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第二十五話 ブラック・ルーキー

ぜんっぜん大事な話でもないのにしっくりこなくて三回も消して初めから書き直すはめに……

やっぱり王道展開じゃないと筆が乗らないなー


「では! これより第一回、ラストホープ女子会兼、罪人の弾劾裁判を始めるわよ!」

「お、おー」


 シアの言葉に、チャット窓の奥で散発的な拍手が巻き起こる。

 というか、前半と後半のギャップがひどすぎる。


「まずは自己紹介から! はい、それじゃ新人のロコ!」

「えっ? あ、はい! こ、小森 心です!」

「……誰が本名を言えって言ったのよ」


 シアは頭を抱えるが、ミィヤは楽し気に乗っかった。


「あら、いいじゃないですか。わたくしは宮内 枝折しおりと言いますわ。よろしくお願いしますね」

「よろしくお願いします!」


 ミィヤの名前の由来は名字から来てたのか。

 初めて知った。


「あ、そういえば、ずっと気になってたんですけど、ミィヤさんがいつも抱えてるその人形、ルキさんに似てますよね!」

「分かりますっ? ふふふ、これ、実は王子様に似せてわたくしが自作したものなんです!」

「自分で作ったんですか!? すごいですっ!」


 そして話題は思わぬ方向に。

 あるいはこれも、女子会らしい、のかもしれないが。


「ふふふ。わたくしは誰かさんたちと違って女子力というものがありますから。お裁縫もばっちりなんですよ」

「りょ、料理ならわたしの方がうまいわよ!」


 なぜかよく分からないところで張り合い始めるシア。

 そして、それを拾ったのはロコだった。


「シアさんは料理ができるんですね! 一度食べてみたいです!」

「い、いや、むしろあんたは、毎日……」


 言いかけて、シアはちらっと俺を見て、ため息をつくと「何でもない」と首を振った。

 それから、微妙にロコから目線を逸らしながら、ぼそっと言う。


「……詩亜よ」

「えっ?」


 戸惑うロコに、シアは視線を微妙に逸らせながら、怒ったように言う。


「だから、自己紹介よ! 詩人の詩に、亜人の亜で、詩亜しあ!」

「あっ! 詩亜さん、ですね! わたし、小森 心です!」

「知ってるわよ。さっき言ってたじゃない」


 不機嫌そうではありながらも、少し嬉しそうにそう口にするシア。

 これで一件落着、という雰囲気だったが、それで済まさない人間が、そこには一人だけいた。


「あら。それで、名字は?」

「……別に、どうでもいいでしょ」


 ミィヤの追撃に、なぜか動揺したようにシアがふたたびそっぽを向く。


「どうでもいいと言われると、なおさら聞きたくなりますねー」

「あ、あんた、ほんと性格悪いわね!」

「はぁ。ロコちゃんもわたくしも、きちんと名字まで教えたのに。こういう部分でお里が知れると……」

「う、ぐ。言えばいいんでしょ、言えば。……ゆ、百合ヶ崎よ」


 照れながら口にした言葉に、残った二人は沸き立った。


「ゆりがさきさん……ですか? い、いいお名前ですね!」

「ふ、ふふっ! 粗野で短気なあなたにもったいないほどに上品でハイソサエティーな名前ではないですか! 百合ヶ崎! ふ、ふふふっ!」

「だ、だから言いたくなかったのよ!」


 律儀な受け答えながら動揺を隠せないロコと、口元を押さえて笑い出すミィヤに、シアは顔を真っ赤にする。

 しかし、すぐにシアは頭を振って顔のほてりを飛ばすと、やっと「俺たち」に向き直った。


「ま、まあいいわ! これで自己紹介は終わり! それより裁判よ、裁判! 被告! ルキとリュー! あんたたちは神聖な戦いの場である闘技大会を汚した容疑がかかっているわ。何か申し開きはある?」

「申し開きの前に、どうしてただのチャットがこんなことになったのか聞きたいんだけだけど!」


 ……そう。

 これは、いつもの定例チャット。


 リューの浪費癖にドン引きして、ついでに俺が逃げてチャットはぐだぐだの上に終わりをつげ、闘技大会の話もうやむやになったと思ったのだが、そうは問屋が卸さなかった。


 さらに翌日の定例チャット。

 シアはロコとミィヤの二人を扇動すると、こんな妙な裁判とやらを始めてしまったのだ。


 ……ちなみにだが、リューは前回の罰としてサイレントでチャットに参加させられる、という罰ゲームを課せられている。

 今も、シアの台詞に激高して手を振り回しているが、当然ながら何を言っているのかは分からない。


 昨日俺がいなくなってから何があったのか。

 知りたいような、知りたくないような、である。


「どうしても何も、この前あんたが逃げ出したのが悪いんでしょ」

「う……。い、いや、それはとりあえず置いておいて」


 とにかく、リューが使い物にならない以上、自分の弁護は自分でするしかない。


「闘技大会を汚したも何も、俺たちは試合は普通にやってただろ。表彰式で、その、ちょっとあっただけで」

「……まあ、前回の決勝に比べれば、まともでしたしね」


 ぼそっと口にしたのは、敵のはずのミィヤだった。

 これにはシアがくってかかる。


「ちょ、ちょっとあんた! どっちの味方なのよ!」

「別に、どちらの味方でもないですよ。わたくしは大人なので、あの程度のことで目くじらを立てたりしませんから」


 ミィヤは余裕たっぷりの笑みを浮かべると、挑発的に言ってのける。


「大人の恋は利益と打算。お子様なシアと違って、わたくしは王子様がわたくしの王子様でいてくれるなら、たとえほかの人と恋仲になろうと一向に気にしませんわ」

「へぇぇ。表彰式で半狂乱になって試合会場に特攻しようとしてた人の言うことはやっぱり違うわね」

「あ、あれは! シアに合わせていただけです!」


 白熱していく二人だったが、そこに水を差したのはロコだった。


「あ、あの……。わたしは、知らないんですけど……。前回の闘技大会の決勝戦って、そんなにひどかったんですか?」


 ロコが問いかけると、全員のチャット窓が一瞬だけ沈黙した。


「……まあ、その、今回のとは比べ物にならない泥試合だった、というか」

「勝ちとか負けなんてない、ぐっちゃぐちゃの戦いでしたね」


 歯切れの悪い二人の言葉にロコの視線がこちらを向くが、俺もちょっと答えにくい。

 こういう時は……。


「そ、そういえば、準優勝でも賞金が入ってきたんだけど、ロコ、何か欲しいものあるか?」

「えっ?」


 大胆すぎる話題転換!

 困った時は大体話を逸らして解決してる気がするが、気がするだけだろう、うん。


 突然の提案に驚くロコに、畳みかける。


「ほら、遠慮しないで何でも欲しいものを言っていいんだぞ」


 準優勝の賞金は優勝賞金の十分の一だけだったが、それでも今回は三十億ゴールド。

 はっきり言って、塔で買えるようなものはなんだって買える。


「ほ、ほしいもの、ですか……。だ、だったら!」


 ロコは降ってわいた好機に目を輝かせ、



「――も、もっとルキさんといっしょの時間がほしいです!」



 お金とは全く関係のないおねだりをしてきた。

 ……というか、今でもほぼ一緒にいるような気がするんだけど。


 そして、そんなロコの姿を見て、義憤に駆られていたシアやミィヤも完全に気が抜けてしまったようだ。


「……はぁ。完全にやる気が削がれちゃったわね。まあ、いいわ。ルキにはこれから九回はこの世に生まれてきた罪を心の底から反省してもらうとして」

「ちょっ! お前……!」


 しれっと口にされた言葉に抗議する暇もなく、


「ずっと気になってたんだけど、あんた、ロコにちゃんとお休みあげてるの?」

「……やす、み?」


 なんだろう。

 聞きなれない言葉だ。


「シア、何を言ってるんだよ。ネトゲに休みなんてないぞ?」

「真顔で言うな怖いわよ!」


 と、冗談はともかくとして。


「……そういえば」


 初日に塔の案内をした以外は、ロコは大抵シミュレーターで戦いをしているか、オーディオルームで記録映像を見ているか、のような……。


「だ、だいじょうぶです、ルキさん! わたしは毎日楽しんでますから!」


 ロコはそう言ってくれるが、ロコをきちんと休ませているか、と言われると正直自信がなくなってきた。


 趣味と言えそうなオーディオルームでの映像にしても、かろうじてロコ一人で見る「ジェネシスの車窓から」は息抜きと言えるだろうが、俺と並んで一緒に見る映像は純粋な勉強目的であるため、娯楽要素は一切ないと言ってもいいだろう。


 それに、ロコは一人で娯楽用の映像を見るより、俺と一緒に戦闘のある映像を見ようとすることを好む。

 さらに言えば、ロコは映像が終わったあとも手を離すことも忘れるくらい真剣に、いや、むしろ力が入るあまり普通につないでいた手を自然と恋人つなぎにするくらいの熱意を込めて、映像で見た戦い方についてあーでもないこーでもないと議論したりもしていた。

 映像を「趣味」ではなく「勉強の一環」と捉えていることはこの一件からも確定的に明らかだろう。



 ――こんな戦闘漬けの毎日は、もしかしていたいけな女の子の時間の過ごし方として、あまりよろしくない……のではないだろうか。



 シアは、そんな俺の様子を見て大体のことを察したらしい。

 はぁぁ、とわざとらしくため息をつくと、腰に手を当てて苦言を呈す。


「あのね。普通のゲームならそれでいいのかもしれないけど、ここはジェネシスなのよ。少しは息抜きもしないともたないわよ」

「それは……」


 ロコの事情を考えれば、なおさらだろう。

 俺は大いに反省した。


「よし! じゃ、じゃあ今日は休みにしよう! ロコ、今日は一日中一緒にいて、ロコの好きなことに付き合ってやるからな!」

「やった! ありがとうございます! じゃ、じゃあ、まずは……」


 途端にウキウキと笑顔を浮かべるロコ。

 やはり、休みというのは必要なものだったらしい。


 そうと決まればこうしてはいられない。

 すぐに行動をしようとして、


「ちょ、ちょっと待ちなさい! やっぱりそれはダメよ!」


 出鼻をくじかれ、俺はガクッと前につんのめりそうになる。


「な、何でだよ。シアが休みをあげろって」

「それは……ええと、その、あ、あんたがいると、ロコもついがんばっちゃうでしょ。それだと休みにならないじゃないの!」

「な、なるほど……」


 それは、一理ある気がする。


「わ、わたしはだいじょうぶです! ルキさんがいれば元気百倍ですから!」


 気を遣ったロコはそう言ってくれるが、人は正義のヒーローのように都合よくは出来ていないものだ。

 確かにロコは俺が傍にいると頑張りすぎるところがある。


「やっぱり、今日はロコと離れていた方がいいかもな」


 俺の言葉にロコはしゅーんと肩を落とす。

 その様子に、やっぱり一緒にいるべきか、とまた翻意しそうになるが、


「まあまあ。だったらこれから数時間だけお互いが好きなことをして、夕飯時からまた一緒に過ごせばいいじゃないですか」


 そこでミィヤが見事な折衷案を出してくれた。


「あ、うぅ……。でも、わたしもやりたいことがありますから、そのくらいなら」


 ロコはまだ何か言いたげではあったものの、納得してくれた。


 それから、チャットの話題はまた二転三転し、色々な話をしたが、俺の頭の中にあったのは、どうやったらロコを喜ばせられるか、ということだけ。

 俺はあまり出来のよくない頭を必死に回転させ、考えに考え、そして一つの結論に達した。


 そして……。



 ※ ※ ※



「ルキさん!」


 チャットが終わったあと、塔の一階に向かう俺に、ロコが声をかけてきた。


「ああ、ロコ。ロコはやりたいこと、決まってるんだったっけ?」

「は、はい。ルキさんは、どこに?」


 その言葉に、俺はそっと玄関を、塔の出口を指さした。


 色々と考えてみたが、俺に出来ることなんて、高が知れてる。

 その中でロコが喜びそうなことと言えば、食事を少し豪華にするくらいしか思いつかなかった。


 だから……。



「――ちょっとそこまで、果物をりに行ってくるよ」



外の世界へ!



次回更新はたぶん明日

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胃が痛くなった人に向けた新しい避難所です! 「主人公じゃない!
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[気になる点] 果物…モンスター?
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