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第九話 ラストホープメンバーによる楽しいジョブ講座

※描写は適当ですが耐性ない人は想像してみない方がいいかもしれません



 MMORPGにおいて、新人プレイヤーというのはもっとも貴重な資源である。


 誰だって今までやってきた成果を誰かに誇りたいし、重ねてきた経験や知識を披露してドヤりたい。

 もし仮に、今まで新規プレイヤーの登録が出来なくなっていたMMOがあって、しかもやってきた新人が、可愛くて素直な女の子だった日には何が起こるか……。



 ――それは当然、戦争(うばいあい)である。



【ジョブ講座:魔法使い編】


 と、いうことで、突如発生したプレゼン大会。

 真っ先に名乗りを上げたのは……。


「じゃあ、一番手はわたしがいくわ! 魔法使いのいいところをビシバシ叩き込んでいくからそのつもりでね!」


 当然のようにシアだった。

 いいところというのはビシバシと叩き込むものではない気もするが、とりあえずお手並み拝見、といったところか。


「その前にまず、自己紹介ね! わたしはシア! このギルド、ラストホープのメンバーで、マスター代行もしているわ」


 マスター代行というのは地味に初耳だが、俺がいなかった昨日のチャットで決まったのかもしれない。

 もともとサブマスターだった彼女は適任だろう。


「プレイスタイルは魔法使い。初期職業で魔法使いタイプのジョブを当ててから、ずっと魔法使いを通してきた根っからの魔術師! い、一途なタイプだって言い換えてもいいわね!」


 また、ちらちらと俺の方を見ながら、そんなことを言うが……。


「いや、お前の頑固さは知ってるから。今はロコにちゃんと説明してやれよ」


 俺がそう促すと一瞬ムッとした顔をしたものの、すぐに気を取り直して話を始めた。


「そんな魔法のスペシャリストから言わせてもらうと、魔法使いの強みは何よりもその範囲火力よ。遠距離から、一方的に、広範囲の敵を薙ぎ払う。これが魔法の醍醐味ね!」


 拳を握りしめ、シアは力説する。


「まず、遠くから攻撃すれば、反撃を受ける可能性はぐっと減る。そして、一撃で敵を殲滅すれば、反撃を受ける可能性がぐぐっと減るわ! さらに、広範囲を一度に攻撃できれば、反撃を受ける可能性はぐぐぐぐぐっと減る。つまり最強よ!」

「な、なるほど!」


 ノリのいい聞き手を得て、シアはご満悦だった。

 完全に調子に乗った顔で、平らな胸を自慢げに反らしている。


「そういうワケで、モンスターを寄せ付けることなく、一方的に殲滅できる点において魔法使いは優れているわ! ええ、魔法使いに比べたら、ほかのジョブなんて有象無象に過ぎないと言っても過言ではないわね!!」


 いや、有象無象は言い過ぎだろ、と思うが、素直なロコは「魔法使いって、すごいです!」と単純に目を輝かせている。


「でしょう? 混迷を極めるジェネシスを生き抜くには、魔法使い以外の選択肢はないと言ってもいいと思うわ!」


 さらに調子に乗るシア。

 ただ、ロコはそこで気になることがあったのか、ふと首を傾げた。


「あ、でも、もしモンスターに魔法が当たらなくて近付かれちゃったら、どうすればいいんですか?」


 それはいい質問ね、とばかりにシアはうなずき、



「――殺されるしかないわね!」



 と妙に勢いよく断言した。


「えっ? あの……えっ?」


 聞き間違えだろうか、とロコが目を丸くするが、無情にもシアはその可能性を否定する。


「いい? 魔法使いのスキルはキャストタイム……スキルをコールしてから発動するのに必要な時間が長いわ。敵を倒せるような強い魔法になると特にね。だから近付かれたら魔法で敵を倒すことはできないし、魔法使いの防御力は最低クラス。おまけに戦闘に役立つスキルもないから、死ぬしかないわ」

「だ、だったら、もし火力が足りなくてモンスターを全滅させられなかったら……?」

「殺されるしかないわね!」


 ふたたび、勢いよく答えるシアに唖然とするばかりのロコ。

 不安になったのか、「この人だいじょうぶですか?」的なアイコンタクトが飛んでくる。


「シ、シア! それだけじゃなくて、魔法使いの立ち回りとかを……。ほら、魔法使いにはSP管理とか属性の使い分けが大事だって言うだろ?」


 このままではロコが魔法使い不信になってしまう。

 俺は慌てて口をはさんだ。


「ふふ。あんたにしてはいい着眼点ね。でも、答えは簡単だわ。SPを気にせず全力で、全ての属性の魔法を叩きこめばいいのよ!」

「え?」

「だって、SPなんて敵を全滅させたら回復し放題でしょ。それに、一個の属性が効かなくても残りの属性で倒せれば問題はないわ! 結局物を言うのは火力! 火力は全てを解決するのよ!」

「…………」


 もはや相槌を打つことすらせず、呆然と画面を見るロコ。

 これはもう完全に、ゲームセットのようだった。



「そう、全ては火力! 火力! 火力よ! 火力こそが大正義!!」



 こうして。

 全ての聴衆を置き去りにシアはおたけびをあげ、色んな意味で彼女の魔法使い講座は終わりを迎えたのだった。




【ジョブ講座:ヒーラー編】



 次に説明役に名乗りをあげたのは、ミィヤだった。


「初めまして。ラストホープのメンバーで、ヒーラーのミィヤです。まだ修行中の身ですが、ヒーラーの魅力を精一杯伝えさせてもらうのでよろしくお願いしますね」

「は、はい! よろしくお願いします!」


 あの金髪火力バカとは違い、きちんとした出だしに俺もホッと息をつく。

 ギルドのメンバーがあんなのばっかりだと思われたらことだからな。


「残念ながら、わたくしは実際に戦闘でヒーラーとして立ち回った経験はあまりありません。ですから、戦闘での立ち回りや注意点についてはあまり話すことはできません。ごめんなさい」

「そ、そう、ですか……」


 ミィヤの断り文句とも取れる台詞に、ロコは気落ちした様子を見せる。

 しかし、彼女の言葉にはまだ続きがあった。


「ですがその代わり、わたくしのとっておきのレベル上げの方法を教えますね」

「レベル上げ方法、です、か?」


 あまりゲームになじみがないのだろう。

 不思議そうに首を傾げたロコに、ミィヤは安心させるように微笑むと、丁寧に解説する。


「ええ。実は、モンスターを倒すことで経験値を得て強くなっていくほかの職と違い、ヒーラーはレベルの上げ方が特殊なのです。ヒーラーは、実際に怪我を負っているプレイヤーに対して回復を行って、その傷を癒やすことでも強くなっていきます」

「じゃあ、効率のいいレベルアップ方法って……」


 ロコの質問に対し、ミィヤはにっこりと花が開くように笑って、



「――リストカット、ですわ」



 そう口にした瞬間、確実に風向きが変わった。

 嫌な予感が膨れ上がる。


「え、えっと、リストカットって、その、自分の手首を切る……」

「ええ。それで間違っていません。考えてもみてください。誰かが怪我をするか不確かなものに頼るよりは、自分で傷を作って自分で治すのが能率的で確実なんです。特にジェネシスの世界では痛みや流血の表現は一定程度抑えられていますから、手首を切る、というのもそれほど大変なことでもないですよ」

「え? ……えっ?」


 すっかり混乱したロコが俺の方を見てくるが、こんな展開は俺だって予想外だよ!


「それに、リストカットだって慣れればそう悪いものではないんです! 手首から脈動に合わせてドクンドクンと真っ赤な血が溢れてくるのを見ると、『あぁ、わたくしはこの世界で生きているのだな』と実感できますし、何よりの魅力は手首にナイフを入れた時のゾクゾク感です」

「あの、ミィヤ? ちょっと落ち着こうか。これってロコの職業選びだから! リストカット講座じゃないから!」


 だが、ミィヤは止まらない。


「ね、ロコさん。想像してみてください。真っ白な手首の上に、銀色のナイフを押しあてるところを」

「や、だから、それ以上は……」


 俺は必死にミィヤを正気に戻そうとするが、当の彼女は気にした素振りもなく、陶然とした様子で、まるで恋する乙女のようにうっとりと語って……。


「人の身体って思うより弾力があるから、刃を当ててもへこむだけで意外と切れないんです。ですから、ね。そこでナイフにちょっと力を入れて、すぅっと引くんです。すると刃の冷たい感触が肉の内側に入り込んできて、一拍遅れて灼熱感と共に真っ赤な……」

「うわあああああストップ! ストップ! ストォォォォォッップ!!!」


 俺はそこで、ドクターストップをかけざるを得なかったのだった。




【ジョブ講座:魔物使い編】



「僕はモンスターテイマーのリュー。直接の戦闘力は大したことないけど、闘技場でモンスターの研究をしてるんだ」


 最後にリューがほがらかに自己紹介をするが、


「……何がモンスターの研究よ。一日中画面の前に陣取ってゲームしてるだけじゃない」


 隣の画面から物言いがつく。

 しかし、リューの方が一枚上手だった。


「なぁんて金髪火力バカは言ってるけど、僕のいる闘技場はシミュレーターの機能が一番多様でモンスターバトルには最善の場所なんだ。だから、モンスターの運用に関する知識なら誰にも負けないよ」

「だ、誰が金髪火力バカよ!! バカって言う方がバカなのよバーカ!!」

「お、落ち着けって! 今はリューが話す番だから!」


 というか普段から俺にバカバカ言ってるのはシアだからな。

 それに対して、リューは俺たちを見てにやっとした笑みを浮かべたあと、余裕の表情でロコに向き直る。


「と、まあこんな風に、ラストホープのメンバーは変わり者が多いんだ。この中では僕が一番まともだから、何か相談があれば僕に話したらいいよ。……まあ、話を聞くだけでアドバイスするかは分からないけどね!」

「あ、あの……は、はい。そのときは、よろしくおねがい、します?」


 今までアレな二人が続いたせいか、素直なロコも流石にリューの言葉を信じかねているようだ。

 横で金髪火力バカが「……一番の問題児がよく言うわよ」とつぶやいた気がしたが、それについては俺も同意見だ。


 一番の、かどうかは分からないが、リューも明らかに変わり者側。

 そもそも、このラストホープでまともなのは俺と……いなくなってしまったギルマスくらいだ。

 いや、あの人はあの人でちょっとおかしいところはあったが。


 まあそれについてはあとでロコによく言い聞かせておくことにして、今はリューの話だ。

 リューも自分の得意分野ということで話すのが楽しいのか、いつもの冷笑的な雰囲気は鳴りを潜め、溌剌とした雰囲気で口を開く。


「さて、それで次はモンスターテイマーの説明だけど、このジョブはモンスターを捕獲して、自分の味方にして代わりに戦ってもらう職業さ。これは僕の持論だけど、やっぱりモンスターの基本スペックは人間よりも上。だから、モンスターを使役出来るこのジョブこそ、ジェネシス最強の職業なんだ!」

「む……。そう、なんですか?」


 ちらっと俺の方を見てから、何やら複雑そうな顔をするロコ。


 やはり、プレイヤーよりモンスターの方が強い、と言われるのが心情的に納得いかないのだろう。

 ただ、俺としても全面的に認められる話ではないが、そういう見方もあると理解出来なくはない。


 あれ、でもモンスターテイマーって……。


「で、まずモンスターテイマーに転職するには自分でモンスターをテイムしなきゃいけないから、最低でも外に出てどこかのモンスターと戦える力がないとダメなんだけど……」


 ロコが助けを求めるように俺を見る。

 俺はうなずいた。


「今のロコが外に出たら瞬殺されちゃうな」

「じゃ、無理だね!」


 ……終わった。





【ジョブ講座:総評】



 チャット全体に、微妙な空気が蔓延する。

 よく考えてみると、いや、よく考えなくても、もしかしてうちのギルドってアレな奴ばっかりなんじゃないだろうか。


「で? これで一通り終わったワケだけど、あんたがやってみたいスタイルは見つかった?」


 と、口火を切ったシアは、なぜだか自信満々だ。


 しかし、よく考えると、競争相手がひどすぎる。

 ひたすらリストカットの話しかしていなかったミィヤのヒーラーと、転職自体が困難なリューのモンスターテイマーでは、選ぶ選ばないの以前の問題である気がする。

 シアの魔法使いも大概ではあったが、残りがひどすぎたせいで自分が選ばれると確信しているのか。


「で、どうなの?」


 シアの視線が、ロコを追い詰める。


「わ、わたしは……」


 逃げ場をなくしたロコは、テンパった様子で、ついにこう叫んだ。




「――ルキさんと、一緒のがいいです!」




 耳に痛いほどの沈黙が場を支配して、しばらく無言の時間が続いたあと……。


「……なにこの茶番」


 リューの冷えた声で、ラストホープのプレゼン大会は幕を下ろしたのだった。

明日もまた、見てくださいね!

じゃんけん、ぽん! うふふふふふふ!

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胃が痛くなった人に向けた新しい避難所です! 「主人公じゃない!
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