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第十五話 罠

ゲームのドットいじってたらいつのまにか時間が


 あのチュートリアルから一年と少し。

 俺はふたたび、あの緑髪の悪魔のせいで窮地に立たされていた。


「――それでそれで、ルキさんの初期職業は何になったんですか?」


 俺をキラッキラの目で見てくるロコ。

 まさかこんな純真な彼女の前で、俺のジョブを言う訳にはいかない。


 俺は必死に知恵を絞り、


「それは……ロコへの宿題とする!」

「しゅ、しゅくだい?」

「ああ! ロコがジェネシスに慣れてくれば、他人のジョブだって自然と分かるようになるはずだ! いいか? 何でも人から教えてもらうだけじゃなく、自分で考えることが大切なんだ!」


 堂々と問題を先送りにした!!


「さ、さすがはルキさんです! せいいっぱいがんばります!!」


 そして、俺の適当な言葉にも、ロコっと、いや、コロッと騙されてくれるロコ。

 いや、冷静に考えると他人の今のジョブが分かるようになっても、初期職業が分かるとは限らないと思うのだが、その辺ちゃんと考えているのだろうか。


 正直胸が痛まなくもないが、これはロコのためにも仕方のないことなのだ。

 だから、チャット窓越しに「こいつ最低だな」って目で見るのはやめてくれないかなシア。


「と、とりあえず、今はロコのマジカルガンナーについて検証していこうか。アビリティ欄って今開けるか?」


 こういう時は話を逸らすに限る。

 俺は口早にロコに指示を出す。


「は、はい! こうですか?」


 ロコは流石の現代っ子と言うべきなのか、すらすらとメニューを操作すると、アビリティ画面を呼び出した。



―――――


魔弾の射手            取得済み

魔弾威力上昇  必要AP       30

魔弾速度上昇  必要AP       30

SP向上(小) 必要AP      100

魔弾速射    必要AP      200

銃の知識    必要AP     1000

弾精製速度上昇 必要AP     1000

魔弾チャージ  必要AP     2500

二挺拳銃    必要AP    10000


―――――



「やっぱりユニークっぽいな」

「そうね。魔弾関連のアビリティは聞いたこともないわ」


 画面を覗き込んだ俺とシアが、口々につぶやく。

 ただ、当のロコはやっぱりよく分かってはいないようだ。


「ああ。そういえば、アビリティの話はしてなかったな。この機会に、もう少し詳しく説明しておくか」

「お、おねがいします!」


 少し考えて、話す内容を整理してから、口を開く。


「アビリティってのは、基本的にはいくつでもつけられるし、手動でオフにしない限りずっと効果を発揮する。だから、基本は覚えれば覚えるほど強くなる。……んだけど、メインジョブによって効果を発揮するアビリティは変わるんだ」

「せ、せっかく覚えたアビリティが使えないなんてことがあるんですか?」

「ああ、いや。心配しなくてもそのジョブで覚えたアビリティが同じジョブで使えないなんてことは……まあ、あんまりないよ。ただ、問題はジョブチェンジした場合なんだ」


 転職までが遠いマジカルガンナーのロコにはまだ早い話ではあるが、今ここで話しておいて損はないだろう。


「これにはアビリティの種類が関係してる。三種類あるんだが、ええと、まず分かりやすいところから行くとユニークアビリティかな。これは原則その職業でしか覚えられないし、覚えても職業を変えたら使えない。マジカルガンナーだと魔弾関係がそうだ」

「あ、じゃあ、魔弾を使えるのはマジカルガンナーだけってことですね」

「たぶん、そうだな」


 俺は一つうなずいてから、話を戻す。


「それから二つ目。汎用アビリティ。能力値の割合上昇系のアビリティが多くて、マジカルガンナーだと『SP向上(小)』がこれに当たる。汎用アビリティはユニークアビリティとは正反対で、色んな職業で覚えられるし、一度覚えたら例外なくどの職業でも使える」

「だったらマジカルガンナーでSP向上を覚えたら、ほかの職業になっても……」

「SPは増えたままだ。ついでに別のジョブで同名のアビリティを覚えると効果が累積するから覚えない手はない。汎用アビリティだからって馬鹿に出来ないし、ジェネシスのガチなプレイヤーは、自分のメインジョブと違う系統のジョブでも下級職は全部育てて汎用アビリティは網羅してることが多いな」

「まさに覚えれば覚えるほど、強くなるってことですね!」


 とはいえ、色々なものに手を出すと、メインのレベル上げが滞るため、そこはバランスが大事だ。

 その辺りもあとで教えておこう。


「で、最後が系統アビリティ。『銃の知識』とか『二挺拳銃』がそうなんだけど、これは『銃使い』の系統を持つジョブ以外だと効果を発揮しないんだ」


 俺の説明にほうほうとうなずいていたロコだったが、突然パッと閃いたように顔をあげた。


「あ! わかりました! だからジョブに系統が多ければ多いほど強いんですね!」

「ああ。基本的に効果が限定的なアビリティほど強い効果があるからな。複数の系統を持てる複合ジョブの方が、特に最終的な能力は単一系統ジョブを上回ることが多い」

「ほあー」


 想像したのか、ちょっと間抜けな顔を見せるロコだが、俺はここで釘を刺す。


「ただし! それはあくまで、最終的に、って話だ。色んなジョブを経験してたくさんのアビリティを覚えないと複合職のうまみは薄い。油断せずに行こう!」

「はい!」


 と、麗しき師弟愛を見せつけたところで、「あの、王子様」とミィヤが口を開いた。


「職業の方向性が決まったのなら、まだチャットの時間があるうちに装備も決めてしまった方がいいのではないですか? ロコちゃんも女の子ですし、可愛い装備を選ぶにはこの場を使った方がいいと思いますわ」

「ああ。それもそうかもな」


 残念ながら、俺にはファッションセンスとかいったものとは縁がない。


 ロコは性格的に俺が選んだものなら何でも受け入れてしまいそうだ。

 俺と二人だけで選んだなら、好みではない装備を押しつけてしまう、なんてこともあるかもしれない。

 ここはみんなの協力を仰いだ方がいいだろう。


 ミィヤの提案に、


「確かにね。ルキになんか、任せておけないわ」

「今度はファッションショーか! それも楽しそうだね!」


 世話焼きなところのあるシアも、何でもゲームにしてしまうリューも賛成のようだ。


「あ、あの。装備、ですか? でも、わたし、何も……」

「ああ。それなら平気だ。ここの隣の部屋にこの塔を卒業していった人が置いていったアイテムが山みたいに積まれてるから、そこで適当なものを見繕えばいいよ」


 俺が軽い感じに言うと、ロコは目を見開いた。


「そ、そんな……! ほかの人のものなんですよね?」

「あー。前に話しただろ。この初心者の塔の設備を使えるのはレベルが低い間だけなんだ。だから、高レベルになって塔を卒業する人が、次の新規プレイヤーのためにもう使わないアイテムを置いていくのが伝統になったんだよ」


 特に守護者のベルみたいに低レベル制限があるアイテムはみんな置いていくのが常識みたいになっているようで、俺もずいぶんとお世話になった。

 それと、一部女性プレイヤーの間ではアクセサリを気に入った女性プレイヤーに渡して卒業していくという謎の風習があり、同じアクセサリが何代にも渡って使用されたというエピソードもあったが、まあその話はいいだろう。


「で、でも、いいんでしょうか。最初から、そんな装備をもらって」

「大丈夫大丈夫。そんなものすごく強い装備なんかはないから、どれを選んでも大して変わらないって」


 そして、大して変わらないからこそ、装備を選ぶ基準が見た目やセンスになってくるのだ。


「基本的に、ジェネシスでは強い装備っていうのは装備制限があるんだよ。『レベル100以上じゃないと装備出来ない』とか『力の数値が一定以上ないと装備出来ない』とか、あるいは『特定のジョブじゃないと装備出来ない』とかね。だから、ここに置いてあるのはレベル1から装備出来る初心者用装備かネタ装備くらいなんだ」


 ただ、これはロコにはプレッシャーになりそうなので言わないが、高レベル帯でもらえる装備の中にも、極端なネタ装備にはレベル1から装備出来るものも多い。

 そういうのを見つけた人が、塔を出たあともわざわざ戻って使わない装備を提供してくれることもあった。

 それと……。


「アクセサリだけはレベル制限がないから、結構ガチなものもあるんだ。これについてはあとで俺と選ぼうか」

「はい!」


 今までで一番元気のよい返事が来る。


 これは単純に慕われている、と思っていいのだろうか。

 自分の身に着けるものくらいは自分で選びたいものじゃないかなと思うのだが。


「あ、あの。なにか、これを選んだ方がいい、っていうのはありますか?」


 もしかするとロコは自分で何かを決めるのが苦手なのだろうか。

 やたらと俺に意見を求めてくる。


 とはいえ、ゲーム慣れしてないから不安なのかもしれない。

 俺は出来るだけロコの決断の邪魔にならない言い方を心掛け、意見を口にする。


「まず、武器は初期装備の魔導銃で固定かな。魔導銃は誰も持ってなかっただろうし、初期装備のままでいいと思う」

「はい! それじゃ、防具は……」

「んー。そうだなぁ。自分がピンと来たものとか、デザインで選んでいいと思うけど……。どうしても決められないなら、『防御指数』が初心者には分かりやすいかな」

「防御指数、ですか」


 聞き覚えがない、とばかりに首を傾げるロコだが、これはジェネシスで独自に生まれた指標なのでそれはそうだろう。


「ほら、このゲームには防御力のほかに耐久力とか遮断率とかがあるだろ。だから、防御だけが高くてもその防具が本当に強いかは分からない。ただそれじゃ分かりにくいから、一番即効性のある防御力と遮断率をかけたものを基準にする流れがあって、その数値を防御指数って呼んでるんだ」


 まあ、ぶっちゃけ掛け算するだけなんだが、データの苦手な脳死勢にはこれが好評らしいのだ。


「なるほど!! ほかにもありますか?」

「ええと、うーん。あとは、セット装備ってのもある。これはシリーズものの装備なんかを同時に装備すると特別な効果が出る、って奴な。気が向けば狙ってみてもいいんじゃないかな」

「防御力かける遮断率の防御指数とセット装備、ですね! わかりました!」


 どこまでも素直な反応が無駄に罪悪感を煽ってくる。


「い、いや。俺も防具にはそんなに詳しくないから。みんなからも何かあるか?」


 俺は振り向いて残りのメンバーに問いかけるが、


「防具なんて飾りよ。火力で殲滅すれば必要ないわ」

「ま、僕は直接戦わないし、あんまり気にしてないかな」

「手首はすぐに見えるような装備にしないと、手間がかかりますよ」


 ……ダメだこいつら、早くなんとかしないと。


 とにかく、全く役に立たないということしか分からなかった。

 なぜこの体たらくで自分たちからロコの防具を選ぶなんて言い出したのか、そこが分からない。


 その空気を敏感に感じ取ったのか。


「じゃ、じゃあ、探してきます!」


 ロコは素早く宣言すると、チャットウインドウを消してラウンジを出て行った。



 ※ ※ ※



 その姿がドアから消えてから、ふーっと息を吐き出す。


「あっはっは! いい先輩をやるのも大変そうだね」


 それを見て、楽しそうに笑いながら、リューが口を開く。


「まったくだよ。だから、そのにやにや笑いはやめてくれ」

「ふふん。どうして? 僕の魅力にやられちゃうから?」


 アホなことを言うリューだが、そういう問題じゃない。


「ローミーを思い出す」


 リューの顔から一瞬で笑顔が消えた。

 自分で言ってあれだけどこうかはばつぐんすぎるだろ。


 引き下がったリューの代わりに出てきたのはシアだ。

 シアはいつも通りの不機嫌そうなそぶりで話し始める。


「……ま、あの子がいい子だっていうのは分かったわ。だからこそ、何でこんな奴のとこに、って思うけど」

「言うなよ。俺もそう思ってるんだから」


 シアの言葉には苦笑しか出ない。

 ただまあ、偶然ロコの前にいたのが俺だけだったのだ。

 責任は持たないといけないだろう。


「あら。素敵じゃないですか。王子様との二人だけの生活。出来ればわたくしが替わってもらいたいくらいですわ」

「あ、あんたねぇ!」


 そんな中、ミィヤだけはマイペースに場をひっかきまわすが、それもいつものことだ。

 俺が乾いた笑みを見せると、シアは怒ったように俺に向き直る。


「ま、まあいいわ! それより、ちゃんとロコにご飯食べさせてるんでしょうね? まさか、ロコにご飯作らせたりとか……」


 ミィヤに怒ったシアのとばっちりが俺に向かうのも、いつものことと言えばいつものことだが、それで冤罪をかけられてはたまらない。

 俺はあわてて答えた。


「心配しなくてもご飯は食べさせてるし、俺が作ってるって!」

「えっらそうに。……ま、でもそれがいいと思うわ。餅は餅屋。料理っていうのは慣れた人が作ったのが一番おいしいんだから」


 何が琴線に触れたのかよく分からないが、どうやら正解だったらしい。

 シアの機嫌は無事に直り、トゲだらけだった声も元に戻る。


「そういえば、二人分になると食材も足りなくなるわね。倍にして計算し直しておくから」

「い、いや、そんな気を遣わなくても……」

「なによ。あんたもしかして、やっぱりロコを食事抜きに……」

「ち、違う! 違うって!」


 ……一部ありがた迷惑な気遣いもあったりするが、それもシアのいいところだろう。


「なんかシアって田舎のオバちゃんみたいだよねー」

「あ、あんた、言うに事欠いて……!」

「あら。それは失礼ですわ。わたくしは田舎のおばあちゃんだと思いますわ」

「あんたらはぁ!!」


 そんな、いつも通りのラストホープの時間。

 だからこそ、その直後に迫りくる「破滅の足音」に俺はギリギリまで気付くことが出来なかったのだ。



 ――「それ」はラウンジの扉から、やってきた。



 最初に気付いたのは、俺のチャット窓をいつも尋常じゃない熱量で見ているミィヤだった。


「あら? ロコさん。帰ってきているみたいですよ」


 その声に、俺は振り返る。


 ロコは確かに、すぐ近くまで来ていた。

 ただ、ラウンジのドアをくぐろうとはせず、顔だけを出している。


「防具、ちゃんと選べたか?」

「は、はい。その……」


 俺の声にうなずきは返すものの、その言葉には勢いがない。


「もしかして、自信がないの? いいから見せてみなさいよ。別に笑ったりしないから」


 ……年がら年中同じローブ一つで済ませてる女が語りおる。

 そんな俺の毒に気付くこともなく、シアは「ほら」とさらにロコを手招きする。


「……は、はい」


 すると、ロコは観念したようにうなずくと、おそるおそるラウンジに入ってくる。

 そして、その瞬間、時は止まった。


「……は?」


 なぜなら、部屋に入ってきた彼女は――




 ――ビキニ姿だったのだ。




 全員が唖然として見守る中、ロコは、


「……ど、どうでしょうか?」


 と言って、俺たちに、いや、特に俺に見せつけるように、顔を真っ赤にしながらくるんと回ってみせる。

 水着のフリルが揺れて可愛い……ではなく。

 なんだこれ?


 そこで、ようやく動きの止まっていたシアが再起動する。


「な、なにやってんのよ。あんた、そんなの着るようなキャラじゃなかったでしょ」

「そ、そうだ。一体どうしたんだ?」


 訳が分からないのは俺も同じだ。

 ロコのまぶしい肌色を出来るだけ直視しないように目を逸らしてチラ見しながら、その真意を尋ねる。


「わ、わたしがこれが一番強そうだなって思ったんです! そ、それだけです!」


 ロコはなぜか必死な様子で訴えるが、全く訳が分からない。


「強いワケないでしょどこもかしこもスッカスカじゃないのよ! そんなのモンスターどころかこのむっつりスケベの視線だって防げないわよ!!」


 シア。

 言いたいことはわかるけど、うまいこと言いながらさりげなく悪口を混ぜ込むのをやめてほしい。


「あのう……」


 その誰もが混乱した状況で、口を開いたのはじっと目を細めながらロコを見ていたミィヤだった。


「もし本当に強いと言うなら、ステータスを見せてもらえばいいのではないですか?」

「え? いや、これはステータスとかいう問題じゃ……」

「いいから、ね?」


 ミィヤの圧力に、口をはさもうとしたシアも黙り込む。


「あ、あの……」


 なぜかロコは俺をやたらと気にしてチラチラと見ていたが、俺がうなずくと観念したように顔を伏せ、ビキニの上に手を当てると、ステータスを呼び出す。



――――


【危険な水着(上)】


種別:鎧

性能:999

耐久:1

部位:胴体

遮断:100%


装備可能LV:LV1~


備考

・水耐性アップ(セット効果)


――――



 ……ん?

 あ、れ?


 なんか、これ。

 この、能力値は……。


 なぜだろう。

 俺の脳裏に、部屋を出る直前のロコの言葉がよみがえった。



『防御力かける遮断率の防御指数とセット装備、ですね! わかりました!』



 ……じっとりと、冷や汗が出てくる。


 一部のネタ装備には、実用性に乏しい極端なステータス設定がなされていることもある。


 例えば、防御力と遮断率が異様に高い代わりに一瞬で壊れる程度の耐久しかなかったり。

 例えば、レベル制限が低い代わりにろくにやたらと防御箇所が小さかったり。


 なんだろう。

 これじゃまるで、俺がピンポイントでこの水着を着せるために、ロコを誘導したような……。


 そう思い至った時だった。


 視線が……。

 全員の視線が、俺に集まっているのを感じる。


「あんた……まさかそこまで腐ってたなんて」

「ルキ君。いくら僕でも、これは引くよ」

「わたくしに言ってくれればいつでも見せますのに」


 三者三様の、軽蔑の目。

 いや、最後だけちょっと違う気もするが。


「違う! 誤解だって!」


 俺は必死で弁解しようとする。

 だが、そこで俺の前に影が飛び出す。


「まってください!」

「……ロコ!」


 彼女は俺の前に出ると、俺をかばうように立って、涙ながらに訴えた。


「い、いいんです! た、たしかに最初はびっくりしましたけど、す、すぐに思い直しました」


 やはりロコだけは、ちゃんと分かってくれて……。


「こんなわたしでも、ルキさんに求められてるって知って、うれしかったんです!」


 分かって……ん?


「だいじょうぶですから! ルキさん! わ、わたし、がんばりますから!」

「何を!?」


 涙目になりながらも、水着をつけた身体を見せつけるようにするロコ。

 いや、これ全然分かってない!


 さらにその後ろから「やっぱり……」という声が聞こえた気がするが、怖くて確かめられない。


 絶体絶命の状況。

 それを救ったのは、チャット画面の端に映った時刻表示だった。

 これだ、と思った俺は、後先考えずにこの蜘蛛の糸に飛びついた。


「あー! もうこんな時間じゃないかぁ!」

「は? あんた何を言って」


 シアがいぶかしげな顔をするが、関係ない。


「お昼のチャットタイムが終わっちゃうなぁ! もっと話していたいけど残念だなぁ!」

「ちょっと待ちなさい! あんた、絶対にあとで九回ぶんなぐ……」

「じゃ、また明日!」


 俺は、チャット画面を閉じた。

 そのまま、がっくりと地面に倒れ込む。


 ……やってしまった。

 明日、どうやって顔を合わせればいいんだ。


「……あの、だいじょうぶ、ですか?」


 問いかけるロコに、俺は無言で首を振り、代わりに別のことを口にする。


「なあ、ロコ。俺、防具にとって何が一番大切か、やっと分かったよ」

「な、なんですか?」


 所詮、防御力も遮断率も耐久力も、オマケに過ぎない。

 防具にもっとも要求される能力、それは……。



「――布面積、だよ」



 こうしてラストホープとロコの初顔合わせは、波乱のまま幕を下ろしたのだった。

次回更新はあs……今日!

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胃が痛くなった人に向けた新しい避難所です! 「主人公じゃない!
― 新着の感想 ―
[一言] 強い!! …パレオはないのかな?
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