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もう少しかかると思っていた保育園での勤務が昨日までで終わり、今日は雇用元の会社に向かう。私が働いているのは便利屋、つまりは何でも屋さんだ。正直、漫画のような職業だとテンションが上がって決めたところはある。
こちらの世界とやらに来てからおよそ4カ月間が過ぎ、ようやく生活にも慣れた。前の世界とは駅名や市名がなんとなく違うかな?という違和感があるくらいで特に支障はない。いや、他にも違いがあるかもしれないけど、田舎育ちの半引きこもり属喪ピエンス種に分類されるせいでそれがわからない。まあ、暮らしていく分には問題ないからいいか。むしろストレスを感じない分いいことのようにまで思えてくる。やったぜ。
「お疲れ様。」
なんか偉い人っぽい推定上司がきた。課長だか部長だかってどのくらいの立場なんだっけ?それと名前なんだったっけな。しばらく保育園で勤務していたせいか、名前をうっかり忘れてしまった。これは仕方がないよね。名札とかつけてないかな。
「入社してすぐ現場にでて貰っちゃってありがとう。どうだった。」
「はあ、まあ······」
そのどうだったって仕事内容のことなのか、心情的にどうだったってことなのかわからん。主語をはっきりさせてくれ。
「仕事についてでしたら、なんとなく原因はわかりましたよ。依頼内容にも記載されていた通り、職員の方のモラハラが主な原因だと思います。」
保育園での仕事は保育をしつつ職員が定着しない理由を探すということだった。結局はありがちな人間関係のせいだった。というか、今まで辞めた人達がはっきりと理由を言っていたらしいのに、上の人達が特に手を打たなかったから皆諦めていったんだろうな。モラハラ職員ももう少し話し方を変えてみたら良かったのに。負の感情は思っているよりも相手に強く伝わりすぎるものなんだぞ。それをよくあんなに他人にぶつけられるよなぁ、疲れないのかな。何より子どもの前で恥ずかしくはないのだろうか?
「報告書、は後で提出します。」
「今まで提出された分も参考に書いていいからね。わかんないことあったら誰に聞いてもいいからね。じゃ、よろしく!」
推定上司は朗らかな笑みのまま去っていった。
······ふむ、ワンチャン名前聞いても怒られなかったかな。しばらく内勤?予定らしいから早めに名前をわかる状態にしないと。
その後は年齢が近そうな女性に書類の書き方を教わった。この女性は上司にあたるのか?社会人って難しい。仕事内容やら役職やら覚えること多すぎる。ただでさえ社外に出ることもあるのだから、普段関わらないような人の名前はまだ覚えられないのはいたし方ないとも言えるだろう。仕方ない、仕方ない――
プルルルルルル
なんて考えていたら、机の上に置かれた電話が鳴ってしまった!電話の出方なんて初日にちょっとしか聞いてないよ。周りを見るとちょうど他の電話対応中だったり、席を外していたりと出られそうな人がいない。
プルル――
くそっもう2コール目だ。しゃーない、せめて簡単な内容であれ。そう願いながらも覚悟を決めて受話器を握る。そいやっさあ!!!
「お電話ありがとうございま「福冨だけど、厚木さんいる?」······厚木ですね、かしこまりました。確認いたしますので、少々お待ちください。」
誰だよ!ちゃんと人の話を最後まで聞け。そして電話対応に慣れてない奴のために名前はもっとゆっくり名乗ってくれ。
保留にしたあと名前を忘れないように急いでメモを取り、座席表を確認する。これがなければ厚木さんを見つけることは不可能だった。作成者さんありがとう。
「厚木さん、お話中すみません。福冨さんからお電話です。」
「社長から?ごめんちょっとまたあとで、ましろさんありがとね~」
会話に割り込む形になったが、相手に一言断りを入れると厚木さんはすぐに電話を取った。
あっあれ社長か〜!!もっと社長ですアピールがないとわかんないよ。変な対応をしていなかったか今更になって焦る。
このままだと何処かでヘマをする確信を得たので、取り急ぎ役職についている人の名前を覚えることにした。······でも、学生時代ただでさえクラスメイトの名前を全員分も覚えていなかったのに、長期休暇の度にさらに忘れることのあった私に覚えられるのか。社会人って大変だ。
そして4日間の勤務を乗り切り、ようやく訪れた休日。しかも今回は本日の振替休日に三連休を加えた4連休ときた。そのため私は極めて重要な予定を入れていた。
それは本日ちょうど学校がお休みの瑠璃ちゃんとのお買物、つまりはショッピングだ。本当はGWに行く予定だったけど私が風邪を引いたせいで予定が伸びに伸びてしまった。保育園はびっくりするくらい風邪をもらう。
けれど予定が伸びたお陰でファッションについて調べることができた。女の子の格好だからとフリフリしたものやワンピースを選ぶなんて安易な発想。また、くすみカラーは大人が好きでも子どもも好きとは限らない。大事なのは本人の意見も尊重すること!!押し付け良くないし、私のセンスもそんなに良くない。
つまり、もし服をどっちの服がいいかなんて尋ねられたら「どっちも似合うから迷うなぁ、瑠璃ちゃんはどっちのほうが好き?」とかふわっとした回答をすれば大丈夫なはず。この人ダサ!とかうざ!とか思われないようにしないと。
家を出る直前まで気乗りしない気持ちもあったけど、腹を括った。昨日顔パックもしたことを思い出し気合十分に待ち合わせ場所に行くと、スポットライトに照らされているかのように輝く瑠璃ちゃんがいた。
「おねえちゃん!」
まっ眩しい!緑色のセーラー服のようなワンピースを着た瑠璃ちゃんが元気に手を振り飛び跳ねている。全身で嬉しいと表現している様子に目を焼かれそうになる。
人が近くを通っていないことを確認し壁際で瑠璃ちゃんの視線に合うようにしゃがむ。あ、白い襟に植物っぽい刺繍がある。オシャレっぽい。
「久しぶり、元気そうで良かったです。今日の服もとっても素敵ですね。」
「うん!あのね、今日はグリーンのワンピだからね、すずしく見えるでしょ。」
「······そうですね。そのワンピースを着ていると、まるで瑠璃ちゃんの目のように綺麗な青いお花の妖精さんみたいでよく似合っていますよ。」
緑じゃなくてグリーンのワンピ。色を英語で言えるなんてすごいね。オッケー、おねえちゃんも覚えたぞ。しかしこんな可愛い子と買い物に行くならそれ用に服を買っておくべきだったか。エヘヘ〜と笑いながら抱きついてくる可愛い子を受け止めていると
「お久しぶりです。今日は僕まで一緒ですみませんが、よろしくお願いしますね。」
誰に話しかけているのかと思えば私にだった。たぶん瑠璃ちゃんの兄だ。なんだかシュッとしたような印象の服のような気がする。男の人の服ってよくわからないけど、もしやこやつは洒落者なのか??そして何より帽子の下の髪色が烏のように黒くなっている。イメチェンか?突然の変わりように危うく不審者として見てしまうところだった。いや、もしかすると髪色を変えるオシャレだったりするのだろうか。
「···こちらこそよろしくお願いします。」
もしやこの組み合わせで私の見た目ってすでにダサいのでは??でも、比較的新しい服だし、セーフだろうか······。
コンビニに行くときでも着る服を纏ってしまっている私はそんな疑問を抱きつつ、瑠璃ちゃんと手を繋ぎながら大型ショッピングセンターへ向かった。へ向かった。




