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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第9章「あられもないハプニングを焼き捨てる再会へ」
68/250

第68話 「パンデミック」




挿絵(By みてみん)




「……」

「……」


 沈黙。

 もう2人とも笑っていない。


 マリィのしたことは……許しがたい犯罪だ。



「そ……そりゃ、ひでえことしたな。ちょっと……いや……」

軽蔑(けいべつ)しますか?」


 悲しそうに目を向けるマリィ。

 思わずフォックスは顔を()せた。


「いや……でも、ちょっと引いたぜ。それで、どうなった?」


「指名手配の身で国外逃亡なんてできません。そのときです。レインショットに再会しました。というか、私の窮状(きゅうじょう)をどこかで知って、接触してきやがったんです」


「……アイツめ」


「全財産と引き換えの条件で、私はこの “ ()義肢(ぎし) ” を売ってもらったんですよ。半日くらい迷いましたが、買うことにしちゃいました」


「しちゃいましたってマリィ……なんてこった」




挿絵(By みてみん)




「レインショットがどういう経緯(いきさつ)で、()義肢(ぎし)を手に入れたのかは知りません。鉄のコンテナに、前の持ち主のミイラ(・・・・・・・・・)と一緒に封印された状態でした。おそらく入手したはいいけど、持て(あま)してたんでしょう」


「アイツのやりそうなこった。マリィ、よくそんな話に乗ったな」



「それだけ追いつめられていたのですよ。でも怖くはありませんでした。フゥと同じ運命なら、受け入れるのは恐ろしくありませんでした」


「……」


 黙るフゥ、いや、フォックス。

 返事をしない。


「どうしましたフゥ?」


「ん……べつに」


 

 さっきまでの楽しい雰囲気(ふんいき)は、どこかに行ってしまった。

 フォックスは、マリィの犯罪行為を聞いてすごく……複雑な気分だった。


 もしこれがマリィじゃ(・・・・・)なかったら(・・・・・)、死ぬほど不愉快な気分になっていただろう。


 だけどマリィだからなにも言えない。

 マリィも、フォックスの表情からそれを察したようだ。



「フゥ。私は、自分が犯した罪を(つぐな)う気なんかありません。ちっともです。私が悪いなんてこれっぽっちも思ってません」

「……」


「でも……フゥに告白するのは勇気がいりました。最低のクズだと、フゥに思われるのが怖かった」


「……アタシもマリィのことを言えたモンじゃねえ……国際指名手配中だ。いろんな(うら)みを買ってる。なんもかも、生まれた国と呪いのせいだと思って生きてきたんだ。アタシは悪くねえと、自分に言い聞かせて生きてきたんだ」


 くしゃっ!

 缶をにぎり潰す。


 

「……あの地獄を覚えてますか。ノースピークにいたころの地獄を」

「忘れっこねえ。忘れるわけがねえよ」


 悲痛。

 沈黙。


「あの国では、自分のものと言えるのは家族だけでしたよね」

「ああ……そうだったな」


 また沈黙。


「私の両親も、あなたの両親も、村のみんなも、コレラで死にましたね……あの火葬(かそう)の日を覚えてますか」

「覚えてるさ、覚えてる。忘れるわけがねえ……アタシが火葬したんだからな」


「あなたのせいじゃありません。アホの区長、党の衛生局を恐れて埋葬(まいそう)許可を出しませんでしたから」


「……レベッカ、ずっと泣いてたな」

「ええ、あの子は……やさしい子でしたから」


 沈黙。




挿絵(By みてみん)


 


「私はもう一度、家族が欲しかった。失ったものを取り戻したかったんです。子供も欲しかった。今度は私が、母になりたかった。あの優しかった母のようになりたかった」

「……」


「でも、もう無理です。もう産めません。卵巣を無くしてしまいました」

「……」


 沈黙。


「こんな話をしてごめんなさい、フゥ。話題を変えましょう」

「…………いいさ、じゃあ話題を変えるぜ。マリィさあ、1個わかんねえんだけど」


 表情が崩れるのをこらえて、フォックスは話題を変える。


 気まずい沈黙が終わった。

 マリィの表情も(ゆる)む。


「なんですか、フゥ」 

この船を沈めろ(・・・・・・・)って依頼は、誰から? まさかレインショットなわけねえよな?」


「いえ、レインショットですよ?」

「え? んなアホな」

 ビックリ。


「な、なんで? なんのために?」

「それがレインショットのやつ、この艦の医者を3人、射殺してしまったそうなんです」


「ハァ!?」


 超ビックリ。

 クスクス笑うマリィ。


「本当にバカですよね。それでどうしようもなくなって、この艦ごと証拠隠滅(しょうこいんめつ)をしたくて、私を呼んだんですよ。おかしいでしょう?」


「ぜんぜん笑えねえよ! え、なに? いまのマジの話?」


 立ち上がるフォックス。

 真剣に耳を(うたが)う。



「マジです。さっきレインショットの部屋に行ってきました。死体が3つ、ちゃんと転がってましたよ。あ、そうそう。そのときにちょっと面白いものを見まして……」


「いや、そんなんどうでもいいから! なんでレインショットは、その医者を殺したわけ?」


「なんでも、ハイドランジアを密輸したのがバレたらしいですよ。それで口封(くちふう)じしたみたいです」


「な……!」


 言葉を失うフォックス。

 にこやかなマリィ。



「ここだけの話、実は私もハイドランジアの市場に目をつけてましてね。魅力的なビジネスになると思うんです。この仕事の報酬(ほうしゅう)も、ハイドランジアでもらう約束になってるんですよ。そうだ、フゥにも見せましょう」


 ベッドに投げ出してあった金属箱のフタを開けるマリィ。

 なかから、スプレー缶を抜き出した。


「これです」

「なに? それ……」


 不審なスプレーを、フォックスが注視する。

 ラベルのない、のっぺらぼうのスプレー缶だ。


「新型のハイドランジアの試作品です。耳から浸透(しんとう)注入するのではなく、顔に吹きかけることで、同様の効果を得られます。さっき(・・・)試したんですが効果絶大でした」


「……え? 試したって?」


 

「じつは……ごめんなさい!」


 ぱん、とマリィは両手を合わせる。

 ごめんなさいのポーズで頭を下げた。()義肢(ぎし)のアームも、ガシンと頭上で合掌(がっしょう)する。


「フゥのパートナーとは知らずに、トラ君にスプレーしてしまったんです。その、急に襲われたので……許してください」

 申し訳なさそうに、謝る。



「な、な……!」

 三度(みたび)、絶句のフォックス。 

 話についていけない。


 マリィはいったい、なにを言っているのか?

 落ちつけ、深呼吸。 

 深呼吸してマリィに向き直る。


「会ったのか? トラに……なんでトラの名前を知ってんの? 襲われたって?」



「出合い(がしら)に、ちょっとトラブルになりまして。いえ、トラ君からかかって(・・・・)きたんですよ? だからその、身を守るために彼にスプレーを……ね?」    

 てへ、とごまかし笑い。


「な、なんだって?」


「怒らないでください。そんなわけで、トリップ状態になった彼からいろいろ聞いちゃいました」

 

「で……トラは? いま、どこにいるわけ?」

 イヤな予感。

 


「呼びましょう。あなた!」

 マリィがドアにむかって声をかける。

 

 あなた(・・・)―――?



 すると……



「アイランド―――!!」


 奇怪(きっかい)な叫びとともに、トラが入ってきた。

 ズシンと室内が揺れる。

 壁にかかった時計が床に落ち、フォックスが床にずっこけた。




挿絵(By みてみん)




「7つの海の底を()けめぐり、オレいざ登場!」


 なにが楽しいのか、トラはかつてないテンションだ。

 あのスプレー……新型ハイドランジアの効果だろうか?


「月がきれいですね! なーんちゃって、かんちゃって!」


 超ハッピーのトラ。

 こいつ、この状態でずっと部屋の外でスタンバってたのだろうか。



 ほほ笑むマリィ。

 混乱するフォックス。


 トラは……どうでもいいや。




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いま書いてるやつよ。

 ↓

チャッカマン




イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。


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