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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第8章「しょうもないミッションを焼き捨てる北狐へ」
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第57話 「ハイドランジア」



「どうしたニニコ。なに泣いてる?」


 ニニコが泣いている。

 唇をかんで、顔をくしゃくしゃにして泣いている。

「……なんなの、それ……」



 トラもフォックスも、なにも答えてあげられない。なんなの(・・・・)、の意味が分からない。

 なぜ、そんなクズが存在するのか。

 なぜ、そんなクズが将校の地位にいるのか。

 なぜ、そんなクズの依頼を受けねばならないのか。


 ……そんなこと聞かれても困る。



 トラがふたたび挙手(きょしゅ)し、質問した。

「わざわざ燃やさなくっても、海に捨てちまえばいいんじゃありませんか。証拠も残んねえっしょ」


 グスグスと鼻を鳴らすニニコを無視し、フォックスがため息をつく。


「いや、無くなるってだけじゃダメだ。ヤクの売買ってのは、ンな甘くねえ。失くしましたなんてことになったら、あいつ、取引相手にひき肉(・・・)にされちまう。不可抗力(ふかこうりょく)で失ったってシナリオが必要なんだ」


「されればいいんだわ、挽き肉に」

 シワになるほどスカートを握りこみ、肩を震わせるニニコ。

「ねえフォックス……ハール二等兵は、どうしてその麻薬を使っていたの?」



 ふたたび、ため息。


「さあな。資材の管理がハールの任務だったらしい。偶然みつけて耳に()したみてえだな。好奇心でか、それともヤクと知っててかは分からねえが」


「……彼はどうなるの?」


「ハールの耳にあったハイドランジアは、押収(おうしゅう)されちまったからな。そのうえ血液検査もされてるだろうし、ごまかしようがねえ。間違いなく除隊、悪けりゃ禁固刑(きんこけい)だな」


「……ひどい、ひどいわ」

 スカートをぎゅっと握り、うつむくニニコ。

 消え入るほど小さな声をふりしぼる。

「ハール二等兵、指輪をしていたわ。薬指に」

 


 だがフォックスは冷たく視線を返す。

「だから?」



「……こんなことを見過ごさないでほしい……です……告発(こくはつ)できるのは、私たちだけだわ」



「ニニコ!」

 よせ、とばかりに声をあげるトラ。


 だがニニコは(うった)え続ける。

「のうのうとレインショットが助かることが許せない、許せないの。それに、これからもいろんな人を不幸にしつづけるわ、きっと」

 嗚咽(おえつ)をもらしそうなのを耐えて、懇願(こんがん)する。


 一方、フォックスの()ややかな目……

「それで? アタシたち密航者ですって艦長に白状(はくじょう)するわけ?」



「! だ、だから……ここでは何もしないでおきましょう。で、キスカンダスに着いてから、レインショットの正体を警察に通報しましょう。ね? そうしましょう」

 立ち上がり、必死に熱弁する。



 と――――――


「アッ!」

 ギシッ!

   

 フォックスがニニコをベッドに押し倒した。



  「ニニコォ……」



挿絵(By みてみん)



 キスを(せま)るかのように(おお)いかぶさる。しかし、フォックスの表情はそんなものではない。

 敵意。

 明確に、ニニコに敵意を向けている。


「ひ……」


「ニニコ……トラも聞け。なんだってお前らに、アタシの思い出したくもない過去を教えてやったと思ってんだ?」

 ぎしん。

 ニニコの薄い胸に、フォックスの双丘が押さえつけられる。


「レインショットが逮捕でもされてみろ。あいつは間違いなく、アタシのことをゲロるぞ。わかる? (いも)ヅルでアタシも破滅するんだよ」

「死ぬまで牢屋(ろうや)入りか……いや、だったらまだいい。 “ 北 ” に送還されるくらいならな、死刑になるほうがマシだ。で、アタシが絞首刑になったら、おまえ満足か?」


「ふぃ、ひ……」 

 がたがたと震えるニニコ。

 なんとか首を振り、否定の意思を示す。



 トラは……なにも出来ないでいる。

 止めようにも、フォックスの迫力に()されているらしい。アテにならない男だよ、ホント。



「トラ。レインショットを始末しようなんて考えんじゃねえぞ。あの男は必ず、手下を近くに置いてやがる。当然、この艦にもな。用意周到(よういしゅうとう)なんだよ、あいつは。OK?」


「……了解です、オーナー」

  


 


「8時間ごとに倉庫係が勤務交代するらしい。あと4時間だ。そのタイミングを(ねら)って燃やす」

 ニニコを組み敷いたまま、命じるフォックス。

「トラ、おまえは陽動だ。甲板でもどこでもいい、騒ぎを起こして人目を集めろ。そのスキにアタシが燃やす。4時間後だ、OK?」


「……了解ス。消火はどうしますか」



「心配いらねえ。火災感知のシステムが作動する手筈(てはず)だ。すぐさまスプリンクラーと防火シャッターが動くはずだ。わかったら行け」


「……了解(りょうかい)ス。行ってきます」


 ズシ、ズシ、ズシ……


 ギィ、バタン。



 短く了解と答え、トラはずしずしと部屋を出て行った。いつもなら、かならず余計な一言をいう男が、たんたんと命令に従った。


 あえて書かなかったが、彼の顔はずっと悲しそうだった。

 あのトラが。

 


「ふ……ん」

 ギシ。

 ようやくニニコの上から離れるフォックス。さっき(ほど)いた包帯を拾いあげ、左手でくるくると籠手に巻きつけていく。

 ニニコのほうを見ようともしない。


 おそるおそる身を起こし、ニニコが声をふりしぼる。

「あ、あのフォックス……私は……」


「なにもするな。ここにいろ」

 

 カツ、カツ、カツ……バタン。

 パンプスを踏みならし、フォックスも部屋を出て行った。とうとうニニコの顔を見ずに。

 出て行ってしまった。


 残されたニニコはベッドに横たわり、ちいさな体を丸めて泣きはじめた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「そ、そうだ…… “ ハイドランジア ” だ……」


 レインショットの船室に、悲痛な彼の声が響く。昼にフォックスと密談をしていた、あの部屋。


 レインショットはいま、右手に拳銃を持ったまま無線機を操作している。

 軍のものではない無線機を使い、誰か(・・)と交信をしていた。とてもとても(あせ)った様子で。


「ど、どうすればいいのか分からない。助けてくれ、沈没屋(・・・)……!」

 


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終身刑の魔女より

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いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[良い点] 読んできまーすっていってまだこの場面だったー! あと100部、最新話まで追いつけるのはいつの日かー。ゆっくりまったり楽しみます^_^ 新たな展開なのですね! 密航して国をまたいでいく…
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