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私の周りで咲いた花  作者: 一了
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「おねえちゃん、こっちのお洋服とこっちのお洋服、どっちがいいと思う?」

「そうですね〜」


屈託のない笑顔に目がやられそうになる。

いや、もう目がやられてしまっているのかもしれない。どっちの服がいいかわからない。


「うーん、どっちも似合うから難しいですね。」


もうだめだ、日和った言い方しかできない。

コミュ力の低さを理由に面倒くさそうな付き合いには参加してこなかったけど、こういう時に人付き合いのなさやセンスの無さが露呈するってわけ。今まで積み上げてきた経験値が薄すぎる。コミュ力高い人が積んできたものが段ボールくらいの大きさだとしたら私は薄い本くらいのものしか積み重なってない。せめて薄い本の中身をもっと厚くするためにはどうしたらいいのだろう。

これではなんの面白味のない服しか薄い本に描くことができない。時代遅れも甚だしい。


「えへへ、そうかなぁ。」


私の何の解決にもならない言葉にはにかむ瑠璃ちゃんマジ天使!


付け焼き刃の知識では服選びは難しいということがわかったが、今知りたいのはどっちの服がso cuteなこの子により似合うのかだ。


「瑠璃ちゃんはこのお洋服のどこが気に入りましたか?」

「あのね〜、こっちのお洋服はパフスリーブでふわってなってて美味しそうなチョコレート色のワンピースなの。」


バフがかかってる?魔法使い系の人気キャライメージの服ってこと?

いや、着ると強く見えそうな肩の服だから戦闘職系のキャラの可能性もあるな。······ファッションについて学んだことで発想力が身につき始めているのかもしれない。この調子だ。


「こっちはね、白と青のすずしそうな色で夏にぴったりでね、お花のかざりがかわいいワンピースなの。」


今回はブルーじゃなくて青なのか。色の呼び方の基準がわからん。

しかし色の熱の吸収率を考えると確かに茶色よりこちらのほうが涼しそうだな。何よりスカート部分にポケットが付いている!ポケット付きがおすすめです。


「どっちも可愛いから迷っちゃいますね。じゃあ試着して決められるか店員さんに聞いてみましょうか。」

「うん!」


子ども服って試着出来るのかと疑問だったが、無事試着出来る店舗だったらしくフィッティングルームに案内された。


「じゃーん!どう?」


先ず披露されたのは茶色のワンピースだった。

少し体の線に沿ったようなもので、走りにくそうではあるが良く似合っている。


「スッキリとした上品な感じがして可愛いですよ。」


そう感想を伝えると瑠璃ちゃん兄も負けじとするかのように褒める。


「瑠璃、よく似合ってる。すっかりお姉さんだね。髪型もアップにするともっと良いかもね。」


えっ!髪型は今のツインテールがいいでしょ。見解の相違〜。上品さと子どもらしい元気さがよく合うんだよ。マリアージュなんだよ。それにこんなにツインテールが似合う子がそうそういるだろうか。いやいない。


「じゃあこっちにしようかな〜。うーんでも青のワンピースも着てみるね。」


悩ましげな様子で瑠璃ちゃんは再びフィッテングルームに戻っていった。そして数分後、


「じゃーん!見て!」


瑠璃ちゃんがパッと晴れた青空のように現れた。


「すごくよく似合ってます。可愛い。」

「本当だ。これからの季節にぴったりだね。」


うん、青のワンピースを着ているときの方が瑠璃ちゃんの表情が明るい。こっちの方が好みなんだろうな、ポケットも付いているし。これで決まりかと思ったら、チラチラと茶色のワンピースを見ていることに気がついた。


「瑠璃ちゃん、やっぱりチョコレート色のワンピースも気になりますか?」

「あのね、チョコレート色のワンピースのほうが大人っぽくみえるかなって思ったの」


大人っぽく!?ピカピカの1年生なんだから、階段を飛ばして登らずまだ子どもを満喫してていいんだよ!大人にはいずれ強制的になっているものです。


「青いワンピースも充分お姉さんに見えるよ。それに瑠璃ちゃんの目の色とも合ってて素敵ですよ。」


「えへへ、そっかぁ。ねぇ、お兄ちゃんもこっちがいい?」


くるりんとその場で一回転した瑠璃ちゃんを見て、瑠璃ちゃん兄はニコリと笑みを浮かべる。


「そうだね。顔色も明るく見えるし、スカートがふわふわ広がるとお姫様みたいでもっと可愛いよ。」


その言葉が後押しになったらしい。


「じゃあこっちのワンピースにする!」

「俺がどっちも買うって方法もあるけど。」


そんな選択肢があるなら先に言って欲しかった。ほら、瑠璃ちゃんもムッと不満そうな顔になった。


「だめ!おにいちゃんこの前もわたしのお洋服買ってくれたでしょ!なんでも買ってもらってわたしがワガママになっちゃったらどうするの!」


「えー、このくらいなら大丈夫だと思うけどなぁ。」


衝撃的だった。職場でココアを奢って貰い、奢りのココアはやっぱ格別にうめぇなぁ〜と喜んでいた私とは人としてのレベルが違う。瑠璃ちゃんはチョコレート色のワンピースを着ていなくても人間性が高かったーーー


支払いを終え、瑠璃ちゃんがレジ横の受け取り口で梱包作業を待つ間、他のお客さんの邪魔にならないよう少し離れて待つことになった。瑠璃ちゃん兄とともに。若干の気まずさがありつつも、少し緊張したような面持ちで商品の受け取りを待つ瑠璃ちゃんをなんとはなしに見守っていると、瑠璃ちゃん兄が口を開いた。


「今日は瑠璃のために買い物に付き合ってもらい、ありがとうございます。」

「いえ、私も楽しいので······。瑠璃ちゃんもお兄さんと一緒で嬉しそうですね。私の兄は服の買い物には付き合いたがらないうえに、褒めたりしないのでなんだか新鮮でした。」


はにかむ瑠璃ちゃん兄を見て、笑い方が兄妹で似ていることに気が付いた。


「兄バカ目線ですが本当に可愛いと思っていますし、言わないまま後悔したくありませんからね。今の時代、周りの人にはあれこれ言わないよう気をつけますが、身内ですしそこは甘えちゃってます。」

「そうですか。」



何となく男の人は誰かを褒めるのが苦手としているのではと思っていた。つい先日まで働いていた保育園では、父親は子どもが園でトイレに成功したと伝えられてもぼんやりとした返事だけで、翌日母親に子どもが「トイレできた」言っているが本当かと聞き直されたり、子どもが嬉しそうに話していることにもぼんやりとした返事だけになっているなんてことも見てきた。


けれども、素敵だなと思える考え方だった。少なくとも瑠璃ちゃんを笑顔にしている。これはナイスシスコン。ぜひとも今後とも継続してほしいものだ。



購入した戦利品を瑠璃ちゃん兄が持つと申し出て、瑠璃ちゃんから渡されているている間、子どもが喜びそうなお店はないかと周りを見渡す。休日ということもあり、家族や友人連れが多くみえる。


人が多いところは苦手だけど、家族連れや友人同士と思われる仲の良さそうな人達を見ていると微笑ましい気持ちになる。私達ももしかしたら仲が良いように見えてたり、なんて······。


ほんの少し自分がまともな人間になれたように感じるなんて、私はきっと浮かれている。まるで本を読んでいるときのようなふわふわとした夢見心地な気分に包まれる。


つまるところ油断していた。だから、


「おねえちゃんはどんなお洋服が好きなの?おねえちゃんのお洋服も買お?」


無邪気な笑顔と質問の内容を理解した途端、心臓が氷に漬けられ、ギシリと何かに身体と頭を締め付けられたような錯覚に陥る。店内の軽快な音楽と喧騒がどこか遠くに行ってしまい、耳鳴りが嫌に響く。


「すきなふく」

「おねえちゃん?」


答えなければ。なんてことない質問に詰まってどうする。さっき言っていたような大人っぽく見える服、でも私は既に大人なわけで。あるいはスカートかズボンかワンピースかでも、いや服の素材?ぴったりしたものかゆとりのあるものかだけでも−−−何か答えなければと強く思うほど、頭の中が真っ白にぼやけた中に浮かんだ選択肢が端から消え、代わりに嫌な記憶の波に飲み込まれそうになる。何を好きと言えば正解になるのか(・・・・・・・)がわからない。今の自分は表情を取り繕えているのだろうか。私は真顔が怖いらしいから気をつけないといけないのに。


「うん、そうですね······」


何か、適当に言えば


「おねえちゃん!」


その声に肩が跳ねてしまった。瑠璃ちゃんはいつの間にか固く握られていた私の手を取った。


「お手々がギュってなってると疲れちゃうよ。だからお手々つなご!」


何がだからなのかわからないけれど、確かに一瞬の内に私の手を握った小さな手に力を入れ過ぎるなんてことには出来そうもない。何たる策士、賢いな。そんな可愛い策士さんは手を繋いだだけでにこにことご機嫌な笑顔だ。それを見ていたらするりと言葉がこぼれた。


「難しくて、」


ご機嫌だった笑顔がキョトンと不思議そうなものへと変わる。


---しくじった!


逃げ出したくなるのを、繋いでいないほうの手で反対の腕に親指の爪を立てることで耐える。大人の力で子どもを振り払うのは危ない。


「好きなお洋服いっぱいあるから?」

「いや、そういうのがよくわからなくって······ごめんね。」

「??なんでごめんなの?変じゃないのに、変なの〜」


くふっと零れた笑みを見て、思わず身体から力が抜けてしまう。

いや多分こんなこともわからないこと事態が変だと思われてもおかしくないはずだ。


おかしいはずのことをおかしいと思われないなんておかしいことだからおかしはいっぱい······?つまりはおかし食べたいわけで?


意表を突かれ、何も言えなくしてしまっている内に、温かな手に引かれ歩きだす。


「じゃあ、探しにいこ!いっしょに!」


気がつけば周囲の喧騒が戻っていた。


「好きなお洋服見つけようね!どんなお洋服がいいかな〜」


いいのだろうか。何が好きかという普通の質問にも答えられないような奴で。なんてことのない他の人が当たり前にできることが私には酷く難しいことがある。

こんなことですぐに戸惑うような奴が誰かと一緒にいる資格なんてないはずだ。


けれど、もう少しだけ一緒にいられるのなら······


「清潔感があるもの、とか。」


瑠璃ちゃんと手を繋いでいても誰にも怪しまれないような服がいい。ある程度は"笑顔だと人畜無害っぽそうな顔"と言われたこの顔でなんとかなりそうだけど、念には念を入れるに越した事はない。ということは動きやすさよりもキレイめ重視な服になるのかな?あとポケット付きの服がいい。



「じゃああのショップに行ってみよ!おにいちゃんもちゃんと探すんだよ。」

「ん、わかったよ。」


私達の後ろを歩く瑠璃ちゃん兄が快諾する。


ええー、成人男性が成人女性の服を選べるんでござるかぁ。小さい子の服を選ぶような男の人だし、動きやすそうなTシャツかやけにフリフリした服のどっちかになりそうなんだけど。大丈夫かな。


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