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閑話 ほんとクソみたいなチュートリアル(とある一般プレイヤーの場合)

チュートリアルは終わったと言ったな、あれは嘘だ!

いや、ちょっとここ以外に入れ込む場所思いつかなかったので


 ――ワールドジェネレーター〈ジェネシス〉。



 突然家に届いたそのゲームは、どこまでも平凡でパッとしない自分の人生を変えてくれる、魔法のアイテムに見えた。


 世界で初めてのVRMMO。

 世代をいくつも先取りしたような素晴らしい映像に、操作感覚。


 そして何より、限られた人だけしかプレイできない、という特別感。

 平凡だった自分に、こんなチャンスを与えられることはもう二度とないかもしれない。


 それに、自慢じゃないが、ぼくはリア充とは対極に位置する完全なるオタク。

 はっきり言えば、勉強はいまいちだし、スポーツもダメだ。

 だけど、このゲームの世界なら……。

 ぼくはきっと勝ち組に、いや、もっとすごい人間になれる!!


 そうだ。

 ぼくは……いや、オレは、ゲームの世界でなら活躍できるはずだ。

 それで、たくさんの仲間を従え、それからたくさんの女の子にもてちゃったりして、そんな、憧れの存在に……。



 ――新世界の王子に、オレはなる!



 ※ ※ ※



 先を急ぐようにあわただしく梱包を開け、ゲームの注意書きを流し読みして、早速ゲームを始める。

 プレイヤーネームは少しだけ考えたが、いつもネットやゲームをやる時に使っている「ヒリュウ」という名前にした。


 名前負けしそう、なんて懸念もあるし、身バレの心配も頭をよぎった。

 しかし、元の名前からもじったこの名前には愛着があって、とにかく全力でこのゲームに挑みたかったぼくは、ここでも妥協したくなかった。


 種族についても熟考して決める。

 ここでほいほいと選択してしまうのは、ゲーム素人のやることだ。


 本当なら事前にネットで情報収集して安定構成を参考にしたいのだが、なぜかジェネシスには専用の掲示板も何も立っていなかった。

 大事なのはこの時点で大まかなビルド、キャラクターの成長方針を決めること。


 ここで素人なら行き当たりばったりで種族を決めてしまうだろうが、種族はゲーム開始後に選び直しができない、とある。

 ここだけは絶対に手を抜いてはいけない場面だ。


 さて、それでぼくがこのゲームでどんなビルドを選ぶかということだが、基本的にゲームにおいて、バランス型ほど微妙なものはない。

 大抵の場合、何でもできるがどこも優れていない万能型よりも、何かしら一芸に秀でた特化型の方が利用価値があるものだ。

 能力値は平均値で、なんて考え方では碌な目に遭うはずがないのだ。


 ぼくは個々の種族の説明文を隅から隅まで見て、考える。

 パワーと耐久を兼ね備えたドラコニアンで脳筋プレイをするか、あるいは魔法に特化したエルフで魔術師プレイをするか。

 揺れに揺れたぼくは、熟慮の末に「ヒューマン」を選んだ。


 ……うん、やはり何事も奇をてらうのはよくない!

 器用貧乏になることが多い人間だが、それだけ大きく外れもないということなのだ!


 決して大胆なキャラメイクをする度胸がなかったわけではない!

 断じてない!


 そうやって熟慮に熟慮を重ねた末に名前と種族決めると、チュートリアルが始まり……。



 ――そこでぼくは、運命と出会った。




 ※ ※ ※



 キャラメイクを終えて、降り立ったチュートリアルエリア。

 そこにはNPCらしい緑髪のエルフがいた。


「やあ! はじめまして! 僕はローミーだよ!」


 ……のはどうでもいい。

 なんかこいつうざいなー、なれなれしいなーと思ったが、男に用はないのだ。

 それよりも、その横。


「あ、あの。プレイヤーの方ですか? はじめまして! わたし、リリシャと言います」


 緊張した様子でそう言って頭を下げた女性プレイヤー……いや、天使にぼくは一目で心を奪われてしまったのだ。


 見た目からすると、種族はエルフ。

 おそらく年齢はぼくより少し下だろうか。


 かわいかった。

 とにかく、かわいかった。


 ジェネシスの仕様上、少し尖った耳と金色の髪はエルフの種族特性によるものだろうが、それ以外は基本的にリアルでの姿と変わらないはず。

 まさか、初日からこんなかわいい子とお近づきになれるなんて、やっぱりジェネシスは神ゲーだ!


「ね、ねえ、きみ……」

「いやぁ。こうやって複数人に説明するのも久しぶりだねぇ! 最近は新規さんも少し減っちゃってね!」


 口にしかけた言葉は、空気を読まずにぼくらの間に入ってきた緑髪のエルフにさえぎられる。


 お前ジャマ、ほんとジャマ。

 同じエルフでも天使ちゃんとは雲泥の差だ。

 あ、いや、天使ちゃんは天使ちゃんだからむしろエルフではない、という考え方も……。


 なんてことを考えているぼくの内心も知らず、緑髪のエルフはゲームの基本を嬉々としてしゃべっていたが、ぼくは半分、いやほとんど全部聞き流していた。

 だってそうだろう。


(どうでもいい。チュートリアルなんてさっさと終わらせろよ)


 これでも数々のゲームをクリアしてきたぼくは、言ってみればゲームのプロだ。

 ゲームのチュートリアルなんてどれも似たり寄ったり。

 はっきり言って、聞く価値を感じられない。


 それよりも、ゲームのプロのぼくから言わせれば、MMOというのはリソースの奪い合いだ。

 リソースの意味はよく分からないが、とにかく早い者勝ちで、速く行動した奴が一番得をする。

 そういう風にできているのだ。


 ぼくはいずれ、このゲームのトップランカーに名を連ねたいと思っている。

 だとしたら、ここで手間取ってはいられない。

 争いに勝つには、決断力と行動力、そして何よりも速度が大事なのだ。


 だから、


「と、まあこんなところだね。何か聞きたいことはあるかな?」


 うざったい緑髪のエルフがそう言った時、ぼくは気が付くと天使ちゃんの前に立って、こう口にしていた。



「――きみ可愛いね? どこ住み? てかLI○Eやってる?」



 めっちゃ嫌そうな顔をされた。



 ※ ※ ※



「あっはっは! ヒリュー君は欲望に正直だねぇ。ただ残念! ジェネシスで日本の個人情報を他人に話すのはNGなんだ」

「ネットリテラシーって奴だろ。そのくらい知ってるさ。……あとヒリューじゃなくてヒリュウだ」


 ぼくがふてくされてそう言うと、緑髪のエルフ、ええと、名前は……ルーニーかなんかだったか。

 ルーニーはやけに鼻につく仕種で指をチッチッチと振った。


「そういうレベルの話じゃなくてね。そうだね、ヒリュー君。ちょっと今、自分の電話番号を言ってごらん」


 よく分からないが、これはチャンスだ。

 これで天使ちゃんに合法的にぼくの電話番号を押しつけ、いや、教える絶好の機会。


 ぼくはもちろん、喜び勇んで電話番号を口にしようとして、


「――――。……あ、あれ? ――――!」


 どれだけ番号を口にしようとしても、声に出せないことに気付いた。


「分かったかい? 現状の仕様では、日本の個人情報の流出は『制限されている』んだ」

「……ふーん。フルダイブ型だからできる機能制限か」


 とりあえず、それっぽいことを言っておく。

 別に、天使ちゃんとお近づきになれないことが確定して悔しいわけじゃない。


「あはは。ジェネシスに選ばれるのは基本的に善人だけだから問題ないと思うんだけどね。ただ、何でも、『直結厨』とかいうんだっけ? そういうのへの対策が要望としてアンケートにあがったらしくてさ」

「ちょ、直結厨じゃねーし!」

「ま、そういう訳で、残念だろうけど諦めなよ。それよりも、まずは試練をクリアしてもらわないとね」


 ……ま、まあ、チュートリアルはまだ続くみたいだし、これから天使ちゃんとお近づきになる機会もあるだろう。


 そう割り切りながらルーニーの説明を適当に聞き流し、得意武器に剣を選んで最初の試練に。

 第一の試練は「スケルトンを倒す」らしい。


(ふうん。いかにもなチュートリアルだな)


 こういうパターンのチュートリアルがあるゲームを、ぼくはいくつもこなしてきた。

 VRってことで少しだけ緊張していたが、これなら余裕だ。


「じゃ、ぼくからやらせてもらうよ」


 自分から名乗りをあげ、チュートリアル用の剣を持って檻の中に。

 この檻の中が、スケルトンとぼくのバトルフィールド。

 そして、第一の試練の会場になるらしい。


 ……い、意外と狭いな。

 それに、スケルトンって案外見た目怖いような……。


「がんばって、ください!」


 しかし、そんな弱気も、天使ちゃんの声援で一気に吹き飛んだ。


 そうだ。

 何をビビっていたのか。

 ぼくはゲームのプロだぞ。

 それが、たかがチュートリアルでつまずくなんて、ありえない!


「じゃ、試練始め!」


 後ろからのルーニーの声を聞きながら、ぼくはチュートリアルソードを深く握り直した。

 いける。

 ぼくは、やれるんだ!


 スケルトンがカタカタと緩慢な動作で動き出し、手にしたボロボロの剣を振りかぶり、斬りかかってくる。

 人型の相手に刃物を向けられるというのは想像以上の恐怖だ。

 でも……。


 ――見える!


 スケルトンの攻撃は遅い。

 ぼくはその動きを見切り、余裕を持ってその剣を回避することができた。


 この隙に少しずつダメージを与えていけば、きっと勝てるだろう。

 ……だけど、そんなんじゃおもしろくない!


 ここはあえて「魅せる戦い」をする!


「――ここだ!」


 ぼくはスケルトンが剣を振り下ろした瞬間に、体ごと前に出る!


「う、おおおおおお!!」


 そして、スケルトンの横を駆け抜けながら、その胴体に剣を叩きつける。

 腕に感じる、日本では味わうことのない、硬い手ごたえ!


 ――決まった!


 流れるように動きながら、同時に敵の胴体を斬る。

 名付けるとすれば、「流し斬り」とでも呼ぶべきか。


「……また、つまらぬものを斬ってしまった」


 そう言いながら、ぼくが勝利の笑みを浮かべた、その時だった。


「ヒリューさん!」


 後ろから、緊迫感のある声。

 反射的に振り向くと、そこには、まったく応えていない様子で、ぼくに向かって剣を振り上げる、スケルトンの姿があった。


「そんな! な、流し斬りが完全に入ったのに!」


 繰り出される一撃をかろうじて避けながら、ぼくは焦った。


 あの緑髪のエルフの、ええと、名前は、憶えてないけど、ルービーだったか。

 そのルービーとかいう奴も、一発殴れば倒せるって言っていたはずだ。


 つまり、


「は、謀ったな、ルービー!」

「え? ……だれ?」


 そんな風にしらばっくれるルービーに苛立ちは募るけれど、そんなことばかり気にしてはいられない。

 スケルトンの攻撃は鈍いが、試練のステージは狭い。


 ぼくはあっという間に、檻の隅に追いやられた。


「く、くそー!」


 破れかぶれになってスケルトンに斬りかかるが、剣は当たっているのにまるでダメージがない。


「な、なんで……」


 狼狽したぼくは、次のスケルトンの攻撃を避けきれなかった。

 スケルトンの持つボロボロの剣が、ぼくの左腕をしたたかに打ち据える。


「ヒリューさん!!」


 天使ちゃんの悲鳴。

 しかし、それに応えている余裕もない。


 ――痛い!!


 ジェネシスでは痛覚は現実の何分の一かに抑えられていると聞いていた。

 なのに、この痛みはなんだ!


「う、うわぁああああ!!」


 やけになってスケルトンを斬る。

 斬る。

 斬る!


「なんでだよ! どうして効かないんだよぉ!」


 叫んでも何もならない。

 大振りになった一撃のあと、


「う、ぐぇ!」


 今度はスケルトンの一撃がぼくの胴を捉えた。

 よろめいて、背中が檻に当たる。


「ひっ!」


 完全に心が折れたぼくに、スケルトンは無慈悲にも襲いかかる。


「や、やめろ! 来るなぁ!」


 スケルトンの攻撃を、かろうじて武器で受ける。

 この剣は初心者用の特別仕様で、攻撃力は低めな代わりに遮断率とかいうのが高く、攻撃を完全に防いでくれるとルービーが話していたのを思い出した。


「こ、このくらいの攻撃!」


 スケルトンの攻撃自体は遅い。

 防ぐだけなら、何とかなる。


 ほんの少しだけ、考える余裕が生まれる。

 生まれた、はずなのに……。


「諦めんなよ! 諦めんなお前!」

「そうだそこだ! 元気があれば何でもできる!」

「ケツイを力に変えるんだ!」


 後ろから聞こえるルービーの声援が鬱陶しくて考えがまとまらない。


 とにかくこのままじゃどうしようもない。

 何か、何か打開策を思いつかないと……と思った時だった。



 ――バキン。



 無慈悲な音を立てて、手の中の剣が折れた。


「え? いや、まって、ちょっと……」


 忘れていた。

 このチュートリアル用の剣はすべてが最低ラインの性能。

 弱いとはいえ、敵の攻撃を何度も受けていたら壊れるのも必然。


 呆然とするぼくの目に、心なしか嬉しそうにカタカタと身体を震わせ、ボロボロの剣を振りかぶるスケルトンが見えた。


「あ、ああ! ああああああああ!!」


 その瞬間、頭の中が真っ白になった。

 ぼくはどうしていいか分からないまま、ただ両手を振り回して……。



 ――バキン!



 さっきと同じような、しかし異なる性質の音が聞こえて、スケルトンの頭が落ちた。


「……え?」


 頭を失い、そのまま地面に崩れ落ちるスケルトン。

 そこでようやく、振り回した左手が偶然スケルトンの頭に当たってふっ飛ばしたのだと、やっと気付いた。


 な、なんだ、これ。

 もしかして、勝った?


「おめでとう! いやぁ、実におめでとう!」


 立ち尽くすぼくの下に、緑髪のエルフの……ええと、カービーがやってきた。

 というか、スケルトンを倒した時に、小さく「チッ」とか舌打ちしてた気もしたけど、気のせいだよな。


 ぼくの疑惑の視線もなんのその、カービーは表面上はにこやかにぼくをほめたたえてくる。


「いやー、おめでとう! 剣の攻撃は効かないと悟って、すかさず素手での攻撃に切り替えるなんて、さっすがヒリュー君だよ! 斬撃の効かない相手にとっさに属性を切り替えて対応出来るか。それが今回の試練の裏テーマだったんだ。君は合格だよ、ヒリュー君」


 そ、そういうことだったのか。

 ぼくはようやく何が起こったのかを悟った。


「ま、まあ、それほどでも。あと、ヒリューじゃなくてヒリュウな」


 しかし、天使ちゃんの前でかっこ悪い姿を見せるわけにはいかない。

 ぼくは知っていたフリをした。


 ――それにしても、天使ちゃんにかっこ悪いとこを見せてしまったような。


 もっとズバッとクリアしたかったのに、何だかずいぶんとてこずってしまったような気がする。

 いや、戦う男はかっこいいと言うし、セーフだろうか。


 とにかく次はもっと鮮やかに、かつイケメン風に、試練をクリアしてやろう、と気持ちをあらたにしたのだった。


 ……が、現実はそう甘くなかった。

 次のリンカーボアとかいうイノシシと戦う試練では、カービーの口車に乗せられてスナイプというスキルを使ったらピンチになり、危機一髪のところを隣にいた天使ちゃんにスナイプを使って助けられるという展開に。


 天使ちゃんマジ天使ちゃん!


 なのは分かり切っていることで今はいい。

 このままじゃ、天使ちゃんの中で、ぼくはかなりイケメンだけど行動は今一つパッとしない男で終わってしまう。


 ――何とかしないと!!


 思い余ったぼくは、次の試練が始まる前に天使ちゃんと目を合わせ、最高のキメ顔を作って言った。


「さっきはありがとう、心配をかけたね。でも、大丈夫! ぼくは借りは返す主義なんだ。次の試練では、どんな強敵が出てきても必ず君を守り抜くと誓うよ!」

「あの、無理は、しない方が……」


 そしてこの十数秒後。

 空から降ってきた鉄巨人に真っ二つにされてぼくは死んだ。



 ※ ※ ※



 ジェネシスはとんでもないクソゲーだ。

 それは確定的に明らかだったのだが、現状世界唯一のダイブ型VRMMOというネームバリューとあの中以外では天使ちゃんに会えないというメリットは捨てがたい。


 結局ぼくは次の日、新キャラを作ってもう一度チュートリアルに挑んだのだが、


「ええ! 天使ちゃんもうチュートリアルクリアしちゃったの!?」


 カービーいわく、彼女は昨日の時点で死亡することなく、全ての試練を突破してジェネシスに行ってしまったらしい。

 それはショックだったが、特別に緑髪のエルフの……ええと、確かその、そう、ファービーが第三の試練まではクリアしたことにして続きからやっていいし、次はガーディアン作成という楽しいイベントが待ってると言うので、仕方なくチュートリアルを受けてやることにする。


「さて、じゃあ、お待ちかねのガーディアン作成だよ。男にも女にも、ペットにもロボにも出来るけど、まあ、君なら答えどころかどんな姿にするかも決まってるよね」

「当然だ」


 ぼくはうなずいて、それからファービーの口にするガーディアンについての質問に全てノータイムで答えていく。

 そして、その質問が終わった時、目の前に立っていたガーディアンの姿はもちろん、




「――よっしゃあああ!! パツキン爆乳エロフ嫁の完成だぜええええ!!!!」




 ボンキュッボンのドエロボディのお姉さんのものだった。


 現実世界ではとても実現不可能な美女の姿をじっくり堪能して、ぼくは何度もうなずいた。

 いやぁ、やっぱり夢とおっぱいはでっかくないとね!!


「き、君さぁ、あれだけ天使天使って言ってそれは……」


 ファービーが何やらぶつくさ言っていたが、今ならなんだって許せる。


 し、しかし、このお姉さんがガーディアンということは、あれ、もしかして、これあれか?

 チュートリアルを終わらせたら、このお姉さんと宿屋に行ってドッタンバッタン大騒ぎを……。


「いや、召喚モンスターにはそんな命令出せないからね。……まあ、いいや。最後の試練の相手はその子だから、はいやっちゃって」

「……は?」


 このあとめちゃくちゃドッタンバッタンした。



 ※ ※ ※



「し、死ぬかと思った……」


 ガーディアンとの戦いは熾烈を極めた。

 というか具現化した脳内嫁と戦えだなんて、このチュートリアルはマジでクソだと思う。


 ただ、試練が始まる前にファービーから配られたお助けアイテムと、ガーディアンの動くたびに揺れる胸をもっと見ていたいという一念が、ぼくを救った。

 弱点である顔を狙うのは気が引けてできなかったが、ガーディアンは大した防具を身に着けていなかったことも幸いした。


 執拗に胸と太ももを狙い続け、ぼくは紙一重でガーディアンに勝利したのだった。


「ちっ。また生き残ったか。やっぱり救済アイテムは……。それに、体を攻撃するだけなら、やはり精神的抵抗が……」


 ファービーは苦々しい顔でぶつぶつ何かつぶやいていたが、ぼくがこっちを向いているのに気付くと、一瞬で笑顔を作ってぼくに近付いてきた。

 こいつ、やっぱり性格悪いんじゃなかろうか。


 とはいえ、最後の試練を乗り越えたぼくにもう怖いものなんてない!

 蓮コラみたいなアビリティ画面を見せられて精神的ダメージを負ったりしながら、最後のお楽しみに移る。


「お前にふさわしいジョブは決まった! ヒリュー君、君のジョブは……これだ!」


 そう言って、


「おめでとう! これは上級職の『道化師』だね」

「道化師……?」


 上級職、と言う割にあんまり強そうな感じはしない。

 ぼくが不安に駆られてファービーを見ると、彼はうなずいた。


「うん、道化師はまあ……そんなに使えないというか、弱いというか、ぶっちゃけゴミだけど、希望はあるよ」

「その言い方がすでに夢も希望もないんだが!」


 こいつ、フォローに見せかけてぼくの心を折りに来てないか?


「実はね。道化師は、とある『ユニークジョブ』に転職するのに必要な前提ジョブの一つなんだ」

「そ、その、ジョブって強いのか!?」

「うん、ほかよりちょっと育成に苦労するけど、全ての職業系統を持つ最強候補のジョブだよ。何より君にぴったりな名前なんだ」


 ぼくの言葉に、ファービーははっきりとうなずいてみせる。


 マジか。

 まさか道化師は、ぼくのウィニングロードの第一歩への布石だったのか。


 ぼくは高鳴る胸を抑え、ファービーに尋ねた。


「ち、ちなみにその最強ジョブの名前って……」

「まったく、しょうがないなぁ。じゃあ、君だけに特別に教えてあげよう。それはね――」


 そこで彼は声を潜めると、楽しそうににやりと笑って、こう言った。




「――遊び人、さ」




 ぼくは無言でファービーに殴りかかった。



 ※ ※ ※



 こうして……。

 ファービーに殴りかかったはいいもののあっさり返り討ちにされ、「モルスァ!」という自分でもよく分からない擬音を発しながら地面にキスするという最悪の幕引きでぼくのチュートリアルは終わった。


 ぼくに与えられた道化師という職業がもたらすのは輝かしい栄光か、惨めな挫折か、それは分からない。


 ただ一つだけ。

 確かに言えることがある。



 ――こんなクソみたいなチュートリアル、二度とやるもんか!!



























 ちなみにこの二日後、初心者の塔を飛び出したぼくはその辺りをうろついていたオークにあっという間に惨殺され、キャラデリート。

 さらなる改良・・を加えられたチュートリアルに絶叫することになるのだが……。


 それはまた、別の話である。


ご愛読ありがとうございました!

ヒリュウさんの次の活躍にご期待ください(もう出てきません)



次回やっとロコに話が戻ってきます

あ、ガチで書き溜めゼロの部分なので更新やばいです

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胃が痛くなった人に向けた新しい避難所です! 「主人公じゃない!
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