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私の周りで咲いた花  作者: 一了
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子どもの言葉の発達が遅れているんじゃないか、そう不安になったのは息子が2歳になる頃だった。保育園で息子と同じクラスの子は2語文、3語文の言葉を話している。それなのに息子は「ん」とか「ヤ!」という発語が極たまにあるくらいだ。


「やっぱり、0歳の頃から保育園に預けたのが悪かったんじゃないの?」


義母から言われた言葉に腸が煮えくり返るような気がした。そんなこと関係無い!そう叫びたかったけれど、息子の前で喧嘩をするわけにはいかないとぐっと堪える。


義母は私が仕事を続けていることが気に入らないらしい。私の夫の稼ぎはあまり高収入とはいえない。ただでさえ保険料や物価が上がり、将来年金の受給にも心配があるのに、息子のことも考えると仕事を辞めるなんて選択肢はないのに。なにより私は仕事が好きで、母親になったからと自分の幼い頃からの努力の結果を失いたくない。


「今日はもうお暇しますね。」


それだけ言って息子を連れて家に帰る。用事があるから来いと連絡してきたのに、大した用事なんてなかった。時間の無駄じゃない。



「絵本とか読み聞かせたり、たくさん話しかけたりするのはどう?」


今日の義母の様子を愚痴混じりで話した後の夫の言葉に思わず鼻で笑ってしまいそうになる。絵本なら息子が1歳の頃から読み聞かせはほとんど毎日している。しょっちゅう図書館で借りたり、本屋で購入しているとよく会話でも話題にしていたのに何を聞いていたの?話しかけるのもそう。返事も少ない息子に根気強く話しかけてるのに、夫はあまり関わろうとはしていない。だからそんなくだらないことを提案出来るのよ。


「私はどっちもとっくにやってます。あなたももう少し話しかけてるようにして。」


これ以上はイライラが爆発しそうでもう駄目。部屋に戻ろうとすると、信じられない言葉が聞こえてきた。


「ならさ、仕事をもっとセーブするとか、どう?」

「何を言ってるの?」


私が小さい頃から薬剤師になりたくてずっと勉強してきたと知っているくせに、なんてことを言うの?


「いや、だって姉さんみたいに専業主婦とかさ、」

「あなたが仕事をセーブするなり、専業主夫になればいいでしょ。私は今だって1時間の時短で残業もしなように調整してもらってるもの。」


夫の不満そうな顔が見えるけど、ここまで言っても止まれそうにない。


「そもそも私が仕事をセーブしなかったら、給料は私の方が高いってことお忘れなく。」


そこまで言うと、夫の顔が怒りで真っ赤になる。···やってしまった。それ以上のことを言わないために、今度こそ部屋に戻ると、リビングから物を叩きつけるような音が聞こえてきた。何も壊されてないといいな。自己嫌悪しそうになるけど、明日も仕事だからもう寝よう。子どもと2人きりの部屋は、今夜はなんだかやけに寒々しく感じた。



次の日朝、登園すると息子のお気に入りの先生がいた。色白で幼い顔立ちのお人形のような人だ。声は高すぎず、どちらかと言えば女性にしては低くめの落ちついた話し方をしている。


「あっくん、おはよう。今日はどうする?」


お人形、もといましろ先生に尋ねられた息子はニコニコしながら先生の足にドスンと音がしそうな勢いで座る。あの子、結構重くなってきたのに、先生の足大丈夫かしら。


「今日も元気そうだね!それじゃあお熱測りまーす。はい、ぴ。」


先生のぴの言葉で少し腕を上にし、体温計が差し込まれると脇をギュっと締める。今まで私か3月末に退職された元担任の先生以外に熱を測られると泣いていたのに、ましろ先生には1週間もしない内に懐いてしまって、自分から熱を測って貰うようになった。いつものように測ろうとして体温計をひったくられて、先生の膝にでんっと座り測るようにアピールするところを見たときにはびっくりした。たかが体温測定、されど体温測定。あの時は息子の成長を感じて嬉しさと寂しさが同時にやってきた。こうして少しずつ手を離れていくのかな。


「あっくんママ、おはようございます。あっくんお熱は36.7℃でした。他に体調以外でも問題ないですか。」


一瞬、言葉の遅れについて相談したくなったけど、ましろ先生は担任じゃないみたいだから止めておく。けど、担任は夫と同じように本を読め、話しかけろとしか言わなかったからあまり参考になりそうにない。


「特に問題はないです。」

「そうですか、ではあっくんはお預かりしますね。あっくん!ママいってらっしゃいのお見送りだよ。」


去年一昨年の大泣きがウソのように、ましろ先生の隣に座り直した息子はニコニコしながら手を振ってくる。今度は夫にも送迎頼もうかな。前は息子が泣くのを見てられないとか言って数回しか送迎をしたことがないから。


私がまだ玄関に体を向けようとする前に息子は手を振るのをやめ、保育園のおもちゃを手に取り、ましろ先生に見せている。本当に懐いている。なんでかな。顔かな。いつもは眼鏡とマスクで隠れているけど、たまたま顔が出ていたときにその可愛らしさに思わず二度見してしまったほど。眼鏡とマスク装備でもどこか愛らしさがひょこりと見えてはいるけど。


息子に面食いの気配あり。言葉は遅くてもこんな発見は日々ある。こういうことを夫にも共有できたらいいのにな。


その点、ましろ先生はいいな。あんなに若くて可愛ければ周りの人がなんでも話しを聞いてくれるだろうし。······羨んでも仕方がない。直接はまた余計なことを言ってしまいそうだから、あとでスマホでメッセージでも送ることにしよ。

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