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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第8章「しょうもないミッションを焼き捨てる北狐へ」
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第54話 「メイジャー・ジョンソン」



 少佐とフォックスが甲板を去った。

 残される、トラとニニコ。


 さあさあと吹く風が、心地いい。


 背後では海兵たちが、せわしく各自の任務に追われている。そんな船上で、のんびりと海を(なが)めているのは、じつに贅沢(ぜいたく)で、手持ち無沙汰(ぶさた)だ。することがない。

 どこまでも続く水平線―――


「ねえ、トラ」

「なんだ、ニニコ」


「わたし、海も船も初めてよ。きれいね」

「お前この3日、ずっとそれ言ってんじゃん。俺はもう()きちまったよ」


 飽きちまったと言いながら、手すりにもたれかかるトラ。

 話題は、いつも同じ内容に行きつく。

 青い青い海に目を落とし、ニニコがつぶやく。


「ジョンソン少佐のこと、フォックスはいつも " レインショット " って呼ぶでしょ?」

「ああ……そうだな」

 神妙(しんみょう)な顔のニニコ。

 神妙な顔のトラ。


「どうなってるの? トラは聞いてない?」

「昨日も言ったろ。知らねえし、知る必要ねえよ。オーナーの仕事のことに首つっこむな。な?」


「……うん」

「さあて部屋に戻ろうぜ。ここにいたら兵隊さんらの邪魔になる。行こうぜ」





 少し補足をしておこう。

 この軍艦についてだ。


 フォックスたちが乗りこんだミサイル駆逐艦(くちくかん)は、全長160メートル。排水量は7200トンと、かなり大型のものだ。

 イージスシステムも(そな)えるこの艦は、名前を「かしはら」 という。


 現在の乗組員は、トラたち3人をのぞいて262人。いずれも屈強(くっきょう)な水兵たちが、せわしなく勤務についている。





 その艦内の一室……


 ジョンソン少佐(・・・・・・・)の部屋に、フォックスは(まね)き入れられた。

 いや、彼の名はジョンソンなどではない。


 壁にもたれるフォックス。

「なんだって科学者なんスか? 記者(プレス)でも赤十字(レッドクロス)でも、ほかの身分用意できなかったんですかい、レインショット?」


 首にかけた、(にせ)のIDカードをぴらぴらと持ち上げる。

 IDには、実在する大学の名前が記されていた。


 将校の部屋といえども、そこは船の中。とてつもなく狭い。ベッド、チェスト、机、テレビ、強化ガラスの窓がひとつ……以上の個室だ。


「レインショットはやめてくれ。この国ではジョンソン少佐(・・・・・・・)だ」



挿絵(By みてみん)



「海洋学者の身分を用意するのに、どれだけの書類の偽造(ぎぞう)が必要だったと思うのかね。さらに、助手とその妹まで……」


 部屋に入ってから、彼はうすら笑いをうかべっぱなしだ。

 革張(かわば)りの椅子にぎしんと腰かけ、フォックスの右腕に目をやる。包帯をぐるぐる巻きにした、骨折を装った右腕。

「国際指名手配されている君を、密入国(・・・)させる方法は限られるんだ。それよりも、まだ君が呪われたままと知ったときは驚いたよ。119軒の放火など簡単だろうに」



「ンなこたアンタにゃ関係ねぇだろ。それよか取引はわかってんだろうな」

 急に口調を変えるフォックス。

 ジロリと眼鏡を光らせて、レイン……ジョンソン少佐を(にら)みあげる。


「おいおい、同じ国の人間(・・・・・・)をそんな目で見るなよ……わかっているとも。私は君たちをキスカンダス王国に送り届ける。君は私に900万ナラーを支払う。まっとうな取引だ」



「ボッてくれたもんスね。あんたは 『 北 』 にいたころから変わってねぇ。銭亡者(ぜにもうじゃ)め」

 

「同じ穴のムジナだろう。私も君も、選ばれた人間だ。能力があるからこそ 『 北 』 ……いや、祖国から亡命するチャンスを得た。ちがうかね?」



 ジョンソン……以下、ここでは統一性を持たせるため、レインショットと記載する。

 レインショットの、嫌な笑み。


 一方、フォックスの刺し殺さんばかりの目。


「いったいアンタ、おんなじ手口でどんだけ(もう)けたんだ? “ 脱北(だっぽく) ” の斡旋(あっせん)から始めて、いまは軍人の身分を使って密輸業者か?」


「そうとも。だから同じ穴のムジナと言ったのだ。私は密輸屋、君はその客だ。違うかね?」



 沈黙。

 沈黙が流れる。

   

 そのとき―――



 ドンドンドン!

 ドンドンドン!


「少佐、ジョンソン少佐! 大変です、おられますか!」



 部屋のドアが激しくノックされ、ドア越しに男の叫び声が響く。びくりと肩をすくませる、フォックスとレインショット。


「なんだ? 入りたまえ!」

 

 レインショットの返答に、乱暴にドアを開けて飛びこんできたのは、若い水兵。


「しょ、少佐……失礼! あ、博士もご一緒でしたか! じ、じつは……そ、それが……」


 敬礼も忘れ、激しく手振りをしながら口をパクパク動かす彼に、レインショットが怒鳴(どな)りつける。

「ええい、なんだ! 何があった!」


 狭い室内に大声が響き、フォックスが耳をふさぐ。

 

 ごくりと(ツバ)()みこむ水兵。

 と――――――

「ハール二等兵が甲板上で小銃を発砲! 現在、人質をとっているのです!」

 ようやく、言葉が出た。



 ……ちょっと待って。


「ちょっと待って」

「ちょっと待ちたまえ」

 フォックスとレインショットが、目を見開いた。

 人質―――?


「人質は、その……博士の助手なのです!」



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「お願い、トラを離して! どうしてこんなことをするの!」

 甲板の中央でニニコが叫ぶ。

 

「た、助けてください! 博士、博士――!!」

 トラも叫ぶ。


「俺は妖精だ! ピーターパンを呼んで来い!」

 犯人も叫ぶ。



挿絵(By みてみん)

 


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終身刑の魔女より

 ↑

いま書いてるやつよ。





イタいぜ!



チャッカマン




マンガ版 チャッカマン・オフロード
 

 
i274608/

アニメーション制作:ちはや れいめい様



ぜひ、応援よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[良い点] テンポよく話が展開し、漫画により情景も鮮明。「こうなるだろうな…」みたいな予想もつかず、少しずつ明かされていく鎧の謎に、時間を忘れて読んでしまいます。やっとタイトルの『チャッカ(着靴)』が…
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