第二十三話 非情なる決闘(デュエル)! 覚醒せよ魂の獣人デッキ!
ほんとにエタるところだった……
「あのー。モンスターバトルってなんですか?」
ドーン、という感じで開会宣言をしたはずなのだが、ロコにはちょっと通じなかったらしい。
少し微妙な空気がその場に蔓延する。
うん、まあ、教えてなかったからね。
仕方ないね。
「おほん! モンスターバトルっていうのは簡単に言うと、シミュレーター上でモンスターを戦わせて勝敗を決めるゲームかな。配置を考えたり、モンスターに指示を出したりしなきゃいけないから、普通の戦闘とはまた別の能力が必要になってくるんだ」
「モンスターを、ですか? あ、じゃあ、リューさんみたいなモンスターテイマーじゃないと、参加できないんじゃ……」
ロコの疑問はごもっとも。
ただ、モンスターバトルはその辺がちょっと複雑だ。
「矛盾する言い方だけど、モンスターバトルの歴史って浅くて深いんだ」
「あさくて、ふかい?」
「モンスターバトル自体は正式ちょっと前に出来た比較的新しいシステムだけど、その前提になる事柄がたくさんあるんだ」
首を傾げるロコに、一から説明していく。
「ええっと、まず、シミュレーターのミッションはシステム側に用意されたものがほとんどだけど、実はプレイヤーがステージを作るって機能も実装されてるんだ」
「え、そうなんですか?」
そうなんです。
とはいえ、ロコが知らないのも無理はない。
「ただ、無制限にモンスターを配置出来ると、プレイヤーに有利な稼ぎステージばっかり作れちゃうだろ。だから、プレイヤーメイドのステージに配置出来るモンスターは、自分が過去に倒したものだけ、ってことになったんだ」
「じゃ、じゃあ、ドラゴンさんを倒せば、自分で作るステージにドラゴンさんを配置できるってことですか?」
「ああ。ただし、一回ステージを作るとドラゴンのストックが減るから、そのステージに何匹もドラゴンを配置したり、同じステージを何回も作るには、それだけの数のドラゴンを倒してこないといけないけどな」
ロコはほわーと驚いているが、まあここまでが前座。
本題はこれからだ。
「そこでさらにプレイヤーメイドのステージ同士で対戦させたら面白いんじゃないか、って意見が出たらしくてな。それがモンスターバトルの原型だ。要するに一度倒したモンスター……これを捕獲したモンスターって意味で、キャプモンって呼ぶんだけど、そのキャプモンでチームを作って、そのチームを使ってシミュレーター上で戦わせることが出来る、って形だな。だから、モンスターテイマーになってモンスターを使役しなくてもモンスターバトル自体はやれるんだ」
「あ、だったら、今からでもわたしがモンスターを倒せば、ルキさんと一緒に大会に参加したり……」
「あ、あー」
ロコが目をキラキラさせて言うが、俺はちょっと目を逸らした。
逸らした先には、リューの顔が映ったウィンドウ。
「ふふん。実は、闘技大会のレギュレーションは闘技場の管理者権限である程度操作できるんだ。だから、今回は初心者お断りの出場制限をかけさせてもらってるんだよ」
「そ、そんなことが……!?」
「まあ、闘技場の管理者は複数になることを想定してたみたいだけど、こんな序盤のエリアに留まってたのは僕しかいなかったからね! 何でも好き勝手にいじり放題なんだ!」
嬉しそうに言う内容でもない気もするが、まあそういうことだ。
「今回の出場資格はチーム戦力百万以上、出場制限はなしで、制限人数は最高値の九百九十九体! かつてないハイレベルな大会が見込まれるよ」
「えっと……。よくわからないですけど、きっとすごい……んですよね?」
「うん、たぶんね」
正直言うと、俺もよく分かっていない。
ちなみに、そんな出場制限を設ける理由だが、
「レギュレーションはハイレベルな方が、賞金額もでっかくなるんだ。今度の大会は、間違いなく今までで一番のお金が動くよ!」
かんっぜんに、物欲だった。
ただ、俺はエントリー出来たから、まあ気にしないことにしよう。
……もし俺が優勝出来たら、俺がそのお金をもらえる訳だし。
「あ、シアさんとミィヤさんも出場されるんですか?」
そこで、所在なさげにしているシアとミィヤにロコが尋ねると、シアが興味なさそうに答えた。
「シミュレーターでチーム登録しないといけないから、わたしたちは無理ね。ま、そもそも興味もないし」
「なぁんて言って、本当にエントリー出来たら王子様に会うためだけに出場するんでしょう?」
「なっ!? べ、べつに、モンスターバトルだと対戦相手とは離れてるし、そんな不純な目的で……」
ウィンドウ越しに言い合いを始めるシアとミィヤ。
今日も二人の仲が良くて何よりだ。
俺はそっと目を逸らした。
「だったら、ギルドから出場するのはルキさんとリューさんだけですね! 二人とも、応援してます!」
「ああ、うん。まあその、ありがとう」
歯切れ悪く答える俺を不思議そうに見ていたロコだが、突然ハッとして真っ青になった。
「あっ! で、でも、闘技場って遠いところにあるんですよね!? どうやって応援しに行けば……」
「いや、心配しなくても闘技大会出場者は時間に成ったら自動で転送されるし、観戦するのもターミナルからいつでも閲覧できるんだ。それに……」
俺がちらりと視線を向けると、リューが心得た、とばかりにうなずいた。
「実は闘技大会の管理者は、闘技大会の実況者をオファーできるんだ」
「え? じゃあ、まさか……」
ロコと、それから初耳だったのか、シアやミィヤまで目を見開く中、
「じゃ、大会の実況と解説、みんなよろしく!!」
リューは実にいい笑顔でそう言って、親指を立てたのだった。
※ ※ ※
「ということで、やってきました! 歴史と伝統のモンスターバトル第一回大会! 実況はわたくし、ミィヤでお送りいたします」
「……ずいぶんノリノリね、あんた」
「ふふっ。王子様の晴れ舞台ですし、仮にも全国放送……いえ、全世界放送ですから、気合を入れませんと」
急なオファーだったが、戦いを間近で見られるなら、とロコとミィヤがまず賛成し、それに引っ張られるようにシアも同意。
結局は大会の実況と解説を三人でやることになった。
予定の時間になると同時に俺たち全員が闘技場に転送させられ、実況では意外にもミィヤがイニシアチブを取り、実況席に備えつけてあったルールブックを見ながら、ルール説明を始めている。
「この大会はリーグ戦! 出場者全員が自分以外の出場者とそれぞれ一回ずつ試合を行い、最終的に勝ち数が多かった人が優勝となります」
「ふぅん。その辺はスタンダードなのね」
「対戦のルールはフラッグバトル。それぞれの陣地の奥に旗が立っていて、その旗を破壊するか、一時間の制限時間が終わった時に戦力値の多かった陣営が勝利。旗を狙って進軍するのか、あるいは旗を守って敵の数を減らして判定勝利を狙うのか。ちなみに旗のHPは最高設定の九百九十九万。これが試合にどう影響するのかが、勝敗を分けるポイントとなりそうです」
案外真面目なミィヤの解説を聞くともなしに聞きながら、俺は目の前の対戦相手に視線を戻す。
「あっはは! まさに最初からクライマックスだね、ルキ君。やっぱり僕らは、ここでぶつかる運命だったみたいだ」
「リュー。俺を、いつもの俺と同じだと思わない方がいいぞ。俺だって、今日のためにずっと準備をしてきたんだからな」
俺の第一回戦の相手は、リューだ。
リューとは何度も通常のモンスターバトルで間接的に戦っているが、全力でぶつかるのはお互いに初めて。
激闘の予感に、胸が高鳴る。
「では、闘技大会モンスターバトル、記念すべき第一回戦! いきなり同門対決ならぬ同ギルド対決となりましたが、この勝負どう見ますか? 解説のツンデレ魔術師さん!」
「そうね……って、ツンデレ魔術師って何よ」
「またまたぁ。昼はツンツンしてるけど夜はデレッデレなんですよね?」
「な、何で知って……ってちがうちがう! い、いいから! シアって呼びなさいって言ってるでしょ」
仮にも全世界放送だとか言ったばかりなのに何やってるんだか、と思わなくもないが、今さらな話だ。
実況席の混沌を尻目に、俺は素早く自分のチームの編成を確かめる。
闘技場のリングには、俺たちのモンスターが戦う戦場がミニチュア化して投影されていて、その上に自分と相手の戦力比と人数が表示されている。
そして、その戦場の3D映像を挟むように俺と、対戦相手であるリューが立っている。
俺たちは戦場と互いの表情で戦況を読み合いながら、この小さな箱庭で戦いを繰り広げるという訳だ。
「と、とにかく! この戦い、わたしはリューが有利と見るわ」
「へぇ。王子様大好き人間のシアにしてはめずらしいですね」
「だ、だから、いちいちからかうのやめなさいよ!」
真っ赤になって叫ぶシアに、たまらずに横からロコが尋ねた。
「あ、あの! ルキさんよりリューさんが有利っていうのは、ルキさんがあんまり外に出て戦ってないからですよね? で、でも、リューさんも闘技場にこもってるんだったら、あんまり強いモンスターは倒してないんじゃ」
「それは確かに、その通り。でもね。闘技場には、ジェネシス全土にたった一つしかない悪魔の機械があるのよ」
「あ、悪魔の機械、ですか?」
ロコの怯えを煽るように、シアは重々しく告げる。
「ええ。数多くのプレイヤーを誘惑し、そして無数のプレイヤーの破産させた魔の装置……キャプモンガチャがね!!」
「え……ガ、ガチャ?」
――正式名称「カプセルモンスターガチャ」。
これは、モンスターテイマーのための救済措置で、お金を入れてつまみを回すと中からモンスターの入ったカプセルが出てくるという装置だ。
中に入っているモンスターは全てレベル一ではあるものの、レアなモンスターが出てくることもあり、どのモンスターも必ず最初から捕獲率が百パーセントという特性を持つ。
要するにカプセルで当ててさえしまえば絶対にテイム出来るので、運さえよければモンスターテイマーレベル一の状態でドラゴンや巨人などの超強力なモンスターを手に入れることも不可能ではない。
しかし、そもそもモンスターテイマー自体が地雷職扱いされていた上、消費するのはリアルマネーではなくゲーム内マネーとはいえ、ガチャ一回に投入するお金が高額で、レアなモンスターが出る確率が異様に低く、またテイムしても同時に連れていけるモンスターの数は限られているためダブリに使い道が少ない、などの理由で一部のマニア以外には利用されていなかった。
その価値が見直されたのが、このモンスターバトルだ。
モンスターバトルに合わせた追加アプデとして、このカプセルを専用の装置に投入するとカプセルの中のモンスターを倒したことになり、自分のキャプモンとしてモンスターバトルに使用出来る、という仕様が出来たのだ。
モンスターバトルなら、テイマー以外でも参加が出来る。
このアップデートのおかげで、この装置に興味を持っていた者を中心に、余ったお金を興味本位でガチャに投入するプレイヤーが続出。
すると当然、手に入れたモンスターでバトルをしたい、と思うのが人情というもので、一時期一部のプレイヤーの間でモンスターバトル熱が過熱したこともあったらしい。
……しかし、それもワールドリセットで全データが消去されるまで。
当然ながらキャプモンのデータも消えたプレイヤーたちは、みな熱狂から我に返った。
冷静になってみれば、モンスターバトルは天秤に影響しないし、ぶっちゃけただ金を食うだけでメリットはない。
ワールドリセット後はモンスターバトルの人数は激減、さらに正式開始によってプレイヤーたちに余裕がなくなったことによって、モンスターバトルの火は完全に消え失せた。
そんな中でリューは、ワールドリセット後も唯一ガチャを回し続けたガチャ戦士。
いや、モンスターガチャ廃人なのだ!
聞いたところによると、リューがガチャを回した回数は、もはや五桁以上!
古今東西のありとあらゆるモンスターを、キャプモンとして手札に加えている。
「リュー! あんだけお金をかけたんだから、せめてちゃんと勝ちなさいよね!」
ちなみに、そのガチャ費用のほとんどはシアからの仕送りで成り立っている。
そのことで常々苦労しているようだし、この反応も分からなくはない。
今だけは味方となっているシアの声援に不敵に答えながら、リューは笑みを深める。
「それに、ガチャのパワーはそれだけじゃない。……ルキ君なら、分かるよね?」
悔しいが、分かる。
モンスターバトルに使うキャプモンは、二種類の方法でレベルを上げ、強くすることが出来る。
それは「対戦で勝つ」か、あるいは「同名モンスターを合成する」こと。
たくさんのガチャを引いているということは、たくさん同じモンスターを引いているということ。
ダブったモンスターは、当然合成してレベルも上がっているだろう。
さらに言うなら、普段の俺はリューのモンスターたちのレベル上げのため、わざと弱い編成を組んでモンスターバトルをしている。
大会は例外だが、通常はモンスターバトルで倒されたモンスターは、二度とよみがえらない。
この硬派過ぎる仕様のせいで、きっと格差はさらに広がっている。
俺のキャプモンを倒し、さらに強化されたリューのガチャ軍団。
一方、俺のキャプモンは対戦したらほとんどリューに倒されているため、捕獲後にレベルが上がったモンスターはほとんどいない。
普通に考えれば、絶対に勝ち目のない状況。
しかし、だからこそ勝機があるとも、俺は考えていた。
「う、うう。それでもわたしは、ルキさんが勝つって信じてます!」
実況席から、嬉しい応援の声も届いてくる。
俺は激闘の予感に、にやりと唇を持ち上げた。
そして、それを見計らったように……。
「――予定時刻になりました。いよいよモンスターバトル、第一試合、開始です!」
ミィヤの声が、戦いの始まりを告げる!
※ ※ ※
「今、戦況画面が表示されました! これはっ!?」
試合の開始と同時に目の前に大きく浮かび上がる、戦況を示したミニマップ。
それは開始早々から、俺とリューの戦闘スタイルの違いを明確に浮きあがらせるかたちになった。
「レッドチーム、出撃モンスターがいません! 一方でブルーチームのこれは……まさか、全軍出撃状態!?」
ミニマップ上では、レッドチームである俺のモンスターは赤い光点。
ブルーチームであるリューのユニットは青い光点で示されている。
だが、本来なら両方の色で満たされているべきミニマップには赤い点がなく、ブルーチームの陣地ギリギリに配置された大量の青い光点だけが、マップを光らせていた。
「一体これはどういうことでしょう。解説の火力バカ魔術師さん?」
「いちいち変なあだ名つけるのやめなさいよ! ……戦力表示を見ると、ルキのレッドチームの出撃数は二百、ブルーチームの出撃数は五十で、むしろレッドチームの方が多いわ。ルキは迎撃のため、トラップとしてモンスターを伏せていると考えるべきでしょうね」
ミィヤの茶々に怒りながらもシアが的確な解説をしてくるが、まさしくその通りだ。
このモンスターバトルでは、モンスターを自陣内に「トラップ」として待機状態で配置して、任意のタイミングで出現させることが出来る。
リューに対して、俺が選んだ戦術は、待ち。
俺のモンスターたちは、リューに比べて多様性に劣り、特に機動性の欠如は致命的だ。
旗を狙いに行って、勝ち目があるとは思えない。
――だから、あえて攻めは捨てる。
これまでのリューとの対戦での経験から、リューは必ず攻め気の強い編成をしてくると踏んでいた。
だから攻めてくるモンスターを不意討ちによって削り、旗の破壊ではなく、戦力差による判定勝ちを狙う。
それが俺の基本戦術だ。
「どんな罠が仕掛けられていようが、関係ないよ。僕のガチャ軍団は、その全てを蹴散らして進む! 全軍突撃!!」
一方で、リューの戦術は俺以上に単純明快だった。
全軍による進軍と、フラッグの破壊。
それは、自分のモンスターに対する信頼の表れだろう。
恐れるべきは、各個撃破だけ。
自分のモンスターたちが本来の力を発揮すれば、絶対に負けはない。
そんな自信がリューにはあるのだ。
「ブルーチーム、進軍を始めました。モンスターの構成は……これは豪華ですね。ドラゴンにワイバーン、サイクロプスにグリフォン、ベヒーモスまでいます!」
「そりゃそうさ! 僕のチームはSSR以上のガチャモンスターを中心に構成されているからね!」
普段のひねくれた態度はどこへやら。
まるで玩具を自慢する子供のように、リューは胸を張る。
だが、実際にリューのモンスターの顔ぶれは豪華だった。
キャプモンガチャから出てくるのは大半がCやUC、Rのモンスターで、それ以上のレア度、SRやSSR、URなどのレアリティのモンスターが出てくる確率は、全て合わせても一パーセントに満たないという。
しかしその分、高レアリティのモンスターの能力は隔絶している。
出てくるモンスターは全てレベル一だが、SSRであるレッドドラゴンの能力は、レベル一時点でレベル五十の一般モンスターをあっさりと超える。
「それでも……!」
俺のやることは変わらない。
リューたちの軍団が俺の陣地に踏み込んだのを確認して、俺もまた、動き始める。
「リュー! 今回ばかりは、お前に勝ちを譲る訳にはいかない。トラップモンスターオープン!」
俺のコマンドに従って、俺の目の前に俺にしか見えないミニマップが登場する。
そしてミニマップ上、ちょうどリューたちのモンスターの目の前にいるトラップモンスターをタップすると、叫んだ。
「まずは小手調べだ!」
俺の呼びかけに応え、現われたのは……。
「……おーく?」
俺がもっとも多く倒し、俺がもっとも知り尽くしたモンスター、オークだ!
突如リューのモンスターの前に姿を現した四体のオークは、雄たけびをあげて目の前の敵に襲い掛かる。
「ふぅん。ま、これなら、Rのモンスターで十分だね。ルナティックルーンウルフ、リビングアーマー、行け!」
「なっ!?」
リューの指示を受け、二体のモンスターが四体のオークの迎撃に向かう。
交錯は、一瞬だった。
そしてその一瞬だけで、十分だった。
「い、一撃! 一撃です! な、なんとブルーチームのモンスター二体が、レッドチームのオークを一撃で打ち取りました!」
興奮したような声のミィヤの実況に、俺は呆然とする。
「うそ、だろ……」
勝てる、とは思っていなかった。
だが、ここまで圧倒的だとは……。
そんな俺を見て、向かいに立つリューが笑う。
「ふふふ。低レアモンスターと侮ったかな。レベル自体は高レアよりもむしろこちらの方が高いことが多いのさ。……だってガチャでダブリまくるからね!」
「思ったよりしょっぱい理由だな!」
とはいえ、確かにレベルの高さと長いこと使い続けたせいだと思われる練度の高さは侮れない。
俺がこの日に向けて準備していたように、リューもまた、備えていたという訳だ。
「もしかして、これで終わり、なんて言わないよね?」
リューの挑発に、俺はあえて応える。
「当たり前だろ! ここからだ! トラップモンスター、オープン!!」
幸いにも、リューのモンスターの位置は、絶好の不意討ちスポット。
ここで、俺の切り札を試す!!
「出でよ、半人半獣の破壊者!!」
呼ぶのは、手持ちの中で俺がもっとも自信を持っているモンスター。
今回の試合の結果を左右することになる、そのモンスターの名は……!
「――オーク!!」
「結局オークなんじゃないのよ!!」
実況席から呆れたような声が聞こえるが、しょうがないだろ!
だって塔の周りってオークしかいないんだから!
しかし、今回のオークは一味違う。
さっきは棍棒しか持っていない個体だったが、今のオークは斧と大槌を持っている奴を引いたし、数だって、さっきの倍の八体。
これなら……!
だが、勢い込む俺に応えたのは、リューの深々としたため息だった。
「がっかりだよ、ルキ君。悪いけど、君のオークの確殺パターンはもう組んでるんだ。ルナティックルーンウルフ、リビングアーマー。あいつらを片付けろ」
指示に従い、リューのモンスターが俺のオークたちに向かっていく。
そして……。
「えっ?」
交錯は、一瞬だった。
そしてその一瞬だけで、十分だった。
それは、先ほどの一幕の再現。
ただし……。
「なっ! 何で僕のモンスターたちが……!」
結果は、まるで逆。
一撃で倒されたのは、今度はリューのモンスターたちだった。
「おっと、これはどうしたことでしょう。今度は先程の意趣返しでしょうか。ブルーチームのモンスターが、レッドチームのオークに一撃で倒されました!」
実況のミィヤの楽し気な声に、リューの焦りが加速する。
「ま、まだだ! 行け、レッドドラゴン! サイクロプス! SSRランクの力、見せてやれ!」
次に現れたのは、真っ赤なドラゴンと単眼の巨人。
普通に考えれば、オークなどが敵うはずのない相手。
けれど、
「なっ! う、うそだっ!」
俺のオークたちは、そのどちらのモンスターも、一瞬で葬って見せた。
動揺のあまり、リューが戦闘指示を忘れる。
「今だ、畳みかけろ!」
俺はその隙をついて、オークたちを突撃させた。
いずれも格上のモンスターたちの中に、八匹のオークが突っ込む。
「し、しまった! み、みんな、陣形を立て直して……」
力押しの印象が強いが、本来リューはテイマーとしてモンスターに細かい指示を出してその実力を発揮させるタイプだ。
盾タイプのモンスターと遠距離タイプのモンスターを分け、壁モンスターの後ろに火力モンスターを配置して敵を殲滅するのがリューの定石だ。
俺のオークを侮っていなければ、先ほどの攻防で動揺していなければ、冷静に陣形を組んでオークに対処出来ただろう。
しかし、内側に入り込んでしまえば、一芸特化のタイプのモンスターは弱い。
「これはすごい! オーク、大暴れです! ブルーチームのモンスターを、当たるを幸いになぎ倒していきます!」
結局、八匹のオークが討ち取られるまでに、十二匹のモンスターを倒すことが出来た。
こちらの方が四倍の数のモンスターを抱えていることを考えると、大勝利だ。
「どうだ? これで俺がいつもと違うってことが、分かったろ?」
「……わかったよ、ルキ君。そいつらの強さの秘密が」
しかし、この失態が、リューに冷静さをよみがえらせたらしい。
リューの鋭い視線が、倒れて消えていくオークたちを射抜く。
「このオークたち……『合成』したね?」
「……ご名答」
モンスターを強化する手段は、モンスターバトルを勝ち抜くか、同種モンスターを合成するしかない。
まともにモンスターバトルをしていない俺のモンスターが強化されたのなら、その理由は一つ。
俺は、オークだけならギルドの誰よりも多く狩っているという自負がある。
もはやオークを殺す者、「オークスレイヤー」とかいう称号をもらってもいいくらいだ。
しかし、そんなオーク狩りも、無駄じゃなかった。
狩りまくったオークを合成して、俺はついに、リューの操るドラゴンすら倒すオークを作り上げたのだ!
「虚仮の一念、岩をも通す! 俺が一年間狩り続けたオークの集大成が、これだ!!」
胸を張って、見栄を切る。
それに対する返答は、やはり不敵な笑みだった。
「だったら、僕も出さなくちゃいけないようだね。本気中の本気、無数の犠牲の上に完成した、僕の究極のモンスターたちにして、僕の一年間の集大成……高レア四天王を!!」
戦いは次のステージへ!!
気付いたら二万字近くなってたので流石に分割
次回更新は明日の同じ時間




