首を傾げる。

「この話は今執筆中のはずなのだけれども…。」


お?


「あら~?」

そう言って、るりちゃんまで首を傾げる真似をしている。私も真似して可愛らしく首を傾げてみると、コキッと音が鳴った。皆に聞こえてないといいな。小説の表紙には確かにみやせももと書かれていた。


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