#6 初の食事。そして模擬戦って
遅くなりました。
食事のために入ったのは、料理店で全体的に石でつくられた店であり、入り口に石釜がある店だった。
幾種類かのパスタやマカロニなんかも飾りとしておいてあり、それをまとめたものに数字が書かれていた。
表記はいわゆるローマ数字というやつなのでRPGもののゲームなんかでは見慣れている表記方法だ。
つまり、完全なイタリア料理店に入ったわけだ。イタリアの大衆食堂であるトラットリアと看板があったが確かにその通りである。
パスタをゆでる際にもピザを作る工程さえもほぼ見えるようにされていて、そのパフォーマンスのせいもあってリピーター客が多い店らしい。
実際、客と店員のやりとりからその客が常連客かそうでないかなどが分かる。調理師も慣れたものでそういった客に料理しているところを見せ付けていた。宗司と凛はその手腕を見て美味しそうだと感じる。
「飾られているあのナンバーのついたものがハスタ。……好きなものを頼むといいわ。そしてピッザという具の乗ったパンも美味しいわよ。ただ量が多いのでそれは皆で分けましょう?」
とユイが言う。なるほど。やっぱりイタリア料理なわけね。
メニューを見ると元居た世界と同じようなソースがあることが分かる。だが、クリーム系はない。デザート系のものも精々あるのは果物のみである。それから飲み物は酒か果汁水、水といったものしかなかった。
なるほど。それならばこれから元居た世界の食べ物を作ることで稼ぎにもなるだろう。
調理のスキルを持っていて良かったと思う。
店員が厚紙の上に針金とスプリングを利用したばねクリップで留めている紙に何やら書き込んでいる。そういえば、服を選ぶときもハンガーというものが無かったな。どうやらプラスチックもないようだ。
でも、店員全員がそれを使っているかというと違うようである。文字の読み書きができる者だけがそれを使っている。
それよりも、食事だ。食事を楽しもう。
宗司が選んだのは一番基本的な
「麺パスタとホタテとスモークサーモンのオリーブソースをお願い」
凛が選んだのは
「キノコとベーコンのオリーブソースのペンネパスタをお願いします」
ユイが選んだのは
「魚介類のミートソース麺パスタで」
ユノはウインナーと皮のついたトマトの物。つまりぺペロンチーノを選んだ。
そして大和は太い麺が特徴のタリアテッレとミートソースを選んだ。徹はぺペロンチーノとキノコのパスタの二つ。薫も同じ物を頼む。
ついでにマラシャ王国というのは水が豊富な国であり、単純な仕組みの自動販売機も存在している。そのため、日本と同じく水は無料サービスだった。
そしてピッザだが、今回はシンプルなものを頼んだ。
「さて。今日はご来店ありがとうございます。貴女方のパスタを茹でていきますので調理人の歓迎のパフォーマンスをご覧下さい」
ウェイターが言ってから他の店員が太鼓を叩いてそれに合わせて打たれた麺をトトトトっと職人の包丁を叩く音がする。切られたばかりの麺を別の料理人が鍋の中に入れる。グラグラと煮え立っているお湯の中で更に小分けし捻りを加え、客に見えないようにして手を離すと麺が鍋に入る。
すると一瞬にして鍋に花が開くようにパスタが広がり、茹でられていく。それを幾つか用意した後、また生地を作り始める。
今度はピッザのようだ。
生地を円く伸ばして薄くするために生地を皿回しのように回転させたり、飛ばしてキャッチし、小麦粉の撒かれた調理台の上においてまた伸ばしていく。ミートソースを塗る際も客に見せるようにハケを使って塗る。
そしてローリエや薄く切られたサラミ、スライスした玉ねぎ、仕上げにチーズをかけてから少しのトマトジュースをかけてから石釜に入れる。奥には赤く燃える木炭があった。その手前に先程のピッツァを置く。ピザはチーズを溶かして生地を焼いていく。
数分後、先ず出来上がったのは凛のキノコとベーコンのペンパスタだ。
そして次は宗司が頼んだ炒めホタテとスモークサーモンがオリーブソースと絡めたパスタ。次がぺペロンチーノ。そして魚介類のミートソースパスタ。最後は太麺のミートソースが来る。
乾燥パスタと違いできたばかりの麺には芯の硬さというものは無いが、それでもスパゲッティの味は十分に美味しい物だった。食べている途中にピッザが来る。宗司、凛、双子が一つのピッツァ、大和、徹、薫が一つだ。
店員が先の尖っていない四角い柄の包丁を使いピッツァを切る。ピッツァカッターという便利な物は無いようだ。
宗司が考えながらスパゲッティをフォークにクルクルと回して絡めていると
「ピッザ食べないの?ピッザは熱いうちに食べるのが一番よ。……熱っ!でも美味しい」
「うんうん。この熔けたチーズが最高なのよ。早く食べましょう。美味しいわ」
双子が先に取って食べ始める。
「どれどれ。まだアツアツだな。……だが美味い! 」
「うわぁっ! 熱いっ! 薫。冷ませ」
「もちろんですわ。徹様ぁ! わたくし、徹様が手をやけどしてないか心配ですの。やけどしていたらこの店ごと潰しますわ」
そう言いながらまだピッツァを両手の扇子で扇いで冷ます。扇子は氷の魔法を使っているようで、少し凍っている。
「じゃぁ、僕は熱いままでいいから食べようっと……痛っ! 」
大和が手を伸ばすと薫が右手の広げていた扇子を閉じて大和の手を叩いた。
「浅ましい。大和さん。先ずは徹様が食べるのが筋ってものでしょう。なんて常識のない方なんでしょう。徹様。冷めてきたようですよ」
「そうか。……む。少し冷ましすぎたか。チーズが簡単に切れてしまう」
「徹様ぁ! ではわたくしが文句を……」
「薫さん! 」
凛が一瞬で薫の背後に移動し、薫の口を押さえる。
「……徹。やめておけ」
宗司が木刀を徹の喉元に突きつける。大和も木刀を無言で徹の顔に突きつけている。
「わかったよ。でも、何でそんなに怒るんだい?僕はねぇ、美味し物というのは熱くなくも冷たくもない状態で美味いものだと思うんだよ。冷まして不味くなるのは違うと思う」
「ピザは熱いうちが一番美味いのは常識だろ。それを勝手に冷まして文句を言うのは支離滅裂だ」
「僕に勝てるとでも?君たちがいくら力をつけても僕のほうが上さ。……やめておこう。食事中に埃を立ててもっと飯が不味くなってはかなわないからなぁ!」
「さすが徹様ですわね。そうそう会長さん?私の口を押さえようが無駄なことですわ。わたくし腹話術も会得してますので」
薫は口を塞がれながらも言う。
「どうやってしゃべっているんですか? 」
「うんうん。凄く気になる! 」
「ああ。口を動かさないで腹から声をだすことで話しているんだよ」
「へぇ。面白そうね。このあと食後の運動でためしてみようかしら」
「うーん。でもトレーニングもしないと。皆が通りかからなければやられていたかもしれないからそっちをどう考えても優先しないと」
「じゃあ、俺たちも協力する。徹は食事に関してだけは嘘をつかないから。とりあえず食べてしまおう」
宗司が突きつけた木刀を消す。
「そうだね。ちょっと冷めているけど、まぁいいや」
大和も突きつけた木刀を戻しながらピッツァを手にして、口に運んだ。
「もう一度メニューを見たいな」
徹と薫がさらにメニューを追加し、徹はスパゲティを全種頼む。薫はペペロンチーノをさらに七人前食べた。店員が驚いて目を丸くしていた。30分後すっかりと食べて会計をした。計、金貨3枚分だった。徹と薫が食べた分が大きい。
外に出るともう空を太陽が赤く染めていた。
だが、トレーニングをするにはちょうどいい時間だといえる。
「とりあえずユイは俺が見る。ユノは凛が適任だろう」
宗司は剣術だけでなくもちろん武術も心得ている。ユイの格闘技の向上に繋がるだろう。一方で凛も西洋剣術をメインに使っている。ユノのランス技にはいい相手と言える。
「宗司。相手は女の子だ。それほど無茶なことをするなよ」
大和が口を開く。
「勿論だ。……まぁ、大和はフェミニストだからな。寸止めでいく」
ギュウっと手袋を嵌め直してからゴキッベキッと指を鳴らした。
「OK。それならいいだろう。凛のようなセクハラ指導はするなよ」
大和が念を押した。
「僕は、お腹いっぱいだからちょっとみるだけにしておくよ」
「徹様ぁ。流石です」
パチンと手を合わせて拝む薫。この二人は、放っておいてもいいだろう。
「心配するな。じゃあ、ユイ。とりあえず攻めてきな」
「ええ。いくわよ」
ガキンッとガントレットを嵌めたユイが、左掌と右拳を合わせ叩いて鳴らした。ユイが駆け出してくる。脇を締めて左手がやや前に右手やや後ろだ。
そして、ひねりを加えながら一気に拳を放つというスタイルだった。
ボクシングでいうストレートパンチだ。
「パンチだけか。蹴りは使わないのか」
それを左腕で逸らす。空手でいう中段受けだ。
「基本的にパンチのみよ。それよりも! 本当にやるわね! 」
攻撃のスピードが速い打ち込みから元の位置に戻すボクシングのジャブを放ちながらユイは言う。
「蹴りは鋭く、攻撃力は、一般的にパンチの三倍の威力がある。だから攻撃としてかなり有効なものだ」
ユイのジャブを避けながらいう。ジャブは元の世界では一番の速さがあるパンチだ。
「くっ! 全く当らないなんてっ! 」
「ボクシングスタイルのようだけど、攻めることだけ。おまけにジャブは軽い。ジャブから中威力のストレートそして強威力の討ち下ろし、或いはアッパーにするのが基本だ。さらには突進技に近い技をフィニッシュブローに使用するのも有効だ。だが、高威力の技はそれだけ隙が大きい。そこで蹴りも使用したり、膝、肘を使うことも試したらどうかな」
空手の山突き、中国拳法の崩拳、さらにはキックボクシング、ムエタイの概念を伝える。
「……なるほど!こう? オラオラオラオラオラオラ」
ジャブとともに蹴りを放つ。気合と共に連続で放つ。
「そうだ。同時に二つの攻撃というのは、中々に捌きづらいものがある。モンスター討伐にも有効になる。攻撃は最大の防御とは言うが、攻め手は速度と攻撃力が伴わなければ意味はない。また防御だけではなく弾くことや避ける事も必要だ! 無駄無駄無駄無駄無駄ァッ! 」
ユイの攻撃を捌きながら捌く方法も教える。
「なるほどねっ!これでどうっ!オラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」
ユイは宗司の攻撃を防御したり弾いたりするようになっていく。
「よしっ! ちょっと離れてくれ。見せたい技がある」
宗司はゲームや格闘漫画の技を放ってみたくなってユイに聞いてみた。
「えっ? 何なら受けてあげるけどッ? 」
「いや、少しリミッターを外すから見ているだけにしてくれ」
「えっ? リミッターってどういうことなのッ? 」
「俺はこれまでの攻撃を全て手加減した状態でやっていたってことだよ。全力で相手をしていたらコボルトの毛皮やJJは細胞の一欠けらすら残らなかったかもしれない」
「まっさかぁ?おねえさんは騙されませんよッ! 」
「じゃあとりあえず、じゃぁ証拠見せる! 動くなよッ! 」
ちょっと手加減を解いて一撃を放つ。気分は某星座戦士の主人公になった気分だ。
心の中でぺ○サス流○拳!と叫んだ。一秒間に100発ものパンチを当てないように繰り出した。
「見えたか? 」
「……いえ。全く。あははは……はぁ。なんか風圧っていうか拳圧みたいなのは感じたけど……」
ユイは髪がはねて苦笑いになる。さらにアニメなら大きな汗が落ちるようなそんな感じがする。
「つまり見えなかったんだな」
「ええ。まったく……」
「だから受けるのはやめておけって言ったんだ。もっともこれから見せるのはもっと別の技だけどな」
「えっ!? ……ええっと。その……どいてますね」
「まぁ、それほど派手な技じゃない。ユイでもできそうな技だよ。咲○拳! 」
大きく前進しながらジャンプアッパーを放った。有名な某街格闘ゲームの女性キャラの技である。
「す……凄い」
「これをユイには覚えてもらいたい」
「えーっ。できるかなぁ」
ステータスをこっそり見るとユイのレベルは20くらい上がっていた。
「そうそう難しい技じゃないから大丈夫だ」
5分ほど練習した後、ユイはソノ街ケンカ女性キャラの技をある程度覚えていた。しかし、気を使う技はまだ難しいみたいで今後、超有名人気漫画竜玉みたいにレクチャーしなければならないようだ。宗司は先ずユイが覚えた格ゲーの初代から主人公とされているキャラの気弾を放つことができるようになった。威力はそれほどあるわけではないが約10m程度の射程はある。十分に使えそうだ。
だが、同時にやっぱり刀や剣も使ってみたいと思う。宗司自身、刀も持ってはいたが元居た世界に置いてきてしまっている。そのため新に手に入れる必要があった。ユノのほうもユイの幾つかの技を習得していた。大和の技も少し教えている。凛の技は突き技が主体のため、そして大和の技は元々神に捧げる儀式剣である。そのため、ランスによる守り、突撃攻撃と相性がいい。
もう夕日が落ちかけて夜になりかけていた。そのため、そろそろ宿へと行こうかと宗司たちは思っていた。
「あのー。今夜は一緒の宿でどうですか」
ユイが言う。
「いいなぁ。それ」
「そこは食べ物も美味しいからね」
「じゃぁ、そこへ行こう」
「あー。でも言葉遣いには気をつけないといけないかも。はぁ」
思い出したようにユイが頭を掻いた。そしてため息をついた。
「うんうん。レイグリットさんはちょっと、いや、かなり気が強い人だから。気をつけないとね。とくに徹君は気をつけてね」
「むっ!僕ほど礼儀正しい人間はいないよ」
「そうですわ。徹様は素敵な殿方ですのに」
「やるかい?さっきは埃が立って飯が不味くなるという理由でやめにしたが、今は屋外だ」
宗司が言う。
「宗司。やってもいいが、僕との勝負をこれまで拒んでいた君が今更やるのかい?」
「徹様。ここで宗司と遣り合うのは得策ではないかと。相手の性能が見えない状態でやるべきではありません」
「なるほどな。おい宗司君。命拾いしたなぁ」
「どっちが」
「そうやって喧嘩吹っかけあうなよ。宗司もいつもなら相手にしないのに何故今日はそんなに好戦的なんだい」
宗司はそういわれてみれば
(いつもはこんなことにはならない。だが今は徹をぶちのめしてみたい)
という気持ちが強かった。
「やめてよ。喧嘩するのは多分今日は色々あったから疲れたから気が張っているんじゃない?早く宿に入ってお風呂にでも浸かってからゆっくり寝ましょう」
凛が言う。
「確かに疲れたな」
宗司はため息をついた。
さて、次は赤髪の女性が出てきます。