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第二十二話 成長と成果

初投稿時からちょこちょこ修正しました

まさか冒頭から行抜けしてるとは


「行ってきます」


 と行ってシミュレーターに向かうロコを見送ったあと、俺はすぐにロコを見守るべく、「観戦」モードでミッション画面を開く。


 今日はおそらく一つの区切りになる日だ。

 いつもは俺もシミュレーターを動かしながらたまに様子を見る程度なのだが、今日ばかりはロコの「記念すべき瞬間」を見届けるため、シミュレーションルームに待機して、戦うロコの姿を見守る。


「観戦」機能によって空中に映し出されたロコのたたずまいは、もはや数日前とは違っている。

 レベルが上がったことで防具の装備制限も一段階上になり、初心者用装備から初級者装備にグレードアップ。

 ついでに、レベル制限がちょっとだけついたもっと違う種類の水着だって着れるようになった!

 ……い、いや、着せないけどね!


 しかし、本当に変わったのは、装備じゃない。

 その落ち着いたたたずまいは、とてもジェネシスを始めて数日の初心者のものではない。

 気負いはなく、ただ静かな緊張感だけを持ってまっすぐに前を見て……あ、俺が観戦してるのに気付いた。


 さっきまでの歴戦の勇士の風格はどこへやら、空中に投影されたモニターに向けてぴょんぴょん跳ねながら手を振っている。


「こらこら! いいから、集中!」

「はい! 見ててくださいね!」


 俺は画面越しのロコに手を振り返しながら、すっかり緊張感の消えてしまったロコに苦笑する。

 だが、ここからの切り替えの早さもまたロコの強みだ。


「……おねがい」


 一瞬で真剣な表情を作ったロコは、そっと左手に持ったハンドベルを鳴らす。

 その音色に誘われてやってきたのは、長身の女性だ。


 一見するとロコにも似た服装をして、右手に銃を携えたその女性は、しかし普通の人間ではありえなかった。

 なぜなら、その顔には目も鼻も口もない。

 まるで普通の人間に、顔だけマネキンのようなつるんとした皮膚を張りつけたような、完全なるのっぺらぼう。


 これが、ロコのガーディアン。

 ローミーの質問の途中、精神的ストレスで何もしゃべれなくなったことから生まれたという、いわくのありすぎる彼女の守護者。


 ロコの使った「守護者のハンドベル」はチュートリアルでもらえる初心者救済用のアイテムだ。

 ジョブのレベルがどれか一つでも50を超えれば呼び出せなくなるし、使用回数が三回という制限があるものの、どんなジョブでも使用することが出来て、ガーディアンの維持にSPも必要としない。


 シミュレーターの中でなら使ったアイテムもクリア後に元に戻るため実質的に消費は何もないのだが、召喚獣を呼び出した場合、敵を倒した時の経験値やアビリティポイントが分散するため、出来るだけ呼ばないようにとは言ってある。

 これを呼んだということは、ロコも本気だということだ。


 そして、それを待っていたかのように現れる、モンスターの群れ。

 その数、おおよそ三十。

 ロコはそれを見た瞬間、スッと自然な動作でガーディアンの後ろに下がる。


 戦端を開いたのは、ガーディアンの放った銃撃。

 ガーディアンのぎこちない動きによって放たれた銃弾は、それでも群れの中心に飛び、その中の一匹を捉える。

 しかし、そのモンスターは一瞬だけのけぞって足を止めたものの、さほどのダメージを受けた様子もない。


 とはいえ、これは当然の結果。


 ガーディアンのレベルは100で、それは初心者と比べれば圧倒的なものだ。

 ただ、彼らがあくまでも「初心者の救済用」のキャラクターというのもまた事実。

 レベル100にしてはずいぶんと控えめなステータスしか持たず、特に攻撃面においては同レベルのプレイヤーやモンスターと比べて極端に弱い。

 初期職業によって選ばれる固定武器の攻撃力が非常に低く、ダメージソースとしては精々レベル20台のモンスターにしか通用しないのだ。


 しかし現状、一人で複数のモンスターと渡り合っているロコにとっては相手のターゲットが分散するだけでも大きな意味がある

 実際に一番ヘイトを稼ぐ初撃を譲ったロコは、獲物を狙う目でモンスターたちを見ていた。


 すでに最適な攻撃位置を読み切っていたロコが、左手の人差し指を立てながら、パチン、と指を鳴らす。

 これだけは二週間前と同じ魔導銃から撃ち出されるのは、真っ赤な弾丸。

 しかし、飛んでいったのは以前と同じパワーショットではない。


 パワーショットの派生、「バーストショット」。

 パワーショットを使い込んだことで習得した着弾時に爆発する銃撃を放つスキルだ。


 これだけの準備期間があって、ロコが標的を外すはずがない。

 バーストショットはモンスターの群れの中心にいた魔物に当たり、周りに衝撃波をまき散らす。


 ――いい判断だ。


 バーストショットはSP消費が100と多いが、今のロコに払えないコストではない。

 群れを相手にする場合はどれだけ早く、どれだけ多くの敵を戦闘不能に出来るかで勝負が決まる。

 その辺りの判断力も、ロコはどんどん身に着けてきているらしい。


 ロコの攻勢は止まらない。

 衝撃をまき散らした初弾によって勢いを減じた敵を、的確な射撃によって撃滅、抹殺していく。


「まだっ!」


 この時点で、三十匹はいた群れのうち、十匹は戦闘不能にされている。

 だが、勝負はここからだ。


 そろそろモンスターとロコたちとの距離が近づいてきて、一部の魔物が攻撃を仕掛けてくる。

 ロコはそれを冷静に見て取ると、ぴょんぴょんと後ろに跳んでモンスターの放った矢や魔法を避けながら、銃撃を続ける。


 バックステップしながらのはずなのに、その射撃は正確無比。

 次々に魔物の頭を撃ち抜いて、秒間一殺に届こうかというペースでその数を減らしていく。


「くっ!」


 好調な戦況にかかわらず、ロコの口から声が漏れる。

 モンスターの集団を銃撃から守るように、魔弾の効きづらいスライムの群れが先頭に躍り出たのだ。


「それ、なら!」


 しかし、ロコは慌てない。

 コン、と左手が銃把の底を叩く。

 これは、「属性弾」使用のトリガー。


 ――ファイアバレット。


 一時的に魔弾の属性が火に変わり、スライムたちを焼き尽くす。


 これで一息つけるか、と俺は文字通り息をつきそうになるが、腐っても高難度ミッション。

 そんなプレイヤーの甘えを許さない。


「ガァアアアアアアアアア!!」


 ついに恐れていたことが起こった。

 ロコに接近するのは、青い獣。


「ルーンウルフ!?」


 青い毛皮を持つ人狼が炎上するスライムの脇を抜け、ロコに向かって跳びかかってきたのだ。

 恐らく、燃え上がるスライムが図らずも視界を遮る壁となり、ロコの反応がわずかに遅れたのだろう。


 至近距離にまで接近するルーンウルフ。

 しかも、ルーンウルフの強い魔法耐性は、魔弾を弾く!


「ま、だっ!」


 しかし、その課題ももはやロコは克服していた。

 ロコの左の手が腰のホルスターに伸びる。

 そうして、この時のために用意されたもう一挺の銃をつかむと、至近距離にまで近付いてきたルーンウルフの鼻先にぶつけるようにして引き金を引く。


 ――バァン!


 見事な抜き撃ち。

 魔導銃とは違う、派手な銃声と共に、ルーンウルフがのけぞる。


 悲痛な声をあげるルーンウルフにもロコは容赦しない。

 銃の反動に顔をしかめながら、ほとんど接射と言えるような距離から続けざまに弾丸を撃ち込んでいく。


「これ、で!」


 四発目を撃ち込んだところで、ルーンウルフは動かなくなった。


「さすがお高い弾! 強いです!」


 ロコが左手で使ったのは、倉庫に死蔵されていた装弾数が少ない代わりに威力の高いリボルバー式の拳銃だ。

 数日前、ロコが二挺拳銃アビリティを覚えたことで、魔導銃と同時にもう一つ小型の銃を扱えるようになっていた。


 銃の攻撃力自体はそれでも魔導銃にはおよばないのだが、拳銃に入っているのは「銀の弾丸」で、人狼に対して特効がある。

 こんなものを至近距離から顔にぶち込まれれば、流石のルーンウルフも無事では済まなかったようだ。


 そして……。


「これは、勝負あったかな」


 うまくルーンウルフを葬った時点で、すでに大勢は決していた。


 残りのモンスターはもはや最初の三分の一の十匹程度。

 しかも、ルーンウルフ以外のモンスターはガーディアンがうまく引きつけていて、ロコに向かっていく様子はない。


 こうなればもう七面鳥撃ちだ。

 一匹ずつ確実に数を減らされて、一人また一人と倒れていく。


 ただ唯一、ロコの障害になるとしたら……。


「……リビングアーマー」


 物理耐性も魔法耐性も馬鹿に高いこのミッションのボスモンスター。

 鎧のモンスターのくせに意外に動きが速く、生半可な攻撃では全く怯みを見せないため、手に持った大剣をぶんぶんと振り回されるとロコでも十分な攻撃チャンスがない。

 かといって遠くにいても、溜めが長い代わりに威力と速度のある斬撃スキル「ソニックブーム」を撃ち出してくるという厄介なモンスターだ。


 前回このミッションに挑んだ時は、このリビングアーマーに攻撃が通じず、あわや死亡、というところでロコが離脱した。

 その時はルーンウルフがうまくさばけずにロコが満身創痍だった、ということもあるが、無策で挑めば同じ結果になるのは必定。

 さて、どうなるか。


 雑魚モンスターが次々に倒れ、残ったのはいよいよリビングアーマーだけ、となったところで、ロコが動く。

 覚悟を決めたように息を吐くと、いまだにガーディアンとやり合うリビングアーマーに向けて左手の指を向けたのだ。


「まさかっ!?」


 それは、チュートリアルで散々に覚えさせられたポーズ。

 今、ロコはサブジョブに駆け出し冒険者をセットしている。

 だとしたら、あれは……。



「スキルコール:スナイプ」



 俺の予想を裏付けるようにロコは相手を激昂状態にさせる基本スキル、「スナイプ」を発動させた。


「考えたな、ロコ!」


 スナイプによる激昂状態には、スナイプを撃ったプレイヤーに対して有効な攻撃があった場合、ほかの一切の条件を無視してそれを使う、という特性がある。


 例えば剣と弓の両方を使う敵が至近距離で激昂状態になれば、その時に剣による攻撃をするのか、弓で攻撃するのかは分からない。

 だが、遠距離で激昂状態になった場合、仮に剣の方が攻撃力が高くても、絶対にすぐに攻撃を発動出来る弓を使う。


 これはその応用。

 リビングアーマーの遠距離攻撃手段はソニックブームただ一つ。

 なら、この距離でスナイプを使えば、リビングアーマーが溜めの長いソニックブームを使うのは必然だ。


 ソニックブーム溜め中、リビングアーマーは無防備になる。

 必ずそこで溜めが入ると分かれば、それは最大の攻撃チャンスと言える。


 しかしもちろん、これはリスキーな賭けだ。

 ソニックブームは出こそ遅いものの、威力も速度もかなりのもの。

 それが激昂状態でさらに破壊力が上がっているとしたら、耐えることも避けることも困難だろう。


「どうするつもりだ、ロコ?」


 はらはらと俺が見守る中、ロコはホルスターから黄色い線の入った弾を取り出した。

 マジカルガンナーの奥義にして真骨頂、「魔法弾」だ。


 調べてみたところ、マジカルガンナーは事前に精製した「魔法弾」に自由に魔法を込めることが出来る。

 まだロコは魔法を使えないので、購買のランダム商品から使い捨ての魔法のスクロールを買って、何種類かの弾丸を作った。


 そのうちの一つ、リビングアーマーに有効な、アシッドボールの魔法が込められた黄色い銃弾をを魔導銃に込める。

 だが、俺が驚いたのはそこからだった。


 黄色の銃弾を魔導銃に差し込んだ瞬間、その身体から青いオーラが吹き上がったのだ。


「あれは、マジックブーストか!」


 ロコは、ほかのプレイヤーの映像を見ながら自分のブーストのトリガーをずっと考えていた。


 それが「魔法弾を装填した時」という装備条件。

 装備条件は自分で操作出来るため誤作動が少なく、弾丸の装填なら時間もかからない。


「スキルコール:チャージ」


 そして、マジックブーストによって、スキルキャストは爆発的に速くなる。

 本来なら長い時間隙をさらすはずのチャージのスキルを一瞬で完了させ……。


「なっ!?」


 そこでさらに、目を疑う光景が映る。

 チャージを終えた瞬間、ロコの身体を覆うオーラが、緑色に変化したのだ。


「テックブースト!?」


 クリティカルと弱点攻撃のダメージを上げ、同時に思考速度を上げることで周りの景色をスローモーションにする。

 まさに狙撃手のために用意されたようなブーストが、ロコにかかる。



「――これで、おしまいです」



 緑色のオーラに包まれたロコは、いまだに剣を振り上げ、ソニックブームのチャージを行っているリビングアーマーにその銃口を向ける。

 正確無比な射撃能力を持つロコが、テックブーストの加速状態の中で的を外すはずもなく……。


 魔法の弾丸はリビングアーマーの弱点を見事に貫き、着弾と同時に発動した酸の魔法によって、ロコを苦しめたステージボスは光の粒子へとその姿を変えたのだった。



 ※ ※ ※



 ロコが一度負けても、このミッションのクリアに固執したことには、訳がある。

 このミッションはロコがクリア出来る中では一番の高難度で、しかもそのミッションクリア報酬には、経験値が設定されている。


 そして……。


「やった! やりました! レベル20です!!」

「おおお! やったな、ロコ!」


 ついにロコは、ジョブチェンジが可能になるレベル、マジカルガンナーLV20を達成したのだ。


 ――あれだけ寄り道して、これか。


 ロコの恐ろしいまでの成長速度に、俺は内心で舌を巻いていた。

 それに、最後に見せたブーストのスイッチという高等技術。


 あれは、確実に戦闘映像から着想を得たものだろう。

 ステータス面だけではなく、プレイヤースキルの面でもロコは確実に強くなっていると、そう実感する。


 ――俺がいつ追い抜かれても、おかしくないほどに。


「ルキさん?」


 不安そうなロコの声に、ハッとする。

 ここはジェネシスの先輩として、ロコの師匠として、こんな暗い顔を見せていい場面じゃない。

 俺は明るい表情を繕って、笑顔でロコに尋ねる。


「じゃあ早速ジョブチェンジするか? もう何になるかは決めたのか?」

「あっ! て、転職ができるようになるのがうれしくて、まったく考えてませんでした!」


 ブーストの切り替えなんていう上級者顔負けのテクニックを使ったロコの初心者丸出しな発言に、呆れると共に少し安心してしまう。


「やっぱりルキさんと同じ剣士系に、あっ、でも、魔法弾をうまく使うためには魔法使いもいいですよね。だけどマジカルガンナーに使えるアビリティが欲しいなら銃使いの方が……ううぅぅ」

「ま、それはじっくり決めればいいさ」


 俺もほかのゲームで経験があるが、あーでもないこーでもないとキャラビルドを考えている時間が一番楽しかったりするのだ。


「でも、ま、なんにせよ。おめでとう、ロコ。これで君は、ジェネシスの本当の入り口に立ったんだ」

「ルキ、さん……! ありがとうございます!」


 飛びついてきたロコの頭を撫でながら、苦笑する。

 こんなことを俺が言うというのも変な感じだが、まあこういう儀式も大切だろう。


「これからはロコが自分で自分のスタイルを決めていかなきゃな。やっぱりマジカルガンナーを主軸にやっていくのか?」

「それは……はい。このジョブは、今のところ自分に合ってる気がして」


 まあ、そうだろう。

 反動の少ない魔導銃とロコの正確なエイム力は傍から見てもがっちりと噛み合っている。


「じゃあ、決めなきゃいけないのはサブジョブの方かもな。魔法使いを入れて魔弾と魔法弾を強化してもいいし、ガンナー系を押さえて手札を増やしたり、戦士系を入れて耐久力を強化したり……」


 夢が広がっていく。


「あ、でもわたし、しばらくはサブは駆け出し冒険者でもいいかなって思ってるんです」

「え? 本当に?」


 意外な言葉に、思わず聞き返してしまった。


「名前もふくめて、なんだかわたしに合ってる気がして……」


 照れたように口にするロコに、俺も自然と笑顔になる。


「いや、分かるよ! 駆け出し冒険者はなかなかスキルがいいもんな! 攻撃の種類を問わずに強化してくれるチャージ、予備動作の大きい攻撃なら確実にダメージを減少させてくれるガード、敵を確実に激昂状態にさせて行動を操れるスナイプ。どれも全部使い方次第では一線級になる」

「で、ですよね! じゃあ、サブジョブは駆け出し冒険者のままでも……」


 俺は大きくうなずいた。


「ああ! 大丈夫だと思う。だって、総合的に見て、サブジョブ候補としては駆け出し冒険者は――」



 ※ ※ ※



「――ゴミよ。おとなしく別のジョブをつけておきなさい」


 正午のチャットで駆け出し冒険者の話題を出した時の、シアの言葉がこれである。


「ル、ルキさん……?」


 ロコも、話が違う、とばかりに助けを求めるような視線を送ってくる。

 しかし、シアがこんなに駆け出し冒険者を嫌っているとは思わなかった。


 駆け出し冒険者に親でも殺されたのだろうか。

 ローミーに親を殺されたっぽい人ならダース単位で知ってるんだが。


「べ、別にわたしだってイジワルで言ってるワケじゃないわよ。でも、サブにつけるなら、駆け出し冒険者だけはオススメしないわ」

「ど、どうしてですか?」


 シアは困ったように眉を寄せると、解説し始めた。


「まず、第一に、ステータスの問題ね。駆け出し冒険者はサブジョブにしても唯一、ステータス補正がつかないわ。レベルがゼロだから当然ではあるけど。だから、簡単に言うとほかのジョブをサブにつけた場合と比べたら半分近いステータスで戦うことになる」

「う、それは……」


 ステ補正の問題は、やはり大きい。

 もちろんメインを一本で絞って育成しているなら影響は小さくなるけれど、二つしかないジョブ枠にステ補正のないものを選ぶの、と言われると少し迷うところではある。


「第二に、発展性がない。スキルはメインジョブの時に使えば成長して、新しいスキルを覚えたり硬直時間が減ったり威力が上がったりするけど、メインジョブに設定できない駆け出し冒険者ではそれは不可能よ。まあ成長も何も、そもそも駆け出し冒険者には三つしかスキルが設定されてないみたいだし」

「それも、まあ、そうだけど……」


 的確に痛いところを突いてくる。

 だんだんと自分の声が小さくなってくるのを感じる。


「第三に、スキルのリスクが大きい。チャージは使用中は身動きが取れないのに別のスキルにつなげないとキャンセルが出来ないし、ガードは言うまでもなく予備動作も硬直時間も長い。スナイプに至っては敵を強化するありさまよ。安定を求めるなら、いくら有用でも使うべきじゃない」

「だ、だけどさ! 格上が出てくる場合には、かなり役に立って……」


 俺の必死の反論も、その冷たい目には通じない。

 シアは冷静に切り返してきた。


「むしろ、それが一番の問題なのよ! なまじレベルに関係なく作用するスキルが多い分、背伸びをしやすくなる。結果、勝てない相手に挑んで死ぬリスクが高まることになる。サブジョブに選べるのがそれ以外にない、というような特別な事情がある場合ならともかく、あなたがロコを大事に思うなら、もっと違う道を薦めた方がいいと思うけど」

「う、うぐぐ……」


 完全論破され、ロコと二人で頭をうなだれさせる。

 だが、そこをとりなしたのは、思いもよらない人物、リューだった。


「ま、その辺はあとでゆっくり考えればいいんじゃない? それより今日は、もっと大事なことがあるでしょ!」


 いや、とりなした訳ではないのかもしれない。

 ただただ別に話したかったことがあっただけで。


 だが、その性格が今はありがたい。

 俺は遠慮なくその助け船に乗る。


「もちろん、忘れる訳ないだろ。今日は、待ちに待った『対決』の日だもんな」

「ふふっふふふ! ぜったいに負けないよ!」


 突然の対決モードになった俺とリューに、ロコがついていけずに首をかしげる。


「あ、あの、今日って、何か……」

「前に説明しただろ、ロコ。今日は、八月の十五日、闘技大会の日だ」

「あっ! そういえば……」


 ジェネシスでは年に二回だけ、世界規模での闘技大会が開かれ、資格を持つ者は闘技場に転送され、それぞれ決められたお題に沿って覇を競うことになる。


 そして、今月の闘技大会は「モンスターバトル」。

 捕獲したモンスターで戦うリーグ戦。


 すなわち……。



「――キャプモンリーグ、開幕だ!!」



次から闘技大会!

数々のなろう作品をエタらせた魔のパートを、この作品は無事に乗り切ることが出来るのか!



次回更新はたぶん明日……かそのくらい

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胃が痛くなった人に向けた新しい避難所です! 「主人公じゃない!
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