第64話 「ウンディーネ」
「お前いま、アイテムと言いましたか? まさか、お前の長靴も!?」
アイテムという言葉に、マリィの目の色が変わる。
驚愕している。
「アイテムという表現は、お前が自分で考えたのですか? それとも誰かに聞いたのですか? いや待って、お前はバーベキューファイアの仲間だと言いましたね? もしかしてバーベキューファイアは女ですか?」
質問攻めにしてくるマリィ。
なにをそんなに驚くことがあるのか、バーベキューファイアについて聞きまくる。
「海に放りこみの刑じゃああああ!!」
ガン、ゴン、ガン!
鬼の形相で走ってくるトラ。
まったく話を聞いてない。
まるでイノシシ……
「質問に答えなさい、お前!」
マリィが怒鳴る。
トラの答えは――――――
「ばくぃふぃうぇべいえくぉあだっだあああああ!!」
意味不明。
水しぶきをまき散らし、マリィに体当たりを食らわせた!
ガシャアアッ!
超重量のタックル!
マリィは肩シールドを使って、直撃を避けた。
だが、衝撃はすさまじい。
うしろに倒される。
いやそんなもんじゃすまない、船外までぶっ飛ばされる!
「うわ!」
宙を舞うマリィ。
「うおおおおっちょ……ああああああ!!」
おなじくトラも宙を舞う。
タックルの勢いを止められず、トラは転落防止用の金鎖に引っかかって転落した。
甲板から落ちる2人。
「いいいい……うるあああああああああ!」
ガキン!
ガチャン!
トラが船体に長靴を貼りつけた。
だが滑る!
猛スピードで、スケートのように海面へ滑っていく。
シャアアアアアア!!
摩擦で靴底から火花が飛び散る。だが止まらない!
「ににいいい! 止まれええええ!」
ジャアアアアアアアアァァ!
ピタ。
水面ギリギリで、どうにか停止した。
「ふぅ~、た、助かった…………あのアマは!?」
ホッとしたのもつかの間、あたりを見まわす。
トラと水面の距離は約30センチ……海面ギリギリだ。体が水平のため、景色が90度傾いて見える。
左目に水面、右目に空、とんでもない視界だ。
見渡す限りの水平線――――――
マリィがいた。
無傷のマリィ。
なにごともなかったかのように、海面に立っている。
肩シールドだ。
水面に突き立てた肩シールドが、マリィを海の上に立たせている。
いったいどういうアイテムなのだ?
比重を軽くするアイテムなのか?
だとすれば、トラの長靴の逆ではないか。
「チッ! なんだよ、その南京玉簾みてえなのはよ。現実の光景とは思えねえぞ」
水平に立つトラが悪態をついた。
自分の現実離れを棚に上げて、大きく舌打ちをする。
「話はまだ終わってませんよ。バーベキュファイアの名前を言いなさい。フゥ・ヴォルペ、ですか?」
冷静に返すマリィ。
なぜそんなに、バーベキューファイアにこだわるのか。
フゥ・ヴォルペ……?
「くそっ、こっち来やがれ! よくも……ギャーギャー!」
船から離れられないトラ。
両腕をじたばたさせながら、ぜんぜん届かない場所にいるマリィにわめき散らす。
「ふう……いいですか、最後のチャンスですよ? 名前を……」
「名前だと? 当ててやる! 蝶番とか水黽とか浮羽とかだろ! もうこのパターンわかったわ!」
会話がかみ合ってない。
トラのほうがぜんぜん話を聞いてない。
「いいかげんにしなさい!」
キッ!
マリィの目が鋭くなった。
ザブン!
右の肩シールドが水中に伸び、しぶきが上がる。
ザアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
ふたたび、アームが水面に現れた。
いや!!
海水が、肩シールドを包んでいる。
アーム全体を覆うようにだ。
何百リットルあるのだろう。
水の腕が、海面に姿を現わした。
ふりかぶる―――
「ゲゲッ!! ちょっと待……そんなんアリかよ!」
うろたえるトラ。
あわてて甲板に逃げ戻ろうとするが、もう遅かった。
「このアイテムの名前はですねえ」
マリィは許さない。
「 " 水な義肢 " っていうんですよ」
フルスイング!
トラに、海水の大腕が振り下ろされた!
「ひ……ぐえっ!」
ドパアアアアアアアン!!
大津波のような衝撃。
直撃したトラが、意識を失った。
水柱。
バシャアアアアアア!
飛び散るしぶきを浴びながら、マリィがほほえむ。




