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第十話 ユニークジョブ

ほとんど書けてたはずなのに

説明を足してたらこんな時間に


「ルキさんと、一緒のがいいです!」という衝撃発言と共に幕を閉じたプレゼン大会。

 趣旨からするとどうなんだろ、と思わなくもないが、ここまで慕ってもらえれば悪い気はしない。


 ……あと、シア。

 悔しいのは分かったから、口の動きだけで「ロリコン」って言うのはやめてもらっていいだろうか。


 違うから!

 というかロコが見てたらどうすんだよ。


 と、ちらりと横に視線を向けると、見てた。

 シアを、じゃなくて俺を、ロコが期待を込めた視線でじーっと見ていた。

 こ、これはこれで、まずい。


「ええと、だな……」


 ロコの期待に応えてやりたいのはやまやまだが、俺のスタイルは独特過ぎて、ちょっとオススメは出来ない。

 そもそも、俺の立ち回りは最初からジョブありきで考えていたから……ん?


 思わず、という風に顔をあげると、俺と同じ表情をしたシアと目が合った。

 どうやら、同時に同じことに思い至ったらしい。


「ロコ! そういえばあんたの初期職業、まだ聞いてなかったわよね!」

「わたしの……ですか?」


 きょとん、とした顔をするロコに、俺も言葉を重ねる。


「ああ。ロコはチュートリアルは終わらせてたんだよな? だったら最後に初期職業を教えてもらったと思うんだけど」

「は、はい! それなら、覚えてますけど。で、ですけど、わたしはルキさんと同じように成長していければ……」


 どうしても俺と同じがいいのか、そう言い募るロコ。

 ただ、それを制したのは横で聞いていたシアだった。


「ダ、ダメよ! じゃなくて、え、ええと、やっぱり自分の初期職業は大切にした方がいいと思うわ。

 初期職業はなんと言っても自分の根源であり、全ての基本。その職業が選ばれたってことは、曲がりなりにもその道に向いているって判定されたってことよ!

 合わない場合もないワケじゃないけど、まずは初期職業をベースに戦ってみるのが一番の近道だと思うわ!」


 そう、焦ったようにまくしたてる。

 この前と言っていることが百八十度違ってる気がするが、この際不問としよう。


「そ、そう……なんでしょうか」


 シアの剣幕に押されたのか、ロコにも少し迷いが出たようだ。

 あと一押しだ。


 そこで、取りなすように口をはさんだのはリューだった。


「それももらった職業次第だけどね。下級職だったりしたら大した恩恵なんてないし。……ま、世の中にはまともな初期職業をもらえずにずっと苦労してた人もいるし、せっかく勝ち取ったものなんだったら、ちゃんと有効活用した方がその人も浮かばれるんじゃないかな? ね、ルキ?」

「……どうしてそこで俺に振るんだよ」


 フォローしてくれるのはいいが、余計なことまで言わないでほしい。

 俺は確かにジョブに関しては人一倍苦労したという悲しい自負があるが、あれは俺のせいじゃない。

 八割はあいつの、ローミーのせいだと言っても過言ではない。


「あれ、そういえば、ルキさんの……」

「そ、それで、ロコはなんてジョブだったんだ?」


 言葉をさえぎるように、俺はロコに水を向ける。

 ロコは俺の勢いに驚いていたようだが、やがておずおずと口を開いて……。



「え、と。わたしのジョブは、『マジカルガンナー』? ……です」



 その言葉に、一瞬だけ俺たちの動きは止まった。

 何しろ、マジカルガンナーというジョブは、俺が今まで一度も聞いたことのないものだったからだ。


「マジカル、ガンナー?」

「……聞いたことのないジョブだわ」


 浮ついていた雰囲気が、一瞬で引き締まる。


 ジェネシスについては俺よりも詳しいはずのリューとシアがそう言うからには、本当にめずらしいジョブなのだろう。

 特にシアは何か思うところがあったらしく、俺への追及のことなどすっかり忘れ、画面越しにロコへと詰め寄っていく。


「ちょ、ちょっとあんた! ステータス見せて! HPとSPだけでいいから!」

「え、ええと……これ、でいいですか?」


 戸惑うロコに、公開モードの説明をしようと思ったが、意外にもロコは手慣れた様子でステータス画面を呼び出すと、すぐに全員に見えるように設定を操作する。


「っ! これは!」


 全員が、競うように空に浮かんだメニュー画面を覗き込む。




――――ステータス―――――


【ロコ】

HP 25/25

SP 35/35

種族:ヒューマン

メインジョブ:マジカルガンナー LV1

サブジョブ :なし


装備

古ぼけた魔導銃


――――――――――――――




 そこに書かれていたのは、想像以上の内容だった。


「へぇ、魔法銃か。見たことがない武器だね」

「すごい補正! これは間違いなく後衛タイプの複合職! いえ、もしかすると……」


 リューとシアが口々に言う。


「ルキ! あんた、とんでもない隠し球を持ってきたわね! まさか、知ってたんじゃ……」

「それこそまさか、だよ。俺だって驚いてるんだ」


 上気した顔で、どこか浮かれたように口にするシア。

 興奮しているのは分かるが、息をするように人に言いがかりをつけるのはやめてほしい。


「これなら、スキルにだって期待できるわ。もしかすると、とんでもない魔法使いに育つかも……」

「魔法使いにするの、まだ諦めてなかったのか」

「いいでしょ! 『マジカル』ガンナーなんだから!」


 そんな風にシアが息まく一方で、その興奮に今一つ乗り切れていないのが、当事者であるロコだった。


「え、えっと……。そもそもみなさん、なんでこのジョブが『複合』なんとかだとか、『後衛』だとか、分かるんですか?」


 一人だけ蚊帳の外に置かれたロコが首をかしげる。


「あー、それはステータスの上昇量で、かな」

「ステータス……?」


 さらに疑問符を頭に浮かべるロコ。

 それを見かねたシアが、ロコの正面を指さして言う。


「レベル1の時のHPとSPで、そのジョブの強さって大体分かるのよ。ロコ、あんたチュートリアルの時のレベルと、HPとSPがいくつだったか覚えてる?」

「え、ええっと……」


 答えに詰まって、思わずと言ったように俺を見るロコに庇護欲を刺激される。

 ここは第一人者として俺が答えてやるべきだろう。


「チュートリアルの時は、駆け出し冒険者レベル0で、HPとSPは両方とも10から始まるんだ」


 シアは、一瞬だけ「何であんたが答えるのよ」みたいな不機嫌顔を浮かべたが、そのまま説明を続けた。


「つまり、ジョブのHPとSPの最低値は10、10。そこからLV1の時にどの程度のステータスが上乗せされてるかでジョブの大まかな強さと傾向が分かるわ。例えば、下級ジョブの戦士の場合はHPが18、SPは12。つまりHPが8上がって、SPは2だけ上がったことになる。それに対して、マジカルガンナーはHPが15、SPが25上がってるでしょ」

「あ! じゃあ、たくさん上がってるから、強いってことですか?」

「大まかに言えば、そうね。あと、HPよりもSPの上昇値の方が高いから、おそらくは後衛寄りのジョブだってことも分かるわ」


 上機嫌で解説するシアに、補足するように俺も解説に加わる。


「ジョブにはいくつかのランクがあって、系統ごとに下級、中級、上級、それから、複合職って呼ばれる複数の系統を持ったジョブに分かれてるんだ。ええと、こんな感じかな」




下級職LV50 → 中級職LV75 → 上級職(複数)LV100 → 複合職




 俺は、メニュー画面のお絵かき機能(なぜか実装されている)を使って、簡単な説明を書いてやる。


「例えば、剣系統だと剣士をLV50にしたら剣豪になれて、剣豪をLV75まで上げたら剣士系の上級職の剣聖になれる。ただ、そこで終わりじゃない。さらに剣聖と、盾系統の上級職一つをLV100まで上げると、剣と盾の複合職のパラディンになれる、って感じかな」

「じゃ、じゃあわたしは……」


 今さらながらに事の重要性に気付いたのだろうか。

 動揺した様子のロコに、はっきりと告げる。


「その苦労を全部すっ飛ばして、いきなりパラディン級のジョブを手に入れちゃった、って訳だ」

「ふわああ……!」


 口を大きく開いて驚きを表すロコ。

 しかし、それで終わりじゃない。


「しかも、だ。マジカルガンナーはその複合職の中でも『ユニーク』って呼ばれる、唯一無二の特性を持った最上級のジョブの可能性がある」

「ゆ、ゆにーく!?」


 完全にキャパオーバーしてしまったらしい。

 目をぐるんぐるんさせているロコに、俺たちは誰からともなく笑みをこぼす。


 しかし、立ち直りは意外と早かった。

 ロコは俺たちをキラキラとした目で見て、ギュウっと拳を握りながら、身を乗り出してくる。


「む、難しいことはわからないですけど、すごいってことはわかりました! そ、それならわたし、ルキさんのお役に立てますか!?」

「そ、れは……」


 俺は思わず、シアと顔を見合わせてしまう。

 無言の譲り合い、いや、押し付け合いがあったあと、俺は仕方なく口を開いた。


「じ、実は、最初からあまりに強いジョブを手に入れると、余計に苦労する場合もあるんだ」

「そ、そうなんです、か?」


 ロコがあまりショックを受けないように、俺はシアと二人、言葉を選びながら説明する。


「上級のジョブ、特にユニークジョブは癖の強いものが多くて、さ。例えば、基本スペックが高い代わりに新しいスキルやアビリティを一切覚えない、とか」

「ほかにも、取り外しの出来ない固有アビリティが強力な反面、大きなデメリットを持つ場合もあるわ」


 だが、何と言っても……。


「たぶん、初期ジョブでスタートにあまり差をつけないためだと思うけど、ランクの高いジョブになればなるほど、要求される経験値の量が多いんだ」

「経験値、ですか?」


 ピンと来ない様子のロコに、俺はまたシアと目配せをし合って、また仕方なく俺から話を切り出す。


「これは……俺のよく知ってる人の話なんだけど、そいつは当たりの中の当たりを、いまだに誰も転職条件を満たしていない最強のユニークジョブを引いたんだ。能力値なんてすさまじくて、その上昇量は普通の下級職のおよそ十倍っていう破格の性能を持ってたんだけど、問題があってさ。……レベルアップに必要な経験値が基本職の千倍だったんだ」

「せ、千!? ……じょ、じょうだん、ですよね?」


 信じられない、と目で訴えかけてくるロコだが、これが冗談じゃないから笑えないのだ。


「いや、俺がこの目で見たから間違いない。いくら十倍強くたって、経験値は千倍なんだ。普通の人の十倍の効率で経験値を稼いだって、普通の人の百分の一の速度でしか成長出来ない。そいつは同じ時期に始めた仲間からも置いてかれて、つらい時期を過ごした……って言ってたよ」

「そんな……」

「まあ、今のは極端な例だけど、上位のジョブはレベルアップでの能力の上昇幅が大きい代わりに、レベルアップに必要な経験値量も多い傾向にある。それからもう一個厄介なことに、ジョブチェンジはレベルが二十以上ないと出来ないんだ。これは例外のない規則で、アイテムを使った転職なんかでも変わらない」

「じゃ、じゃあ、下手に上位ジョブからのスタートだと……」

「そう。普通のジョブの何十倍、何百倍も苦労する可能性がある」


 ちょっと脅かし過ぎただろうか。


「わたし、やっぱり、足手まといに……」


 しゅんとしてしまったロコに、慌ててフォローを入れる。


「も、もちろん、メリットがない訳じゃないんだ。高ランクのジョブは覚えるスキルやアビリティが強力な場合が多いし、下級職なんかはレベルが100で頭打ちになるけど、ユニークジョブにはレベルの上限がない。それに、ジェネシスにはレベル差で経験値に補正がかかるから、時間はかかるけどずっと安全にレベル上げが出来るんだ」

「どういう、ことですか?」


 死んだ目のロコにほんの少しだけ光が灯る。

 俺はここぞとばかりに力説した。


「ほ、ほら、例えば、同じだけの経験値で、剣士はLV30に、剣聖はLV10になったとするだろ? 確かにそのままじゃLV30の剣士の方が強いけど、レベル上げの楽さは圧倒的に剣聖の方が上なんだ。例えば初心者の塔の近くをうろついているオーク。こいつの基礎レベルは10なんだけど、そのLV10のオークをLV30の剣士が倒してもレベル差がありすぎて経験値は入らない。でも、LV10の剣聖ならそれで経験値を手に入れられる。つまり……」



「――よわいものいじめで、たくさん経験値が稼げる、ってことですか?」



 ばっさりとまとめるロコ。


 いや、合ってるけど!

 合ってるけどさぁ!


 無邪気さゆえの残酷さに慄きながらも、俺はフォローを続けた。


「そ、それに、初期のレベル上げがつらかったのは、昔の話。今は初心者の塔でのレベル上げルートはもう確立されてるから心配要らない。複合職だと少し苦労するかもしれないけど、レベル二十まで上げるのにそう手間取るってことはないよ」

「そ、そうですか。よかったぁ……」


 安堵の息をつき、ようやく目の輝きを取り戻したロコに、俺もほっと息をつく。


「ということだからさ。まずは転職が可能になるレベル20を目指そう! マジカルガンナーのことはよく分からないけど、俺も全力でサポートするからさ」

「はい!」


 すっかり元気を取り戻したロコに、安心したせいだろうか。

 俺の中に、ふと疑問が湧きあがる。


「複合職を取れたってことは、あのチュートリアルをよっぽど偏った方法でクリアしたってことだよな。一体どうやったんだ?」


 チュートリアルでユニークジョブを取ったような奴らには、それぞれ逸話がある。

 出てくる敵全てを一撃で仕留めたとか、武器を使わずに全て拳だけで乗り切ったとか、ローミーの話を聞かずに最短でクリアしたとか、色々だ。


「そ、そんな、たいしたことはしてません! わ、わたしは、イノシシさんが怖くてずっと魔法を撃ってたので、そのせいじゃないかなって思います」

「イノシシ……ああ、リンカーボアか」


 確かに第二の試練にそんなモンスターがいたが、あいつを倒せる魔法なんてあっただろうか。

 と、考え込んでしまったのがよくなかった。


「ルキさん!」

「へっ?」


 気付くと、いつのまにか俺の右手が、ロコに捕獲されていた。


「わ、わたしも! ルキさんのチュートリアルの話、聞きたいです!」


 ロコの瞳から飛び出るキラキラ光線が俺を襲う。


「あ、それに、ルキさんの初期職業も教えてもらってないですよね? 一体なんだったんですか?」

「う、ぐ……。それは……」


 助けを求めるようにチャット窓を見るが、ふくれっ面をするか呆れるか微笑んでいるかで、誰も助けてくれそうにない。


「ルキさん!」


 曇りのない純粋な眼が俺を射抜いて、俺に二度と思い出したくない過去を思い起こさせる。


 そうだ。

 第一の試練が終わって、俺は……。


次回はお待ちかね(?)のローミー回

ここだけはめっちゃすらすら書ける不思議!!

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胃が痛くなった人に向けた新しい避難所です! 「主人公じゃない!
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