第十四話 あのクソみたいなチュートリアル 最終回
リンカーボアが想像以上に反響あって嬉しい反面で複雑な気持ちに
いや実は猫耳猫っぽい作品も別で書き溜めてたりもするんだけど、こっちは断じて王道作品でですね(必死の訴え)
「い、いやぁ。まさかこんな風にチュートリアルをクリアする人がいるとはね。ちょっとドン引きしたけど、うん。いや、すごいと思うよ」
「……褒めてんだよな、それ」
「もちろんだよ! 顔を殴るのはしのびないからお尻にイノシシぶっこませるなんて判断は常識以前に正気を疑うけど、それもルキ君のいいところさ! 自信を持っていいと思うよ! 僕はドン引きだけど!」
「ドン引きを強調しなくていいから!」
どうやって俺がガーディアンを顔を狙わずに倒せたのか。
簡単に言うと、こういうことだ。
まず、俺がジャストガードでガーディアンをのけぞり状態にさせても、硬直状態のため追撃することは出来ない。
かといって、プレイヤーであるルカに助力を頼めばその時点で失格。
なので、条件とは関係ないリンカーボアを激昂状態にして、その突進にガーディアンを巻き込んでしまおう、と考えたのだ。
そう。
ガーディアンがスティンガーを撃つ直前、俺がスナイプで狙ったのはガーディアンじゃない。
その背後にいたリンカーボアだった。
俺の思惑は見事に当たり、激昂状態になったリンカーボアは俺に向かって突進。
「偶然」その途中に立っていたのけぞり状態のガーディアンをふっ飛ばし、見事に倒してくれた、という訳だ。
しかしまあ、そのあとが大変だった。
過去の好敵手でありその後の戦友であったリンカーボアだが、そのあとはやっぱり敵だった。
激昂状態はガーディアンにぶつかって解けたが、その直後に普通に俺を敵として認識して突撃してきたせいで俺は必死に逃げまどう羽目になった。
何しろ俺はガーディアンの攻撃を受けてHPが減りまくってる。
そんな状態で奴の突進をくらったら、即死間違いなしだ。
途中で我に返ったルカがボアを倒してくれなかったら、そのまま倒されていたかもしれない。
四つの試練をクリアしたのに、もう試練でも何でもないボアにやられるとか、最悪の死に方だろう。
あ、ちなみにガーディアンの攻撃で吹き飛んでしまった左腕は、「まさかこの試練で腕を吹っ飛ばす人間がいるとはねぇ」と言いながら、ローミーが治してくれた。
回復魔法をかけた傍からにょきにょき生えてくるのは自分の腕ながら気持ち悪かったが、とにかく治ってくれて何よりだ。
まさにゲーム感覚で後先考えずにやってしまったが、部位欠損が治せない仕様だったら、と今さら考えてしまうとぞっとする。
俺が左腕をさすっていると、それを不気味そうに見ながらローミーが言う。
「いやぁ、一瞬もためらわずにガーディアンを刺殺したルカ君といい、ほんと君らはやばいね。ちょっと前に『こわいこわい』とか言って震えながら、リンカーボアとガーディアンを一週間くらいかけてスナイプだけで倒した子がいたけど、その時以来の衝撃だよ」
「一緒にするなよ! 絶対そっちの方がやばい奴だろ!!」
思わず叫んだ。
スナイプのダメージは固定で一だったはずだ。
そんなものでモンスターを倒そうと考えるなんて、ぶっちゃけ常識以前に正気を疑う。
世の中には怖い人がいるものだ。
ジェネシスの中で遭遇しないように祈りたい。
「ま、なんにせよ、二人とも。試練の突破、おめでとう! これで二人も駆け出し冒険者を卒業だ!」
「あ、ああ。その……ありがとう」
「……ええ」
なんだろう。
裏表のない褒め言葉は、始末に困る。
ローミーのくせに、いきなりこんな温かい言葉をかけてくるなんてずるいだろう。
ルカの奴は完全に疑ってかかってる目をしてるし。
それに気付いたのか、ローミーは苦い笑いを浮かべて弁解のように言った。
「い、いや、これは流石に本心からの祝福だよ。もう罠とかはないから安心してほしい。今までのは、ほら、いわば愛のムチみたいなものだから」
「それはそれで気持ち悪い」
いや、ルカさん、それは流石に辛辣過ぎだから。
「え、ええと、試練は終わったけど、僕から最後のチュートリアルというか、レッスンというか、教えておきたいことがあるんだ。メニュー画面を開いてくれるかな」
その言葉に、ほら来た、とばかりにルカと顔を見合わせた。
「いや、だからほんとに、罠じゃないんだってば。流石にここまで警戒されると、僕も何だかやりすぎたような気分になってくるなぁ」
「……本当に、嫌がらせじゃないんだろうな?」
「違うって! 騙されたと思ってメニュー画面を開いてみて」
「騙されたくはないのだけれど」
「だ、だから騙さないって言ってるじゃないか!」
と、すったもんだありながら、俺たちは同時にメニューを呼び出す。
「これまで、ステータスと装備、それからアクティブスキル、ブーストについては説明したよね。だけどジョブに付随する能力はもう一つ、パッシブアビリティと呼ばれるものがあるんだ。ジョブに応じて装備、習得が可能で、それがキャラクターの個性やプレイヤーのプレイスタイルの根幹になる。試しに、『アビリティ習得』の項目を選択してくれないか?」
一度、ルカと顔を見合わせ、お互いに覚悟を決めてやってやろうと目くばせしたあと、二人同時に「アビリティ習得」のボタンを押す。
すると――
剣術:必要AP99999999 砥ぎ師:必要AP99999999 闘気:必要AP99999999 剣装備可能:必要AP99999999 攻撃アップ:必要AP99999999 防御アップ:必要AP99999999 消費SP軽減:必要AP99999999 盾防御:必要AP99999999 貫通耐性:必要AP99999999 狙われやすい:必要AP99999999 盾装備可能:必要AP99999999 二挺拳銃:必要AP99999999 狙撃:必要AP99999999 射撃体勢:必要AP99999999 跳弾制御:必要AP99999999 エンチャント:必要AP99999999 魔法剣技:必要AP99999999 高速詠唱:必要AP99999999 詠唱短縮:必要AP99999999 自由詠唱:必要AP99999999 多重詠唱:必要AP99999999 手・足:必要AP99999999 高速打撃:必要AP99999999 連撃:必要AP99999999 刀術:必要AP99999999 免許皆伝:必要AP99999999 斬り術:必要AP99999999 刀装備可能:必要AP99999999 疾風:必要AP99999999 必殺の匠:必要AP99999999 達人の回避:必要AP99999999 紫電迅雷:必要AP99999999 止まらぬ進軍:必要AP99999999 空の王者:必要AP99999999 浄化:必要AP99999999 先手必殺:必要AP99999999 暴虐の焔:必要AP99999999 魔法範囲拡大:必要AP99999999 異常感染:必要AP99999999 重ね呪:必要AP99999999 呪術耐性:必要AP99999999 重量挙げ:必要AP99999999 初級鑑定:必要AP99999999 隠密:必要AP99999999 罠の知識:必要AP99999999 罠察知:必要AP99999999 メンテナンス:必要AP99999999 短剣装備可能:必要AP99999999 我慢:必要AP99999999 盾攻撃力上昇:必要AP99999999 健康体質:必要AP99999999 大楯装備可能:必要AP99999999 全属性耐性:必要AP99999999 呪い強化:必要AP99999999 暗闇適応:必要AP99999999 呪殺耐性:必要AP99999999 危険察知:必要AP99999999 解体の匠:必要AP99999999 九死一生:必要AP99999999
「なっ!」
「これは……!」
まるで、情報の津波。
ボタンを押した瞬間に、視界一面、見渡す限り全域に、ウィンドウが広がっていく。
「すごいだろう? それが、君たちプレイヤーの『可能性』さ」
それはまさに、アビリティの海だった。
数百、いや、数千の項目が、俺の目の前に広がって、海のように視界を埋め尽くしている。
ちらりと目についただけでも、多種多様、様々なジャンルのアビリティがあるのが分かる。
こんなの、見ているだけで……。
「ワクワクするだろ?」
心を読んだかのようなローミーの台詞にも、今だけは素直にうなずいてしまう。
「もちろん、これはこのデモンストレーションのための特別措置。今はチュートリアルとして全部のアビリティを表示しているけど、実際にジョブを選べば、その職にあったアビリティしか覚えることは出来ない」
その代わり、必要APはちゃんと現実的な数値になってるけどね、と付け加えるローミー。
「でも、これが君たちの可能性だという事実は、変わらない。君たちは今ここに表示されている全てのアビリティを覚えられる可能性があるし、覚えられない可能性もある。全ては君たちの、これからの選択次第、ってことさ」
「……ローミーのくせに、粋な計らいをしてくれるじゃないか」
「君たちの可能性」なんて口にすると陳腐な言葉が、これほど胸に迫って聞こえたことは、今までになかった。
本当に悔しいが、ローミーの言葉に、胸を躍らせてしまっている自分がいる。
ルカはどうだろう、と横を見ると、
「……これ、タップすると細かい効果も見れる。ここで全アビリティの効果をメモしておくというのも」
「ちょ、ルカ君ダメ! それは勘弁してぇ!」
……風情も何もあったもんじゃなかった。
ルカはもしかして、案外効率厨かもしれない。
何とかルカの暴挙を止めたローミーは、疲れた顔で締めくくった。
「ま、まったく君たちは、最後まで手を焼かせてくれるね。とにかくこれで、僕から教えられることは終わりだ。あとはお待ちかねの『卒業式』をして、チュートリアルは終了だ」
「卒業式?」
俺が問いかけると、ローミーはやっと調子を取り戻した顔でにやりと笑った。
「忘れたのかい? このチュートリアルのある意味一番のお楽しみ。――初期職業の決定、だよ」
※ ※ ※
初期職業は試練での行動によって決まり、序盤のゲームプレイに大きく影響する。
大抵は初期職業と同じ傾向の職業で戦う人が多いので、これからのプレイヤーの方向性を決める上で無視出来ない要素なのだとか。
そう言われると、少しだけ緊張してしまう。
「まずは、先に最後の試練をクリアしたルカ君から行こうかね」
「それじゃ、お先に」
そう言って、ルカはローミーの前に移動する。
「よし! 卒業証書、授与! 生徒代表ルカ……」
「蹴るわよ」
あまりに端的なその言葉に、ローミーの言葉が止まった。
「わ、分かってる。最後くらいは真面目にやるさ」
「今まで不真面目だった自覚はあるのかよ」
とまあそんなやりとりを挟みつつ、ローミーが指をぱちりと鳴らす。
「お、おおっ!」
その瞬間に出てきたのは、宙に浮くカードの群れ。
「このカード一つ一つが、プレイヤーの取得可能な職業、ジョブを表している。ここから君たちの適性にあったジョブを選ぶのが、僕の最後の仕事になる」
ローミーが話す間も、数十、いや、おそらく数百におよぶカードが十重二十重に渦を巻いて、しかし整然と宙を舞い、ローミーとルカの間を巡る。
俺はその神秘的な光景に見入ってしまったが、
「あ、ちなみに職業自体はこれまでの試練の行動ですでに決定されてるから、ここでカードを選ぶのは演出以上の意味は全くないよ」
「人がせっかく感動してるのになんでわざわざ自分からぶち壊しにいったぁ!!」
とにかくまあ、ローミーは最後までローミーだった、という訳で。
「お前にふさわしいジョブは決まった! ジョブ! 我が力!」
「いや、お前の力じゃないだろ」
完全に悪ふざけな言動と共に、ローミーが一つのカードを選び出す。
「ほお……。これは……」
カードの絵柄は、まだ俺たちには見えない。
だが、ローミーには理解出来ているらしく、何やらにやにやと笑っている。
「かんじわる……」
ルカの機嫌がまた一段下がったのを感じる。
それを察した、という訳でもないだろうが、
「では冒険者ルカ。我、ローミーは、チュートリアルクエストクリアを認め、君にふさわしいジョブを任命する! 選ばれたジョブは……」
朗々と宣言すると同時に、カードを反転させる。
そこに描かれていたのは、槍を構えた、戦の女神。
「――ジョブチェンジ、『ヴァルキリー』!!」
声と共にカードとルカが光を放ち、一瞬後、
「これが……ヴァルキリー?」
そこには、戦女神の装束をまとったルカの姿があった。
「おめでとう! ヴァルキリーは槍や細剣による刺突攻撃を得意とする最上位職業で、三つの系統を持つ大当たり職だよ!」
だが、ローミーの祝福を受け、当のルカは首を傾げていた。
「私はどちらかというと、大剣を使いたかったのだけれど。どうしてかしら」
「え? いやそれは……はは」
思い返せば、彼女は試練の間中ずっと、敵を突きの一撃だけで倒し続けてきた。
そりゃあまあ、刺突が得意なジョブが選ばれるのは当然と言えば当然だろう。
「い、一応プレイヤーの間ではユニークジョブとかって呼ばれてる最強ジョブの一つなんだけどね」
この反応は予想外だったのか、めずらしく口ごもるローミー。
しかしその様子よりも、ローミーが漏らした単語が気になった。
「ユニークジョブ? ユニークってことは、もしかして……」
初めての単語を聞きとがめる俺に、ローミーは満面の笑みでうなずいた。
「そう、お察しの通り、ユニークジョブとはジェネシスにおいてたった一人しか所持し得ない幻のジョブ……という訳ではないよ」
「ないのかよ!」
思わず叫んだが、まあ、ネトゲで一人のプレイヤーを贔屓するような職業は実装出来ないだろう。
「いや、そういうジョブはジェネシスにも一個あるけどね」
「あるのかよ!」
どこまで俺を翻弄すれば気が済むのか。
「ただ、僕の言ったユニークジョブってのは、そこまでのものじゃないよ。最上位職ゆえに例外的に最大レベルの上限がなく、『そのジョブでしか使えない強力なアビリティ』を持ったジョブのことさ」
「なるほど、ユニークなアビリティを持ったジョブ、か。それは強そうだ」
「基本的には強いよ。ま、ユニークアビリティ以外に一切アビリティもスキルも覚えない特別なジョブなんかもあったりするから一概には言えないけど、ね。とにかく、大当たりであることは間違いないよ、おめでとう」
ローミーはにこやかな顔で祝福の言葉をかけるが、ルカはすでにローミーを無視して新しい装備の検分をしていた。
「ル、ルカ君は最後までマイペースだね。それから、これはチュートリアルクリアのもう一つのご褒美だ」
「……ハンドベル?」
突然おかしなものを渡されて戸惑うルカに、ローミーはほがらかに笑う。
「この『守護者のベル』はさっき君たちが戦ったガーディアンを呼び出す召喚アイテムさ。選ばれた初期職業に合わせて装備も変わってるはずだから期待していていいよ。ただ、ハンドベルは三回の使用制限があるし、標準レベル五十を超えたプレイヤーには使えないからそこは注意してね」
「あくまでお助けアイテム、ということね」
納得した様子のルカを見て満足そうにうなずくと、ローミーは俺の方に振り返った。
「お待たせ。じゃ、次はルキ君だね」
「あ、ああ!」
呼ばれて、俺はローミーの前に出る。
今さらながらに、心臓が早鐘を打つのが分かる。
もちろん、あとで職業は変更することは出来るが、ここで明かされるのが今の俺の「適性」。
現時点で一番向いている職業の方向性が分かる。
俺に向いているのは、剣士か、盾職か、はたまた魔法使いか。
それとも……。
俺の緊張を感じ取ったように、ローミーはにっこりと笑うと、
「あ、じゃあルキ君はこれね」
あっさりとポケットの中から一枚のカードを抜き出してきた。
「いや待って! カードを宙に浮かす演出はどうしたよ!」
「ん? だって、悪ふざけするなって言ったからさ」
にやにやと笑いながら、ローミーは言う。
こんな時まで嫌がらせを忘れないとは、ほんと悪い意味で芯の通った奴だと思う。
だが、そのにやにや笑いも、俺のカードを見て、止まった。
俺の顔とカードを見比べ、二度見、いや、三度見して、「へぇ……」とつぶやいた。
「い、いいから焦らすなって!」
「あははは。いや、本当に驚いちゃってね」
そう言って、ローミーは頭をかきながらカードをひらひらと振るう。
「……まさか、同時に二人も――――が出るなんてね」
さらに、ぼそっと何かをつぶやいていたが、そういう思わせぶりなことはいいから早く教えてほしい。
「ま、君にぴったりのジョブになったと言えば、そうなのかな」
ローミーは勝手に納得したようにそううなずくと、最後にもう一度だけ俺のカードを眺める。
それからやっと俺に向き直って、厳かに口を開いた。
「お待たせ。では、冒険者ルキ。我、ローミーは、チュートリアルクエストクリアを認め、君にふさわしいジョブを任命する!」
ローミーは、カードを俺の視線の高さまで持ち上げ、にやりと笑って……。
――そして俺は、それからの数秒を。
――俺の人生を決定づけることになるそれからの数秒を。
――死ぬまで、決して、忘れないだろう。
「ルキ君。君の、職業は――」
続きはwebで!!
まだだ! まだ引っ張れるはず!
なんとなーく察しちゃった良い子の君もみんなにはナイショにしといてね!