第86話 「ネクストデイ」
翌朝。
ミサイル駆逐艦「かしはら」が、無残な姿で海に浮かんでいた。艦橋といわず、甲板といわず、艦内はもうメチャクチャだ。
救助信号が発令されて、7時間が経過した。
時刻は11時42分。
かしはらの周囲には、何隻も小型船が集まっている。海上警察の巡視艇、哨戒艇が18隻、通報を受けて駆けつけた。
その上空を飛ぶヘリコプターが15機、すべて警察のヘリだ。
だが、マスコミのヘリコプターは1機も飛んでいない。
これほどの事件にもかかわらず、ただの1機も。
海上――――――
「発見した! 発見!」
ざばァ!
艦の周辺を潜水していたダイバーが、海面に顔を出した。咥えたレギュレーターを口から外すや、哨戒艇に向かってさけぶ。
ダイバーは、海中から男の死体を抱えて戻ってきた。マリィが海に放りこんだ海兵のひとりだ。
死んでいる。
これで行方不明者は1人減り、死者は1人増えた。
死者8名。
行方不明者16名。
重体者33名。
重傷者16名。
軽傷者57名。
壊滅状態である。
かしはらの生存員は全員、ヘリコプターで基地に帰還させられた。艦に残っている乗組員はもういない。
しかし甲板には、数十名の人間がいた。
だが彼らは、かしはらの乗員ではない。
事件のあと、はじめて艦にやってきた一団だ。
いったい何者なのか。
全員が、防護スーツのような服を着ているではないか。放射線区域で活動するみたいな、全身防御の宇宙服に身を包んでいる。
あわただしく、甲板のあちこちを動きまわる宇宙人たち。
彼らが集めているのは、水な義肢だ。
甲板のいたるところに埋まる " 水な義肢 " のパーツを、ひとつひとつ、ほじくり出していく。
ひとつ。
またひとつ。
パーツが逃げないよう慎重に、慎重に……数人がかりで慎重に、ジャッキや梃を使って取り外していく。
そして、金庫に厳重に封印していった。
ひとつひとつだ。
『やめろ……』
『背だ、背を……』
『放せ……』
わめきたてる、水な義肢のパーツ。
『出せ……』
ガシャン!
最後のパーツが封印された。
うず高く積まれた金庫、金庫、金庫……ぜんぶで150個もある。ひとつの金庫に、水な義肢のパーツがひとつずつ閉じこめられた。
「作業完了しました、エイプリル主任!」
防護服のひとりが、別の防護服に声をかける。
「ごくろうさん。全員、スーツを脱いでくれ」
主任の合図で、全員が宇宙服……いや、防護服を脱ぎだした。スーツの中から、汗だくの男たちが姿を現す。
「あ゛―――! 暑っちい!」
「ふぅ、たまらねえや」
「汗びっしょりだ、倒れそうだぜ……」
男たちは、つぎつぎと金庫のそばに防護服を脱ぎ捨てた。
もちろん主任もだ。
「ふぅ……ああ、すごい日差しだな」
主任は40代後半くらいだろうか。
ヘルメットの下から、白髪の混じった壮年の男が顔を見せた。ぱらぱらと汗が飛び散る。
「ようし、みんな休憩してくれ。金庫の搬出は、下の連中にさせるからな」
主任……以下、エイプリルと表記する。
エイプリルが促すと同時に、汗だく連中はガヤガヤと艦内に向かった。
甲板に残るのはエイプリルと、山積みの金庫。
金庫のひとつひとつから、コツンコツンコツンと音が聞こえる。水な義肢が、中から叩いているらしい。
コツン、コツン、コツン。
「ふふ……」
薄笑いをもらすエイプリル。
髪をかき上げて、彼も艦内に向かう。
その途中、立ち止まって足元を見た。
「んん? なんだ、この焦げあとは?」
ミサイル発射口のすぐ手前。
約2平方メートルが、黒コゲになっているではないか。
「ん、んん~。たしか報告書の何ページ目かに……誰だっけ」
空を見上げるエイプリル。
快晴。
「ああ思い出した、サルガッソ! 沈没屋サルガッソだ! ふうむ……名前は知ってたけど、まさか女だったとはねえ」
しみじみ……
と!
バンバンバンバンバン!!!
脇にぶら下げていたリボルバー拳銃を抜き、マリィの死に場所に向けて発砲する!
一瞬で全弾を撃ちつくした。
なんという早技……甲板のあちこちに、弾丸がバシバシと跳ね返る。
ガキン!
ジャラジャラ、ガキン!
すかさず弾丸5発を再装填した。
わずか2.8秒!
「なんだ!?」
「なんの音だ……!?」
銃声を聞きつけた男が2人、ばたばたと甲板に戻ってきた。
声に反応したのか、エイプリルは彼らに銃口を向けた!
ジャキン!
「うわ!」
「ぎゃあ!」
「おっと! ゴメン!」
あわててエイプリルは銃を下ろす。
「ごめんごめん、思わず撃ってしまったよ。まったくオーパーツのことになると、僕はダメだなあ」
何度も彼らに詫びながら、拳銃をホルスターに仕舞う。腰を抜かす2人に、すまなそうに手を差し出した。
「また、魔王さまに怒られてしまうなあ」
風が出てきたらしい。
波が高くなってきた。
キラキラと、海面に日差しが反射する。
……魔王さま?




