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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第9章「あられもないハプニングを焼き捨てる再会へ」
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第65話 「スプレー & キス」




挿絵(By みてみん)




 ザバアアアアアア!


「う……ぐあ……」

 ものすごい量の海水が、トラを押しつぶした。

 あまりの衝撃に、意識が飛んだ。


 頭蓋骨(ずがいこつ)がブチ割れるほどの衝撃だった。

 全身が水浸(みずびた)しになる。


 だがなんという根性か、トラはどうにか意識を取り戻した。

 まだ船壁に貼りついたままだ。


 ここで気絶したら、海の底へ真っ逆さまだ。

 生存本能がトラの意識を呼び戻した。


 だが、命の危機はまだまだつづく。


 ちゃぷちゃぷと近づいてくるマリィ。

 その手をトラの横顔に伸ばし、優しくふれる。


「ふうむ……ブサイクですねぇ」


 にこにことトラの顔面を批評する。

 ひどい女だ。

 


「あああああああ!」

 ブン!

 トラが長靴を振りまわす。

 上から下へのミドルキックだ! 


「うわ、危なっ!」

 ガキン! 


 最後の力を振りしぼった蹴りだったのに、回避されてしまった。

 マリィの(かか)える箱にカスっただけだ。

 



挿絵(By みてみん)




「ちょ……! よかった、中身は無事ですね」

 がさごそ。

 金属箱に開いた穴に、マリィは指を差しこんだ。


 中からつまみ出したのは……スプレー缶? 

 化粧(けしょう)水みたいなスプレー缶だが、どこにもラベルがない。のっぺらぼうの缶だ。



「ブハッ! ハァ、ハァ、もうダメだ……」

 顔中(かおじゅう)から塩水を吐き出すトラ。

 息をするたび、鼻や口から(あぶく)が飛び散る。首から下げていたIDカードも、どこかに行ってしまった。

 ずる、ずる!

 少しずつ、長靴がズリ落ちていく。


「ふンむううう……! はぁ、はぁ、ブハッ! はぁ、はぁ……」


 歯を食いしばり、ガツンと1歩上昇するトラ。

 もう両足で立ってるのも限界だ。



「やれやれ、ちょっと使いますか」

 すぽん。

 マリィが、スプレーのキャップをはずした。


 そのまま、トラに向けて噴射する。

 

 プシュッ。

 青とピンクの(きり)が飛び出した。



「うっぷ!? ()ンま……!」

 2色の霧を顔に吹きかけられ、トラはたじろぐ。

 甘い香りが鼻の粘膜(ねんまく)にへばりついた。


 瞬間!

 はげしい感覚がトラを襲う!


「お? あ? なにこれ……あひゃあああああ!」


 爽快(そうかい)感に顔の筋肉がゆがむ。

 いや、爽快などという次元ではない。


 なんのストレスも感じない!


 痛覚が無くなったかのようだ。

 長靴の重さすら感じない。


 長靴が脱げた日の感覚がよみがえる。

 このすさまじい浮遊感……船の側面に貼りついていられない!


 いや、貼りついてないと海に落ちてしまう。

 いや、だが足に力が入らない。

 いや、いや、いや!


「うおあひゃ、あ、あ、あ……」


 甲板に上がるんだ。

 じゃないと死ぬ、死ぬ。


 上ってどっちだけ!?

 右目の視界が青に、左目がピンクに染まる。

 死ぬ、死ぬ。


 長靴をガチンガチンと足踏みさせ、トラはまるでタップダンスしてるみたいだ。




挿絵(By みてみん)


  


「うふ」

 マリィが近づいてくる。

 不敵(ふてき)な笑みを浮かべて、顔を近づけてくる。

 そして……


「ん……」


 口づけ。

 くちびるを()わした。



「んんんんん!?」

 いきなりなにを!

 マジでなにを!


 トラの脳に電撃が走る。

 いや、とろける。

 脳が蒸発して消える!

 脳が消えました!


 舌で舌を、なでなでされる。

 気持ちよさすぎて死ぬ、あああああああああああ! 

 死ぬ死ぬ。



 ちゅ……

 マリィはようやく(くちびる)を離し、トラの顔をのぞきこむ。


「ねぇ……お前。私を愛してますか」


「ぷあ。あ、うん、いやいや、だれが。うん」

 ロレツが回ってない。

 トラは必死に否定する。

 トラは必死に肯定する。


「いまのひと吹きで、末端価格7万ナラーはするんですよ? 私を愛してますか?」


「はへい」

 情けない声で、イエスだかノーだかわからない返事をするトラ。とろりと目が泳ぐ。幸せに満ちたその顔は、筋肉が完全にゆるんでいる。

 

「それでは教えてください。まず……さっき警報が鳴ったのに、どうして誰も甲板に来なかったんです?」

 女神のように、やさしくマリィはささやく。



 はたして、いまのスプレーはなんだったのか?

 とても嫌な予感がする。

 



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

※※※※※※※※※※※※※

※※※※※※




 さて。

 なぜ警報が鳴り響く甲板に、誰ひとり来なかったのか。


 それどころではないからだ。


 食糧庫だ。

 食糧庫はいまや、火の海と化していた。


 にもかかわらず、食糧庫の警報は鳴らなかった。なぜなら、レインショットが配線を切断していたからだ。

 だから艦内の乗員は、火の海になるまで気づかなかった。



「消火! 消火!」

「艦長は!? 連絡はまだか、まだ連絡はつかないのか!」

「シャッターを下ろせ! 消火器持ってこい、消火器だクソッタレ!」




挿絵(By みてみん)




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いま書いてるやつよ。

 ↓

チャッカマン




イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。


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