#5 着替え。そしてギルド
残酷な描写を含みます
ギルドに行く前に、やはり着替えは必要だろうということで服屋へと入った。
俺はこのままでもいいと思ったのだがやはり不必要に目立つこともないだろうという判断からだった。
ユイとユノ、そして凛の判断で服屋に入る。
「ヴィルネットファッションショップよ。
マラシャの中では一番大きな服屋なんだから」
「うんうん。私たちの服もここで買ったのよね」
二階建ての大きな服屋であり、VNのロゴがデザイン化された看板がある。
「いらっしゃいませ。
あら変わった服装をしていらっしゃいますね?
……少々ここでお待ち願いますか。
ただいまオーナーどもを呼んできますので」
女性が声をかけてきて、宗司たちの服装を見ると
慌てた様子でタン! タン! タン! と軽快な音をたてて階段を上っていった。
店内は元居た世界の服屋に似ているが、
ハンガーがないらしく店員がシャツを折り畳むか石像に掛けている。
石像は完全にマネキンと化していた。
「なんです。騒々しい。
まったく服屋なんだから埃がたたないようにしなさいといつも言っているのに……
…あら?お客様だったの。これは失礼。
いらっしゃいませ。ファッションショップヴィルネットへようこそ。
それにしても変わった服装をしていらっしゃる。
……なるほど。それであの暴走娘……
まぁ主人を呼びに行くのはかまいませんけど。
ごめんなさいね。それにしても変わったデザインの服ね。
あなたたちその服を売ってくださいませんか」
気の強そうな女性が奥のドアから出てきて言う。
「オーナー。オーナー。早く! 」
「急かすな。まったく。
君は元気が過ぎる。もうちょっと落ち着いたらどうかね。
…む。お客様か。これはこれはいらっしゃいませ。
変わった服装をしておられる。アリストン。彼らの服を買い取る算段はしたのかね」
オーナーらしき男が降りてきて気の強そうな女性に声をかける。
「ええ。ブルーノ。ところ着替えるための服はどのような感じにいたしますか?」
「そうですね。
これから冒険者として身を立てたいと思いますので、
そういった服をいくつか試させていただきたいですわね」
凛が言う。
「なるほど。…そうですね。
では、あんたがたの武器はなんですかな? 」
「女性の貴女はわたくしが選びましょう。
そこの双子の姉妹さんも一緒にどうですか」
「うーん。でも私達はまだ駆け出し冒険者だし」
「うんうん。それにこの服も気に入ってはいるので」
「まぁ、いいわ。
あっ。言い忘れましたが私はこのヴィルネット。
ファッションショップのデザイナー兼副店長でもあるアリストン・ヴィルネット。
そこのオーナー。
ブルーノ・ヴィルネットの妻です。女の子の服はこっちよ。行きましょう」
アリストンの案内で女性陣は別のフロアへと歩いていく。だが、元気娘は残ったままだった。
「オーナー!オーナー!じゃ、わたしが彼らの服を選んでもいいですか。いいですよね?」
「かまわんが。彼らは冒険者だ。
あまり変な服を選ぶでないぞ。……って聞いてない。
やれやれ。もう少し落ち着きがあれば出世もするというのにな」
オーナーの返事で最初の言葉を聞いたか聞かないうちに女店員は駆け出している。
数分後、宗司と大和は元気娘の選んだ服を持って試着室に入る。
「どうだね?
着心地は?……むっ。その下着も変わったデザインだな。それらも売ってはくれまいか」
おい。おっさん。追いはぎじゃないんだからそこまで身包み買おうとしなくてもと笑えてきた。
「すみません。さすがにトランクスは勘弁してほしいね。それに靴下やなんかはこっちでも同じでしょ。Tシャツはないかもしれないがね」
宗司がそれを指摘すると
「確かにそうなんだがなぁ。デザインが……」
と考え込む。
「ではこうしましょう。金貨か銀貨一枚貸してくださいませんか」
「むぅ。どうするつもりかね?」
そう言って取り出したのは金貨だった。何か文字らしきものが書かれた面と鷲だろうか鳥の頭がデザインされた面がある。
「この金貨に表裏ってありますか」
「それなら文字が書いてあるほうが表だが……」
「なるほど。こちらが表とそれっ!」
金貨を指で弾いて見ないようにして掴んだ。コイントスってやつである。
「むっ。どういう意味だね」
「表か裏を選んでください。手に持った金貨があなたが選んだ面が手を開いたときに見えたらあなたの言う通り下着なんかも売りましょう。しかし反対だった場合は売りません。いかがでしょうか」
「なるほど。じゃぁ、表にしましょう」
「開きますね。…と。残念ながら裏ですね。ほら鳥の顔が」
「むぅ。残念だ。君には金貨5枚を渡すことにしよう。もう一人の少年のほうはどうしようかな?」
「大和のほうも同じ方法でやってみたらどうです?
金貨は返しますね?さっさと着替えて他の連中の様子も見ておきたいので。金貨は出るときにまとめてください」
「ああ。ありがとう」
白いシャツとデニムっぽい黒いズボン。皮製のベルトをして着替え終わる。大和のほうは負けたらしく全部脱がされてまだしばらくかかりそうだった。
「もう婿にいけない…」
と泣いている。泣くなよ。と言ったら
「ないてないわい」
と強がりを言った。
「僕はこういう感じの服でもう少し大きいのはないかな?」
と徹が言う。
さて凛の様子を見に行くか。
と女性服っぽい方に行くと双子が居て下着姿の凛がアリストンと揉めていた。
下着は水色のサテン生地で、できてて艶やかだ。
背中は思っていたよりも華奢で女性らしさを全身から醸し出していた。
一方で薫は扇子で口元を抑えている。まだ服は変えていないようで制服姿のままだ。
「凛、薫」
「えっ!? 宗司っ!キャアー!何しに来たのよ!忘れろぉ!」
魔法倉庫からレイピアを取り出して攻撃してくる。
「おっと。凛。
……俺には勝てないから先ずは試着室の中に入れ」
凛の突進攻撃を交わして腕を掴みながら背後に回り、試着室の方向に回転させて背中を押した。
ついでにバックホックだったので外しておく。柔道というよりも合気道の技術である。
「えっ。あっ。キャー!なんてことすんのよぉ。バカ宗司ぃ!」
試着室の中で止まり、振り替えるとブラジャーが落ちて
凛の身体の中で一番柔らかいところが見えた。
子供の頃に見たような気がしないでもないが、それもうろ覚えだ。
今は十分に成長し、熟れた果実がそこにはあった。
実家の剣術を幼い頃はしていたが、今はフェンシング技術だけのはずなのに。
こうして見ると未だに東洋剣術を使っているという特徴もしっかりと出ている。
あわてて試着室の中に引っ込んで隠れた。
「で、ユイ。なんで凛は下着姿で店員に詰め寄ってたんだ?」
「それが、凛さんの下着こっちにはないデザインだから売って欲しいって言われて…」
あーなるほど。こっちも同じってわけね。
「凛。聞こえてるか」
「何よ!
エロ宗司!あんたなんかと話すことなんてないわ」
「確かにちょっと悪乗りしすぎた。悪かった」
「謝ればすむもんだいじゃないわ。で何の用」
「いや。
下着の件だがコイントスで決めたらどうかと思ったんだけど」
「…それだけのために来たわけじゃないでしょ?用事は何だったの?」
こっちに来た理由か。まぁ着替えた凛を見たかったと言うのが本音なんだがな。それを伝えると
「えっ?あっ。う…うん」
と顔を赤くしてどもる。セクハラには怒るが異性に優しくされることに慣れていないのだ。
「ねぇ。宗司くぅん。聞きたい事があるんだけど?」
と少し上目遣いでユノが右腕に抱きつきながら言った。腕に柔らかい感触が伝わってくる。
「ユイも聞きたい事があるんだけど…」
とユイが今度は左腕に抱きつきながら言う。なんですか。この両手に花と言うよりも完全に上の花束的状況は。大変嬉しい状況なのですが。
「「ユイ(ユノ)達の下着姿も見たい?」」
とどめの一言が耳元でささやかれる。理性というものが白旗を揚げる瞬間、後ろから嫌な気配がする。この気配の正体は…
「ねぇ。宗司」
「はっ…はい!」
「わたしの着替えた姿見たいって言ってこっちにきたのよね?宗司君は」
「は…はい」
「では何で他の女の子と仲良くしてるわけ…?」
「これはですね…」
「問答無用!」
「ちょっと待て!凛!
今、ユイとユノに掴まれているおかげで避けれないから。だから待って……」
バシンッと頭を散々叩かれた覚えのある痛みに気が遠くなっていった。
凛が掴んでいたのはこれまで宗司が避けまくっていたレイピアではない。剣道や剣術に使われる竹製の武器、竹刀だった。
宗司が気付いたらもう大和も着替え終わり、凛も着替え終わっていた。
大和は俺と色違いのズボンをはいていた。凛はというとミニスカートにブラウス、その上にニット生地の服を着ていた。どうやら勝負に勝ったようで白いニーソックスが太ももを覆っていた。
そして金貨3枚が宗司と徹に。金貨4枚が凛と薫。金貨5枚が大和に支払われたのをもらい受けると今度こそギルドに行くことになった。といっても隣の建物だった。
ギルドは2階建ての建物で壁に木札が掛けられており、そこに依頼内容が書かれているようだった。ようだとしたのは文字が読めないからだ。
異世界文字読破スキルでもあればいいのだが、あいにくとそういったスキルは無い。
男が多く冒険者っぽい恰好をしているものの冒険者として活動していそうな奴が少ないのは何故だろう。ついでにマッチョが筋肉をずっと誇示し続けているのはなんなのだろうか。宗司と大和に対する男どもの視線が鋭さを増したような気がする。
とりあえずギルドの受付に行くと女性がいた。つり目の美人で長い髪を三つ編にした巨乳の美人だった。受付の近くにいくと背後からの視線がさらに増した。なるほど。この人が原因なのかね。
ユイとユノが話しかけた。
「レーシックさん。
さすがにコボルト200匹はきつかったわよ。この人達に助けられたのだけどギルド登録もお願いしたいんです」
「へぇ。そういえば、門番達が軒並みやられたって話があったけれど、あなた達じゃないわよね」
「うっ。えっ…えーとそれは」
ユイがあからさまに視線を外す。
「あははは。…もう広まっているのね。はぁ」
凛は笑ってからため息を漏らした。
「うーん。どうしよっか。この空気」
ユノは腕を組んで考え込む振りをする。
「参ったね。どうも」
大和は額に手を当てている。
やれやれ。と宗司は思った。
「ほう。中々有望そうな若者達じゃないか。がははは。もしよければ私がやろうかね」
後ろから声をかけられ振り向くとブーメランビキニの水着のおっさんが居た。
日焼けした肌にオイルを塗ったてかてかした男が立っていた。
冒険者ギルドに何故居るのか疑問だったが、このギルドの関係者だったのか。
「む?私かね?私はこのギルドのマスター。ホワイトだ。以後よろしく頼む!」
聞いてないのに勝手に自己紹介を始めた。
「あなた!勝手にやろうとしないで!いっつも適当な仕事しかしないんだから。
私が後でフォローするのが大変なんですからね?もうっ!…すみません」
あっという間に移動したレーシックさんが花瓶でホワイトの頭を捉えた。
花瓶がホワイトさんの頭に当たって砕ける。どくどくと頭から血が出てくる。
「痛ったいな!それはやめろといつも言っておるのに!それにドバドバと血が出るから私が死んでもいいのかね?」
「あなたは血の気が多いから血抜きしたほうがいいんです!」
「そんな無茶苦茶な…」
そう言いながらおっさんは気を失った。
「すみませんね。それで何の話でしたっけ?」
「えっとですね。コボルト200匹討伐の報酬と。
それから私達5人のギルド登録をお願いしたいのですが」
と凛が言う。
「そうでした。では仕事に入りますね。
では先ずはギルドカードの作成にまいりましょう。
どなたから作成されますか?先ずは5人とも。この誓約書に目を通してください」
そう言って5枚の紙を俺と大和、徹、凛、薫に渡してくる。
「すみません。文字読めないんですが」
リンが指摘すると
「えっ?それは困りましたね。
……ええっと……ではこうしましょう。私が口頭で伝えるので、サインをお願いします」
「書くこともできないのですが」
「えっと……それは。」
困っているとスマホが震えた。見るとメールがあり、世界神ゼウアリストからだった。
神様からメールも届くようになっているのか。
見てみると
『異世界文字が読めなくて苦労しとるようじゃのう。
君たちのスマホに元の世界とその世界の言葉変化があるから見てみるといい』
と書いてあった。
「凛、薫、徹、大和。この世界の言語表記はスマホにあるみたいだぞ」
少し確認してみると『あいうえお』順に文字が書かれていた。これなら少しの時間で習得できそうだ。書き順なども乗っているため、ものの数分で読み書きができるようになった。それは神様に頭脳を強化してもらったことが大きい。
「ちょっと文字の勉強をしたいんで、少し時間をもらえますか?
その間に征伐したコボルトの報酬を確認お願いします」
「ええ。いいですけど。
ただ百匹となると持ってこられないですし、調査隊も組まないといけないですね」
「えっと。すみません。実は今百匹分のコボルトのJJと毛皮は持ってきているんです」
「えっ?やだなぁ。冗談いわないでください」
「どこか出していい場所ありますか。魔法倉庫持ちなんです」
「魔法倉庫ですって。それが本当ならあなたがたは既に第4級位魔法を使える。即ち英雄級に匹敵するということになりますね。冗談言わないでくださいよ」
「「無属性魔法魔法倉庫コボルト開放!」」
凛と大和と宗司が詠唱して魔法を倉庫魔法から選んでコボルトの毛皮と魔石を取り出して見せる。
「……英雄の……領域」
レーシックさんが驚きを隠すことなく言う。ガタンという音がして、これまでただ眺めていた男達も思わず立ち上がっていた。
「さて。討伐の報酬計算をお願いしよう。
その間に俺達は言語表記を学ばせてもらう」
宗司はそう言いながら座る。
一応円陣を組むように座りユイとユノもそれに加わる。ユイとユノにはもう見せているから察してくれている。
たっぷりと一時間かけてこの国の言語は分かった。魔法は基本英語表記だ。
そして国ごとに独自の文字を持つなんてことはなくて共通文字を使うことが分かった。
「こっちは終わりましたので先程の紙を見ましょうか」
「「そうだね」」
俺と大和は同意して紙に書かれた内容を読んだ。
1、冒険者ギルドは、ほぼ全国に存在する国際団体であり、常に中立であることとする。
2、依頼は誰でも可能であるが、その際、銅貨二枚を支払うことでその土地のギルドにおいて依頼を受け付けることとする。
3、冒険者ギルド員同士の殺し合いを原則として禁止する。ただし理由がある場合は除く。その際、事後報告をすること。
4、基本的にギルド長が権限を持つ。支部は支部長が権限を持つ。
5、分からない事はギルド員に尋ねること。
6、上記のことを規則とし、遵守することでギルドに所属することを同意するならばギルド登録にサインをお願いします。
と書いてあった。
「「「「「な…なんて単純な」」」」」
宗司、大和、徹、凛、薫は同時に言っていた。サインをしてそのことをつっこむと
「いえね。細かい規則はあることにはあるんですが、冒険者の大半が理解できないんですよ。荒事なもので暴力主義者が多いんです。そのため、ギルド職員も自分の身は守れるほどには強いようになってます。そのせいで苦労することも多いのですがね。はぁ」
レーシックは苦笑いをしながら答えた。手はスキャナーのような道具を使いながらサインの部分を読み取っていった。
そして黒いカードにランクとサインを印字する。電子カードに近いようだが、元の世界にあるそれとは違う材質でできていた。黒いが透明でどちらかといえばガラスに近い。だが割れ難い素材なんだということが分かる。
『ランク:F銅 名前:御堂宗司』
と異世界文字で書いてある。
「このカードは無くさない様にお願いします。
無くされますと大変面倒なことになるとだけ伝えておきます。
またこのカードは他の町や国などで身分証として使われる機能もございますし、また非常に硬い物質でできているので緊急の際、防御として使うこともできますけど緊急用としてお使いください。以上のことをご了承できたなら肯定の返事をお願いします」
「「「「「「はい」」」」」
5人で肯定するとレーシックさんはうなずいて
「では次にランクですがSABCDEFとなっております。Sが最上級の冒険者なのですが、さらに細かく言いますとそれぞれに金銀銅白というランク分けがございまして今回のコボルト討伐において、コートヒリア姉妹さんの白から銅へのランクアップ。また御堂さん、神藤さん、霧島さん、天道さん、十六夜さんの5人は最初からランクFの銅とさせていただきました」
「「やったぁ!」」
と双子が嬉しがり、二人でハイタッチをした。
「「「「「ありがとうございます」」」」」
5人でお礼を言う。
「では、次にコボルト百匹分の討伐報酬ですが、事前調査では30匹だったんです。
…どうやら他のコボルト種族も徒党を組んだみたいですね。このところ幾つかのギルドパーティーがコボルト討伐を行っていたのでその可能性が高いようです。それで討伐報酬ですが通常コボルト討伐は銅貨支払いなのですが、今回はこちらの落ち度もあるので色をつけて銀貨3枚ってところでどうでしょうか」
「そんなにいいのですか」
ユイが聞く。
「うんうん。さすがにもらい過ぎだよね」
「いえ。大丈夫です。しっかりと毛皮とJJが分けられてますし、また今後も良い取引をお願いします」
一日で結構もらったな。後は食事か。美味しい料理を食べたいな。
それを言うと美味しいところを知っているというのでまた双子と一緒に行動することになった。