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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第9章「あられもないハプニングを焼き捨てる再会へ」
67/250

第67話 「HPVS」




挿絵(By みてみん)




 再会。

 マリィとフォックスは、並んでベッドに腰かけた。


 フォックスがクーラーボックスから缶ビールを2本取り出し、1本をマリィに渡す。


「いただきます。ふふ、再会を(しゅく)して」

「かーんぱい」

 プシ、プシと炭酸の音がはじける。アルミ缶を軽く打ち合い、2人とも一気に半分くらい(ノド)に流しこんだ。




挿絵(By みてみん)




「くは……ああ、おいしい。ノースピークから一緒に脱北(だっぽく)して以来ですから、10年ぶりですか。また会えてうれしいですよ、フゥ。いまはフォックスでしたっけ」

「ふひ……フゥって呼んでよ、昔みたいにさあ」

 

 フゥ。

 フゥ・ヴォルペ。


 それがフォックスの本名らしい。


「あなたがバーベキューファイアだったんですね、フゥ。どうして気づかなかったんでしょう」

「こっちだってな。まさかマリィが " 沈没屋サルガッソ ” とはね……あれ? ってことは、この船を沈める感じなの?」


「じつはそうなんです。でもフゥが乗ってるんならやめます。この仕事はキャンセルしましょう」

「え~、いい加減だなあ」


 キャッキャと盛り上がる。

 どうやらマリィも、闇の世界ではそうとう名前の売れた仕事屋らしい。


 沈没屋サルガッソ。

 放火魔バーベキューファイア。

 おたがいに存在は知っていても、正体は知らなかったようだ。


 缶がカラになる。

 2本目―――


 プシ!

 プシッ!


「でも驚きましたよ、フゥがまだ呪われてたなんて。119軒の放火なんて簡単でしょうに」

「それがいっぺん解放されたんだよ。いろいろあって、また呪われてさぁ」


「たしかその籠手、ノルマだけじゃなくて、ハードル(・・・・)もあるんでしたっけ」

「うん。3階建て以上で、()べ床面積500平方メートル以上の建物じゃなきゃ、ノルマに入らねえ」


「めんどうですねえ」

「まあ、そんな建物いくらでもあるけどね。マリィの…… “ ()義肢(ぎし) ” だっけ? ノルマは?」


()義肢(ぎし)のノルマは、4242隻の船を沈めることです。沈没屋を始めたのはまあ、そういう事情なんですよ」

「水を操るアイテムか……ずいぶん殺したんじゃねえ? ハードルは無いの? そんなんで駆逐艦なんか沈められるわけ?」



 ベッドに垂れ下がるマリィのアイテムに、ちらりとフォックスは目を向けた。

 

 殺し。

 それはフォックスが自身に禁じていること。


 だが、マリィを非難(ひなん)する気にはならなかった。


 

「いえ、このアイテムにはハードルはありません。()義肢(ぎし)を使おうが、爆弾を使おうが、とにかく私が沈没させればOKです」

「だったらまだ楽だよな。あ、ゴメン。119のノルマが、4242に言うのは失礼か」


「ふふ、ぜんぜん気にしませんよ。知ってますか? アイテムは全部で13個あって、そのすべてが1600年前に作られたそうですよ」

「ああ、どっかで聞いたぜ。もともと、ひとつの鎧だったらしいな」


「1600年前なら、船なんて木造の小舟が当たり前です。それこそ戦艦なんてもの存在しません。4242隻のノルマも、大したものじゃなかったんでしょう」

「む……」


 じゅる。

 ビールをすする。


「逆に、フゥの…… “ ()籠手(ごて) ” でしたっけ? 3階建て以上、のべ床面積500平方メートルの建物なんて、当時はお城か(とりで)くらいじゃありませんか? 燃やす以前に、119軒も探すだけでも難しいと思いますよ」


「なるほどね、言われてみれば。ノルマの難易度に差があるとは思ってたけど、時代のせいか……ところでさ」

 

「どうしました?」

「マリィのアイテムは、どうしたわけ? ……って聞いてもいいのかなって」


 切り出しにくそうに(たず)ねるフォックス。

 一方、マリィは口元を(ゆる)めた。


「なんだそんなことですか。話すと長いんですが、5年前に購入しました」

「購入!?」

 

「はい。外の世界で生きていくのに、お金にも(ちから)にも不自由してましたから」

「え? でも……マリィが生活に困るってどういうこと? だってマリィの血は……」


「ええ。私の血液型は、誰にでも輸血できる特別製(・・・)です。脱北したあとも、金に困ることはありませんでした」



 ……異なる血液型の血を輸血されると、通常、はげしい拒絶反応が起こる。だが200万人に1人の割合で、誰にでも輸血できる血液型の持ち主がいる。


 マリィはそのひとりだ。


 ぽつぽつと、マリィは語る。



「医療機関や研究機関に、1日500ccの血を売るだけで、私は生活に困りませんでした。毎日、豪遊できる金を(かせ)げたんです。あのころは幸せでした……私がHPVS(・・・・)に感染していると発覚するまでは」


「え、エイチ……!?」

 フォックスの顔がこわばる。



「フゥ。私はHPVSウィルス(・・・・・・・・)に感染してるんです。知ってるでしょう? 卵巣腫瘍(らんそうしゅよう)や卵巣ガンを発症させる、変異性のウィルスです。私自身も数年前に、卵巣を摘出するハメになりました」

「そ……んな」


 自身の腹をそっと(さす)るマリィ。 


「ちょ、ちょっとまってマリィ。HPVSって確か、輸血とかセックスで感染するんじゃなかったか?」

「ええ……私の血を輸血された数千人の女が、HPVSに感染しました。とんでもない薬害事件に発展したのですよ」


 絶句するフォックス。




挿絵(By みてみん)




「で、でもよ! それはマリィのせいじゃねえし……」

「いいえ。私は病気の発覚後も、(カネ)目当てに血を売りつづけました。第一級傷害罪が確定すれば、私は間違いなく死刑です。なので裁判の前に、全財産を持って逃亡したんです」


「……」

「……」


 沈黙。

 もう2人とも笑っていない。


 とんでもねえ話になってきた。




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いま書いてるやつよ。

 ↓

チャッカマン




イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。


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