第83話 「ミサイルマン」
水な義肢が解放された。
百を超えるブロックに分かれ、ぶわりと甲板中に広がる。
崩れ去る、マリィの体―――
ブロックの1個1個が、炎を纏いながら獲物を探す。まるで人魂……
ザアアアアアアアアアアアアア。
『背だ。背中……背中はどこだ』
『4242隻の船を沈めろ……』
「……!!」
言葉を失うトラ。
最悪の事態……あんなもんに憑依されたら、その場で焼死する。いや、焼死はせずに済むかもしれない。
降りそそぐ雨がひとつ、またひとつと、ブロックの炎を消していく。
それがどうした!
呪われちまう!
『背だ……』
『背がある』
『男だ。チッ……!』
『おお、いやだ』
『背に腹は代えられん』
『4242隻、沈めろ……』
トラを見つけた水な義肢群が、ザアと集まってくる。
「ぎゃあ!」
死にもの狂いで逃げるトラ。
ドッスンドッスン!
「ひいいいいいいいい!」
右往左往しながら、たまらず隠れる場所を探す。艦内へ―――……だめだ、とても間に合わない!
ここしか隠れる場所がない!
さっき発射されたミサイルの発射管だ。空洞になった発射管に飛びこんだ。
「とおおッ!」
40センチ四方の縦穴に潜るトラ。
バタン!
すぐさま蓋をする。
完全防御―――
「う熱ッチィイイイイイイイイ!!」
0.4秒で脱出。
全身をヤケドしたトラが、ただちに外へ飛び出してきた。
超高温の内部。
とても入っていられない。
ブロックが迫る――――――
『背……』
『つかまえた……』
させるか!
「させるかあああああああ!」
ズドォン!
ズドォン!
足元のブロック2枚を踏みつけた。
『な……』
『う、動けない……貴様』
ミサイル発射管の蓋に食いこむブロック。超重量の長靴の重みで、パーツは鉄板にめりこんだ!
「あるあああああああああああ!」
ズドン! ドガン! ゴォ! ゴッ!
ズドォン! ガギン! ズドン! ガゴォン!
ゴォ! ゴッ! ズドォン!
ドガン! ゴォ! ズドォン!
次々とブロックに蹴りを見舞っていく。
甲板のあらゆる場所!
手すり。
砲台。
ハッチ。
ブリッジの装甲。
逃げまどいながら、追ってくるブロックを蹴りつける、踏みつける!
1枚!
また1枚!
いたるところへ水な義肢のパーツ群をめりこませていく。
「くらえやああああ!」
バガン! ガン! ゴガン! ドッ!
ガギ! ガギン! ドギャッ! ゴン!
バギン! ズドゥ! ガン!
ゴガッ! ゴォ! ガン! ゴオン!
あるときは空振り、あるときは何発も何発も蹴りこんでようやく、ある場所は何度蹴ってもまったく凹まない……知ったことか!
「ハァハァ、ぜ、ゼェ、ハァハア、ああああああああ!」
走る走る、蹴りを放つ、放つ―――
『ご……』
『や、やめろ!』
『やめろ足枷、やめさせろ!』
『ぬ、抜け出せない』
『やめ……』
最後のパーツが……
ドギャッ!
ドギャッ!
ドガッ!
3度の蹴りによって、デッキの装甲に食いこんだ。
「ハー、ハー! ハー! ハー! ハー! ハ……」
心臓が破れるほどの脈拍、意識を失いそうになるトラ。肺をパンクさせるほどの息を吐きながら、甲板を見まわす。
穴だらけ……無数に凹ませた穴のひとつひとつに、ブロックが押しこまれている。
それぞれが、なんとか抜け出そうとしているらしい。ギシギシギシと金属をこする音が、あちこちから聞こえる。
だが自由に動けるブロックはもう見当たらない。
助かった――――――
「ハァー! ハー……! は……! ハー! は、はは、ざ、ざまあみやがれ……」
今にも倒れそうになるのを踏んばりながら、勝利を確信するトラ。
―――が。
水平線の彼方から、なにかがやって来るのが見えた。
「あ……なに……?」
遠すぎてよく見えない。
だが確かに、なにかが飛んでくる。
3つ、なにかが……
「ぎょえ!」
飛び上がるトラ。
ミサイル。
空気を引き裂くような高音を奏でながら、3発のミサイルがこちらに飛んでくる。




