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春、桜の花が散る中、大荷物を抱え私は新しく住む土地へやってきた。就職のため上京してきたのだ。働きたくなさ過ぎてニートになる道を模索したが、どう考えてもお金が足りず断念した。これからは一刻も早くニートになるためにお金を稼ぎ、二次元と甘味に囲まれた余生を過ごすために働いていく、そう決意しながら。しかし、
「新しい家はどこだ…」
最寄り駅から7分もかからないと聞いていたから、10分くらいでたどり着けるかと思っていたらその3倍の時間をかけても家が見つからない。新しく住む家は某映画のお城のように動いているのだろうか。携帯の地図を見て歩いているはずなのに同じところをずっとグルグルと歩きまわっているように感じる。その時、地図上の私の位置情報が大幅に修正された。
「これだから地図は嫌なんだ!こっちか!!」
周囲に人がいないことをいいことに小声で文句を言ってみても肩と足の疲労はとれない。ふらふらしながら家を目指す。今日は家に虫を滅するための薬剤を散布し、親戚の家に泊まり家具家電を買いに行く予定になっている。面倒だ。それでもニートになるための拠点は良いものにしたい。重い足を動かす。曲がり角を曲がると、なんとなく見覚えのある景色になる。この前内見をしたときに見た気がする。確かあの大きな家の隣に築年数こそ古いが、室内はリノベーション?された集合住宅が、
「ない?」
二階建てのアパートが見当たらない。ついでにそのアパートの隣に大家さんの家があったはずなのにそれもない。電柱の街区表示板を見てみるがここで間違いはない。仕方なく物件を管理しているという不動産会社に電話するが繋がらない。
「…荒地を探したほうがいいのかな」
とりあえず座れるところを探し、そこで誰かに道を聞こう。不思議なことに先程から全く人に出会わない。できればおまわりさんにエンカウントしたい。荷物を抱えなおしまたふらふらと歩く。
歩いているとすぐに公園が見つかった。自販機で飲み物を買って、日陰があるベンチに座り親戚に『家がないwww 買い物ミッションまでたどり着ける気がしないwww』とメッセージを送る。夕方までに見つけられないと携帯の充電が切れそうだ。このあたりにも人影がない。できれば道を知ってそうな優しい人が通りかかってくれるといいのだけど。そう思いながら周りを見ていると、視界の端でゆらりと何かが動いた。公園に入ったときには誰もいないように見えたが子供らしき小さな人影があった。第一村人発見か。眼鏡をかけてそちらのほうを見てみると———
天使がいた。
いや、羽がないからおそらく人だろう。超絶美少女がそこにはいた。黒い髪に海のような青い瞳、小さな唇をキュッと引き締め子供らしいふっくらした頬は触れると暖かそうに色づいている。可愛らしいワンピースが汚れることも気にせずしゃがみこみ、何かを探している。どうして今までこの子の存在に気付かなかったんだろう。優しいお姉さんとして困っている様子の超絶美少女を助けねば。家がどこにあるかわからないということはおいておく。手伝ったらほっぺた触らせてくれないかな…いかん、私は優しいお姉さん優しいお姉さん。
眼鏡を外し怖がらせないよう足音をある程度たてて近づき、少し距離をおいて笑顔で話しかける。
「こんにちは。何か探し物をしているのかな?」
超絶美少女はパッと顔を上げると目を瞬かせ、にこっと浄化力のありそうな笑顔を浮かべる。眩しい。
「おねえさんこんにちは!るりね、四つ葉のクローバーさがしてるの!っです。」
お姉さん呼びと慌てて敬語をつける姿にお姉さんはノックアウト寸前です。
「そっかぁ、四つ葉のクローバーを探しているんだね、見つかったかな?」
「まだひとつも見つからないの」
落ち込んだのか少し俯く。四つ葉のクローバーか、よしきた。
「良かったら、おね、私も一緒に探してもいいかなぁ?四つ葉のクローバー見たいんだ。」
「えっいいの?」
大きな丸い青い瞳をキラキラと輝かせる。すぐに見つけてみせるぜ。
「うん。よろしくね、るりちゃん。私はましろっていいます。」
「ほしみやるり6さいです!ましろおねえちゃん、よろしくおねがいします!」
そう言うとるりちゃんは小さいお手々をこちらにのばす。これはラッキーなんちゃら的なあれなやつか。せっかくならと私も手をのばし、小さな手をそっと握る。その時、ふっと何かが変わったような感じがしたが、気のせいかと首を傾げる。握られた手はとても暖かかったから、そんなことどうでもいいかと思った。