第90話 「レッドハーバー」
『見つけたぞ、ニニコ……ネジを返せ』
トコトコと迫ってくるロボット。いや煙羅煙羅……なのか、コレ!?
「ひ……!」
後ずさるニニコ。
「トラ! そ……そのロボットなんだ!? ネジとか言わなかったか!」
遠くからフォックスが、大男に取り囲まれながら叫ぶ。
「逃げろトラ、ニニコ!」
「ぎゃあ、こっちに来るな!」
ズシン!
ニニコのうしろに隠れる、卑劣なトラ。
ざわ、ざわ。
ざわ、ざわ。
騒然となる警官隊。
「なんなんだ、この変なのは……?」
隊員の1人が、腰をかがめてロボットに手を伸ばした。
しかし。
「だ、だ、ダメ」
誰かが、警官とロボットの間に割って入った。
左手に、籠手をした誰かが―――
「さ、さ、さ、触る・な」
シーカだ。
シーカが立ちはだかる。
いつのまに……!?
「うお!?」
「きゃっ」
身構えるトラ、ニニコ。
「シーカ!!」
「てめッ、なにしに……! てめえ、煙羅煙羅はどうした!?」
なぜここにシーカが?
いや、以前のシーカとは違う。
煙羅煙羅が無い……
彼の左の上腕は、たしかに煙羅煙羅に呪われたはず。
なのに、無い。
シーカの左手には、“ 朽ち灯 ” しかない。
あの巨大なアイテムはどこへ?
「そ、そこに・いるだろ」
シーカが指さしたのは、ロボットだ。
やはりこのロボットが煙羅煙羅らしい。
ざわつく港……
息をのむ警官隊。
誰もがとつぜん現れたロボットと、とつぜん現れた若者の「左手」を睨んでいた。
なんだ、このロボットと……この男は?
男の左手。
バーベキューファイアと同じ籠手をしている!
と――――――
『面倒だ、シーカ』
ブシュウウウウウウウウウウ……!
煙羅煙羅の背中から、真っ赤な煙が噴きだした。
「うお!」
「なんだ、なんだよこれ!」
赤い煙が、たちまち警官隊を包みこんだ。
わらわらと隊列が乱れる。
「うろたえるな!」
「おい、貴様! いったい……」
「うわッ! なんだ?」
「み、見ろ……ロボットが!」
「う、浮いて……」
煙羅煙羅が宙に浮いている。
煙の勢いでだ。
『蹴散らせ……』
蹴散らせ、と煙羅煙羅が言った。
瞬間!
隊員たちに襲いかかる!
ドガドガドガドガ!
ドガドガドガ!!
「ぐげ!」
「ガハッ!」
「ぼ……」
「ゲベエッ!!」
縦横無尽に煙羅煙羅は飛びまわり、警官隊を薙ぎ払う!
まるでスーパーボール……いや、ロケットミサイル!
速いどころじゃない。
まるで大砲の弾だ。
右へ左へ、空へと飛翔し、噴射煙で波止場は真っ赤に染まった。
煙幕。
なにも見えない……
「ギャアッ!」
「グギャ!」
「ひ……ゴエッ!」
次々とブッ飛ばされていく隊員たち。
もはや隊列どころではない。
大混乱―――
「うぎゃあ!」
「がはっ!」
フォックスを取り囲んでいた一団に、煙羅煙羅が激突する。
空から落下した煙羅煙羅の力はすさまじく、警官隊12名をいっぺんにブッ飛ばしてしまった。そのうちの何人かは海に転落してしまう。
あっという間に、フォックスの周囲から警官隊が消えた……!
「ま、マジかよ…………トラ! ニニコ!」
走る。
フォックスは一目散に駆けだした。
すさまじいパニックのなか、シーカはゆっくりと歩み寄ってきた。
「ひ、ひ、ひさしぶり」
頬の傷をひくひくと歪ませ、近づいてくる。
「おい、こっち来んじゃねえよ!」
ズシィン!!
トラが前に出た。
シーカはなにも答えない。
いや、そもそもトラを見ていない。あらぬ方向を見て、ニヤニヤ笑っている。
「す、すごい・格好・だな。ま、まるで・変態だ」
「……あ? きゃあ、オーナー!」
フォックスがこっちに向かってくるのが見えた。なんと、右胸の包帯がはだけたスゴい姿で走ってくるではないか。
シーカの言うとおり、すごい恰好だ。
「はあ、はあ……ヘイ、アタシ抜きでなに始める気だ?」
「オーナー!? ちょっと見えてんだけど!」
駆けつけたフォックス。
やっと露出した自分の胸に気づいたらしく、グイと包帯をまくり上げた。
「おっと、野郎2人でガン見してんじゃねえよ」
ぜんぜんフォックスは気にしてない。
少しも恥じらわないところが、この女のすごいところだ。
「下がってろトラ、ニニコ連れてさっさと逃げろ」
「めっちゃ乳首見えた」
「ヘーイ! 逃げろってのがわかんねえのか!」
「……いや、どこに逃げんの? ここに残るッスよ」
トラは逃げない。
対してシーカは、にっこり微笑んだまま籠手を構えた。
2対1だ。
だが手錠をされたトラとフォックスが、勝てるはずがない―――
けどそこに!
煙羅煙羅が降ってきた!
ドガッ!!
ドガッ!!
フォックスの額を、トラの後頭部を、煙羅煙羅が襲う。
「ぐえ―――!!」
「ぎょへッ!」
ふっとばされるトラとフォックス。
そのまま2人とも動かなくなった。
「ぎゅう」
「ぎゅう」
気を失う。
……さっきの威勢はなんだったのか?
キ――――――ン……
ふたたび空へと飛び去るロボット。いや、煙羅煙羅。
倒れた2人に、シーカはちらりと目を向ける。
これで邪魔者がいなくなった、とでも言わんばかりに、悠然とニニコに歩みよる。
「に、に、ニニコ。ひ、ひさし・ぶり」
「シーカ……!」
ほほ笑むシーカの左手が、ニニコの手錠にのびる。
「て、手錠……」
「あ……」
ニニコの手錠に、朽ち灯が触れた。
そのとたん鉄の輪は、粉々になって消えてしまう。サラサラサラ。
困惑の表情を浮かべるニニコ……だが、すぐにキッと目を吊り上げた。
「こ、こんな手錠、自分で外せたわ! なにしに来たの!」
強がる。
「あ、あ、あ」
シーカはなにも答えない。
にっこり笑ったままだ。
「……」
その様子を、ぽかんと口を開けて眺めるレインショット。
飛びまわる煙羅煙羅。
港は、真っ赤な煙幕に包まれる。
「ぎゃあ!」
「ぐえっ!」
「さ、下がるな! ガハッ!」
「クソッ、なにも見えねえ!」
大混乱だ。
もう収拾がつかない―――




