#4 門番隊長。そして貴族の面々
残酷な描写が続きます。
また今回視点が変わることがあります。
ハクポスの町。
新政マラシャ王国の片隅にある町であり、伯爵シャルル・ド・カリードが治める地である。
北西にはカイザスキングダムという強国や北にドワフ鍛冶王国と国境を接している町ではあるが大きな川や海があるため容易には攻められない町である。
そんな町にネロ・ド・カンタースは居た。
名門貴族騎士カンタス家の三男にして士官学校を主席で卒業した男なのだが、それはネロの醜聞を晒したくない家の金と権力によるものである。そのため、政治利用の道具としてハクポスにいるのだが、そのことを本人だけには知らされていないのである。
そんな経緯もあり、ハクポスの衛兵隊長をしているのは実はもう利用価値がなくなってしまったために他の列強諸国からの攻撃を真っ先に受けやすい町であるハクポスの守衛の任についているのである。
だが、カイザスキングダムに戦争を起こす意思はなく、ドワフ鍛冶王国に至っては同盟と貿易を行っているため攻められることは皆無といっていい。また仮に攻められたとしても防御に優れたこの町はひと月以上は籠城戦に耐えられる構造をしている。
そんな町に緊張が走ったのは双子の冒険者が見慣れぬ様相の5人組を連れて帰ったことからだった。
「すみません。私達は迷い人って奴で身分を証明するものを持ってはいないんです」
少女が言う。少女は肩までの黒い髪と目をしている。間違いなく美人の類だ。
一応町に入るための通交証は簡単に取得できるようにはなっているもの、異様な服装をした者がいるとなれば、捕らえて伯爵に差し出すのが、一番手っ取り早い方法なのである。迷い人を見るためにネロは門中広場へとやってきた。
「ほう……」
感嘆の声を漏らした。
少女は二人は美人だ。一人のほうは間違いなく男を誘惑する身体つきと雰囲気がある。冒険者の双子も美人の類であるため、少年3人を殺してしまえば奴隷として売れる。間違いなく第1級奴隷としてだ。
一人は気が強そうでも、見慣れぬ手袋のみ。
もう一人も布袋を持っているもののそれほど強そうには見えない。三人目は体が大きいだけの男だ。
「迷い人などいなかった。そういうことにしておけ。男は3人とも殺せ。女4人は奴隷にして玩んだ後、売ることにしよう。お前達にも楽しませることを約束しよう。やれ! 」
ネロは舌なめずりを抑えることができなかった。
「なっ! どういうことだ。何が起こっている!? 」
数分後、ネロは目の前で起こっている光景に驚かざるを得なかった。
冒険者二人が一番厄介だと思っていたが、むしろ冒険者よりも、黒髪の5人のほうが動いている。
気の強そうな少年は衛兵の動きを読みきり、同士討ちさせている。
布袋の少年のほうは木の剣で叩いたり鎧の無いところを攻撃したりするなどしている。
黒髪の少女は突き技をメインとした剣術を嗜んでいるらしく、中々に攻めづらそうである。
背後から攻めるにしても、双子の髪の短いほうが背後を守っているために容易には攻められない。
長いほうの双子は少年二人が守るように動いているためまるで歯がたたない。そして一番隙がありそうな大男といやらしい少女は動かなくとも回りがばたばたと倒れていく。
「あらまぁ、何もしていないのに何故、倒れていくんですの?つまらないわ」
いやらしい少女が扇で口元を抑えて言った。
気の強そうな少年が一気に迫ってきてネロは宙を舞った。傍から見たら宗司がジャンプアッパーを放ったのである。某街喧嘩ゲームの主人公が使う昇〇拳というやつだった。
「えっ? えっ? ぎゃー。なんだこれわぁ。誰でもいい! 私を助けろぉぉ! そうだ魔法を……あっ。しまったぁ。JJがぁ! 」
高いところから落ちては怪我だけではすまないかもしれない。魔法を使おうとしてJJを持とうとするものの慌てていて落としてしまった。
JJを落としてしまえば魔法を使うことなどできない。目を閉じていた。
「ウェイク(風よ)」
何かふわっとしたものに包まれるのを感じながらネロは気を失った。
「あのーこれってやりすぎなんじゃ」
「さすがにねぇ……」
と双子は若干引きつった笑顔を浮かべている。
「ウォータークリエイション(水の創造)」
バッシャ―ンと隊長の頭上で1メートルほどの水球が出来、形が崩れてぶっかけられた。
「「は……」」
双子がまた驚いた顔をしている。
宗司が
「何どうしたの?」
と聞くと
「普通のウォータークリエイションってコップ一杯分の水を作り出せるくらいなのよ」
ユノが言う。
「う……う……ううん……俺はいったいどうしたというのだ」
ネロは気が付くとまず顔が濡れていることに気付いた。何が起こったのか分からない。確か生意気な迷い人が居たような。
それで空を飛んでぶつかる前に気を失ったのだ。身体はどこも痛くはない。ゆっくりと辺りを見渡す。生意気な少年と同じ恰好をした少年少女。そして双子らしい同じ顔をした冒険者はぴんぴんしている。
「なっ! なっ! 」
迷い人たちが無傷でいることも驚いたが、衛兵が全く動けなくて倒れていることにも驚愕する。
「おっ。きがついた。どうする。今動けるのは隊長さんただ一人だよ。誰も助けてはくれない。報奨金を出したって無理だ。動けないんだから。さて。宣言どおり総崩れになってしまったわけだが、どうする?
斥候あたりはもうこの騒ぎを上役に言っているかもしれない。今、君ができるのは俺たちに謝罪をして衛兵に動けれるよう回復させてもらい、俺達をこの町の一番偉い人に合わせて総崩れの恥辱に耐えながら命乞いをするくらいだけどどうする? 」
生意気な少年は悪魔のような顔をして言った。
衛兵隊長は自分の命運がこれまでだということを思い知った。
このリスポスの町に住む伯爵は失敗をけっして許さない人だということを知っていた。昔は、いい人らしかったのだが、足を悪くし、最近では目も悪くしてしまい常に怒っているという。いくら自分が衛兵学校を主席で卒業したエリートで親も伝説の存在であり、いずれは軍の将になるべき存在であるというのにそんな貴族に自分の失敗を知られたら間違いなく身の破滅だ。
部下達も一緒に殺されるだろう。
だが、ひょっとしたらこの少年達ならば、かつて名君伯爵と呼ばれた伯爵に戻して自分を助けてもらうことができるかもしれない。
そういう思いが衛兵隊長の心に宿る。
「わかりました。では、部下達を動けれるようにしてください。もう、あなたがたのお力は充分に分かりましたから襲わせないように言及します。いいな。みんな。部下達の無事が確認出来次第貴族さまのところへ案内させる馬車を用意しましょう。それで、どうでしょうか」
宗司は思う。
(この男は部下達のことなんか考えていない。自分が助かる道しか考えていないのだ。貴族に何か問題があって、それを俺達に対処させて、その手柄を土産に自分の立場を救う気なのは見え見えだった)
「凛、大和」
宗司は凛と大和に右手を開いたり閉じたりして見せる。子供のころからのサインの一つだ。
これは大和と凛にだけ通じるサインで相手が何か横取りしようと企んでいることを示す。凛は自然に大和のスマホが見えないようにした。
大和はスマホを見つめて対策が浮かんだらしく親指を立てた。ここらへんの行動は早い。ましてや魔法を使える今なら有効な手立ては簡単にみつけられるだろう。凛の口はあることばをつむいでいた。宗司には読唇術も心言えているため、凛の言葉を読んだ。なるほどね。親指を立てて凛に分かったことを伝える。じゃぁ罠に飛び込んでいくか。
「レンジスペッシフィケーション(範囲指定)リフレッシュ(元気を取りもどせ)」
宗司は魔法を発動し、衛兵達を回復させた。
「おおっ! 動ける! 」
と声が上がって兵士達は立ち上がった。
「ありがとうございます!」
と立ち上がってから声をあげた。
そして異常なことなどなかったかのように元の配備場所に戻っていった。
数分後、宗司、大和、徹は馬車の中にいた。
一応、宗司たちは木製の手械をしているもののその気になれば簡単に破壊できるし、その前に鍵はかかっていないのである。
衛兵隊長も中に入れた。
そうしないと変なところに連れていく場合もあるからだ。そのための人質である。
ユイは御者と共に馬を操縦していた。ユノはもう一つの馬車の御者の隣に居た。そこの中には凛と薫が一緒に居た。馬車は木で作られたそれなりにいいもので座席と屋根があるものだった。
カタカタと定期的なゆれと馬の足音。車輪の回る音が聞こえていた。
「あのー。伯爵家着きましたけど」
ユイが言う。
それを聞いて隊長は私が出て話すと言い出したが全員に却下された。
当然だ。変なことをしでかしそうだからだ。馬車から先ず宗司が出て次に衛兵隊長を出させた。つぎにユノ。凛、大和の順に出た。そこはもう立派な洋館だった。城とはいえないものの充分に大きいレンガ作りの建物だ。
「おや。何事かと思えば門番隊長殿ではございませんか。何かありましたかな?そちらの5人は見慣れぬ恰好をしているな」
「ああ。それでこのように連れてきたのだ」
「しかし同じ馬車の中とはおかしなこともあるものだな。それにその双子のような女性はなんだ? 」
「こちらの双子は冒険者だ。この者達も彼らと関わったとの話なので連れてきた次第だ。また私が中にいたのはこの5人を監視するためである」
よくも口が回るものだと宗司は内心関心していた。
「しかし、護衛もなしとは、いささか無用心ではないかね」
「いえ。冒険者様が護衛をしていただいているので大丈夫です」
「そういうものか。では以降は伯爵のところで話すが良い」
「ああ。ありがとう。ほら行くぞ。ついて来い」
伯爵の家の玄関まではそれほど遠くはなかったがそれでも四、五分は歩く距離だった。
両開きの扉に衛兵が二人守っていて玄関を開けた。
「話は聞いている。確かに面妖な5人よの」
そこには老兵が一人待っておりそう声をあげる。
「伯爵様は執務室におられる。失礼のないようにしろ。そこでお前達の運命が決まる」
そう言いながらもその表情は固い。
この男は強いなと宗司は思う。だが、実際戦ったら圧勝だろう。そんなことを思いながらつきあたりの部屋に着く。
「カリード伯爵。門番が怪しい5人組を捕まえたので吟味のほどをお願いします」
ノックをしてから入った。三回のノックだった。
「うむ。入れ」
「失礼します」
部屋に通されるとそこには目が濁り、あまり目が見えてないのだろう男が座っていた。気難しそうな感じを受ける。イスに座り、二本の杖が近くにはあるが何年も使っていないのだろう。うっすらと埃が乗っている。
「衣擦れの音でお前達が奇妙な恰好だということは分かる。私はシャルル。シャルル・ドカリード伯爵だ。お前達は何者だ。」
「では。僭越ながらわたしが話させてもよろしいかしら」
凛が言う。こういう身分の高い人には凛は適任なのである。
「娘か。まぁ良い。話せ」
「はい。先ず私ども三人は迷い人です。そして、名前と私達三人が友人関係であり剣術経験者であるということくらいしかわかりません。そして冒険者のお二人をお助けできる程度の腕前は、あるようなのでこれから冒険者としてやっていくつもりなのですが、何せ記憶がなく、またわたしどもは変わった服装なので今後迷惑をかけてはと思いまして門番に捕らえられた次第でございます」
「なるほどな。門番隊長。そういうことか」
「
はい。ですが――」
「サイレンス(音よ消えろ)」
宗司は魔法で門番隊長の声を出せないようにした。宗司はこの男の表情を注意深く見ていた。その結果である。第5位階魔法サイレンス。任意の物の音を消す魔法である。
これが大和が調べたものだった。
「 !? 」
門番隊長は驚いているが声を出せないことで何もできないでいた。
「門番隊長殿は伯爵さまに言葉を発することができなくなってしまったご様子。失礼ながら目と足がお悪いようですがもしよろしければわたしどもが治してみましょうか」
「何をする気だ」
老兵が言って剣に手をかけた。
「そんなことは不可能だ。……私はこれでも八方手をつくしたのだぞ。そしてそのたびに私は絶望したのだよ。かつて馬伯爵と呼ばれた私が今はこのざまだ。そんな甘言で私を篭絡できると思ったか。もうよい殺せ」
手で首を掻っ切る仕草をした。老兵は剣を静かに抜いた。
「お覚悟を」
「大和。俺、パス。凛か大和のどちらか相手してやってくれ」
「僕だって一方的なイジメはいやだよ。凛の剣なら大丈夫でしょ」
「はぁ?何でわたしなのよ。これでも生徒会長なのよ。
イジメなんかできるわけないじゃない」
「どういうつもりじゃ」
老兵は静かに言う。
「うるさい! 黙れ! 」
3人が威圧した。それで終わりだった。ちなみに徹と薫はこういうことはやりたがらない。
「……すみませぬ。この少年たちには勝てそうにありませぬ」
剣を床に置き、膝を折って目をとじながら老兵は言う。
「なんだと? この国で、二番目の実力を持つレスターがか」
「はい。この者達は、言い合っている間も実は、まったく隙がなかったのでございます。攻めてこられて攻撃を耐えて、隙をついての攻撃にしようと思いました。しかし、あれだけの闘気を発する者が三人となると……恐らくわが国のあの方でも厳しいかもしれませぬ」
「わかった。静かにしろ!!」
バンッ!!
と机を叩いた。
「はい。すみません」
「それで? 私の目や足は治せれるのかね」
「まぁ、とりえず見てみますから……ふむ。突発性弱視のようですね。足のほうはと……ふむ。脊髄損傷による歩行不能か。これならば可能ですね。光の力を示せ!リカバリー(治癒)」
と大和が言って目を見、続いて足を見る。
「大和。お前の魔法って魔法の属性とか言わないと駄目なのか」
「うん。そうだよ。お前の場合は詠唱いらないみたいだけどな」
「む……」
「伯爵様?」
「見える!見えるぞ。綺麗なお嬢さんと少年二人か。……確かに奇妙な服装であるな」
「伯爵……目が……目が見えるので?」
「ああ。レスター。我が友の顔がはっきり見える。……しばらく見ないうちに老けたな」
「バカモノ。……おぬしの目が見えなくて何年経つ。ところで足のほうはどうだ」
「足のほうはすっかり肉が無い。治癒の魔法でも無理である」
「それは俺が見ましょう」
宗司が言う。宗司のスキルには魔導師と気功術がある。魔術士は学問として魔法を使う。
魔法使いは学問の他、理に働きかけ世界の規則を変えるものである。
そして魔導師はそれを賢者レベルとして使うことができる。
例をあげると魔術士は家庭菜園畑をつくることはできるが、その土壌を改良することはできない。
魔法使いは本格的な畑と土壌を改良できるがその規模や期限は限られる。
魔導師はその規模や期限の制限はないのだ。
そして気功術のほうは体内に元々宿る力であり、自身の生命エネルギーを底上げするものである。
つまり魔法は外からの力であり気は内なる力なのである。
宗司はシャルルの肉体の活性化を促した。
(なるほど。これはキュアーでも無理か。下半身と上半身を繋ぐ神経が完全に切れている。治癒魔法と再生魔法は違う。そして骨も変な風に繋がっているのか。だが気を流して身体の中をいじりながら神経などを繋ぐことができれば治せるな)
「ちょっといじりますね。なに。痛みは無い」
ゴキッ! …ガキッ! …グキッ! …ベキッ! …ボキッ! …身体の矯正を宗司は行い、嫌な音がする。
気功と治癒魔法を併用しているため痛みはないのだが音はかなり物騒だった。
「うおっ!なんだこの刺激は」
「終わりました。立ち上がれますよ」
「そうかね……むん!」
「伯爵! 」
レスターと呼ばれる老兵はシャルル伯爵を支えようとシャルルに触れる。
「む……」
「レスター。わしは、また動けるようになったぞ」
「しばらくは、リハビリが必要でしょうが、すぐに動けるようになりますよ」
宗司は言う。
「なるほど……レスター。あれをこの少年達にそれとわしらからのお礼もな」
「そうですな」
「すまんな……」
「いえ。我が友が再び昔の伯爵に戻られて嬉しい限りです」
ガチャっとドアを開けてレスターは出て行く。
「そういえば、この男はどうするんですか」
ずっと押さえ続けているユノが言う。
「その男は、衛兵隊長であろう。小物ながら使ってはいたが……どうしたものかな」
「…………」
口はぱくぱくと動くが何をしゃべろうとしても話せないので意味はない。
ちなみに宗司はこの男に興味はないので代弁する気はなかった。
「……宗司殿。悪いが魔法か何かであれを動けないようにしてくれぬか」
「分かりました。相手を捕らえよ。シェイクス(捕縛)」
門番隊長はチェーンが巻かれて捕縛される。
「 !! 」
「なんだね? その魔法は」
「確か第3位階古代魔法の一つだったかと」
隠していてもしょうがないので正直に言う。
「第3位階古代魔法だと!それは英雄の領域ではないか。まぁ、わしの足や目を治せる位だからそんなことで、驚いてしまっていては我が身が持たぬか」
倒れこみ、ため息をつきながら言う。
「そういえば、門番隊長には聞かれたくないので聞くことを遮断することはできないものかな」
考え込みながら伯爵は言う。
「たぶんできますよ。ちょっと待ってください」
宗司はスマホを取り出して魔法を調べてみる。
「その手に持っているものはなんだね? 」
「俺達専用の便利な道具ってとこですね。まぁ、個人専用にしてあるため、俺以外には使えないようになっていますが」
これは事実である。宗司自身これまでに色々なアプリを入れているために使いこなせるのは宗司のみということである。
「これが使えそうだな。コンファインメント(監禁)サイレンス」
魔法の欄で調べると使えそうな魔法があった。
これは人を監禁できる魔法だ。倉庫の人板ってところか。レスターが戻ってきたときには紐で縛られた袋と何やらメダルを持ってきていた。
「これを君たちに送ろうと思う。いつか我が足を治す者がいたら渡そうと思っていたのだよ」
そう言って渡してきた袋はずっしりと重い。
「これは……」
「中に王金貨1枚と白金貨2枚。そして金貨30枚入っておる。お礼としては少ないが受け取ってほしい」
「「えっ? 」」
双子が驚いた顔をして顔を見合わせた。
「どうしたんです」
凛が不思議そうに聞いた。
「王金貨一枚で白金貨10枚、白金貨一枚で金貨10枚。金貨1枚で銀貨10枚。銀貨1枚で銅貨10枚よ」
ユイのその言葉には緊張があった。
「つまりどういうことです? 」
凛が聞く。
「はは。こういう知識も持ち合わせていないとはな。シャイパンでも流通している筈の貨幣なのだがな。
まぁいいだろう。銅貨1枚で屋台の果汁水を一杯。あるいは水を一杯買えると思ってくれ。」
「まってくれ。ということは、今渡そうとしてくれているものが、かなりの大金ということになる。……さすがに貰い過ぎだと思う」
大和が言う。
「確かにな。こんな大金いただけませんよ」
「いいのだよ。かつての私を取り戻してくれたお礼だよ。あとこれも渡しておこう……このメダルは伯爵家の紋章が彫られている。マラシャ王国内での私が君たちの身分を証明するというものだ」
「それってすっごく名誉なことじゃない」
「うんうん。凄いよ」
双子が手の指を合わせながら言う。口元が緩み、やった。とか漏らしている。
「友よ。そういえばカンタース家の御曹司はどうします」
レスターが髭を触りながら言う。
「うむ。あれ本人は気付いておらぬがこのハクポスにいるのも最早、カンタース家でも不要になったためだと思う。だが、カンタースは色々と裏がある。殺してしまっては少し面倒なことになるかもしれぬ。
監視をつけ、門番隊長に再び戻せ」
「ならば捕縛を解くだけでいいでしょう」
「どういうことだ? 」
「既にカンタースには見張りをつけております。さらにいえばカンタース家の間者もおりますれば、カリード家、そしてハルケス家が力を取り戻したこともしれましょうぞ」
「なるほど。さすがである」
「ではやはりもらいすぎだと思いますので、少し返させていただきますわ。力を取り戻すには色々と御入用でしょうから」
凛が言う。
「なるほど。聡いな君達は。だが無用だ。この謝礼金は元々、貯めていたものだのだから。そうだ。君たち三人にはこれも試して欲しい」
そう言ってJJを出す。
だが無色透明で大きい球だった。まるで大きめのビー玉だ。
「トライジェム(試魔石)ですね」
ユイがそのビー玉を見て正体を言う。
「そうだ。これで魔力がどれだけあるかが分かる。持つと色の変化でどれだけの魔力があるかが分かる」
「では、レディー。君からだ」
「はい。」
受け取って触るとビー玉の色が変化していく。最終的に金色となった。
「ふむ。大賢者並の魔法を使えるか……どうした?」
シャルルは凛が不自然に赤い顔になっているのを不思議がる。
「いえ……ちょっと。なんでもありません」
「ああ。そういうことね。はは」
「笑わないでよ。恥ずかしい」
そうこうしているうちに元の無色透明に戻っていく。
「わたくしですわね。」
また金色になるが、少し色が薄いように見える。
「じゃ、次は僕がしますね」
大和が握るとまた金となっていく。
「凄いな。君たちは。普通は金色にならないのだがな」
「次は僕の番ってわけだ。お前らよりも凄い結果を出してやるよ」
そうは言ったものの、大和とあまり変わらない色と結果を徹は出していた。
「じゃぁ、最後は俺だな」
また色が元に戻るのを確認した宗司が触れる。
ピシリッ! ……嫌な音がしたので慌てて手を離した。ヒビが入り割れそうになっている。
「わはははは。……まさか計測不能か。本当に凄いな。君たちは。では今日のところはこれまでにしておこうか。私も王のところへ挨拶に出向かねばならんしな」
よく見るとヒビが入ったところが光りだして元の無色透明の玉に戻っている。
(仕様なのか)
と宗司は内心ほっとした。
「まだこれからギルドに行かないといけないわね」
お邸を出た後、ユイが腕を組み、左手を顎に手を当てて考えながら言った。
「うーん。そうだよね。でもさすがに疲れてきたよ」
ユノも同意するものの伸びをしている。
「それよりもお腹がすいちゃった。何処か知りませんか」
凛はお腹をさすりながらと女性陣は口々に言う。
「とりあえずギルドから行ったほうがいいんじゃないか。軍資金を得たとはいえ、ギルドで得られる報酬を清算しないとな。そのあとで、豪勢な食事になりすればいいんじゃないのか」
「そうね。予定外のこのお金はあまり使わないようにしましょう」
今日はここまで。
遅れました。
いやもう少し早く更新するつもりはあったのですが。